第2話 かくして往復書簡 始まれり

文字数 586文字

 本音を言えば、文を書くのは苦手だ。あまり漢字を知らないから。どうしてもひらがなが多い拙い文になってしまう。前の職場で日誌を書いたとき、 
『なにこれ? 小学生だって、もうちょっと漢字を使って書くよ?』
 ―そう上司に言われて、その職を離れた。
 悪気や悪意があったわけじゃないかもしれない。でもどうしても、我慢できなかった。

 とはいえ、そんなことがあるたび職を離れていたって、いいことはない。漢字だけじゃない。学校にもロクに通えなかった自分は、多くの人が持っているような類の知識学問が欠けている。これがコンプレックスになるならば、それが嫌なら、変えていくしかない。そうでなければ、『逃げ癖』がつくだけ。そう思って、こうして夜間高校に通い出した。20年も経って今さら、という人もいたけれど。まあ、確かに若くはない。だけど、10年後の自分よりは、今の自分の方が、ずっと若いはずだ。

        ***

『このつくえの下に落ちていたから、ここにおきました。あなたのでなかったなら、まわりに落とした人がいないか、きいてあげていただけますか?』

 書き上げたメモも、随分とひらがなの多いものになった。それでも構わない。このメモを見る誰かと自分は、決して会うことはないのだから。


 そのときは、このマスコットの持ち主とのやり取りが、歳を越え春まで続くとは、思いもしなかったのだけれど―。



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