貴重品
文字数 1,233文字
「あっ」
地面に財布が落ちている。
いや、たった今、前方を歩いている青服の彼女がポケットから大事な財布をこぼれ落としていった。
でも流石に軽い物じゃないし、小さいけれど落下音もしっかりあったから、気づかないわけがない。
きっとすぐに振り返って拾うだろう。
私はそのまま青服の女性に視線を向けながら前方に向かって進んでいく。
だけど、彼女は全然振り返るそぶりを見せない。
それに誰かが拾ってあげると思うと思っていたけど、他の通行人も一瞬視線を地面に向けるだけで、屈む動作をする人は居なかった。
つまり、このままだと彼女は大変なことになる。
気づいているのは私だけなのではないだろうか。
私もこのまま他の人と同じようにしていたら、彼女の危機が回避される機会が無くなってしまう。
それはダメだ。
私は足を止めて、体を反転させる。
そして歩道に落ちている長方形の茶色い財布を拾い上げた。
それから前方を歩いている青服女性に向かって語気を強めながら、
「あの、お姉さん!」
叫んでみるけど、彼女は気づいてくれない。
私の声が小さくて聞こえなかったのだろうか。
さらに大きく、
「あの、青い服を着たお姉さん!」
すると、青服女性は不思議そうな顔をしながら後ろを振り向いてくれた。
私は硬い笑みを浮かべながら小走りで彼女に近づいていき、
「あの、財布落としましたよ」
「え?」
「お姉さんのポケットから、地面にぽろっと」
彼女は手をポケットの中に差し込んで確認していく。
それから慌てた様子を見せる。
「あ、あぁ! 本当に!? ありがとうございます! すみません」
「いえいえ、間に合ってよかったです」
青服女性は微笑みながら何度も頭を下げていき、そのまま体を前方に向けなおした。
ふぅ、何とか危機を救ってあげられた。
私が安堵のため息をつくと、背後から女性の声が聞こえてくる。
「お姉ちゃん。ねえ」
お姉ちゃんとは私のことだろうか。
二十歳はお姉ちゃんに入りますか?
一瞬小さな疑問を抱きながら振り返ると、三十代手前に見える茶髪のお姉さんが口角を上げながらこちらを見つめていた。
「お姉ちゃん、偉い!」
「え?」
「わたし、しっかり見ていましたよ?」
財布を拾ったことについてはすぐに理解できた。
「あ、そうなんですか?」
「ええ。すごいことよ?」
「いえ、当たり前のことをしただけですよ」
「その当たり前のことが、残念ながらできない人が多いのが現実。でも、お嬢ちゃんは立派にやって見せた。凄い。偉い」
「そ、そうですかね?」
「うんうん、もっと自信を持ちなさい!」
すると、お姉さんは両手を広げて、私のことを腕で包み込んでいく。
あと顔に柔らかいものが当たっている。
「どうしたんですか!?」
「お嬢ちゃんは、落とし物をしていないようね」
「え、落とし物は青服の女性が――」
「お嬢ちゃん、そのまま大事に持ち続けてね」
あれ、お姉さんとの会話が繋がらない。
まあでも、それよりもこの温かい雰囲気と気持ち、いやじゃない。
地面に財布が落ちている。
いや、たった今、前方を歩いている青服の彼女がポケットから大事な財布をこぼれ落としていった。
でも流石に軽い物じゃないし、小さいけれど落下音もしっかりあったから、気づかないわけがない。
きっとすぐに振り返って拾うだろう。
私はそのまま青服の女性に視線を向けながら前方に向かって進んでいく。
だけど、彼女は全然振り返るそぶりを見せない。
それに誰かが拾ってあげると思うと思っていたけど、他の通行人も一瞬視線を地面に向けるだけで、屈む動作をする人は居なかった。
つまり、このままだと彼女は大変なことになる。
気づいているのは私だけなのではないだろうか。
私もこのまま他の人と同じようにしていたら、彼女の危機が回避される機会が無くなってしまう。
それはダメだ。
私は足を止めて、体を反転させる。
そして歩道に落ちている長方形の茶色い財布を拾い上げた。
それから前方を歩いている青服女性に向かって語気を強めながら、
「あの、お姉さん!」
叫んでみるけど、彼女は気づいてくれない。
私の声が小さくて聞こえなかったのだろうか。
さらに大きく、
「あの、青い服を着たお姉さん!」
すると、青服女性は不思議そうな顔をしながら後ろを振り向いてくれた。
私は硬い笑みを浮かべながら小走りで彼女に近づいていき、
「あの、財布落としましたよ」
「え?」
「お姉さんのポケットから、地面にぽろっと」
彼女は手をポケットの中に差し込んで確認していく。
それから慌てた様子を見せる。
「あ、あぁ! 本当に!? ありがとうございます! すみません」
「いえいえ、間に合ってよかったです」
青服女性は微笑みながら何度も頭を下げていき、そのまま体を前方に向けなおした。
ふぅ、何とか危機を救ってあげられた。
私が安堵のため息をつくと、背後から女性の声が聞こえてくる。
「お姉ちゃん。ねえ」
お姉ちゃんとは私のことだろうか。
二十歳はお姉ちゃんに入りますか?
一瞬小さな疑問を抱きながら振り返ると、三十代手前に見える茶髪のお姉さんが口角を上げながらこちらを見つめていた。
「お姉ちゃん、偉い!」
「え?」
「わたし、しっかり見ていましたよ?」
財布を拾ったことについてはすぐに理解できた。
「あ、そうなんですか?」
「ええ。すごいことよ?」
「いえ、当たり前のことをしただけですよ」
「その当たり前のことが、残念ながらできない人が多いのが現実。でも、お嬢ちゃんは立派にやって見せた。凄い。偉い」
「そ、そうですかね?」
「うんうん、もっと自信を持ちなさい!」
すると、お姉さんは両手を広げて、私のことを腕で包み込んでいく。
あと顔に柔らかいものが当たっている。
「どうしたんですか!?」
「お嬢ちゃんは、落とし物をしていないようね」
「え、落とし物は青服の女性が――」
「お嬢ちゃん、そのまま大事に持ち続けてね」
あれ、お姉さんとの会話が繋がらない。
まあでも、それよりもこの温かい雰囲気と気持ち、いやじゃない。