02 キリン一番搾りがすきだよ

文字数 796文字

私はビールがすき。たいへんすき。なかでも、キリン一番搾りがだいすき。さっぱりしていて、苦みもすくなくて、おいしい。暑い夏に冷えたジョッキでごくごくとのむと最高な気持ち。

勤めていた会社は、毎年自分のプロフィルを書くことになっていて、初年度は「なにかひとこと」の欄になにを書けばいいのかわからなかった。迷ったすえに、キリン一番搾りがすきです、と書いておいた。どうせ、みんなそんなにみることもないだろう。

あってないようなものだろうと思っていたプロフィルは、案外みんな確認するらしい。
「ビール、キリン一番搾りがすきなんだってね!」
「今日の納会、キリン一番搾り用意しておいたからがんがん飲んでね!」
「キリン一番搾り、余ったから持って帰りな!」
「今日の店、アサヒスーパードライなんだ……ごめん……」
なんてやさしいひとたちなんだ……最後にいたっては、もはや申し訳なくなってくる。ビールの中では、特別キリン一番搾りがすきなだけで、どのビールでも、別段文句言うわけではない。顔にも出てない、はず。

このプロフィルは、どんな新入社員が入ったのかみんな気になるため、特に初年度は多くのひとにみられるらしい。おそらく、私の「なにかひとこと欄」は浮いていた。同期は、がんばります!みたいなことを書いていたと思う。誰か教えてほしかった。私もそうすればよかった。
と思いつつ、キリン一番搾りを書いたことによって、顔を覚えてもらったし、酒ずきで知られていろんなところにのみに連れていってもらえたし、悪いことはなかった。

すきなものを、すきだと言うことは恥ずかしいときもある。正直、あんまりにも酒のみだと思われるのは、さすがに恥ずかしい。でも、それをどうこう言われても、すきなものはすきだし、わざわざ嫌いになりたくないし、すきだと自分から言うことによって同じものをすきなひととなかよくなれる。そういうのって、とっても楽しくて、すき。

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