第1話

文字数 2,205文字

起)2637年、世界は人工知能とロボットで溢れ九割以上の仕事が取って代わられた。口が悪く他人に興味のない十二歳の飛鳥馬(あすま)沙和(さわ)のモットーは「楽して生きる」。働く必要のない世界の中でずっと読書だけをして過ごすつもりだったのに、謎の組織「ウルティムス」が現れたことによって生活は一変。ウルティムスは古き良き時代を取り戻そうとロボットを攫い、時には工場を破壊することも。それに対抗するため生まれたのがケルノという物質を操る反ウルティムス組織「イニティウム」。ケルノは通常は液体だが適性のある人が触れると思った通りの姿に変形する。沙和にその適性があることがわかり強制的にイニティウムのメンバーに。「クソ、なんで私が危険を冒してまで戦わなきゃいけないんだよ」と思いながら一年間訓練を積んだ。辛いときよく思い出していたのは世界で一番好きな本「BornWalker」の一節。『人間は立ち止まることができない。座っているときも眠っているときでさえも時は休みなく刻まれる。人間は生まれながらにして歩き続けている』だがもう一つ沙和を悩ませるのは寮に届く「樫原(かしはら)・フェイス・(けい)」からの大量のプレゼント。知らない人からの贈り物を沙和は気持ち悪く思う。

承)ある日ロボット工場が襲撃に遭いイニティウムが出動。慣れないながらも奮闘し敵のうちの一人を捕らえ、アジトの場所を聞き出すことに成功。AI管理機関AIMO(エイモ)に報告に行ったところで男の子に声をかけられ、その正体が景であることを知る。景は副事務総長の息子で沙和の大ファンだった。猛アタックしてくる景を沙和は迷惑だとあしらう。数日後準備を終え発とうとしたところでAIMO支部が攻撃に遭い、さらにウルティムスが景を攫う。仕方なく太平洋の孤島にあるアジトには一番優秀なA部隊だけ、組織の実態を暴くため向かうことに。アジトは自然に溢れ沙和たちは機械的でないその美しさに心を奪われる。沙和はイニティウム一優秀なエルヴィス・ウッドと共に地下に行くが、そこで出会ったのは自我を持つロボットだった。状況を飲み込めないままエルヴィスは一人でロボットを引きつけ、沙和に景を助けに行くよう言う。沙和は無事景を見つけるが閉じ込められてしまい二人で脱出方法を考えることに。話をするうちに、沙和は明るく見えた景の本心や裏側にある事情を知り少しずつ心を開く。壁をケルノで壊すとそこは廊下で、たった一つの部屋に続いていた。沙和と景は励まし合い、ここから脱出するための手がかりを探そうと部屋の中に忍び込む。

転)まず最初に見つけたのは机の上の書類。そこには「ロボットに感情を植え付けて今の腐り切った世界に終止符を打つ」という計画が。もしこれが実現されれば大変なことになると景を振り返ると手に持っていたのは原稿用紙。字が特徴的で読めないが沙和が思い出していたのはBornWalker著者「皆木(みなき)さくら」の『原稿用紙を使って小説を書くのは自分だけ』というインタビューでの言葉。するとそこへ顔を半分隠した女が現れる。「あら、もうこの部屋まで来るなんてさすがイニティウムね。餌も一緒にいる」景が餌というのはどういうことか聞く沙和。実はイニティウムを二分させたのは優秀なA部隊を殲滅するための作戦だった。そしてそのために使われた餌が景。だが景は分かっていて誘拐された。景の父である副事務総長とウルティムスは手を組んでいたから。A部隊の人材を失えば事務総長は責任を取らざるを得なくなり、新たに事務総長の座についた景の父がウルティムスの計画を手伝うという算段。申し訳なさから青ざめる景に沙和は笑いかけると、ケルノを使い女のマスクをとる。女は皆木さくらだった。さくらと沙和は戦うが、心を変えた景がさくらの目をくらまし沙和を抱えて逃走。念のため持っていた爆破装置を使い気を引きつけ、イニティウムはその隙に脱出した。

結)世界一尊敬するさくらが敵であったことにショックを隠せない沙和。「一度でいいから出来損ないの僕が父の役に立ってみたかったんだ」と自分を責め謝り続ける景に沙和はあの一節を送る。「自分の足で今も歩き続けてる、それで十分じゃないの?」真実を知ったイニティウムは事務総長に報告をする。勿論、父オークリーは容疑を否認するが景が包み隠さず明かす。本当はオークリーはウルティムスの願いなどどうでもよく、トップの座に就いたらそれで十分と思っていると。オークリーはAIMOを追い出され逮捕される。沙和はさくらのことを報告せず危険を承知で、どうしても着いていくというエルヴィスと共にもう一度アジトへ。さくらはオークリーのことを聞いて激昂するがエルヴィスを見て突然涙を流す。さくらは亡くなったエルヴィスの父エウデルの教え子だった。エウデルの遺志を継ぐためウルティムスを創ったさくら。エルヴィスがこんなことはやめようと言うも、もう引き返せないというさくら。そして沙和からケルノを奪うと沙和とエルヴィスを気絶させ、気がつくと寮に。アジトはもぬけの殻になっていた。行方を追うことになり、沙和の役に立ちたいと景はAIMOで働くことに。だが自我をもつロボットたちが島からやって来て暴れだしーー?ウルティムスの行方、さくらとエウデルの過去、ケルノに隠された秘密、地球はどこに向かうべきなのか。沙和に残された選択肢は、ただ未来に向かって歩き続けることだけだった。
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