第4話 無始無終

文字数 7,060文字


孤灯
無始無終


 必死に生きてこそ、その生涯は光を放つ。

             織田 信長





































 第四背【無始無終】



























 「女が相手とは・・・なんという屈辱!!」

 「はっはっはーー!!!厭味な女が相手じゃないなんて、なんて素晴らしいの!!モルダン、ハンヌ、私の活躍を見ていてね!!」

 「なんという卑下た笑い方・・・!!これが西洋の魔女か!!!」

 大嶽丸は風や森、土、水など、自分が操れるものは全て使ってミシェルに攻撃を仕掛けるも、ミシェルはそれを魔法で掻き消してしまう。

 というよりも、空也からならったばかりの無力化する魔法を連打しているだけだが。

 「恐ろしい女だ・・・魔女!大和撫子には到底なれない見た目と性格と笑い方だが、強さは確かだ・・・!!」

 どんな攻撃をしても、ミシェルに届く前に消されてしまうため、大嶽丸は別の手段に出ることにした。

 「その杖を奪う!!!」

 ミシェルが手に持っている杖を狙い、その上でミシェルに力を使えなくする秘術を使おうとしていた。

 大嶽丸はミシェルのもとに向かって走りだすと、無効化の魔法がおいつかないほどの攻撃をしながら確実に近づいていく。

 そしてミシェルの背後に入りこむと、杖を掴んで奪う。

 「あーーー!!私の杖!!」

 着地の準備をしながらミシェルに秘術を使おうと掌を向ける。

 「これで終わりだ!!」

 「きゃーーー!!!」

 魔法さえ使えなくなれば、ミシェルなどたやすく捕まえられると思っていた大嶽丸。

 だが、次の攻撃をしようとしたとき、なぜか自分の力が出ないことに気付く。

 「なーんてね!」

 「なに!?」

 ミシェルと大嶽丸の間には、ミシェルの身体を全て隠すほどの鏡が置いてあり、なぜかミシェルの手には杖があった。

 鏡の裏から笑って姿を見せたミシェル。

 「杖は複製しておきましたー。それから、力が使えなくなったのは私じゃなくてあなたでーす!なぜなら、鏡で反射させたからです!!」

 でん!と威張って言い切ったミシェルに、大嶽丸は自分たちが従えている鬼たちを呼びよせ、ミシェルを狙わせる。

 その数にミシェルが杖を構えると、鬼たちは一瞬で消えてしまった。

 どうしてだろうと思っていると、ぬらりひょんがこちらに掌を向け、たった一撃で全ての鬼を消したのだと分かった。

 「シャルルと違って優しい・・・!!」







 ヴェアルはフランケンと力対決をしていた。

 頑丈に作られているフランケンは、怪力でもあるし俊敏でもあり、打たれ強さもある。

 どれだけ殴っても立ち上がってくる姿は、なんとも言いようがない。

 「これで・・・!!」

 フランケンの左腕に攻撃が直撃し、ヴェアルも決着がつくかと思いきや、ぼろっと取れかかった左腕を、フランケンは自ら取り外す。

 「!!」

 人間ではないにしろ、人間にも似たその腕の内部に、ヴェアルは顔を引き攣らせる。

 フランケンはヴェアルの気持ちなど知らずに再び攻撃をしてきて、ヴェアルはそれからしばらくは反撃を出来ずにいた。

 特別親しいわけではなかったが、力自慢同士として親近感は多少あった。

 もともとは人間を倒す目的で人造人間と作るという仕事を請け負っていたが、それが最終的に自分の身体を改造するとは思ってもいなかった。

 「なんで・・・」

 つい、手が出てしまった。

 フランケンの顔のツギハギに切れ目が入り、ヴェアルは思わず顔をくっつけようとしたのだが、フランケンは落ち着いた様子でその部分を取り外す。

 それから、身体のあちこちのぼろぼろになったところを全て。

 「・・・!!!」

 それでも攻撃を止めないフランケンに、ヴェアルは足を攻撃する。

 足をもがれて地面に伏しても、フランケンは戦うことを止めずにヴェアルに向かってくる。

 フランケンがヴェアルの足を掴むが、ヴェアルはそれを引きはがすことも出来ず、振りあげた爪を動かせない。

 ズルズルとヴェアルの身体を這うようにして上ってくるフランケンに、どうすれば良いかと考えていると、急にフランケンがヴェアルから離れ、特殊な空間拘束によって動かなくなった。

 「ミシェル、ありがとう」

 「まったく。ヴェアル優しすぎるのよ。そんなんじゃ足元掬われるから」

 「ああ・・・!!」

 ぐいっ、とヴェアルがミシェルを引っ張ると、後ろから男の呻き声が聞こえた。

 何事だろうと振り返ってみると、力を無くしたから何もしてこないだろうと思っていた大嶽丸が襲ってきたらしく、それをヴェアルが一撃で気絶させてくれたようだ。

 「甘いのはお互い様だな」

 「そうね。私のは爪が甘いっていうんでしょうけど」







 ミノタウロスとの戦いをしているオロチは、意外と余裕そうだった。

 というのも、大きさもさることながら、大きさが違うということは当然それなりに力の差もあるわけで。

 しかしミノタウロスは身体の割に力は強いため、一撃一撃に対して平気だということではなかった。

 オロチの身体にもダメージはきているが、それをカバーできるだけの身体の大きさということだろうか。

 「こんなにでかい奴を相手に出来るとはな!俺はツイてるぜ!!!」

 「馬鹿力だな。普通の蛇だったらもう嬲り殺されてるよ」

 「お前もぐちゃぐちゃにしてやるよ!」

 「その表現止めて」

 小さい、というのもオロチよりという意味だが、オロチよりも小さな身体で強い打撃を何度も繰り返していると、こんなことも起こり得る。

 「あ」

 ミノタウロスの金棒が、オロチの顔に当たってしまったのだ。

 それを視界に捕えた天狗も「あ」とだけ言ったが、もうどうすることも出来なかった。

 オロチは自分の顔につけられた傷に触れると、そこから僅かながら血が出ていることを知り、フリーズする。

 その瞬間をミノタウロスは見逃さず、この時がチャンスだとオロチに金棒を振り上げながら向かう。

 だが・・・。

 「・・・!?」

 気付けば自分の顔の真横にオロチの尾がきており、受け身を取る暇もなく、大木を何本も倒しながら吹き飛ばされた。

 ミノタウロスはすぐに体勢を立て直そうとするが、その暇さえ与えないように、オロチの尾が身体に巻き付いた。

 「力自慢なら負けねえ!!!!」

 オロチに身体を巻きつかれながらも、ミノタウロスはオロチの身体を引き千切ろうと模索する。

 そしてそのまま・・・意識を手放した。

 「俺様の顔に傷・・・俺様の顔に・・・!」







 「わかるわぁ。私も顔に傷をつけられるの大嫌いなの。私なんて女だから余計にね。だからお願い。顔には攻撃しないでね?」

 「そんな器用な男に見えるのかのう」

 「あなただって綺麗な顔してるじゃない。あなただってそうでしょ?嫌でしょ?」

 「ワシは男じゃ。あ奴のように顔に傷をつけられたくらいで怒りはせぬし、そもそも男が綺麗だのと言われて喜ぶわけないじゃろ」

 空中戦を繰り返していた天狗と霧子は、互いに決定打を出さずにいた。

 天狗の攻撃を見て、霧子は、天狗はあまり攻撃型のタイプではないと判断した。

 ひょいひょいと空中で器用に動き回り天狗に近づき唆そうと思っていたその時、急に天狗が履いていた下駄を蹴り飛ばしてきた。

 それが見事に霧子の顔に命中し、霧子は下駄を捕まえようとしたが、まるで下駄に意思があるかのように動き回り、天狗のもとへ戻って行った。

 「よくも・・・よくも・・・!!」

 「普段はあまり激しい攻撃はせぬが、致し方あるまい」

 「そういうことなら・・・あなたにのりうつってやるわ・・・!!」

 霧子は口を開けると、そこには八重歯とは言い難い鋭い牙が見えた。

 先程までよりも随分速い動きで天狗を翻弄すると、風の影響か、天狗の顔や着ているものが切れて行く。

 それでも天狗はただ神経を集中させてじっとしていた。

 ひゅんっと霧子が近づいてきたその時、天狗は扇子を広げて霧子に見せる。

 そこには水で出来た鏡が映っていた。

 「水鏡・・・!?」

 そして映し出された姿は、黒髪の綺麗な女性ではなく、九つの尾を持つ人間よりも大きな狐の姿だった。

 九尾の狐は自分の姿を見るとそこから逃げようと走りだすが、天狗がそれを赦すはずがなく、周りを風で取り囲む。

 それはまるで台風のようで、狐は台風の動きを見て逃げ口を探す。

 「こんなところで・・・!!私は死なない・・!!決して!!!」

 逃げた先の山のふもとで穴を掘り隠れていると、地響きのような音がして、何事かと外に出る前にその穴がふさがってしまった。

 「天狗・・・!!」

 土砂は崩れることをやめず、狐はそのまま生き埋め状態となった。

 それを空から見ていた天狗だが、崩れたその中から、狐のもととなる悪霊だけが抜け出てきて素早く消えてしまった。

 「・・・逃がしてしもうたか。まあ、良かろう」







 ぬらりひょんと酒呑童子は、激しい攻防戦を繰り広げていた。

 「やはり、私の手で殺さねばな、ぬらり!」

 「そこまで恨まれておるとは知らなんだ」

 ミシェルとヴェアルは避難しながらその様子を見ていたが、シャルルが戦っているときにも何度も思ったことがある。

 「世界が無くなりそう」

 それほどまでに、この戦いが激しかった。

 辺りにある森は無残な姿になっているし、きっとここで生活をしていた動物たちはみな逃げてしまっている。

 「お前が死ねば全て報われるのだ!!これまで苦しんだ私の仲間も!!犠牲になった者たちも!!!」

 「・・・・・・」

 ―ああ、酒が呑みたい。

 そんなことを思っていたとは言えないが、ただ呑みたいと思った。

 「酒呑童子」

 「なんだ、私に譲る気になったか!?」

 「・・・血を受け継ぐことが、そんなに大事なことか?」

 「はっ・・・愚問を」

 「ワシは大層な生き方をしておらぬし、立派な血筋を持っているわけでもない。じゃが、この名を受けてしまった以上、守らねばならぬものがあるんじゃ」

 「たわけが・・・!!!世迷言など聞きに来たわけではない!!」

 酒呑童子は大嶽丸よりも多い鬼を呼べば、あっという間に辺りは鬼だらけとなってしまった。

 それでもぬらりひょんは焦ることもなく、ただ一喝するだけで鬼は消滅する。

 ごお、と酒呑童子の身体からオーラなのか威圧感なのか、とにかく力の塊のようなものが浮かび上がると、離れている場所にいるヴェアルたちの身体にまで衝撃がくる。

 最も近くにいるぬらりひょんは、顔も身体もぶしゅぶしゅと切れていって血が出ているが、表情は変わらない。

 その傷は徐々に大きくなっていき、腕が取れたのではないかというくらいの傷があっても、ぬらりひょんは片手を胸あたりほどの高さに上げただけだ。

 掌を上に向けるようにすると、そこにポゥ、と光が集まってくる。

 「ぬらりいいいい!!!!!私の全妖力をもって消し飛ばしてやる!!!」

 「・・・・・・」

 ぬらりひょんは掌に何かを集めながら、こんなことを思っていたらしい。

 「ワシがただの鬼であれば、盃を交わしていたかもしれんな・・・」

 ぬらりひょんの目がカッと見開かれると、その光の玉を酒呑童子に向けて投げつける。

 酒呑童子はそれを全身で受け止め、さらには潰しそうとしたのだが、潰そうとすればするほど光は大きくなり、ぶちぶちと酒呑童子の身体を壊していく。

 「おお・・・おおおおお!!!?なぜだ!?なぜだああああああ!!!」

 「この名にかこつけて、強くなることを怠っていたわけではない。ましてやワシは、真っ当な血筋ではないからのう・・・」

 「あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 その光を受けきれず、酒呑童子は倒れてしまった。

 「残念じゃ、酒呑童子・・・」







 「心を読み、幻覚を見せる地獄の公爵か。俺がジキルとハイドに連絡をしたのを見過ごしたのは、それでも勝てると思っていたからか?それとも、さすがに超音波は察知出来なかったか。まあ、どっちでも良い」

 「・・・私を地獄の公爵と知っても尚、戦いを挑むか」

 「貴様がどこの誰だろうと関係無い。俺の邪魔をする奴は跪かせる。それだけだ」

 「跪くのは、お前だ」

 ダンタリオンはシャルルに向けて再び幻覚を見せようとする。

 するとまたシャルルの身体、もしくは地面が揺れ始め、全ての感覚が疎くなる。

 「私の前では誰一人、立ち上がれない」

 シャルルは目を閉じる。

 騙されやすい視覚を封じることで、耳からの音、肌で感じる気配、そういったものに集中する。

 「無駄だ。私の幻覚は、脳に忍びこむ」

 ダンタリオンの言葉の通り、シャルルの周りは急に冷たくなり、まるで氷山の中にいる感覚に陥る。

 実際はそこまで寒くないはずなのに、寒く感じてしまうのは、ダンタリオンのせいだろう。

 「ならば、仕方がない」

 すると、シャルルは自分の身体に衝撃を与えた。

 「!!」

 シャルルの髪はぼさぼさになるし、いつも綺麗に着飾っている服も小汚くなってしまっているが、ダンタリオンの呪縛から解けたようで、シャルルは口角を上げて笑う。

 ダンタリオンが次の幻覚を見せようとしたのだが、シャルルによって吹き飛ばされてしまった。

 速さでは敵うわけなどなく、ダンタリオンが立ち上がろうとすると、シャルルは手加減なく衝撃を加える。

 「ごほっ・・・!!はっ!!」

 ざ、と自分の枕もとにシャルルが立っていることに気付き、ダンタリオンは幻覚を・・と思うよりも先にシャルルがダンタリオンの顔を足で踏みつける。

 それを見ていた天狗とオロチが「わお」と言ったような気がするが、空耳だろう。

 「地獄の公爵・・・確かにすごい肩書きなんだろうが、そんなこと知るか」

 「貴様・・・!!」

 「生憎、ここは地獄じゃないんだ、公爵野郎様よ!!」

 一度わざわざ起こしてからダンタリオンを地面に顔面から叩きつけると、シャルルはダンタリオンが持っていた書物を燃やしてしまった。

 「お前ら、用が済んだならさっさと帰れ」

 「・・・はいはい」







 「シャルルとは何友なの?まさかのメル友!?あ、モルダン!こっち来なさい!」

 「すいません、無礼な奴で」

 「いや、構わぬ」

 「シャルルより心が広いよね!シャルルだったら絶対に助けてくれないもん!自分でなんとかしろとか、そういう感じ!モルダン!なんでそっち行くのよ!!」

 「シャルル共々すいません」

 「気にしておらぬ」

 「ハンヌ!モルダンを連れ戻して!!」

 「ストラシス、そろそろ戻るぞ。ミシェルも、なんでそんなに寛いでるんだ。いつまでも居座ったら迷惑だろ」

 「だってモルダンが炬燵から出てこないんだもん。それに炬燵気持ち良いんだもん。それにミカンあるんだもん」

 「ぬらりひょん、戻った・・・お、まだこっちにおったのか」

 「鳥がいるー。俺様動物に好かれるからね」

 戻ってきた天狗とオロチ。

 オロチは早速ハンヌを見つけたため近づいて行くが、ハンヌは反射的にミシェルの帽子の上に逃げた。

 続いてストラシスに近づいたオロチだが、ストラシスもなぜだか本能的にヴェアルの肩に乗って警戒した。

 「あれー?なんでだろ?」

 「そもそも好かれておらぬからじゃ」

 天狗の言葉など気にせずに炬燵に入ると、そこにモルダンを見つける。

 可愛らしいモルダンを両手で捕まえようとしたオロチだったが、モルダンは必死に抵抗したため、オロチの顔には引っかき傷が出来てしまった。

 そのままぬらりひょんの方へと避難したモルダンを見て、ミシェルはモルダンを引きはがし、お世話になりましたと本当に思っているのか分からないがその言葉を口にし、その場を後にする。

 残されたオロチは、猫の愛情表現だと喜んでいたそうだ。

 「ただいまーシャルル!寂しかったー?」

 「シャルルー、ただいま」

 シャルルの城に戻ってきたミシェルとヴェアルだが、シャルルはワインを飲んでいる最中だった。

 「五月蠅いのが帰ってきたな」

 「そう言うなって。ああそうだ。『世話をかけた』って伝えてくれって言われたぞ。お前より人が出来てるよな」

 「ならあいつのところにいれば良かっただろう。わざわざ戻ってきてくれと頼んだ覚えはない」

 「ダメよ!!!」

 「は?」

 あそこに留まることを拒否したのはミシェルだった。

 「だって・・・だって・・・!!モルダンったらあのぬらりひょんとかいう人に懐いちゃって!!!全然私のところに来てくれないんだもん!!あの人もモルダンを拒否しないから・・・!!!」

 「それはシャルルでも同じだけどな。てか、モルダンの飼い主がミシェルなのか疑わしい懐き具合だよな」

 「いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

 「・・・・・・あいつらの方がまだ静かだったか・・・」







 「ふう・・・お茶は落ち着くのう」

 「ふう・・・酒は落ち着くのう」

 「それはただの飲兵衛じゃ」

 「オロチが消えたのう」

 「煙桜と酒を呑むと言っておったじゃろう」

 「そうか・・・」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 「・・・天狗」

 「なんじゃ」

 「酒は・・・良き友じゃ」

 「・・・それはわざわざワシに言うことか。しかも間を開けて」

 「・・・天狗」

 「なんじゃ。くだらぬことは言うなよ」

 「なんでもない」

 「くだぬことを言う心算じゃったのか」

 「ワシは寝る」

 「勝手にせい」

 風が気持ち良い。気温も丁度良い。

 こんな日は寝るに限る。酒があるともっと良いが。   byぬらりひょん

 「・・・主、お茶目になったのう」

 ずず、と天狗がお茶を啜る音だけが響いた。

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