誓いは紅く
文字数 1,632文字
時 不詳。
所 異世界の某所。
登場人物
天守の主、
白菊姫の守り人、
人間の兵士、大勢。
* * *
舞台。天守の五重。
天守の主白菊姫、さも退屈そうになげやりに薄紫の扇を使い己をあおぐ。その
その言葉を合図にしたよう、人間の兵士たちが雄たけびを上げて天守にわらわら登ってくる。手に手に刀を引っさげて、姫と守り人に斬りかかる。白菊姫、日本髪にさした三輪牡丹 の木櫛を抜き取り、片手にささぐ。と見る間に黒髪無数の蛇のごとくに伸び、襲いくる兵士たちを次々に絞め殺す。
鈴之助の背後に迫った兵士を一人、すんでのところで姫の黒髪が絞め殺す。鬼のように恐ろしく変じた姫の怒りの形相に、兵士たちたじたじとなり先を争って逃げ帰る。
そんなに恥じ入らなくとも良いよ。他の者がみんな捕らまってしもうた中に、お前ひとりわたしの傍にこうしていてくれるんだもの。それにつけても憎いは人間。人間界からこちらの世界に通じる方法 を見つけた上に、片っぱしからわたしら妖怪 を捕えては見世物にしているんだもの。
ええ。この城で残っているは姫と私のふたりばかり。あなた様は素晴らしく強大な妖力 の持ち主、私もそこらの妖怪 に引けはとりませぬ。非力な人間ども、おそらくは毒を塗った刀でこちらの四肢をばらばらに斬り落とし、抵抗できぬ状態で人間界に持ち帰ってそのまま見世物にする気でしょう。
……ねえ鈴や。天守 に残った者同士、ここで誓いをしようじゃないか。もし万が一ふたりが捕まりそうになったら、お互いに口を吸って舌を噛み合って心中しよう。捕まって見世物にされるより、ふたりで一緒に死のうじゃないか。
白菊姫と鈴之助、見つめあいながら互いの手をとって胸に抱く。ざわざわと聞こえてくる、先刻よりなお多い人間たちのざわめく声。
舞台暗転。遠く聞こえる争いの音、