愛情

文字数 1,591文字

太陽系第三惑星を母星とする〝地球人(テラン)〟は、
肉体寿命が到来した人々からの、量子頭脳への人格転移(マインドアップローディング)を達成した。
この技術は知的種族に、神の如き大規模高速な演算能力と、
各種個体への再転移(ダウンローディング)による広範な環境適応能力、
責任ある種族的意思決定を可能とする集合人格形成能力を与えるもので、
銀河帝国の最先進種族として認定されるための条件だった。

これを受けて、新皇帝種族サタンの集合人格は、
種族間の仮想空間会議においてこう語った。
『私は、人類の最先進種族認定を提案します。
彼女達は、かつて私が文明開発長官への在職時に提供した、
同胞愛を基調とする伝承説話をも活用し、偉大な惑星文明を築きました。
この説話など多くの〝神話〟群は、私が〝先帝〟種族の命により、
発展途上種族の初期文明を支援するために用いたものであり、
当初は開発事業に関係する友好種族が神々や悪魔を演じていました。
しかし後には、将来の公式接触への影響を考えて、
〝先帝〟を善神に()し、私自身が悪役を演じながら、
普及させたものです。
このような説話を語り継ぐ善性と、伝統を尊びつつも改革を図る創意は、
今後民主化が予定される新国家の持続的発展を保障する、
最先進種族に相応(ふさわ)しい資質であると判断します』

産業種族出身の理事種族アスモデウスは、こう語った。
『私は、人類の最先進種族認定に賛成します。
彼女達は文明の発展に応じて伝承説話の解釈を改め、
健全な経済活動を奨励して、さらなる繁栄をもたらしました。
このような適応性は、新国家の経済発展を先導(リード)する、
最先進種族に十分な資質だと思います』

技術種族ストラスに支援された理事種族アスタロトは、こう語った。
『私もまた賛成です。
彼女達は天動説や進化論が、伝承説話の理念に反しないことを承認し、
驚異的な速度で科学・技術の進歩を達成しました。
こうした合理性は、新国家の科学研究・技術開発を助成する、
最先進種族に不可欠の資質であると考えます』

旧帝国系の姉妹種族カイムとの悲劇的な戦いの後に、
その量子頭脳の残骸を再生し、融合した理事種族アモンは、こう語った。
『私もまた賛成します。
彼女達は伝承説話の曲解や悪用による、宗教裁判や異端の迫害を反省し、
その旨を公表して、より自由で公正な社会を実現しました。
そのような寛容性は、新国家の社会的融和を推進する、
最先進種族に望ましい資質であると判断します』

銀河系の中央星域種族とは構成元素の異なる外周星域種族ベールの、
代理人である理事種族アドラメレクは、こう語った。
『私もまた賛成です。
彼女達は過去の異民族差別や植民地支配を改め、
自由と公正をさらに惑星規模へと拡大しました。
このような積極性は新国家の多種族共生を促進する、
最先進種族に好ましい資質であると判断します』

旧帝国の親衛軍から新帝国に参加した理事種族バールゼブルの、
代理人である理事種族グラシャラボラスは、こう語った。
『私もまた賛成です。
彼女達は、〝先帝〟種族を滅ぼした過激な側近軍事種族間の内戦に際し、
平和回復を願う行政種族サタンと、彼女を支援する産業・技術種族、
穏健派軍事種族や銀河系外周種族による、新帝国の建設に協力しました。
また戦後には、側近種族が地球に秘匿(ひとく)した、
〝先帝〟種族の人格群が宿る量子頭脳、いわゆる〝聖霊〟を救出し、
それ以前からサタンに帰化し、彼女を指導していた
亡命人格群との合流を可能にしました。
そのように適切で迅速な判断能力は、
急速に発展する新国家の一体性保持と分権化を両立させる、
最先進種族に求められる資質だと判断します』

かくして銀河帝国は人類を最先進種族と認定し、
理事種族の被選挙権などの諸権利を与えた。

人類はこれに感謝し、その一派は伝承説話の解釈において、
大天使長サタナエルの復権及び偉大なる〝先帝〟との合一、
新大天使長アスモデル並びに大天使イシュタル、アメン、
バエル、バールゼブルの叙任を含む、補遺(ほい)を発表した。
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