第1話

文字数 1,997文字

 はぁ。今日も仕事か。夏の日差しが強い中、竹脇は嫌々職場へと向かっていた。幸い、今日は金曜日。しかも半休を取っている。
「おはようございます」
「遅いぞ!」課長が怒ってきた。
「す、すいません……」
 課長がもう、出社してることに驚いた。
「ホント、だらしないやつだなぁ。もっと早く出社しろよ!」
「すいません……」
 十分、間に合ってるだろ!課長がいてることのほうが驚きだわ!課長の方がいつも来るのもっと遅いだろ!たまに早く来たからってでかい顔するなよ!
 この上司がいてるから仕事に来るのが嫌になるんだ。本当に殺してやりたくなるほどに鬱陶しい。何かにつけて因縁をつけてくるし、部下からでも平気で金をせびろうとしてくる。
「何をつっ立ってんだよ。早く仕事しろよ!」
「あっ、はい……」
 竹脇は急いで自席に座り仕事を始めた。
「こんなやつでも半休なんて取ってるんだから驚くよな。仕事も対してできないくせに権利だけは一丁前に主張するんだな」
 課長に言われたくないわ!お前なんて仕事は全部部下に任せて、いつも座ってスマホでゲームしてるだけだろ!そんなお前も今日、半休取ってるだろ!どうせ、早く帰ってもゲームしてるだけのくせに!権利だけ主張してるのは課長の方だろ!
 竹脇は黙々と仕事をしていた。課長は言うだけ言ったらスマホゲームに夢中だ。
 いつものことなので気にせずに自分の仕事をこなしていた。
「おい、竹脇」
 課長が呼んでいるようだったが、鬱陶しいので竹脇は聞こえてないフリをした。
「おい、竹脇!呼んでるだろ!来いよ!」
「はい……」
 竹脇は渋々、課長の元に行った。
「ちょっと金貸してくれ」
「なんでですか?」
「なんでじゃないだろ!お前は黙って金を出したらいいんだよ!」
 どうせスマホゲームに課金するんだろ。それで今まで一体、いくら貸してると思ってるんだ!
「いくらですか?」
「それはお前の誠意によるけど、まぁ一万円でいいわ」
 誠意ってなんだよ!誠意もクソもないだろ!なんで一万円も出さなきゃダメなんだよ!
 竹脇は嫌々ながら課長に一万円を渡した。
「グダグダ言わずに早く出せよな」そう言って課長は竹脇からぞんざいに一万円を奪った。
 グダグダなんて言ってないだろ!もう殺したい。死んでほしい。今まで貸しているお金のことは諦めるから死んでくれ。
 竹脇は席へと戻った。課長は機嫌よくゲームを再開していた。
 しばらくすると、課長はゲームを止めて、ネットサーフィンをしているようだった。
「昨日、女子高生が熱中症で亡くなってるみたいだぞ。お前らはいいよな。こんなに涼しい職場で働けて。ちゃんと俺に感謝しろよ」
 なんでお前に感謝するんだよ!お前のおかげで涼しいわけではないだろ!
「本当に俺っていい上司だな。お前らみたいなやつが部下でも寛容に指導してるんだからな。もっとお前らは俺への感謝の気持ちを表に出すべきだと思うけどな」
 どこがいい上司なんだよ!お前がいてるから仕事が嫌なんだろ!お前がいてなかったらどれだけ平和か。頼むから死んでくれよ!
 それにしても、熱中症で死ぬなんて可哀想に……。それだけ、外は暑いということだ。特に、この時期の日中に乗る車は灼熱だ。クーラーもなかなか効かない。
 ……あれ?ある考えが頭に浮かんだ。課長を殺せるかもしれない……。
 竹脇はそれを実行するために行動に移した。
「課長」
「なんだ。仕事もせずにサボりか」
「課長、今日半休取ってるんですよね」
「ああ。だからなんだよ」
「呑みに行きませんか?」
「そうか。お前も半休取ってるんだったな。珍しいな、お前が誘ってくるなんて。でも、昼からか?」
「せっかく半休取ってるんですから昼から呑んじゃいましょうよ」
「まぁ、明日休みだしな……。でも、お前から言ってきたからには、お前の奢りだよな」
 そんなにお金を出すのが嫌か!
「わかりました。奢ります」
「よし、じゃあ行こう」

 竹脇は仕事が終わると課長と呑みに来ていた。いつも課長は車で仕事に来ているので車に乗せてもらった。帰りは代行を呼ぶと言っていたが、その必要はきっとないだろう。今日は意識がなくなるほど呑ませるつもりだ。
「お前の奢りだよな」
「はい。そうです」
「よし。じゃあ、好きなだけ呑むからな」
 もとよりそのつもりだ。浴びるほど呑ませてやる。
 二時間ほど経つと、課長は呑めるだけ呑んで、今にも寝そうになっていた。
「じゃあ、そろそろ帰りましょか」そう言ったが課長の耳には届いていなかった。
 竹脇は課長を抱えながら店を出て、車へと乗せた。
「じゃあ、ここで失礼します」
 起こしても起きそうもない課長を車において、竹脇は家路へと着いた。
 夏の炎天下の中、車の室内は異常なほど暑かった。そんな中、課長は酔っ払って気持ちよさそうに寝ていた。
 次の日、家でテレビを見ていると、一人のサラリーマンが車の中で熱中症になり死んだとニュースが流れていた。

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