第1話

文字数 1,328文字

 10年以上前に一世を風靡した伝説のパチスロ機、エウレカエイトの復刻版が出ると聞き、
俺は軍資金を貯めるべく、副業の隙間バイトのアプリに登録した。
幸い、日雇い先の人間はいい人が多く、日雇い仲間とも仲良く雑談出来て、コスパのいい暇つぶしになっている。

 今日は観葉植物用大型プランターが入った段ボール箱をひたすら積み下ろすという、シンプルにきつい作業だ。

 昼の休憩で、仲良くなった日雇い仲間のおっさんが、煙草に火をつける。
ここの会社は良くも悪くも昭和な社風で、まあ時給はいいので何も言うまい。

「悪いな、ここの会社タバコ吸っていいんで吸わせてもらうよ」
「いいですよ、ああこの臭いなつかしいなあ、先輩とパチスロ三昧だった日々を思い出しますよ」
「タバコ吸わないのに、臭いが好きなんて変わってるな」
「最近はホールも全面禁煙なんですよ。おかげで客が減りまくりで」
「まじか。俺らの居場所がどんどんなくなるな」
「さらに物価高でまじで副業でもしないとやっていけないですよね」
「まあでも君はパチスロ打つ余裕あるからまだまだ大丈夫だろ」
「いやーそうでもないっすよ。人生最後の思い出作りっすよ」
「おいおい君まだ若いだろ。考え方がおっさんだぞ」
「僕の先輩はいわゆるエリートで勝ち組なんですけど、その先輩曰くもうすぐ人の時代が終わるから、それまで悔いのないよう好きなことをやっとけって」
「ははは、なんだそりゃ。その先輩変わってるな」
「その先輩曰く、人生はギャンブルで勝ち続けることは不可能だ。どこかで人生の損切りをする必要があると」
「はーそうか。俺も結婚前に嫁さん損切りしとけばよかったかなあ」
「いやいや、田中さんは勝ち組ですよ。結婚して子供を産んで育ててという、なんてことのないかけがえのない人生を送ることができた」

 田中さんは、タバコを吸い殻に入れると、何か考えるそぶりをして俺に質問をする。

「前々から思ってたんだが、最近の若い子ってみんなそういうもんなのか? 俺らの若いころはもっとオラオラしてたというか、けっこうやんちゃだったんだが、今の子らって大人しいなって」
「なんていうか、情報が多すぎて、闘う前から、この人生は罰ゲームだってわかっちゃうんですよ。俺の尊敬する先輩ですら、この人生にはもう期待値ないなってのが最近の口癖で」
「人生罰ゲームって……、いやその通りだと思うけど、その若さで悟るとかかわいそうだな」
「だってね……責任ある大人たちがみーんな逃げることしか考えてないじゃないですか。なんで彼らは死んだあとも責任から逃れられると思ってるんですかねえ」
「実際逃げられるんだろ? 知らんけど」
「だから僕も防御力を高めつつ、人生うまく逃げ切りますよ」
「うらやましいな。俺は死ぬまで嫁さんと子供の為にボロボロになるまで働く運命さ」
「いや、そっちの方がいい人生っすよ」
「じゃあ俺と変われよ」
「俺たち? 入れ替わってる!?」
「君の名はかよ!?」

 休憩室内に笑い声が響き渡る。
その時、社員がしかめっ面で休憩室に割り込んできた。

「おいお前ら、さぼってんじゃねーぞ。休憩は終わりだ。早く作業場につけ」
「はーい」

 俺たちはこうして、勝利も敗北もないひたすら単純な肉体労働に今日も勤しむのだった。
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