第1話

文字数 974文字

(起)
家の財力と生まれついた美貌を鼻にかける不良少年、アンソニー・ヴァン・ダイク。卓越した観察眼と鉄火場で培った経験則に基づき、他人の動きを正確に予測するという特技の持ち主だ。特技のおかげで不良のリーダーとなっている彼だが、幼少から絵を描くのが好きだという一面もある。ある日いつものように、仲間とつるみ金品を巻き上げようと、ひとりの貴族と思しき男性を襲うのだが、不可思議な力で返り討ちにあってしまう。その男性は周辺諸国を股にかける天才画家にして七ヶ国語を使いこなす言語の匠、ピーテル・パウル・ルーベンスだった。
(承)
異端的出自故に《古来の禁忌》の一種、幻術を密かに習得していたルーベンス。この異能を前に完敗したアンソニーは復讐すべくルーベンスをつけ狙うものの、彼がアントウェルペンに開いた絵画工房の様子を窺ううちに、その絵の素晴らしさを知り、自分も本気で絵に打ち込みたいという情熱がわき上がる。そして、不良仲間が絵の修業をしている少年を強請る現場に居合わせたアンソニーは少年のほうに共感を覚え、仲間を裏切る。守った少年、ヤン・ブリューゲル二世の父がルーベンスの友人だった縁でアンソニーは弟子入りを果たす。
(転)
ルーベンスの工房で絵に打ち込む日々、ルーベンスの妻であるイザベラとの親交、同じ絵画の道を歩むヤンとの友情を通し、画家としても人間としても成長していくアンソニー。一方でルーベンスのところには画家の仕事のみならず、言語能力を買われ、外交の仕事も舞い込む。そうした仕事は時には血腥い手合いと関わることもあり、その方面でも腕に自信があったアンソニーは師の目を盗んで、少しでも師が絵に専念できるようにと手助けをするため首を突っ込むのだが、逆にルーベンスに救われる始末。しかし、ルーベンスの幻術を異端視する宗教組織の魔の手が忍び寄っていた。
(結)
敵対する宗教組織によって妻イザベラを人質に取られ窮地に陥るルーベンス。間一髪のところをアンソニーが敵を出し抜いて、イザベラ共々救出に成功する。他人の動きを予測する特技が役立ったのだ。ルーベンスの有力なパトロン、王女イサベルの協力もあって、敵組織は立ち行かなくなる。この出来事におけるアンソニーが活躍した光景からインスピレーションをもらい、ルーベンスは後世名作と謳われる『キリスト降架』の制作に取り掛かる。
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