夜の森

文字数 341文字

鏡を前にしたときだけ
自分の顔を知るように
夜の森には
なにを確かめに行けばいいのだろうか

枯葉の絨毯は音を欲さない
遠くに浮かび上がる城を横目に
カラスと同化した闇が靴をさらう
ぼくの心臓はきっとそのとき失われたのだ

だから歩く
歩く
不死に興味がないと言っていた
死んだ祖父を乗り越えて

水の枯れた噴水
鼻孔の奥にあるコーヒーの残光
人間の残虐性について
忘れることはまだできない

たまに飛ぶ
羽毛のような冬
その片割れの
金属でできた青いイルミネーション

寒かった
そう言えるのは
まだ生きているからだと
きみはまた凍る

娘があした生まれる
その予感は音楽になって
きっと朝日を歓迎するだろう
カラスはまだ眠っているのだから

もしいつか肉体が消滅しても
その人を思い出すとき
胸の奥は決して曇らないはずだ
例えすべての夜が見えなくなっても
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