第1話
文字数 1,978文字
おでん屋デートの次。
僕は探偵の太郎、彼女はカレン、二人の行く先は…
「占いの館?」
「そう、念力も使えて前世を教えてくれるの。よく当たるって評判よ」
今日は彼女の誕生日。このところ結婚詐欺の調査で忙しく、昨日まで残業しまくってなんとか時間を作ってデートにこぎつけた特別な日。さっきは飲み過ぎたから酔い覚ましにいいかもしれない。今どき念力とか自分の前世にもちょっとだけ興味がわいた。
雑居ビルの階段を上がって怪しい黒いカーテンの向こうに通された僕ら。
そこへ真っ赤なベリーダンスの衣装にフェイスベールをつけた女が水晶を持って現れた。
「ようこそ。占いの館リトルレッドへ」
「さあ、さっそくだけどあなたの名前は太郎、探偵じゃない?」
いきなり当てられてびっくりした。カレンちゃんがすごい凄いと僕の肩をたたく。
「そうです。なぜわかった…」
「顔に書いてあります」
きっぱりとした物言いに顔をなでてみる。
(太郎って感じ?かな。)
「さて、占いの前にサービスしましょ。この赤えんぴつをよく見てて」
女が、象が踏んでも壊れない筆入から取り出した赤えんぴつに念をおくった。するとテーブルの上で赤えんぴつがコロコロと動き出した。
(すっすげえ。)
そして花柄のスカーフをかぶせてさらに念をおくると、赤えんぴつがBえんぴつに変わった。しかも長くなって。
(すっすっすげえ。)
「次は消しゴムを消して見せましょう」
普段消す方の消しゴムが消される、なんだか意味深いセリフに目が釘付けになった。
スカーフに包まれてクルクルと宙を舞い降りてくると中の消しゴムが消えていた。
「そちらの女性。名前はカレンちゃんね。あなたのバッグをみてごらんなさい」
女の言葉にカレンちゃんはバッグを開けてゴソゴソと探しだした。
「あった。ありました。消しゴム。瞬間移動してる」
満足そうにうなずく女。
(…すげえ?)
「では、本題の前世を見てみましょう。まずはカレンちゃんから」
女は急に立ち上がりベリーダンスを踊りだしたと思ったら、これまた筆入から三角定規を出してえんぴつをさしてグルグル回して飛ばした。落ちた方向に両手をかざしていると「ホシアキコ」
(うんっ?)
「あなたの前世は巨人の星、飛雄馬の姉、明子」
(えっえー)
カレンちゃんはうれしそうに手をたたいている。
うれしいか?僕はたずねた。
「それってマンガの登場人物ですよね」
「だまらっしゃい!」
怖い目でにらまれ、ビクっと体が動いた。
「マンガほど人に愛されて文房具にもなったものはない」
おっおー、なるほど。よかったねカレンちゃん。
しかし、占いに水晶関係ないやん。
「次は、太郎」
ハイ。
まっすぐ見つめる瞳の奥。吸い込まれるような感覚でいると、おだやかに「ペンギン」
(ハア?)
「あなたの前世はペンギン」
「それはなにか意味がありますか?」
「足が短くて、地面に垂直に立っている」
「それは見た目でしょうか」
「シャラップ!」
それ以外無い。
*
店を出た。
なんだかモヤっとしたけど、最後にカレンちゃんが結婚相手を尋ねて「すでに出会っている」と聞いてテンションが上がって気分がいい。
さあ、ここからだ。僕はもう君を帰さないつもりだ。
「楽しかったね。これからどっか…」
「太郎さん。今日ね実家から兄が来てるの。ゴメンなさい」
(ガーン)
なんだくるって前からわかってたんじゃ。でも、お兄さんじゃしょうがないよな。いいか、すでに出会ってるし。
酔った頭で巡り巡ったプラス思考。新市街の交差点で彼女を見送った。
* *
缶ビールを買いに立ち寄ったコンビニ。
ふと窓の外を見ると黄色いスポーツカーが向かいの歩道の近くで停まった。なんだか見覚えがある垂らした前髪、キラキラしてて触ると危険な感じ。よく見ると間違いない。結婚詐欺の男だ。
そこへカレンちゃんが手を振って近づいていくのが見えた。
「あっ、まさか」
僕はコンビニを飛び出した。
「カレンちゃん」
「た、太郎さん」
驚いている彼女に僕は冷静にたずねた。
「お兄さんだよね。挨拶させてもらってもいいかな」
「・・・・」
車の男がサングラス越しににらんでいる。
「
「・・・・」
僕は勇気を出して彼女の前に出た。
「初めまして。僕、太郎と言います。さっきまでご一緒させてもらってました。彼女といると楽しくて。きっとお兄さんも楽しいかたでしょうね。ぜひ今度ご一緒させてください」
男は舌打ちをした。
「なんだよ。わかってて言ってんだろ。お兄さんなんかじゃねえよ。ちょっと冗談にのってやったら気持ち悪いな」
そのままタイヤを鳴らしながら走り去っていった。
「ゴメン、カレンちゃん」
探偵であることを忘れ、顔も名前も知られてしまった。
もう失格だ。
「太郎さん、ありがとう」
え?
「私困ってたの。彼、最近お金ばかり要求してくるから」
僕の手に彼女の手が。
「休みとってたけど、お店行こ」
その日僕は帰れなかった。
僕は探偵の太郎、彼女はカレン、二人の行く先は…
「占いの館?」
「そう、念力も使えて前世を教えてくれるの。よく当たるって評判よ」
今日は彼女の誕生日。このところ結婚詐欺の調査で忙しく、昨日まで残業しまくってなんとか時間を作ってデートにこぎつけた特別な日。さっきは飲み過ぎたから酔い覚ましにいいかもしれない。今どき念力とか自分の前世にもちょっとだけ興味がわいた。
雑居ビルの階段を上がって怪しい黒いカーテンの向こうに通された僕ら。
そこへ真っ赤なベリーダンスの衣装にフェイスベールをつけた女が水晶を持って現れた。
「ようこそ。占いの館リトルレッドへ」
「さあ、さっそくだけどあなたの名前は太郎、探偵じゃない?」
いきなり当てられてびっくりした。カレンちゃんがすごい凄いと僕の肩をたたく。
「そうです。なぜわかった…」
「顔に書いてあります」
きっぱりとした物言いに顔をなでてみる。
(太郎って感じ?かな。)
「さて、占いの前にサービスしましょ。この赤えんぴつをよく見てて」
女が、象が踏んでも壊れない筆入から取り出した赤えんぴつに念をおくった。するとテーブルの上で赤えんぴつがコロコロと動き出した。
(すっすげえ。)
そして花柄のスカーフをかぶせてさらに念をおくると、赤えんぴつがBえんぴつに変わった。しかも長くなって。
(すっすっすげえ。)
「次は消しゴムを消して見せましょう」
普段消す方の消しゴムが消される、なんだか意味深いセリフに目が釘付けになった。
スカーフに包まれてクルクルと宙を舞い降りてくると中の消しゴムが消えていた。
「そちらの女性。名前はカレンちゃんね。あなたのバッグをみてごらんなさい」
女の言葉にカレンちゃんはバッグを開けてゴソゴソと探しだした。
「あった。ありました。消しゴム。瞬間移動してる」
満足そうにうなずく女。
(…すげえ?)
「では、本題の前世を見てみましょう。まずはカレンちゃんから」
女は急に立ち上がりベリーダンスを踊りだしたと思ったら、これまた筆入から三角定規を出してえんぴつをさしてグルグル回して飛ばした。落ちた方向に両手をかざしていると「ホシアキコ」
(うんっ?)
「あなたの前世は巨人の星、飛雄馬の姉、明子」
(えっえー)
カレンちゃんはうれしそうに手をたたいている。
うれしいか?僕はたずねた。
「それってマンガの登場人物ですよね」
「だまらっしゃい!」
怖い目でにらまれ、ビクっと体が動いた。
「マンガほど人に愛されて文房具にもなったものはない」
おっおー、なるほど。よかったねカレンちゃん。
しかし、占いに水晶関係ないやん。
「次は、太郎」
ハイ。
まっすぐ見つめる瞳の奥。吸い込まれるような感覚でいると、おだやかに「ペンギン」
(ハア?)
「あなたの前世はペンギン」
「それはなにか意味がありますか?」
「足が短くて、地面に垂直に立っている」
「それは見た目でしょうか」
「シャラップ!」
それ以外無い。
*
店を出た。
なんだかモヤっとしたけど、最後にカレンちゃんが結婚相手を尋ねて「すでに出会っている」と聞いてテンションが上がって気分がいい。
さあ、ここからだ。僕はもう君を帰さないつもりだ。
「楽しかったね。これからどっか…」
「太郎さん。今日ね実家から兄が来てるの。ゴメンなさい」
(ガーン)
なんだくるって前からわかってたんじゃ。でも、お兄さんじゃしょうがないよな。いいか、すでに出会ってるし。
酔った頭で巡り巡ったプラス思考。新市街の交差点で彼女を見送った。
* *
缶ビールを買いに立ち寄ったコンビニ。
ふと窓の外を見ると黄色いスポーツカーが向かいの歩道の近くで停まった。なんだか見覚えがある垂らした前髪、キラキラしてて触ると危険な感じ。よく見ると間違いない。結婚詐欺の男だ。
そこへカレンちゃんが手を振って近づいていくのが見えた。
「あっ、まさか」
僕はコンビニを飛び出した。
「カレンちゃん」
「た、太郎さん」
驚いている彼女に僕は冷静にたずねた。
「お兄さんだよね。挨拶させてもらってもいいかな」
「・・・・」
車の男がサングラス越しににらんでいる。
「
妹さん
乗らないのかい?」「・・・・」
僕は勇気を出して彼女の前に出た。
「初めまして。僕、太郎と言います。さっきまでご一緒させてもらってました。彼女といると楽しくて。きっとお兄さんも楽しいかたでしょうね。ぜひ今度ご一緒させてください」
男は舌打ちをした。
「なんだよ。わかってて言ってんだろ。お兄さんなんかじゃねえよ。ちょっと冗談にのってやったら気持ち悪いな」
そのままタイヤを鳴らしながら走り去っていった。
「ゴメン、カレンちゃん」
探偵であることを忘れ、顔も名前も知られてしまった。
もう失格だ。
「太郎さん、ありがとう」
え?
「私困ってたの。彼、最近お金ばかり要求してくるから」
僕の手に彼女の手が。
「休みとってたけど、お店行こ」
その日僕は帰れなかった。