第1話 いつまでも、お元気で
文字数 4,236文字
冒険者。
それが、今の私の肩書きだ。
望んで手に入れた職業でもない。たまたま、生きるためにそうなっただけ。
その偶然も、今では感謝をしている。毎日が楽しくて仕方がない。
(そうだ・・・)
ふと、脳裏によぎった。
(あの村長は元気にしているのかな?)
向こうの世界では「敬老の日」なる祝日がある。
(サプライズを喜んでくれるだろうか・・・?)
突然、フラッと現れて驚かすことにした。その村にいる冒険仲間にはナイショだ。
秘密裏に準備を進めることにした。
(・・・ゴメンよ)
サプライズなんだから、バレてはいけないだろう。アイツらは嘘をつくのが下手な連中だから、仕方がない。きっと話をすれば、ソワソワするのが目に見える。
(さてと・・・)
何をすればいいのだろう。喜んでくれないと意味がない。そう思っていたのは、私だけだった。
村長の器量のことを忘れていた。
あの弱いギャンブラーを手玉にとった実力者であった。当然のように笑顔で迎えてくれる。
だから、クセのあるアイツらが慕っているのだ。
私はそれでも準備万端。向こうの世界からお酒を一升瓶で数本用意した。幻の酒と呼ばれる物。市場には、なかなか出ない代物だ。正直なところ出費は痛かったのだが、それはそれ・・・。村長の喜ぶ顔が見たいだけだ。いつか「徳」は、めぐりめぐって私の元へ帰ってくることだろう。
「村長、久しぶり!」
私はブンブンと手を振った。背中のリュックサックには、酒の木箱が入っている。
(気に入ってくれるかな?)
「オテロ殿、久しぶりじゃの。今日はどうなされたのかな?」
「特に用事はないんだけどね。何だか急に村長の顔が見たくなって・・・」
「・・・そうですか。何だか照れますなー」
「ははは」
お互いに笑った。今晩は話の流れで村長の家にお邪魔する。夜通し飲む予定。一つの木箱を取り出した。
「村長、これ。向こうの世界のお酒なんだ。よかったら一緒に飲もうよ」
「ほほう、それは楽しみですなー。村人も呼んでやろうかのぅ」
自慢の白く伸びた髭を触りながら、笑顔で私にそう言うと使いの者を村の中に走らせた。
(まー、いいか。村長と二人で飲みたかったけど・・・)
私が珍しいお酒を持ってきたと噂を聞きつけた村人が、ガヤガヤと村長の家に集まる。これが村長の人柄なのだろう。村人は一旦、各自の家に帰り、手料理を持ち寄った。急に大勢の宴会となった。
笑顔の村長が乾杯の音頭をとり、楽しい宴会はスタート。
「オテロ殿に乾杯!」
「乾杯!」
長い夜の始まり。お酒がすすむ。
「くうぅ、旨い。初めて飲んだ味じゃ。向こうの世界には、こんな美味しい酒があるのじゃな。長生きはするものじゃ、ハッハッハ」
ご機嫌な村長は並々と器に注がれた酒を一気に飲んだ。それを見て村人も飲んだ。どよめきが起きている。
(そうだろうね、高かったんだよ)
宴会は盛り上がり、村人の笑顔がそこにあった。
「やはり、美味しい酒は皆で飲まんとな。オテロ殿、感謝します」
「いやー、実はね。向こうの世界では『敬老の日』という日があるんだ。それで村長のことを思い出したという訳だよ」
「そうなのですな」
多年にわたり社会につくしてきた老人を敬愛し、長寿を祝う日と言えない私がいた。この世界では無縁な祝い事だ。エルダークラスのように千年以上も生きる竜もいるのだ。年齢なんて気にしていないだろう。それなのに年寄り扱いされては迷惑でしかない。だから言い出せなかった。それを見て、ほろ酔いの村長が私に話かけた。
「今日はオテロ殿の顔を見れたから良き日じゃな」
「村長には長生きをして欲しいからね。笑顔でいて欲しいと思うんだ。いつも、ありがとう」
村長は何も言わず私の肩をポンと叩いた。驚く発言をする。
「オテロ殿、一勝負どうですかな?」
(えっ)
村長の手にはカードの束。私は村長と一度でいいから勝負がしたかった。村長も同じ思いだった。
私が酒場のギャンブルでロイヤルストレートフラッシュを決めたことを風の噂で知っていた。
もちろん、勝負のゲームはポーカーだ。お手並み拝見といったところだろう。
(村長、悪いけどレグスのようには、いかないよ)
敬老の祝い事だから、わざと負けてもいいのだが、それをブルハ殿は望んでいないだろう。だから私は最初から全力でいくつもりだ。手抜きは失礼にあたる。
立会人はイオラが務める。イカサマ防止のためには「その方がいい」とブルハ殿が言ったからだ。申し訳ない。
(こっちは、組んでいてもいいのだが・・・)
むしろ、そちらの方が負けても言い訳がたつ。でも、二人はイカサマをしないだろう。この二人はそんな竜人だ。
(よし、やるぞ!)
シャッフル後、カードが配られる。
今回のルールは一回勝負なので、お互いに狙いのカードがくるまでチェンジ有りとした。どちらかがストップをコールしてから、相手は一回チェンジできる。そこで出来た役の結果で勝敗を決する。
イオラが次々とカードを配る。
(なんでだよーっ!)
叫びたくなるような五枚のカード。総入れ替えをした。次こそは、ましなカードがくるといいのだが・・・。
それに比べて、ブルハ殿の方は二枚チェンジ。
(何だって・・・)
いきなり追い込まれた気がした。次のチェンジ次第では負けてしまう。敗北のカウントダウンが始まった。プレッシャーが私に襲いかかる。ゴクリと生唾を飲み込んだ。ブルハ殿が大きく見えた。
(くっ!)
まただ。今日の私はツキがない。もう一度、総入れ替えを選択。勝ち筋が全く見えない。
(このままでは終わらせないよ)
勝つためには、それしか無かった。一か八かだった。奇跡を信じるだけだ。
ブルハ殿は、一枚チェンジ。私の行動を見て、余裕の笑み。
(くやしーい)
それでも仕方がない。今日のカードが応えてくれない。勝利の女神に見放されたのだろうか・・・。
(頼む。応えてくれー)
祈りながら、カードを見た。
(よし、引いた・・・)
引いたといっても、やっと土俵に上がっただけだ。勝負するには弱すぎる。10のワンペアだけだ。
(負けてたまるかー)
もちろん、三枚チェンジ。賭けにでた。この場面がこの勝負の分かれ目となるだろう。勝つパーツが揃えばいいのだが・・・。
「ストップじゃーっ!」
ブルハ殿からのコール。勝ち誇ってカードをオープンした。Kのフォーカード。一枚はジョーカーを含んだ形だった。
(ふー、まだチャンスは残されている・・・)
いよいよ、追いつめられた。残るチェンジの回数は一回のみ。神頼みをするしかなかった。
(ニケ様、力を貸してください・・・)
運命の一枚チェンジ。右拳が一瞬、光った気がした。
(うん?)
目をこすってみたが、右手は普段の手をしていた。
(気のせいか・・・)
「徳」が巡り巡って私の元へ帰ってきていた。運気が上がったのがハッキリと分かった。
場を見ることができなかった私は、顔を手でおおった。
「オープン!」
イオラの声。
「何と、こんなことが・・・」
ブルハの驚いた声。
私はすでに四枚のカードをオープンしていた。
A・Q・J・10のスペードのカード。Kのスペードだけが足りていなかった。
一世一代の大博打。
イオラがオープンしたカードはなんと・・・。
Kのスペード。勝負は私の勝ちだ。
(や、やったー。・・・ありがとう、ニケ様)
「いやー、参りましたな。まさか、負けるとは思いませんでしたぞ」
「ハハハ、たまたまだよ。途中まで完全に負けたと思っていたからね」
「私も初めて見たわ。・・・こんな結末。あり得ない。おめでとう、オテロ」
「ハッハッハ、ワシの完敗ですな。まさか、あの状況から残りの一枚を引き当てるとは・・・」
「いやー、スミマセン。わざと負けるのはよくないと思って・・・」
申し訳なく、下を向いた。祝いの席だというのに、私はバカだ。何をしているのだろう。大人しく負けていた方がマシだった。恥ずかしくなり、泣けてきた。
「いやー、今宵は楽しかった。イオラも付き合わせてすまなかった。ゆっくりと休んでおくれ」
「いえ、村長。私の方こそ、楽しかったです。それでは失礼します」
私の肩をポンと叩いて、一礼するイオラ。笑顔で部屋から出ていった。
「さて、オテロ殿。やかましいアイツらを構いにいきますかな?」
「・・・はい」
私は涙をぬぐい、縁側まで移動した。
そこには、いつもの仲間がいた。
「オテロ、遅いのだーっ!」
ランドタイラントに怒られた。
(そんなに遅かったかな?)
「オテロ、焼き芋食うモイ!」
イモードラは相変わらずの焼き芋奉行だ。
「・・・」
ムスタバ達は無言で踊っていた。
「オテロ、飲んでいるかー」
(誰だ、アムルガルに酒を飲ましたのは・・・)
千鳥足のアムルガル。完全に酔っぱらっていた。次の瞬間、倒れこんだ。イビキをかいて寝ている。
(ホッ)
ビックリした。まったくこまった奴だ。私は縁側まで運んでやった。
「困った奴じゃな」
ブルハ殿はそう言いつつも、シーツをかけてやった。その目は優しさに溢れている。
(さてと、行きますか・・・)
まだ、皆は寝ていた。私は起こさずに出発するつもりだった。まだ夜は明けていない。
「・・・相変わらずだな」
アムルガルが村の外で待っていた。
「どうしたんだよ、アムルガル。君の方こそ、早いじゃないか?」
「オテロなら黙って出ていくだろうなと思ってな・・・」
アムルガルは私の行動をよく知っていた。かつて一緒に冒険した仲間だ。
「・・・まー、何だ。ジィのことはオイラに任せておけよ」
「ありがとう、アムルガル。頼んだよ」
「あぁ、お前こそ。気をつけてな、たまには顔を見せろよ。じぁあな」
アムルガルは照れくさかったのか、自分の家へ走って帰った。
(ブルハ殿、お元気で・・・)
新たな冒険が待ち受けている。空のリュックサックを背負い、村を旅立った。今日の冒険では、何が起こるのやら・・・。
― 完 ―
それが、今の私の肩書きだ。
望んで手に入れた職業でもない。たまたま、生きるためにそうなっただけ。
その偶然も、今では感謝をしている。毎日が楽しくて仕方がない。
(そうだ・・・)
ふと、脳裏によぎった。
(あの村長は元気にしているのかな?)
向こうの世界では「敬老の日」なる祝日がある。
(サプライズを喜んでくれるだろうか・・・?)
突然、フラッと現れて驚かすことにした。その村にいる冒険仲間にはナイショだ。
秘密裏に準備を進めることにした。
(・・・ゴメンよ)
サプライズなんだから、バレてはいけないだろう。アイツらは嘘をつくのが下手な連中だから、仕方がない。きっと話をすれば、ソワソワするのが目に見える。
(さてと・・・)
何をすればいいのだろう。喜んでくれないと意味がない。そう思っていたのは、私だけだった。
村長の器量のことを忘れていた。
あの弱いギャンブラーを手玉にとった実力者であった。当然のように笑顔で迎えてくれる。
だから、クセのあるアイツらが慕っているのだ。
私はそれでも準備万端。向こうの世界からお酒を一升瓶で数本用意した。幻の酒と呼ばれる物。市場には、なかなか出ない代物だ。正直なところ出費は痛かったのだが、それはそれ・・・。村長の喜ぶ顔が見たいだけだ。いつか「徳」は、めぐりめぐって私の元へ帰ってくることだろう。
「村長、久しぶり!」
私はブンブンと手を振った。背中のリュックサックには、酒の木箱が入っている。
(気に入ってくれるかな?)
「オテロ殿、久しぶりじゃの。今日はどうなされたのかな?」
「特に用事はないんだけどね。何だか急に村長の顔が見たくなって・・・」
「・・・そうですか。何だか照れますなー」
「ははは」
お互いに笑った。今晩は話の流れで村長の家にお邪魔する。夜通し飲む予定。一つの木箱を取り出した。
「村長、これ。向こうの世界のお酒なんだ。よかったら一緒に飲もうよ」
「ほほう、それは楽しみですなー。村人も呼んでやろうかのぅ」
自慢の白く伸びた髭を触りながら、笑顔で私にそう言うと使いの者を村の中に走らせた。
(まー、いいか。村長と二人で飲みたかったけど・・・)
私が珍しいお酒を持ってきたと噂を聞きつけた村人が、ガヤガヤと村長の家に集まる。これが村長の人柄なのだろう。村人は一旦、各自の家に帰り、手料理を持ち寄った。急に大勢の宴会となった。
笑顔の村長が乾杯の音頭をとり、楽しい宴会はスタート。
「オテロ殿に乾杯!」
「乾杯!」
長い夜の始まり。お酒がすすむ。
「くうぅ、旨い。初めて飲んだ味じゃ。向こうの世界には、こんな美味しい酒があるのじゃな。長生きはするものじゃ、ハッハッハ」
ご機嫌な村長は並々と器に注がれた酒を一気に飲んだ。それを見て村人も飲んだ。どよめきが起きている。
(そうだろうね、高かったんだよ)
宴会は盛り上がり、村人の笑顔がそこにあった。
「やはり、美味しい酒は皆で飲まんとな。オテロ殿、感謝します」
「いやー、実はね。向こうの世界では『敬老の日』という日があるんだ。それで村長のことを思い出したという訳だよ」
「そうなのですな」
多年にわたり社会につくしてきた老人を敬愛し、長寿を祝う日と言えない私がいた。この世界では無縁な祝い事だ。エルダークラスのように千年以上も生きる竜もいるのだ。年齢なんて気にしていないだろう。それなのに年寄り扱いされては迷惑でしかない。だから言い出せなかった。それを見て、ほろ酔いの村長が私に話かけた。
「今日はオテロ殿の顔を見れたから良き日じゃな」
「村長には長生きをして欲しいからね。笑顔でいて欲しいと思うんだ。いつも、ありがとう」
村長は何も言わず私の肩をポンと叩いた。驚く発言をする。
「オテロ殿、一勝負どうですかな?」
(えっ)
村長の手にはカードの束。私は村長と一度でいいから勝負がしたかった。村長も同じ思いだった。
私が酒場のギャンブルでロイヤルストレートフラッシュを決めたことを風の噂で知っていた。
もちろん、勝負のゲームはポーカーだ。お手並み拝見といったところだろう。
(村長、悪いけどレグスのようには、いかないよ)
敬老の祝い事だから、わざと負けてもいいのだが、それをブルハ殿は望んでいないだろう。だから私は最初から全力でいくつもりだ。手抜きは失礼にあたる。
立会人はイオラが務める。イカサマ防止のためには「その方がいい」とブルハ殿が言ったからだ。申し訳ない。
(こっちは、組んでいてもいいのだが・・・)
むしろ、そちらの方が負けても言い訳がたつ。でも、二人はイカサマをしないだろう。この二人はそんな竜人だ。
(よし、やるぞ!)
シャッフル後、カードが配られる。
今回のルールは一回勝負なので、お互いに狙いのカードがくるまでチェンジ有りとした。どちらかがストップをコールしてから、相手は一回チェンジできる。そこで出来た役の結果で勝敗を決する。
イオラが次々とカードを配る。
(なんでだよーっ!)
叫びたくなるような五枚のカード。総入れ替えをした。次こそは、ましなカードがくるといいのだが・・・。
それに比べて、ブルハ殿の方は二枚チェンジ。
(何だって・・・)
いきなり追い込まれた気がした。次のチェンジ次第では負けてしまう。敗北のカウントダウンが始まった。プレッシャーが私に襲いかかる。ゴクリと生唾を飲み込んだ。ブルハ殿が大きく見えた。
(くっ!)
まただ。今日の私はツキがない。もう一度、総入れ替えを選択。勝ち筋が全く見えない。
(このままでは終わらせないよ)
勝つためには、それしか無かった。一か八かだった。奇跡を信じるだけだ。
ブルハ殿は、一枚チェンジ。私の行動を見て、余裕の笑み。
(くやしーい)
それでも仕方がない。今日のカードが応えてくれない。勝利の女神に見放されたのだろうか・・・。
(頼む。応えてくれー)
祈りながら、カードを見た。
(よし、引いた・・・)
引いたといっても、やっと土俵に上がっただけだ。勝負するには弱すぎる。10のワンペアだけだ。
(負けてたまるかー)
もちろん、三枚チェンジ。賭けにでた。この場面がこの勝負の分かれ目となるだろう。勝つパーツが揃えばいいのだが・・・。
「ストップじゃーっ!」
ブルハ殿からのコール。勝ち誇ってカードをオープンした。Kのフォーカード。一枚はジョーカーを含んだ形だった。
(ふー、まだチャンスは残されている・・・)
いよいよ、追いつめられた。残るチェンジの回数は一回のみ。神頼みをするしかなかった。
(ニケ様、力を貸してください・・・)
運命の一枚チェンジ。右拳が一瞬、光った気がした。
(うん?)
目をこすってみたが、右手は普段の手をしていた。
(気のせいか・・・)
「徳」が巡り巡って私の元へ帰ってきていた。運気が上がったのがハッキリと分かった。
場を見ることができなかった私は、顔を手でおおった。
「オープン!」
イオラの声。
「何と、こんなことが・・・」
ブルハの驚いた声。
私はすでに四枚のカードをオープンしていた。
A・Q・J・10のスペードのカード。Kのスペードだけが足りていなかった。
一世一代の大博打。
イオラがオープンしたカードはなんと・・・。
Kのスペード。勝負は私の勝ちだ。
(や、やったー。・・・ありがとう、ニケ様)
「いやー、参りましたな。まさか、負けるとは思いませんでしたぞ」
「ハハハ、たまたまだよ。途中まで完全に負けたと思っていたからね」
「私も初めて見たわ。・・・こんな結末。あり得ない。おめでとう、オテロ」
「ハッハッハ、ワシの完敗ですな。まさか、あの状況から残りの一枚を引き当てるとは・・・」
「いやー、スミマセン。わざと負けるのはよくないと思って・・・」
申し訳なく、下を向いた。祝いの席だというのに、私はバカだ。何をしているのだろう。大人しく負けていた方がマシだった。恥ずかしくなり、泣けてきた。
「いやー、今宵は楽しかった。イオラも付き合わせてすまなかった。ゆっくりと休んでおくれ」
「いえ、村長。私の方こそ、楽しかったです。それでは失礼します」
私の肩をポンと叩いて、一礼するイオラ。笑顔で部屋から出ていった。
「さて、オテロ殿。やかましいアイツらを構いにいきますかな?」
「・・・はい」
私は涙をぬぐい、縁側まで移動した。
そこには、いつもの仲間がいた。
「オテロ、遅いのだーっ!」
ランドタイラントに怒られた。
(そんなに遅かったかな?)
「オテロ、焼き芋食うモイ!」
イモードラは相変わらずの焼き芋奉行だ。
「・・・」
ムスタバ達は無言で踊っていた。
「オテロ、飲んでいるかー」
(誰だ、アムルガルに酒を飲ましたのは・・・)
千鳥足のアムルガル。完全に酔っぱらっていた。次の瞬間、倒れこんだ。イビキをかいて寝ている。
(ホッ)
ビックリした。まったくこまった奴だ。私は縁側まで運んでやった。
「困った奴じゃな」
ブルハ殿はそう言いつつも、シーツをかけてやった。その目は優しさに溢れている。
(さてと、行きますか・・・)
まだ、皆は寝ていた。私は起こさずに出発するつもりだった。まだ夜は明けていない。
「・・・相変わらずだな」
アムルガルが村の外で待っていた。
「どうしたんだよ、アムルガル。君の方こそ、早いじゃないか?」
「オテロなら黙って出ていくだろうなと思ってな・・・」
アムルガルは私の行動をよく知っていた。かつて一緒に冒険した仲間だ。
「・・・まー、何だ。ジィのことはオイラに任せておけよ」
「ありがとう、アムルガル。頼んだよ」
「あぁ、お前こそ。気をつけてな、たまには顔を見せろよ。じぁあな」
アムルガルは照れくさかったのか、自分の家へ走って帰った。
(ブルハ殿、お元気で・・・)
新たな冒険が待ち受けている。空のリュックサックを背負い、村を旅立った。今日の冒険では、何が起こるのやら・・・。
― 完 ―