ビフロンズ

文字数 492文字

目の前に悪魔が現れた時、
私は迂闊(うかつ)にもぼんやりとしていた。
……いかんいかん。
魔導師として、あってはならないことだ。

召喚儀式は術者の精神にも影響を及ぼし、
意識を(とお)のかせることがある。
これは、相手によっては命取りになる。
悪魔の召喚は、極めて危険な行為なのだ。

魔王は(はかな)げな印象のある、
愛らしい少女の姿をとっていた。
『私の名前はビフロンズ……ああ、
ご存知ですのね? 嬉しいわ』

私は心の中にある、願いの言葉を口にした。
すると彼女も、喜んだ。
『死別した恋人と再会したい? 
良かった、相手の方もそれをお望みです!』

私はすぐにそれを実行するよう命じたが、
返ってきたのは意外な言葉だった。
『ご免なさい、初めに申し上げませんでしたね。 
呼び出されたのは、貴方のほうなんですよ……』

そのとき(ようや)く私の脳裏(のうり)に、
最後の召喚儀式に失敗した時の、
恐ろしい記憶が(よみが)えってきた。

悪魔召喚は、極めて危険な行為なのだ……。
改めてその思いを噛みしめながらも、
私は素直に、差し出された彼女の手をとった。


ビフロンズ:
ソロモン王が使役した、72大悪魔の中の一柱(ひとはしら)
占星術、幾何学、鉱物学、薬草学に詳しく、
降霊術や死びと遣い(ネクロマンシー)の能力がある。
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