イヴイヴ人類創造記②

文字数 2,920文字

 彼女は仰向けになった大地の上で、自分の唇が見知らぬ男の唇で、ふさがれている感覚に気づき目覚めました。
「ふぐッ!? ぐぅぅ!?」
 ワケがわからないまま、ギリシャ神話みたいな服装をして唇を奪って息を吹き込んでいる若い男の体を、彼女は突き飛ばします。
「ぷはぁ……なんですか、あなた?」
 男を突き飛ばした十七・八歳の女性は、少しボーッとした頭で周囲を見回しました。
 草食獣と肉食獣が、仲良く寄り添う暑くもなく寒くもない適温な世界でした。
 そこは南国の鳥たちがさえずり、果実が実る楽園でした。
「ここどこ? えっ! なんであたし裸?」
 女性とキスをしていた、若い見習い神は口元を手の甲で拭いながら言いました。
「やっと命が宿ったか……骨格に血肉を肉づけして人間の形にするの大変だったんだから、このまま命が宿らなかったら。壊して最初から作らないといけなかったから……気分はどう? 自分の名前言える?」
「気分は別に悪くはないですけれど……名前は……キラ……あ、あれ?」

 キラは困惑した表情で頭を抱えます。
「キラという名前以外、何も覚えていない……そもそも、この名前本名? 名字は? 漢字でなんて書くの? あたし、誰?」
 見習い神は、満足そうに「うん、うん」と、うなづきました。
「滅ぶ前の記憶は名前以外は消去できているみたいだね……新たな人類の創造に、前期人類の余計な知識はいりません……キラ、あなたは人類の祖として。わたしが創造しました……肉人形に、いろいろな穴から生命の息吹を吹き込んで誕生させました……あなたは人類のイヴです」
「えっ? 人類の祖? イヴ? 何を言っているのかさっぱり……ちょっと待って、今いろいろな穴から息を吹き込んだって言わなかった?」
 見習い神さまは、陽気に笑いながら頭を掻きます。
「そこは、気づいちゃいけないところなんだけれどね……体の下の穴から順番に、神が命の息を吹き込んでいって最後に口から息吹を……おヘソからも息を吹き込んだから。あんな穴やこんな穴からも……最初に息を吹き込んだ穴は……キラの」
 キラは耳を両手で押さえて、見習い神の言葉を聞かないようにします。

「わーっ、聞きたくない! あたしの意識が無い時になんて、おぞましい行為を!」
 見習い神が言いました。
「とにかく、君には人類を繁殖させてもらわないと困る。これは他のエデンの地にいる人類との、生き残りを賭けたサバイバルだ……茂みの向こうに、先に作ったパートナーがいるから挨拶して」
「パートナー?」
 キラは茂みを、そっと掻き分けて茂みの向こう側を見ました。
 茂みの向こう側には、平たい石の上に裸で座り、こちらに背を向けたポーズで、背中まで髪を伸ばした人物がいました。
 キラが恐々、パートナーの人物に声をかけます。
「あのぅ……すみません」

 声をかけられた人物が上半身を、ひねってこちらを見ました。
 キラは、こちらを少しキツい目で見ている、人物の胸に二つの膨みがあるのを確認しました。
 キラは自分のパートナーを見て、驚きの声を発します。
「お、女の人!? あたしのパートナー、女性?」
 キラの方を見ている女性がタメ息をもらしてから、言いました。
「会話は全部聞こえていたわよ……なんで、女同士で子作りして、人類繁殖しなきゃいけないの……はぁ、先が思いやられる」

 メキ子──と名乗った、名前以外の記憶がない創造された人類の片割れと。
 二メートルほど距離を開けて並んだ平らな岩に腰かけたキラとメキ子は、見習い神の創造主の説明を改めて聞かされました。
「と、いうのが……あなたたちが、創造された経緯と今後やるべき使命です……エデン大陸の各地に分散している、人類の祖に繁殖負けして絶滅しないように、頑張って繁栄してください……何か質問はありますか」
 平らな岩の上に少しラフなポーズで片足をくずした胡座座りをして、陰部が丸見えのメキ子が挙手して神に質問します。
「なんですか? メキ子さん」
「あたいたち、二人が創造された人類の祖だってのはわかった……それで、女同士でアレやるのかよ、女同士で子供できるのかよ?」
「アレとは? はっきりと口に出して言ってください」

「言えるか! だいたい、女同士で子供作れる体の構造を、あたいたち二人はしているのか?」
「オプションで後から加えるコトは可能ですが……メスとメスの受胎繁殖は、すでに他の同性人類カップルが先に選択してしまっているので。あなた方は他の人類と被らないように別の方法で繁殖の模索をしてください他に質問は?」

 両腕を狭めて胸と閉じた足の間を腕と手で隠しているキラが、恥ずかしそうに挙手して質問します。
「あのぅ……あたしたちの衣服は?」
「今の段階では、着衣は認められていません──『禁断の果実』の苗木がまだ小さくて、実をつけて。その実をあなたたちが食べるまでは裸で過ごしてください」
「その、イベント必要なんですか?」
「はい、必要不可欠なお約束です……創造計画にも含まれています」
「でも、やっぱり裸は恥ずかしいです……これじゃ、まるで露出狂みたいです」
「この世のすべてを、風呂場だと思ってください……お風呂で裸でいるのは普通でしょう、あなたたちは『裸族人類』です」
「ここが風呂場だなんて、思えません!」

「ゴチャゴチャ言っていないで……繁殖をはじめますよ、他の人類と比べたらスタートから出遅れているんですからね、指先で空中に四角形を描いてください──こんな風に」
 キラとメキ子が、見習い神の仕種を真似すると、空中に向こう側が透過して見える電子タッチパネルのようなモノが現れました。
 細かく四角で分割されたパネルは、所々が抜け落ちていて、残っている四角には『途中で性転換

『オスの腹に産卵管刺し込んででメスが産卵』
『卵生繁殖』
『海の泡・ハマグリの中に裸の人間』『分裂繁殖』などの文字が表示されていました。

 メキ子が見習い神に質問します。
「なんだこりゃ?」
「繁殖方法の選択パネルです……創造された人類は被らないように、パネルの中から一つの方法を選んで繁殖するんです」
「ふ~ん、それじゃあこの『鳥みたいに卵生繁殖』ってやつを」
 メキ子が指で触れる前に、卵生繁殖の箇所が消滅しました。
「卵から生まれるが消えた!?」
 見習い神が言いました。
「先に選ばれてしまいました……他の方法を選択してください」
 驚いたキラが、見習い神にたずねます。
「卵から誕生する人類もありですか?」
「マニアックな選択肢だったので、意外と遠慮して残っていましたが……ほらほら、早く選択しないと選択肢がどんどん減っていきますよ」
「え、えっ! それじゃあこの『コウノトリが赤ちゃんを運んでくる』を……わぁ? 誰かに取られて消えた! じ、じゃあ『キャベツから子供が生まれてくる』に……キャベツ消えた!?」
「選択争奪が加速しました、とりあえず五つまでならキープできて最終的に一つを決定できますから……先に五つだけ選んでキープしてください!」
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クソ親父!

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