アンデッド鬼ごっこ

文字数 1,228文字

東京都○○区立○○第×小学校。
そこが俺の勤め先だった。
「木場先生、もう、この階には……」
俺は、小柄な50代の無精髭を生やしているがおとなしそうなオヤジと云う風体の男にそう声をかけた。相手は職場の先輩である木場だ。
「あ〜、どうも、ボク達だけみたいですね」
(うしろ)からは、かつては生徒や同僚だった「モノ」が、追って来ている。人間だった頃よりも「走る」スピードが遅くなっているのが、せめてもの救いだ。
俺は必死で廊下を走り続ける。
「相手の足は遅いのに、そんなに走って、どうすんですか?」
「いや、でも……」
「ひょっとしたら、ヤツらは、ボク達の体力の無駄使いをするように仕向けてるんじゃないですかねぇ?」
「いや、木場先生、相手はゾンビですよ!」
「ゾンビに見えるモノだから知能が無いってのも、短絡的な判断じゃないですかねぇ?」
一般教室が有るこの棟の2階で、ゾンビ……少なくともゾンビに見えるナニかなっていないのは、俺と、このオッサンだけのようだ。
何故、こんな事態が起きたのかは判らない。ともかく、あっと云う間に、生徒も同僚の教員も「ゾンビ」と化したのだ。
「まるで、鬼ごっこですな」
木場のオッサンは、こんな事態なのに呑気にそう言った。
「鬼が増える鬼ごっこなんて聞いた事も……」
「有りますよ」
「へっ?」
「『増やし鬼』って言ってね。別名『ゾンビ鬼』」
「やめて下さい。洒落にならない」
「この『ゾンビ鬼』の面白い所は、鬼が複数になる事で、鬼の側にも戦略が……」
そう言って、木場のオッサンは、教室の1つのドアを開けた。
「何してるんですか、危険じゃ……」
「いや、このクラスの生徒は、騒ぎが起きた時は、体育の授業だった筈なんで、ここには、多分、誰も居ませんよ。ボクはベランダに出て飛び降ります。先生はどうします?」
「待って下さい、どうしますも何も……」
「でも、2階だから、飛び降りても、動けない怪我をする確率は小さいし、ベランダから飛び降りた方が、階段を降りるよりも、ボクが通勤に使ってるスクーターまでの距離は小さい」
「すいません、バス通勤なんで」
「階段を使うの?」
「ええ……」
「じゃ、気を付けて」
木場のオッサンは、その教室に入った。俺は、階段の方に走る。
しかし、廊下の階段を挟んだ反対側からもゾンビが来る。
俺は急いで階段を降り……うわぁ、階段の上からも来てやがる。
「うわぁぁぁぁ……」
やった、階段を降りきった。外まで、あと少し……いや待て……。
『ゾンビに見えるからと言って、知能が無いとは限らない』
『鬼が複数の「鬼ごっこ」では鬼の側にも「戦略」が生まれる』
木場のオッサン、この可能性を予想してやがったのか……。だから、「もしゾンビに知能が有った場合でも裏をかける可能性が高い」逃走経路を選んだのか。
俺の目の前には待ち構えていたゾンビの大群が居て、後方からも階段から降りてくるゾンビの大群が迫っていた。
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