沈黙の夜、聖なる夜

文字数 1,083文字

 例の伝染病騒動が終息していない年の十二月上旬のある日。
 その前日の夜は、一月末〜二月上旬並の冷え込みを記録した。
 俺が勤めている交番に、その妙な外人がやって来たのは、俺が夜勤に入った直後の時間だった。
「すいません。昨日、通り掛かりの人から『近くでホームレスのお爺さんが倒れている』と云う通報が有ったのに、何もしませんでしたよね」
 中東系らしい……顔立ちは白人っぽいのに、肌は浅黒い三十前後の男。
 日本語は結構巧い。
「はぁ? 私がそんな事をしたって、証拠でも有るんですか?」
 いや、やったんだが、マジで証拠なんか無い。有るとすれば、通報した若造の証言ぐらいだろうが、いくらでも覆せる。
「あのお爺さんは亡くなりました」
 ホームレス1人死んだ所で何だと言うのだろう?
「お気の毒ですが、私に何か責任が有るとでも?」
「ええ、責任を取って下さい」
「はぁ?」
「あのお爺さんは、私の部下が後継者に指名していた人で……あのお爺さんが亡くなった以上、貴方が私の部下になって仕事をしていただく必要が有ります」
「い……いや、何を言っているんですか?」
「お願いします。貴方の為でも有りますので」
「何を訳の判らない事を言っているんですか? そもそも私には警官としての仕事が有ります。副業なんて出来る訳無いじゃないですか」
「どうしても駄目ですか?」
「駄目に決ってるでしょ」
「最終確認です。本当に駄目なんですね」
「当然です」
「判りました……残念ですが……。我が宿敵よ、この方は、御自分の意志で、自らの魂を、私ではなく君に委ねる事を選択された。後は君の好きにしたまえ」
「えっ?」
 次の瞬間、背後から禍々しい気配を感じ……そこに居たのは、悪魔としか呼べない何かだった。
「お……おい、待ってくれ……助けてくれ……」
 肩を落してとぼとぼと去りゆく外人を交番の外で待っていたのは……何人または何匹もの……天使と……妖精と……トナカイだった。
 俺は、ようやく、その外人の正体を推測する事が出来た。
「待って……助けて……イエス様……」
 だが、悪魔の爪は俺の体……または魂を掴み……。

「すまない。今年のサンタクロースは君にやってもらうしか無いようだ」
「え……ええっと……」
「重労働な上に、責任重大な仕事だ、断わってもいいんだよ」
「すいません、当日まで考えさせて下さい」
 たまたま夜中に道端でホームレスのお爺さんが倒れているのを見付け、近くの交番に助けを求めたが、交番に居た警官はそれを無視した。
 その事から……起きた事態は、あまりに無茶苦茶だった。
 そもそも、サンタクロースになったとして……何をやれば良いのだ?
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