魔女の仕事について

文字数 3,266文字

皮肉なことに私には魔術の才能がある。

先日友達から言われた事がずっと引っかかっている。
「この子はなんでもない子だから」
確かに私はなんでもないのだ。無職だし。肩書きもなにもない。白ではないむしろ透明。もはや無。無職の何が悪いのだ。
そもそも仕事とはなんだろう。働いてお金を貰っていたら仕事?雇用されていたら仕事?その日たまたま下北沢でライブを見に行った帰りにイラストレーターの知人になんでもない子と紹介されたのはモデルの女の子とバンドマンの男の子だった。
私がなんでもないと分かると、一気に雑に扱われる。注文取りや、食器をまとめることをなんでもない人間がやることが当たり前みたいに暗黙の了解みたいに彼らは私に押し付けて、自分の肩書きにもたれかかり誇張している。私は自分の力を見せびらかすのが苦手だ。

愚直に言うと私は魔女である。しかしこの現代に魔法など存在するわけもなく、物を浮かせられるわけでも、猫になれるわけでもない。主力となるのはタロットカード占いとまじないだ。それを某フリマアプリだったり、サービス提供アプリで依頼者からの相談に合わせて遠隔的に占い売っている。微々たる収入にしかならないが1人で質素に生きていくには丁度良い程度だ。占いやまじないと書くとかなりカルト色がつよくスピリチュアルイコール宗教じみてくるが、私自身は全くスピリチュアルも占いもまじないも神すらも信じていない。自分でやっておきながら変な話だけど。然し、レビューを見る限り私の占いは当たるらしいのだ。自覚はしていない。私は出たカードを読み上げているだけだから、私じゃなくタロットカードがすごいんじゃないかと思っている。何故占いやまじないに手を出したのか、それは私の右人差し指にホクロができた15歳くらいの頃、母方の祖母がそれを見て言った。本当か嘘かは定かではないが、遠縁の北海道の枝幸にいる親戚がイタコをしていたこと、代々家系的に右人差し指にホクロが出たらそういった霊感が備わること、私はその血統であること。正直うる覚えで祖母はそのすぐ後に亡くなってしまったから正確なことは不明だ。しかし大学を出て普通に就職しても長くは続かなかった。無意識のうちに私の身の回りでよくおかしなことが起きた。例えば、失くしたものが夜に急に天井から降ってきたり、黒いもやもやが見えたり、特に気にしてはいないけど多分霊感と察知力なのだろう。気にしてはないけどそういうことが一時期続きすぎて不気味だからお祓いに小さい神社に行ったら、神主に言われた。
「あなたね、細◯なんとかみたいになれるよ」って。
そう言われたことを鵜呑みにした。それいがいにはなにもない私だし。それを活かせて需要がある現代の仕事が占いやまじないだったので独学で学んだ。それだけ。
タロットカードはケルト十字やスペルタクル、ホロスコープなど様々な方法を用いて64枚のカードで占う。占う内容により差異はあるが一件500円からで請け負っている。
だいたい依頼されるのは8割方不倫の相談。ありのままを述べるスタンスの私は、おそらく地位が高い60代の初老の男性からの依頼で、「今20歳の秘書と不倫をしている。自身は本気だが相手はどう思っているか知りたい」という相談を受けた。正直、結果なんか占わずとも誰でも分かると思うのだけれど、「ペンタクルの9」のカードが出ている時点で女は男を金としか思っていない。そのままの言葉で返すと激怒され、低評価をつけられ運営に通法されたが、性懲りもなく数ヶ月後に同じ依頼者から、彼女とは別れクビにしたが次の出会いはどこにあるかと依頼された。私は家族を大事にするように依頼者に諭すとその後相談はピタリと止んだ。占いなんて気休めでしかない、そう思う。然し、リピーターはいるし、私を先生と呼ぶ者もいる。私はなんでもないただの無職なのに。だから驕り高ぶってはいけないなと思い、誰かに職業を聞かれても無職と言う。占いの話はしない。絶対占ってと言ってくるからだ。結局そこで占ったらただの見栄っ張りで自己主張がつよいスピリチュアルババアと一緒になってしまう。だから自分が占い師とも思っていない。ただ魔女だとは思っている。

まじないにしてもそうだ。まじない、つまりそれは呪いが大半を占める。
呪いとは正常の反対を作ること。人間は意識的に非日常を視覚的、感覚的に日々感じると行動や自律神経が乱れる。結局意識的なものでしかない。呪いの詳細についてこちらに記載するのは控えさせて頂く。素人が手を出すものではない。私のように捨てるものが何もなく呪いの跳ね返りに屈せず、きちんと祓えるのならお伝えしようとは思うけれど。私だって、まじないの依頼を受けた後に伊勢神宮で買ったお清め塩スプレーをかけて、タバコを吸って、お香を焚く。一連の儀式を欠かさない。自己流だけれど、煙には邪気を祓う効果があるそうだ。

先日、アイドルグループの運営から依頼がきた。新しくアイドルグループを作ると言った人物からだった。相談内容の文面を見るだけでもその男が如何に胡散臭く女の子をモノとしてしか見ていないかが伺えた。しかしオーディション前から私の占いをアテにしている太客なので足蹴にはできなかった、最初の依頼時にまず、5月後半〜6月に「聖杯5」のカードがでていた。これは半分以上の損失を意味する。よって私はこの時期にメンバーが数人辞めると予想し伝えた。この予想は見事的中し、現在当初5人グループだったアイドルは2人になっている。
今、性懲りもなく新メンバーを選んでほしいという依頼がきている。
しかし、面白いのが偶然にもグループ結成後まもなくそのグループの1人の女の子から運営の男を呪ってほしい、という依頼が来ていた。なんでも、体の関係を求められたのに加え、運営資金は乏しく、チェキの売り上げのメンバーへのバックが数ヶ月滞っているとのことだった。しかも気に入った2人のメンバーには売り上げを渡していると。個人的にこういう大人の世界が許せなかったので、彼女の依頼を受けた、呪いは1番安いプランで依頼されていたけどこのまま泣き寝入りするしかない彼女が不憫だったから、勝手に1番高い呪いをかけた。効果はあるが、私の血が少量必要な呪いだから1番高い値段設定にしているのだ。彼女には最後アドバイスとして辞めたら?とそっと諭した。それを運営は知らないだろうが、その後に芋づる式にメンバーは辞めた。新メンバーについては狐をえらんだ。ルノルマンカードというタロットカードの7並べ版みたいなものがあって、この運営には狐が取り巻いていた。狐は「美しい女の裏切り者」。最初こそ良いけど狐を入れたことにより、このグループはいずれつぶれると読んでいる。結果は半年後にわかるだろう。
この先は関与しないつもりだ。

物事には必ず側面と内面がある。
どちらか一方だけが真実ではない。
メディアで流された情報が全てではない。しかし、一般的にはその情報を鵜呑みにしてしまう。物事の本質を見極めていないから。
その点、私が行う占いやまじないは悪者には制裁を下す力はある。情報操作をもって、撹乱させることもできる。

でも、人の弱さに漬け込む同業者がいるのも事実。人はなにかに縋りたいのだ。その弱味にしかお金を生み出せない人間もいる。それは本物ではない。人間。ただの人間。
マルチ商法やネットワークビジネスやなんかの投資とかと同じ。胡散臭いやつは、自分を誇張する。自慢する。必ず幸せになれるというだろう。そんなわけない。みんながみんな幸せになれるわけがない。幸せとは誰かの犠牲の上に成り立っていることを忘れてはいけない。胡散臭い人はそういうことは教えてくれないだろう。
結局はそういったスピリチュアルな類に依存して、頼りすぎてはいけない。
本来の魔術の正しい使用用途は相談者が自立するのをサポートするものだと信じている。

私は魔女だ。できそこないのなんでもない魔女だ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み