海の享受
文字数 266文字
火のかたまりみたいに橙を燃やす太陽は、ただなだらかに海に呑みこまれてゆく。あんなにもおおきなかたまりが光を失うなんて、海はなんておそろしいのだろう。畏怖でぐちゃぐちゃになりそうな僕の隣で、彼女は「きっと、海と太陽って共依存なのね。」とこっそり呟いて、下唇をすこし噛んだ。ぼんやりとひかりを捉える彼女の瞳は揺れていて、ゆっくりゆっくりあかくなってゆく。彼女を形成する要素は、僕よりもひどく脆くて、せつないものなのだ。まばたきをしたらあまい香りを遺してきえていそうな、うつろな彼女の姿をもういちど盗み見て、それでも僕は何もできずにいた。