man of gray shadow spin-offⅠ-Ⅰ(いちのいち)

文字数 802文字

 女の子が部屋を出ている間に、目をつけておいた鉢植えのポインセチアの葉に、ぼくは産卵した。それほど多くはない30粒くらいの卵だったが、まさに粒ぞろいで、ヘルシーなゴールドの光輝をたたえていた。
 ぼくは満足した。

 これはまだ自分が人間の男だったころの話なのである。女の子は名前をミツコといって、自分の兄が鳥(たしかクイナ)の卵に棒切れでイタズラしたことによって産まれた人間の女の子なので、自分とは血のつながりがない。
 自分はミツコがもどってくるまえに下腹部をしまったが、もちろん産卵と下腹部には些細な関係もなくて、ただ、煙草が切れていたために、手持ちぶさたを紛らす手段として、出していたものにすぎない。
 カモミールの匂いがしたが、ミツコがもどってきたとき、彼女は手ブラだった。
「どうしてブラをはずしたりしたの」自分は、ミツコと血縁のものでもないのにズカズカと彼女のプライベートに入り込むような質問をしてしまったが、手ブラをみてしまったばあい、自分にとっては不可避的なことを訊いたのだと、今ふりかえってみてもそうおもうのである。
 ミツコが「かくしているものをみたい」と訊いて、自分の返事は待たず、両手をパッと胸からはなしたら光が自分の目を潰すほどで、卵はその影響で孵化し、部屋の隅にあった縄のようなものがするすると上にのぼっていき天井に隙間もないのに呑みこまれていきながら、それは自分の子供たちを吸着していて、両手でおおった指の隙間はあまりの光量にほわんとした白しか認知できないのにそれは自分の子供たちとの別れなのだからハッキリとわかった。
 哀しみと痛みで、たまねぎを眼球にぐりぐりしたみたいに涙がとまらない。

 床にのこされたミツコの皮を、自分はたまに身に着けてみて、鏡をみれば自分は消えてミツコしかいないのだ。
 ミツコしかいないのだ。
 ミツコの姿した自分、man of gray shadow呼び寄せる――
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