死神の裁定

文字数 1,985文字

「ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさ・・・」

―生きていてごめんなさい―

陽が墜ち、潮が満ち引き始める。
海で浮かぶ私に黄昏の光があたる。
冷たくなった体は青く紫がかり、胸元からフッと
青白い魂が出てソッと手で捕まえられた。
私という魂は何も入っていないキャンドルホルダーのようなものに入れられた。
青白い魂はボゥッと光を放ちうっすらと光りだす。
私は煌びやかに淡く光った。

私を捕まえたその手の持ち主は海に触れず空中に浮かんでいた。
黒い衣装をまとった、14、5歳くらいの女の子が海の上に立っている。
死神だ。

「キミは自分で死んじゃったから、きっと地獄行きだよ。」
「そうなんだ・・・。」
「そして死後45日は人間界を見て回ることができるよ・」
「私は、私は何も見たくない。」
私という魂は今にも消えそうなくらいの光をかろうじて放っている。

死神は何も言わず、ノートを取り出して私の情報を読んだ。
「えっとなになに?キミは絵を描くんだ。それで支持されていてるけれど
2次創作というものをしている人に権利や約束を守られずに作った作品を
ぐちゃぐちゃにされちゃったってことね、ひどいね。」
「・・・・・」
「そして2次創作者が権利を主張して、キミを中傷し始めたワケ。」
「ごめんなさい。」
「そしてその仲間たちからも誹謗中傷されて傷ついて苦痛に耐えられず・・・。」
「そう。」
「じゃあさ、そいつらを見に行ってみよう!」
「えっ」

「人が自分のせいで死んだって知ったらどうなるのか見たくない?」
「見たくない。」
「見たいよ!」
死神は私をキャンドルホルダーにいれたまま、空中を高速で飛んだ。
みるみると景色が変わり、昼と夜が逆転した。

そこには、3人の女たちが、喫茶店で話していた。
「私は被害者なのに、なんで誹謗中傷されなきゃいけないの?私は病気で鬱なの。
かわいそうな存在なのに、なんで私のせいなのよ?あんたのせいでしょ?。」
「私が一番かわいそう。二人が悪口を書くから援護したのに、なんで私がアカウント消さなきゃいけなのよ、かなしい、私だって苦しいのに。」
「自己保身ばかりお疲れ様。ほんと下劣な二人ね。一番板挟みになったのは私。
ネットなんて見なければいいでしょ?まったく、たかが一人死んだくらいで
アカウントなんて鍵をかけてお終いよ。風化すればみんな忘れる。」
「あんた!あんたのせいでしょ!そもそもあんたが軽率に悪口なんて書かなければよかったのよ!」
3人の女たちは醜くお互いが悪いと言い合い、謝罪もなく責任を押し付け合い、
自分がかわいくてかわいくて仕方なかったのだった。

私の魂から涙がでる。
「わたしのせい。わたしが死んだせいでこんな争いをまた産んでしまった。
はやく消えてなくなりたい。」
そう口から洩れた。
死神は言った。

「なんで、キミが死ぬ必要があったんだよ、死ねばいいのはこいつらじゃん。」
死神は笑って彼女たち三人を指さした。
「よおし。こいつらが地獄行きだ。」

死神は肩に背負っていた鎌を振り上げた。

「永遠の闇への誘い。お前の魂はその深淵に堕ちよう。」

3人の女たちの首が宙へ一瞬、飛んだ。
ズバッ。

そして首は幻影となって消えると、元に戻った。
その瞬間。喫茶店にトラックが突っ込んできた。
キャァァァッ!!!!
店内には叫び声と三人の女たちは厚さ10センチくらいにぺちゃんこになり
不細工極まれて人間の塊となった。

「うわぁ」私は怖くなったが、死神は笑っていた。
「ふふふ、これで魂が、100個めだ。
悪い奴を殺すとスカっとする。」
死神は3人の女の魂を他のキャンドルに入れて、
45日も待たずに冥府の扉へ連れて行き、
地獄へと堕とされた。
悲痛な叫び声が聞こえ、
業火に焼かれる血の池があった。

「ほほーい、地獄行き。地獄じゃ恋愛はできないよ~恋愛脳乙。」と意味不明な発言をして、
3人は「なんで私がこんな目に合わなければいけないのよ!
」と最後まで謝罪も反省の言葉もなかった。
死神は言った。
「下劣な醜い人間め。」
パンパン。手を叩くと
地獄の門は閉じて言った。

私は思った。
この地獄へと墜ちるんだと。
残り、44日。
泣く母ただ見て、
仕事仲間たちの無事を、幸せを願い、
申し訳ないことをしてしまったと、また悔やんだ。
そしてあっという間に、死後45日が立ち、
冥府の扉へ連れていかれた。

自らの命を絶ってしまった私も地獄行き。
これから無限の苦しみが待っているかと思うと、怖くなったが、諦めた。
自分のしてしまったこと。自分の責任は取らなければいけない。
死神は私を入れたキャンドルホルダーを天高くあげ、言った。
「死とはただの終わりではなく、新たな旅立ちだ。」
空から光が溢れて天使のキューピットが優しく私を持ち上げた。
私は下を見ると、笑顔の死神がそこに立って手をふっていた。


私は生き返る。再び。新しい命に。
今度生まれ変わってきたときに、誰にも叶わぬ幸せを手に入れて。
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