第1話

文字数 490文字

中学校のクラスに、ほとんど喋らない男子がいた。彼の声を聞いた覚えがない。

卒業間際の音楽の試験。

「最後の試験では、皆さんひとりずつ、全員の前で、なんでもいいので一曲歌を歌ってください」

彼の番が来た。なぜか箒を持っている。

「ドブネズミ〜、みたいに」

え??

全員あっけにとられていると、

「リンダリンダー!!!!」

すごい勢いだ。本物のヒロトみたいだ。箒はマイクのつもりだったのか。一番前の席の机なんか蹴っ飛ばしながら歌っていて、怯えている女子もいた。

あまりのことに驚きつつも、普段何も喋らないあいつがこんなパワーをウチに秘めていたんだ、ということに感動した。

中学時代の、今でも忘れられない出来事。

あいつははうちの斜め向かいに住んでいたんだったな、そういえば。

それほど見事に存在感を消していた彼。


お互い30歳になった頃、実家の前で出会った。彼は外で絵を整理していた。でかい絵ばっかりだ。

「美大に通ってるんだよ。ちょっと遅いけどね」

今思えば、これが彼と初めて交わした会話だったような気がする。

絵はどれも、あの「リンダリンダ」のパワー全開。


「感動することこそが人類の最も贅沢なこと」  甲本ヒロト

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