第1話

文字数 1,916文字

俺は達也、社会人五年目だ。仕事にもだいぶ慣れてきて、次のステップに行きたいと思っている。次のステップと言うのはずばり、
恋愛だ。これまでに様々な恋愛はしてきた。だが現在は恋人はいない。学生時代は同じクラスだったりすることで女性に知り合う
機会はあったが、社会人となるとそうはいかない。会社にいる人で、と考えることはできなくはないが会社にはフリーの若い女性が
いなかった。となるとどうすればいいか。マッチングアプリや婚活サイトのようなものを使ってみたがいまいちしっくりこない。
そもそも会うという段階にまで行けずに断られるケースがほとんどだ。だが今は27歳、そこまで結婚を焦るような年齢ではない。
といってぼーっとしているとあっという間に何年も過ぎてしまうと思った。今は一人暮らしなのだが、年末年始に実家に帰ると
親からは「そろそろ結婚は?」と言うようなことを言われる。だが相手がいないんだからな、と思っていた。そんなある時のこと、
俺が仕事を終えて家に帰ろうと思い会社の駅の近くを歩いていると目の前を歩いていた女性がSuicaを落とした。他のものはともかく
Suicaは落とすと軽くパニックになるだろうと思い俺はSuicaを拾い、女性に「すみません、Suicaを落としましたよ」と言った。
すると女性は「え?あ、ありがとうございます」と言って俺からSuicaを受け取ろうとした。するとSuicaの表面に書いてある駅名が
目に入ってしまい「萩原駅?」と俺はつい駅名を呟いてしまった。萩原駅は俺の最寄り駅なのだ。俺が駅名を呟いたことに女性は
驚いたような顔でSuicaを俺から奪い取った。このままでは変質者のような扱いを受けると思い「あ、すみません。俺が降りる駅と
同じだったのでついつい」と言った。まだ女性は少し警戒しているようで「それは本当ですか?」と聞いてきた。なので俺は自分の
Suicaを取り出し「ほら」と俺のSuicaの表面を見せた。当然だが、萩原駅と書いてある。そこで女性は信じてくれたようで「こんな
偶然もあるんですね」と言ってきた。俺は「俺も驚きですよ。こうやって顔見知りになれたのも何かの縁ですし、一緒に帰り
ましょうか」と言った。すると女性は「いいですね。あ、もしかして萩原駅から追いかけてきているストーカーですか?」と聞いて
きた。なので俺は「ストーカーだとしたらこんなところで明かしませんし、ストーカーの心理はわかりませんけどあなたが落とした
ものとかなら持って帰ったりするんじゃないですか?」と言った。女性は笑いながら「冗談ですよ。そんなに真面目に返されたら
笑っちゃいます」と言ってきた。そしてそこから自宅の最寄り駅までは二人で話しながら帰った。勤め先の最寄り駅がたまたま
同じで、自宅の最寄り駅まで同じだなんて不思議だな、なんて言う話をした。そんなことを話しているうちにあっという間に
最寄りの駅に着いた。ここで帰り道まで同じだったらさすがに気持ち悪かったが、彼女が「私はこっちです」と言ったのは家とは
別方向だった。そこで駅でお別れするのも悪くはないが、女性を一人で帰らせるのは申し訳ないと思い私は彼女についていった。
彼女は一人暮らしだが、家に帰ると一人なのに家までも一人で歩く、と言うのは少々寂しいだろうと思ったからだ。といって
初対面の男に家の前までついて来られたのではいわゆる『送り狼』だと思われては嫌なので、いいところまで行ったら引き返そうと
した。だが彼女の家の場所なんてわからないな、なんて思っていると彼女が「私はこの辺なので」と言った。彼女の家の近くまで
来てしまったようだ。彼女は「あなたの家はもう少し先ですか?」と聞いてきた。俺は慌てて「はい、あっちです」と来た方を
指差してしまった。すると彼女は「え?どういうことですか?」と聞いてきたので俺は正直に話した。彼女は笑いながら「その
誠実なところは素敵です。でもこのまま戻られるなら私の家でお茶でも飲んでいきませんか?」と言ってきた。俺は「いや、
さすがに付き合ってもいない男女が同じ部屋で二人と言うのは」と言うと彼女は「誠実なんですね」と笑ってきた。その笑顔に
やられた俺は「じゃあ、寄ってもいいですか?」と彼女に聞いた。彼女は驚いた顔で「え?さっきと言っていることが違いますよ」
と言ってきたので俺は「付き合ってもいない男女がダメなら付き合えばいいんです」と言った。彼女は「あなたのことは素敵だと
思いますけど、それはさすがに急すぎます」と言ってきた。俺は「冗談ですよ。でも今後冗談じゃなくなるよう努力していきます」と言った。
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