文字数 1,246文字

「もう自由研究、何にするか決めたんだ。早いね」
感心してるようにも、あきれてるようにも取れる雰囲気で、隣を歩く友人の少女が話す。
うん。僕たちロボットを作った「人間」がしてたって事を、一度やってみたいなってね。

そう話すと「ふーん」とだけ返ってきた。しかし、急に彼女は怪しげな笑みを浮かべる。
「自由研究、私も同じにしようかな!」
「もし何か文句とか言われても、偶然、同じテーマになったって事にすればいいしね!」

おお、いいよ! 仲間が増えるのはありがたいよ。じゃ、さっそく明日、駅前に集合で。
そう伝えると「えー。夏休み初日からかよ!」と返ってきた。もちろんだよ、と伝える。
僕は、夏休みをこの自由研究に捧げるつもりなのだ。ああ、明日からの研究が楽しみだ。



次の日。僕たちは駅から電車を乗り継ぎ、海へ来ていた。夏休みの空は晴れ渡っている。
「え。本当に入るの! 錆びちゃうじゃん!」
まずは海水浴からだ! 嫌がる彼女の手を引き、僕は海に向かって走る。海水が染みる。

「水かけんな! 最悪!」
こんな感じだったらしいよ。海水を手ですくい、バシャバシャとかけると彼女は怒った。
カップルは波打ち際を走ったらしい、と伝えると「カップルじゃねえ!」と返ってきた。

あとは、スイカ割りなるものをしてみたかったのだが、スイカを用意できなかったので。
代わりに、その辺の大きめの岩を砕こうと提案すると「馬鹿じゃないの」と返ってきた。
目隠しをして鉄パイプで岩を粉砕する。少し史実と違う気もするが、こんなものだろう。



「よくこんなの見つけたね……」
次は電話だ。人間は自身の身体では通信できなかったので、こんな道具を使ったらしい。
電源は入っていないので、もう機能していないが、二台あるので疑似体験はできそうだ。

「もしもーし」
彼女が見えなくなるほどの距離まで電話機を持っていき、お互いに受話器を耳に当てる。
もちろん受話器からは音は出ない。「もしもし」と自身の通信機能を使い、返事をする。

「……何やってるんだろうね、私たち」
いやいや。今は地球にいなくなってしまった人間たちへの、敬意を表しての行動なのだ。
素晴らしい事だと思わないか。そう受話器に向かって伝えると「うーん」と返ってきた。



「え。何でできてるの、これ……」
今日の最後は食べ物だ。人間は電気ではなく、こういった食べ物を摂取していたらしい。
「こんなの食べたら、お腹こわすって!」

食材なるものを入手できなかったのでプラスチックで自作した、と言うと彼女は叫んだ。
ちなみに、資料に忠実にチキンライスを星形にして、ハンバーグを笑顔にさせた事から。
「スタースマイルランチ」と命名した、と伝えると「アホか」という評価をいただいた。

せっかく作ったのだから、と二人で食べる。歯は強靭なので、かみ切るのは簡単である。
「ごちそうさまでした……。絶対、お腹こわす……」
帰りの電車の窓から外を眺める。綺麗な夕日である。また明日、と彼女と駅前で別れる。

さあ、明日の自由研究は何をしよう。夏休みは、まだ始まったばかりだ。
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