第1話

文字数 1,915文字

「火事だからだ」
朝一番で兄が言った。
???
「だから、火事だからだって!」
「? 何が?」
「カジヒデキの間にあった炎みたいなマーク。”火事”だから燃えてるんだよ!」
7つ年上の兄は嬉しそうだった。

前の日の夜、家族でミュージックステーションを見ていた。カジヒデキというミュージシャンが出演していて、名前がカタカナ表記なのと、名字と名前の間に炎みたいなマークがあるのが兄と私の興味を惹いた。

眠りにつくまでずっと考えていたのか。それとも、何かの拍子にパッと閃いたのか。
自分の発見を手に入れた兄は朝一番で嬉々として話してきた。

自分だけの発見。
何かに気がつくこと。


今まで自分が気づいたことを浮かべてみる。

①「クッキングパパ」のオープニング曲の歌詞は食べ物しりとりになっている
②ノーベル製菓のど飴のCM出演者は歌手ばかり(天童よしみ、瀬川瑛子、山崎まさよし)
③ウエンツ(Wentz)と徹平(Teppei)だからWaT
④ラーメン屋で「ヤサイ」とカタカナで書いてあったら二郎系
⑤リビングのティッシュ箱に書かれた乱雑なメモがGReeeeN「星影のエール」歌詞の抜粋だった。(母が毎日の朝ドラで少しずつ聴き取ってメモしてた)
⑥「金田一少年の事件簿」で常にビデオカメラを持って撮影しているキャラクター佐木竜太(弟の竜二も)は、誰もが写メやスマホのカメラで撮る時代の前触れ。ユーチューバーの先駆け的存在。

どれだけくだらないことしか気がついていないのか……悲しくなる。
が、何とか前向きに考えてみる。
些末な事柄ばかりだからこそ、見つかることもあるはず。

⑥だけが発見じゃない。
推測?
⑥だけ事実でないというか、後になって自分が推し量ったこと、みたいな感じ。


最近読んだ保坂和志の『カフカ式練習帳』。
この本は断片ばかりを集めてまとめた不思議な作品で、読んでいる間はずっと「どう読んだらいいんだ?」と「ただ読んだらいいんだ!」の間を行ったり来たりしていた。

バラバラの断片をまとめて提示されると、それらが何か細い糸のようなものでつながっているんじゃないかと思ってしまう。

連想ゲーム。
関連、連関。
解釈。

何かに気がついたときは嬉しい。
事前知識や説明なしに、作った側の意図や狙いを見つけられたから。

今まで自分が気がついたことを振り返ってみる。
クッキングパパ、ノーベルのど飴、WaT、二郎インスパイア系、GReeeeNの曲。
上の①~⑤はどれも、知ってても知らなくても変わりない。
その曲を聴く自分、食べ物を食べる自分にはほとんど影響がない。

⑥はどうだろう。
・ビデオカメラで撮るのは、今後の社会の未来予想図だ。
・佐木竜太は推理漫画を盛りあげるためだけのご都合主義的につくられたキャラクターだ。
⑥を得る前と後で、見方が変わってしまった。

解釈せずにはいられないこと、というのもある。
例えば、村上春樹の小説。『納屋を焼く』ってどういう意味だろう? 考えずにはいられない。


以下はいま適当につくった文章です。

=======
数年前にニトリで買った座椅子。
家にいる時間の大半は座椅子に座っている。

この座椅子はリクライニング式で、10何段階かに可動する。
座椅子で寝ることもあり、そのときは背もたれを完全に倒して使う。

寝た後の座椅子を起こすとき。
できるだけ直角にして座りたいから、背もたれを起こしていく。
カチカチカチカチ。
できるだけ直角に。
カチカチカチカチ。
まだいける。まだ直角になる。

背もたれが可動域を超えてしまうと、止まらずに倒れてしまう。
できるだけ直角にして座りたいけど、起こし過ぎると倒れてしまう。

カチカチカチカチ。
できるだけ直角に。
カチカチカチカチ。
あっ、また倒れてしまった。
=======

「これは、座椅子のリクライニングを通して、欲望が溢れると物事が台無しになってしまう、ということを表現しているんです」
そう言われれば、そんな気もしてくる。

「これはウイルスと人間の共存について書かれたものです」
「近づけば近づくほど危険って、恋と同じですよね」
そんな風に解釈する人もいるかもしれない。

(一体、自分が何を書いているのか。段々わからなくなってきた。まとめる気も、あまりない)

本を読むとかテレビを見るとか。
外から何かを受け取ったとき、それを解釈しようとするのは避けられない。
また、誰かの解釈に触れずに過ごすのは、現代社会では難しいと思う。

ただ、解釈を得てしまった後、それを頑なに保持するかどうかは、自分次第な気がする。ありのまま対象に触れること。解釈とは別の見方を探すこと。を辞めないこと。
(これらは主に、フィクションに触れるときの話だ)
気づきに喜びを感じつつ、解釈に対しては常に柔軟でありたい。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み