第3話 かるたを作るので覗かないで下さい

文字数 1,496文字

 今日から、かるたを作ろうと決めた。理由なんて聞かないでよね。
 多くの人に反対された。反対の程度の差こそあれど、口を揃えてそんなことできっこないって言っていた。社会にはびこる悪を成敗するのと同等かそれ以上に難しいって皆言っていた。
 だけど、難しいっていうのは止める理由にはなり得ない。そんな言葉で私を止められると思っているなら片腹痛い。
 仮に私を本気で止めたいならこういうことをしなければならない。以下の説明は一例にすぎず、他のいかなる手段でも私を止められないと確約するものではないことを留意されたい。
 説明を分かりやすくするために、私を止めようとしている人間をおばあちゃんAとする。おばあちゃんAはこのように言う。
「かるたを作るのはいいとして、その後はどうするの?」
 疑問形で聞いたのに、おばあちゃんAはそのまま喋り続ける。
「その作ったかるたを一緒にやってくれる人はいるの? 仮にいるとして貴方はその子にかるた作ったからやろうって言えるの? 仮にその子が承諾したとして、その子は本当にかるたがやりたい子なのかな? 友だちだから関係を壊さないために自分に嘘をついて笑ってかるたをやっているってことはないかな? あと、かるたをプレイするには読み手が必要だから、最低でも3人必要だよね。貴方のエゴで2人の人生の貴重な時間を奪うの? それも若いかけがえないその時を。そういうことまでちゃんと考えているの?」
 私はおばあちゃんAの言葉を最後まで聞き切った。そして「私の友だちとかるたを舐めるな」と言いたい気持ちと年長者を敬う気持ちの狭間で微振動を起こし、私がナマズじゃないことにほっとしたり、その気持ちを折れ線グラフにしないでほしいって思ったりしながら、何も言えなくなってしまう。
「でも、貴方が本気なら私は応援するよ」
 最後に、おばあちゃんAは私に寄り添うふりをする。
 私はおばあちゃんAに負けたくない。だけど、おばあちゃんAの話を聞いた時、ちょっとだけ友だちを信じきれなかった自分がいた。友だちは私に気を遣ってくれているだけなのではないかと不安になった。じゃあ、ダメじゃん。
 しかし、おばあちゃんAはあくまで架空の生き物なので、私は気にしない。
 
 まずは、ネットショッピングで、何も文字が書かれていないかるたの札を購入する。その購入物を待つ最初の数日間、私は興奮で夜も眠れなかった。訂正する。少しは寝た。
 かるたは届かなかった。1年待っても、5年待っても、私がおばあちゃんになっても。その代わり一通の封筒が届いた。封筒の中には5枚の紙が入っていたが、そのうち4枚は白紙だった。一体どういう意味があるのだろうかと考えたが、何でも意味があると思うことは傲慢だと気づける年齢だった。
 唯一白紙ではなかった1枚には、こう書かれていた。
「もちごめ」
 私は驚きで声が出なかった。すごく大きくて細い文字だった。手紙には横書きの罫線が入っているのに縦書きで書いていた。文字はボールペンで書かれているが、その下に薄く鉛筆で書かれた跡が残っており、下書きをしていることが窺えた。実際は、これを白紙と呼ぶのは不正解だが、本質的には白紙と同等だった。
 多分この手紙は、かるたとは別件だと思う。
 もしかしたら、おばあちゃんAは、かるたの札が届かないことを見越していたのではないだろうか。だから私を頑なに止めようとしたのかもしれない。真実は分からないから、私がそうだと思ったのなら、そうなんだと決めていいと思う。おばあちゃんになってやっとおばあちゃんAの気持ちが分かるなんて。なんだか恥じらいを覚えて、若返ったような気がした。

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