第4話 御鎮神社

文字数 2,702文字

 だんだんあたりがオレンジ色になっていく。皮膚がヒリヒリして激痛を発した。もう森に入っていた。ここがどこかわからない。ひたすら走っていると、寂れた神社の残骸を見つけた。慌ててそこに入り込む。

 中には誰もいないようだった。名前を見ると御鎮神社(みしずじんじゃ)とある。何を鎮めるための社だろうか。

 海井さんに聞きたいことは多かったが、僕も彼も疲れていた。特に示し合わせるでもなくぼくたちは眠りに落ちた。

 次目覚めると、辺りは真っ暗だった。初日に丸十日も寝ていた経験がある僕には眠った時から何時間立っているかすらわからない。海井さんはすでに起きて、八社の周りを見て回っていた。

「おはようございます」

「あぁ。おはよう。一昨日はすまなかった。運んでもらって助かった」

「いえ、僕も助けられたところがたくさんあるのでお互い様です」
 彼は、一昨日襲われてからずっと意識が朦朧としていたようで、どうしてここに辿り着いたのかと僕に尋ねた。ここはそれほど興味深い場所だったのか。とりあえず、一昨日の海井さんを背負って逃げ出してから、目的地の爆破、そしてこの神社に辿り着いた経緯をかいつまんで話した。

 海井さんは僕の説明を時々頷きながら聞いていたが、説明が終わってもしばらくだまって考え込んだままだった。邪魔してはいけないと思い、起きたばかりの時に海井さんが見て回ったであろう社の周りを散歩する。しばらくすると、考えがまとまったのか海井さんは僕に声をかけた。

「ちょっと話を聞いてくれるか」

「——はい」

 これまでつのった疑問の数々がやっと解決されると思った。2人で社の中に座り、海井さんは語り始めた。

「まず、簡単な説明から始めよう」

——俺は、知っての通り吸血鬼だ。吸血鬼にされてからもう数100年経っている。もう何年経ったか数えるのも面倒臭い。吸血鬼になってから、すぐにヤツらー前襲われた人たちの組織で、怪物撲滅本部と呼ばれているーに襲われ始めた。それから襲撃は月1回のペースで続いていた。ただ、ここ2、3年は1回も襲撃がなかった。それで一昨日急に襲撃されたから、油断していたんだ。それで不覚をとった。このほかは、お前の質問に答える形式をとることにしよう。聞きたいことも多いだろうから。

「じゃあ、ケンゾクってなんですか」

——眷属は、本などで読んだことがあると思うが、吸血鬼が捕食のためではなく部下あるいは仲間を増やすために、血を吸い、その分自分の血を与えることによって誕生する吸血鬼のことだ。今だと、お前は俺の眷属だな。字面とは違い、俺はお前を支配することはできない。現存の吸血鬼が眷属を作るのは自由だが、それにはいかなる縛りも加えることができない。俺はこれまで、数百人の人間に対して、眷属にしようと試みたが、成功したのはおまえだけだ。というのも、俺が人を眷属にするには相手の了承を得る必要がある。以前は、皆が自分の役目に忠実だった。今では、皆が自己中心的になっている。おれの申し出にOKする物好きはお前だけだ。

 じゃあ、あの時ちょっとした好奇心が僕を吸血鬼にしたというのか。あの時断ればこのぼくはなかったのだろうか。後悔はしているが、選ばなかった方が良かったとも断言できない。Ifを考えるのは無駄だと割り切ることにする。

「怪物撲滅本部は、どういう組織なのですか」

——ああ、僕たち吸血鬼他にも人狼とか、人間に害をなすとされる生物を怪物に指定し、その駆除を担当する非公式組織だ。

彼らの技術は現代より進んでいるし、僕たち怪物は人間より遥かに身体機能が高いものが多いから、それにも対処できるように、身体強化のための薬学が発達している。僕たちを殺す為の方法はまだ確立されていないがな。

しかしいくら普通じゃ死なないとはいえ、行動不能にする方法はたくさん開発されている。そのほかにも、奴らはクローン技術を応用して生まれつき強化された人間も作り出している。俺たちを襲った井翠朱佳はクローンだ。もう何代目かもわからんが数十回は殺した。別のが来るたびに能力が変わってるから厄介だよ。

後、奴らは全部で6つの部隊を持っている。俺らがさっき襲われたのは“碧”と呼ばれる戦闘集団だ。他の部隊に比べて圧倒たきに戦闘に特化している。俺らが基本的に追われるのはこいつらだ。

他にも“蒼”と呼ばれる技術開発のための部隊や、“緋”と呼ばれる情報収集などを行う部隊ー追跡などはこいつらがやっている時が多いーそれから“橙”と呼ばれる、結界や呪術を主に研究している部隊もある。古文献の読み取りはこいつらの作業だ。“菫”は怪物撲滅本部の中でも特異で、所属するものは全て怪物だ。怪物を対怪物として使ったり、“蒼”が作った薬物の実験などに使われている。

最後に“黎”これが怪物撲滅本部のトップだ。と言っても部隊であるから、全12人で構成される最高の意思決定機関だ。それの会議は廊羅という会議室で行われる。“碧“以外は割と穏便で、殺しにくるより捉えるのを優先している奴らもいるくらいだ。

「僕たちを襲った井翠朱佳の能力はなんだったのですか」

——あれは戦闘直前にある一定時間触れたコインを自由に使役できる能力だとおもう。以前一度戦って殺し損ねたが、前よりも使役時間が伸びていて、前は一度ものにある程度のめり込ませれば操作できなくなっていたのだがその欠点も修復されていた。何をどう改造したかは知らないが、厄介だよ。
「僕が扉を開けたとき爆発したあれはなんだったのでしょうか」

——おそらく対吸血鬼用の爆薬が仕込んであったのだろう。お前が玄関でモタモタしていなかったら、今頃あの世行きだ。

「その爆発によって彼方に居場所を特定されてしまうと思うのですが、移動しなくて大丈夫なのですか」

——問題ないよ。あの爆弾は、一定以上所有者が不在で怪物のセーフハウスと思われる部屋に手当たり次第に設置されている。たとえ民間人が開けただけでも爆発する。一応怪物撲滅本部は飛んでくるが。“碧“はこないよ。チェックは下っ端の仕事だ。

「では、この神社には何かあるのですか。あぁ…海井さんが熱心にみて回っていたから」

——この神社、“御鎮神社”は古来から存在している怪物たちの勢力を抑える結界を支える十三本の柱の一つだ。俺も文献でしか読んだことがないが、厳重に隠してあるらしく俺が吸血鬼になってから見つかったものは一つもない。

 結構レアなものだったようだ。どうして僕なんかが見つけられたのだろう。そんな疑問はあったが、それより他の質問を優先した。

 知りたかった。しかし聞くのも怖かった。そんな質問を海井さんに投げかけた。


→5話 怪物撲滅本部
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