電車内では邪魔なモノは折り畳め

文字数 790文字

「おい、邪魔だ。折り畳めよ」
 おい、何だ? 俺は穏当にそう言ってるだけなのに、何で他の客はヤクザかチンピラでも見るような目で俺を見てるんだ?
 だが、相手の女は自分に言われたと気付いていないようだ。
 俺は、赤ん坊連れの女の肩に手を置いた。
「あんたに言ってんだよ。邪魔だから折り畳め」
 俺はベビーカーを指差した。
「何、うるさいこと言ってんだ、()()? 次の駅で降りるからいいだろ」
 若造?
 何を言ってる……。どう考えても……俺よりお前が若……。
 がああああッ‼
 このクソ(アマ)ッ‼
 自分では若いつもりだった……普段は……。
 でも……俺より二〇かそれ以上は若い女に、何故か「若造」と呼ばれたせいで……。
 ふざけんな……お……俺は……この齢で係長にもなれない駄目野郎じゃねえ。
 お……俺は……俺より若い……しかも(メス)の課長にいつもドヤされてる無能な老害じゃねえ。
 こ……この……や……。
「だから、畳めって言ってんだよッ‼ 俺が言ってる事が聞こえねえのかッ⁉ これだから女は馬鹿なんだよッ‼」
 おい、何だ。どいつも、こいつも。
 どうして、俺のような……優しくて温厚な男を……そんな目で見る?
「畳めばいいのか?」
 女は俺の頭に手を置いて……。
 グシャッ……。
 何だ?
 体が動かない。
 声が出ない。
 見えるのは……周囲の客の靴と足。
 耳も一応は聞こえる。
 次の駅についたらしい……。
 アナウンスが駅名を告げ……。
 ベビーカーが移動する音。
 何が起きてる?
 何が起きてる?
 何が起きてる?
 何が何が何が……?
 うわああああ……。
 何度も何度も何度も……駅名が何度も何度も告げられ……。
 何度も何度も何度も……環状線を何度も何度も回る。
 明るくなり……暗くなり……。
 そして……。
 俺の体は誰かに持ち上げられ……。
 おい……どうなるんだ?
 俺は……どうなるんだ?
 た……たすけて……。
 俺が……何をやった?
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