第1話

文字数 1,997文字

初めてその人を見かけたのは、スターバックスで。見た目はホワイトベージュの髪色をした男の人でした。私は、一瞥するとそれ以降は気にも止めていなかった。なぜなら今日は社会人の写真サークルの初めての会合だったからだ。でも被写体事にカメラを変えている人や、超高級フレームを持った人が現れた場合、さっさとやめる予定だ。
13時を回った頃、その人は目的地に現れた。

「今日、本当は13時ではなくて14時からなんですよ・・・立木さんに連絡を入れ間違えてしまったみたいで僕も早めに写真撮りに行きたいと思ってたから、丁度いいやと思って。あはは、1時間雑談でもしていましょうか」
よく見るとこの人、肌キメが細かいな・・・。それに爪が綺麗に切りそろえられている。それにかなりのイケメンだと思う。目の色が深いネイビーでハーフなのだろうか。歯の矯正をしているのか舌足らずな話し方だけど、それさえなければ100点満点・・・ん?歯の矯正って値段が高いって聞いたな・・・私は思わずカメラを見た。ぎょっとした。
「10804ライカ!!やだ!ガチじゃないですか!」
200万円以上するカメラに私は思わず手が震えた。
そこからなんとなく話が弾み、何気ない会話ばかりしていた。かなりいい企業に勤めているのが唯一の自慢だけれど、それ以外は友人は2、3人で、恋人もいないんだって、「その美貌がもったいないです。美しさを持つ人はモテなくちゃ誰がモテると言うのですか」「もう好きな人がいるんだ」「そうですか・・・どんな人なんですか?」「目がシュッとしてる。まだ片思いだけど。」
そうこうしていたら他の写真サークルの人も来て、そこそこ楽しい1日を送れた。
その人の名前は三辻 通草(みつじ あけび)。
私と彼はそこから同じ趣味を持った友人になっていくのであった。
通草と出会ってから半年経ったある日のことだった。通草はなんだかんだ言って行動力がある男で、好きな子と交際するまでに至ったらしい。
「まいにちがたのしいよ。」通草は話すたびにそう言っていた。通草が好きな人は、聞く限りだと大人の女性を彷彿とさせた。「麻の布が似合うんだよ。猫みたいでさ。俺がいる時はすぐ離れちゃうけど、俺が仕事してる時はくっついてくんの。かわいい。すき。」
「それ本人に言ったほうがいいんじゃないかな。わこちゃんだっけ。」
「あはは、その呼び方やめろって言われた。」
私は通草との写真の会話が好きだったのに、毎日”わこちゃん”の話をされて少しうんざりしていた。歯の矯正が取れた通草はいつも以上に爽やかで、「あの時、もっと押していれば通草と私がくっつくこともあったのかなぁ・・・」なんて悲しい気持ちになったりした。そんなある日のことだった。通草が死にそうな声で電話してきたのは。


「もう、俺とわこちゃんはダメだと思う。」
きっかけは自分からしたキスだったらしい。自分からしたのになぜかキスがもにょもにょと気持ち悪く、彼女が足を絡めてきた時に、産毛が逆立ち、でも”彼氏なんだから””こう言う事はいつかしなくちゃいけない”と言う責任感だけが先行してベッドに押し倒したらしい。「舐めて」と言われた時には胃が逆流するのを止めることができなかったと言われた。あんなに大好きだった彼女が急にモンスターみたいに思えてきて、もちろんアレは勃たなかったので、空気が気まずくなり、「追加のゴム買ってくるね」なんて言い訳をして出てきてしまったらしい。
ただできないと思うだけで、今までの幸せが”ごっこ遊び”に思えてきて、
一度できなかっただけで”もうこの先の不安が一気に押し寄せてきた”らしい。
彼女とはそれ以来交渉していないとか
私は「一度二人で話そっか」と言うと、待ち合わせのレストランに出かけた。
通草は一人で来た。「俺、ゲイなのかな」重い沈黙の後ポツリと呟いた。
「幸せにしたいのに、家庭が欲しいと思ってるのに、神様から罰点もらったみたいだ。」
私は少し鼻声になった。「・・・そうだね」
一度引いた恋でも本人が幸せならそれでいいと思ってた。
でも現実は違った。私の好きな人は性嫌悪が強い人だったから。
当たり前の家庭が持てる人は当たり前を当たり前にする力を持ってるから。

「理想が高すぎたんだよきっと。最悪子供産まなくっても・・・さ、一緒にいるだけで幸せになれる時だってあるし・・・」その言い訳は誰にしてるんだろう。通草と恋ができない私への慰めだとしたらそれはひどすぎる。でもセックスのない恋なんて、親友との境が曖昧だ。じゃあなんの為に私は恋人の立場を譲ったのだろう。「ごめん、暗い話をして。」「いいよ、でもこの話はちゃんとわこさんともして!きっと二人ならなんとかなるから。」「・・・」私と立木。二人の間で解けるアイスクリームは、通草とわこさんとの理想の城を見ているようだった。
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