第1話

文字数 1,014文字

人間っつーのは馬鹿だね。万物の霊長を気取ってこの星に支配者みたいにふんぞり帰ってるけど、生身じゃとっても非力じゃねーか。お得意のネット通販で買った小包みだって、素手で開けるのは四苦八苦。まあ非力なのは百歩譲るとしても、じゃあちゃんと立場を弁えて謙虚に生きてほしいモンだね。庭師のところで働いてるダチみたいに俺がもう少し尖ってたら、あまりの馬鹿さ愚かさに我慢できず後ろからグサッ!とやっちゃってたかもな。俺が先の丸っこいマイルドヤンキーだったのを感謝しろよ人間ども!

俺が同居してる女も、その馬鹿な人間の一種だ。まあテレビに出てくる人間どもみたいにグサッとしたくなるようなロクデナシじゃなく、コンタクトをつけたまま寝るような間抜けなタイプの馬鹿だけどな。間抜けっつっても俺を何年も大事にしてくれたり、柔らかくてあったかい手で俺をぎゅっと握ってくれたり、身も心も錆びた俺を再び輝かせてくれたりと、悪いやつじゃないけど。どちらかと言えば……良いやつだけど。
断じてノロケてるわけじゃないぞ!俺の鋼の刃は人間如きにゃ折れないからな!

そんでその同居人に今日も俺は手伝わされた。あいつが買った福袋に入ってた衣類ども。それにくくりつけられてたタグをしょーがねーから全部外してやったのさ。俺にとっちゃあ大した仕事じゃなかったけど、ここでもあいつの間抜けが足を引っ張った。うっかり手を滑らせて買った服を傷つけちまったのさ。俺はあきれて物も言えなかったぜ。……せっかくあいつが可愛く着こなしてくれそうな服だと思ったのに。

こういう事があると時々俺は妄想するね。同居人がもっとしっかりした、俺でも馬鹿にできない人間だったらどうなっていただろうって。謙虚で、賢くて、コンタクトはきちんと外して寝る人間。俺が手伝う仕事もミスせず、俺の持つ役割を最大限に発揮してくれる。そんな奴と一緒に居られたら、俺は外面はともかく内面はもっと丸くなっていたかもしれないな。

……でも結局その妄想の最後はいつも、俺はその賢い人間に捨てられるんだ。もっと高品質で切れ者な輩に手とって変わられてな。所詮ワンコイン以下の価値しかないモノの運命よ。
だからこれだけ悪口言っても結局俺には同居人が必要なのさ。笑えるだろ?アイツが間抜けだったからこそ、かえって俺は役立てる。
これほど「馬鹿とハサミは使いよう」を体現したコンビもねーよな。

意味でも。
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