「新約家族」

文字数 15,248文字

「昔、イスラエルの国王ヘロデを強引に妻から奪い、自ら皇后となったヘロディアは、自分の略奪婚を始 め様々な悪事を糾弾する巷の宗教家ヨハネを何とか黙らせたいと思っていた。そこで、国王と前妻の間 に出来た、容姿端麗なるも、多少知能が遅れている娘サロメの誕生日パーティーに於いてヘロデ国王  が、欲しいものを何でもあげようと大勢の出席者の前で娘に告げた時、ヘロディアは、サロメに「あの 宗教家の首が欲しい」と無理矢理言わせた。さすがに国王もあまりに非人道的な要望に戸惑ったが、大 勢の前で約束したことを実行しないのは、王としての威厳が守れないと決断し、すぐにヨハネの首を家 来にとらせ持ってこさせた。すると、ヘロディアの策略により、なんとサロメはその首を、盆に載せ  て、踊りながらパーティー会場へ運んできた。出席者はあまりのむごさに言葉を失ったが、やがてその ヘロデとヘロディアも敵国により無残な最期を遂げることとなる・・・。」
「ちょっとグロテスクな内容だけど、この話は聖書に記されていて、首をとられてしまった宗教家のヨハ ネは、洗礼者ヨハネと呼ばれ、あのイエス・キリストの出現を預言し、キリストに洗礼を授けた人物だ よ」
「へーっ。クリスチャンでもないのに、随分詳しいじゃないか」
「聖書の中でも有名な話だよ。〈サロメ〉に関する演劇や絵画も世界中で沢山作られているよ」
夕食を終えた居間でくつろいでいる松田隆に、都立高校の演劇部に所属する娘の咲美がパンフレットの裏に書かれている解説を読みつつ、今度の日曜日の学園祭で上演する〈サロメ〉と題された舞台について簡単に説明しながら、自らが主役のサロメを演じるということで、母さんと一緒に是非観に来てくれるよう頼んでいるのである。
「サロメは容姿が美しかったそうだけど、お前で大丈夫なのか?」
「父さん、随分酷いこと言うのね。私のみならず部員の誰もが、配役を決める時、自分から容姿端麗のサ ロメをやりたいなんて、言わないし、言えないわよ。でもそれじゃいつまでたっても決まらないので、 投票にしようということになったの。そしたら、どういうわけか私に決まったわけ。まあ、自分でいう のもおこがましいけど、皆は私が部員の中で一番美しいと思っているんじゃないかしら」
「あらあら、私は娘をそんな不遜な子に育てたつもりはありませんけど」
隆の妻の恵が台所で洗い物をしながら、振り返って2人の会話に口を挟む。
「確かに、気立てはいいとは自分では思うけど美人ではないかもね。まあそれはいいとして、とにかく絶 対観に来てよね。部員全員で渾身の力を込めて造り上げた作品だから」
「わかりました。日曜日なら仕事は休みなので、母さんと一緒に絶世の美女を拝見しに、是非伺います」
笑って頭を下げつつ隆がそう言うと、
「やったー!高校生活最後の晴れ舞台だし、娘が主役なんて人生でそうそうあるもんじゃないでしょ?部 員一同で手ぐすね引いてまーす!さてこれで安心したから、宿題終わらせなくちゃ」
そう言い残して、咲美は嬉しそうに2階の自室へ階段を上がっていった。
その後姿を見ながら、隆は、〈サロメ〉という名を聞いて、20年以上前の高校時代に付き合っていた栗原瞳が演劇部に所属し、卒業公演でその〈サロメ〉と題された演目の、やはりサロメ役をやっていた事を突然思い出した。
“そう言えば、瞳も同じ役をやっていたな。
元気でやっているのだろうか?”
ふとそんな郷愁に襲われつつも
“昔のことを懐かしむなんて俺も歳をとった証拠かな”
と内心で苦笑いしながら、新聞を手に取った。
2人のやりとりを、洗い物をしつつずっと聞いていた恵は
「3年間、一生懸命打ち込んだ演劇だから、是非見に行ってあげないとね。それにしてもあの子ももう  17歳よ。早いわねえ」
との実感を漏らし、隆も全く同感であった・・・。
そして3日後の日曜日、隆は恵と連れ立って咲美の高校へと向かった。
演劇部による公演の会場である体育館には既に大勢が集まり、公演が始まるのを待っている。
やがて照明が薄暗くなり、舞台が幕を開け、咲美を始め、演劇部員達が熱心に芝居をしている姿に、それなりに惹きつけられ見続けていると、隆はへロディア役の生徒が気になりだす。
栗原瞳にとてもよく似ているのである。
“本当にそっくりだな”
それでも他人の空似とやり過ごし、鑑賞している内、公演は無事に終わった。
大きな拍手が一段落し、次に予定されていた、出演者の生徒達に父兄からの花束贈呈の時間となり、頼まれていた隆も用意しておいた花束を持ち舞台に向かった。
そして、舞台上で背を曲げ、手を伸ばしている咲美に花束を渡し終え、隣でへロディア役の生徒に花束を渡し終えた、おそらく母親の女性と何気に目が合って、ひっくり返るくらい驚いた。
あの栗原瞳がいたのである。
「あっ!」
隆が声をあげるのとほぼ同時に瞳も
「ああーっ!」
と隆を指さしながら大声を上げる。
そこは舞台の真ん前で、大勢の観客が見ており、皆、何かの演出と勘違いしているようで、2人を凝視している。
そのことに気づいた隆と瞳は、恥ずかしさで顔を紅潮させながら、急いでそれぞれの座席に戻った。
それを見ていた恵が隆に尋ねる。
「お知り合い?」
「高校の同級生だよ。まさかこんな所で再会するなんてびっくりしたなあ」
「もしかして、付き合ってたとか」
「そっ、そんなんじゃないよ。変な勘ぐりはやめてくれよ。単なる友人だよ」
「なんか凄く慌ててるところが却って怪しいんだけど」
「くだらない言い掛かりはやめてくれよ!」
隆が本気でむきになったものだから、恵はそれ以上追及しなかったが、隆は内心
「女の勘と言うのは恐ろしいなあ」
と嘆息していた。
それでも、公演行事が全て終了し照明がつき、皆が帰り支度を始める中、隆はただ純粋に懐かしさから瞳と少し話をしたく探してみようとも思ったが、恵の気持を察すると、昔の彼女と疑う女性と夫が話すのは、もう全然関係ないとはいえ、あまり気持ちのいいことではないだろうと考え直し、舞台上で皆と一緒に後片付けをしながらこちらに手を振っている咲美に妻と2人でにこやかに手を振り返した後、連れ立って体育館を出た。
その一連の行動を、随分離れた席から、たった一人でずっと凝視していた瞳の視線には全く気付かずに・・・。
そしてその夜、帰宅した咲美に隆は言う。
「今日は本当にびっくりしたよ。咲美と同じ学校の同じ演劇部に、パパの高校時代の同級生の娘さんがい たんだよ」
「栗原綾子ちゃんでしょ?彼女もお母さんとパパの舞台前の様子を見て、知り合いなのかなと思ったって 言ってたわ」
「あれっ?ちょっと待って。あの子の名字は栗原なの?お母さんの高校時代の名字も栗原で、結婚したら 変わったのかと思ったけど」
「実は綾子ちゃんのご両親、綾子ちゃんが小学生の時に離婚したらしいのよ。それで今はお母さんと2人 暮らしなんだって。しかもあまり大きい声では言えないんだけど、お母さん、癌を患っているらしいの よ」
「えっ?!癌?!」
隆は今日の偶然の再会の時、瞳は少し痩せたかなとは思ったものの、年齢的なものだろうと大して気に留めなかったが、癌だったとは。
「それで治療を続けているんだけど、何回か再発しているらしいのよ。その為お金もかかるので、綾子  ちゃんは高校卒業したら大学には行かず、就職することに決めているらしいわよ」
昔はそれなりに男子生徒に人気があり、輝いていた瞳が、現在それほど幸福とは言えない境遇に置かれていることに、
“人に生涯で与えられている幸不幸なんて、皆そんなに変わらないのかもな。
 いい時もあれば悪い時もある。
 だから、その時その時で精一杯生きていけばいいんだろうな“
との人生の雌伏に隆は思いが至った。
ただ、随分昔とはいえ、曲がりなりにも多くの時間を一緒に過ごし、同じ風景を見、同じ音楽を聴き笑い合った女性が、現在、病や生きることに苦しんでいることに隆の心は痛んだ。
そして、何か力になれるものならなってあげたいという強い衝動がわきあがり、思い切って瞳宛てに、咲美を通して手紙を書くことを決意する。
ただ、恵に内緒でそんなことをすると、当然彼女を不愉快にさせると思い、真摯に説明すると、頭の回転の速い恵は全てを理解し夫を信用し、拍子抜けするくらいあっさり了承してくれた。
「あなたの気持ち物凄くわかるわ。まあお好きなようになさってね」
「ありがとう。君がそう言ってくれて嬉しいよ」
「少しは見直した?私も心ある人間ですから」
その言葉を聞いて、その夜、隆はすぐに、瞳の、病気を含め大まかな現在の状況を娘を通して知ったこと、何かできることがあれば力になりたいこと、この手紙のことは妻も了承していること等を便箋にしたため、咲美に事情を話し、綾子さんを通して瞳に渡してほしい旨伝えると、
「お父さんもたまにはいいとこあるね」
と柔らかい笑顔で手紙を受け取り、綾子に渡すことを約束してくれた。
「ありがとう」
隆は素直にお礼を言うと、何かいいことをした後の様な清々しい気持ちで夕食を食べた後、寝室に向かいベッドに横たわった。
だが、なかなか寝付けない。
遠い高校時代に、入学して同じクラスで初めて出会った瞳とのあれこれを思い出していたからである・・・。
彼女との初対面で、名前の通り澄んで大きな瞳と、その瞳がなくなるくらい目を細める笑顔にすっかり虜になってしまった隆の、その後の高校生活の視線の先にはいつも瞳がいた。
演劇部に所属する彼女が、薄化粧でサロメ役を演じた時は、容姿端麗と言われるサロメを彷彿とさせるほど美しかった。
その後もクラスの幾人かの男子生徒と一緒に追いかける中、やがて思い切って告白すると、よもやのOKの返事。
純粋で明るくて野球部で必死に汗を流す隆が、瞳の目には、やはり眩しく映っていたようである。
こうして他の男子生徒に冷やかされながらも付き合い始め、休日にはあちこちに行き、幸せな時間を共有できた忘れ難い思い出はもちろん、ちょっとした口喧嘩をしてふてくされた瞳の顔や胸打たれる映画を見て泣いた顔などが、隆の頭の中に一気にわき上がってきていた。
そして、次に浮かぶのは、思い出すのも辛い、別れの時のやりとりであった。
隆は今でもあの時の、一言一句を忘れられないでいる。
高校卒業後、東京の大学に進学した隆は、週末や長期休暇になると地元の岐阜に里帰りし、県内の短大に進んだ瞳とその度に会い、将来は一緒になる話までしていた。
けれど、短大を卒業し地元スーパーに就職してからは、シフト制の為出勤日が不規則なので、隆が里帰りしても以前のようにその度には会えなくなっていた。
それでも最初の内は隆も、“瞳は頑張ってるなあ”と感心していたが、それが帰省する度、毎回仕事を理由に会えなくなり、いらだち始めた隆は実家から、明日の日曜日は絶対会いたい旨の電話を入れると、瞳はやはり仕事で無理だという。
そこで隆は
「いつ休めるんだ?本当は仕事なんて嘘なんじゃない?俺に会いたくないから、そんなこと言ってるん  じゃない?」
との言葉を投げつけてしまった。
その時、瞳は急に声を荒げ
「随分ひどいこと言うのね!まだ入社したばかりで、今は会社人生の基礎を造っている時だから、ここで 頑張らないと、この先がうまくいかないと思い、歯をくいしばっているのに!どうしてそれをわかって くれないの!」
「わかりたいけど、こう毎回会えないんじゃなあ!瞳にとっては俺との将来より、会社での将来の方が大 切に思えて仕方ないんだけど。」
「だから、今は会社の方が大事だと言ってるの!私の将来がかかっているのよ!私の将来ということは、 隆君の将来ということでもあるんじゃないの?どうしてわかってくれないのよ。もう子供じゃないんだ から。」
「子供?ああ俺は子供だよ!親のすねかじって大学に通わせてもらってる子供です。日曜日も休めない程 働いているどこかのお嬢様とはまったくつり合いませんね!」
「もう!勝手にしてよ!とにかく明日も早いから電話切るわよ!そんなに日曜日も働く彼女が嫌なら、日 曜日は一緒にディズニーランドに行ってくれる彼女を探せばいいじゃない!」
「そこまで言う?!要するにもう俺とは付き合い切れないということだな。わかったよ!なら勝手にし  ろ!俺は俺で生きていくから!」
「隆君の心がそんなに狭量で、相手を思いやれない人間であることに、今の今まで気づかなかった自分が 恥ずかしいわ!わかったわ!もうこれで終わりにしましょう!さようなら!」
そう告げると、瞳はわざと大きな音をたてて電話を切った。
“ふざけんな!”
隆も興奮状態のまま、壊れるんじゃないかと思われる程の勢いで、受話器を叩きつけた。
売り言葉に買い言葉で、それまで全く思ってもいなかったことを、つい口走ってしまうことは誰にでもある。
けれど、隆の一連の発言は、瞳が絶縁をつきつけたくなる程充分ひどいものであった。
本心は隆は、2人の今後について、いい意味で突っ込んだ話をする為に会いたいと思って今日電話をしたのだが、いくら自分の失言から始まったとはいえ、こんな展開になるとは全く予想だにしていなかったので、電話を切った後もしばらく呆然としていた。
結局、この日のいざこざの後、隆が電話をしても瞳は一切出ず、瞳の父親や母親がでても、娘に取り次がないように言われているのでごめんなさいね、と言われてしまい、全く話をできなくなってしまった。
それでも、このまま終わるのも辛かった隆は、家に行ってみようとも思ったが、さすがにあそこまで言い争ってしまい、その後拒否され続け、それを彼女の両親も知っているので、その勇気はなかった。
ただ1度、やっぱりどうしても一目会いたくて、彼女の家が見える離れた場所で朝から待ち続け、ちらっと彼女の姿が見え、一声かけようと思ったものの、そんなことをしている自分をまた彼女に責められそうで躊躇し、久しぶりに姿を見たのは嬉しかったが、一方で、俺何やってんだ、と自己嫌悪に陥り、以降、2度と彼女には会いに行かなかった。
別れた後、未練を持つのは男性で、女性はすぱっと断ち切れる割合が多いという統計をどこかで教わったことを思い出し、“統計学も偶には当たるな”と納得することにより自らを慰めようとしている自分にまた嫌気がさし、益々落ち込んでしまった。
そうこうしている内にあっという間に1年が過ぎ、大学を卒業した隆はそのまま東京の会社に就職し、瞳とは一切連絡をとらなくなってしまった。
もちろん、瞳からも何の音沙汰もなかった。
そのまま自然消滅的に別れてしまったが、5年後、久々に実家に里帰りした隆は、母親から、瞳が、なんでも役者と結婚しようとしたが、両親や親戚に猛反対され、2人は駆け落ち同然で町を出ていったことを聞かされる。
“なんで役者?どこで知り合ったんだろう?しかも駆け落ちなんて・・・。瞳らしくないなあ”
と、もう別れたも同然ながら、昔の彼女のその後に驚きつつ、もちろん、結婚したことにショックが全然なかったと言えば嘘になるが、もう何年も会っておらず、しかも隆にも社内に気になる女性が出来始めていたので、それほどの心の痛みは感じずに済んだ。
“これで完全に終わったわけだ”
あの電話から一言も話していなかったので、気持ちがどこか宙ぶらりんのままだったが、逆にこれで完全に吹っ切れた気がして、変に清々しい気持ちになっていた。
そして瞳の結婚が引き金になったかのように、隆と、社内の気になる女性、2年後輩の現在の妻の恵の距離は急速に縮まり、翌年2人は結婚した・・・。
あのまま瞳と続いていたら、今頃どんな暮らしをしていただろう?
《人生に“たら、れば”などありえない、よくも悪くも全て自己責任の一度きり》との持論を保持している隆は、それでも、あれだけ愛した瞳との、その後の2人に想いを馳せずにはいられない・・・。
やがて月日が流れ、咲美の演劇公演で少し痩せた瞳に偶然再会した。
もしかしたら、俺の人生は、実は瞳とはどこかでずっと繋がっていたのかもしれない。
そんな想いが浮かびつつ、いつしか隆は、眠りに落ちていた・・・。
そして翌日夜、咲美から、綾子に手紙を渡した旨、告げられた。
「綾子ちゃんも、驚きながらも、ちゃんとお母さんに渡してくれると約束してくれたよ」
「そうか。それは良かった。本当にありがとう」
娘にお礼をいうと、隆は
“あとは瞳からの返事待ちだな”
と少しドキドキしつつ床に着いた・・・。
そして3日後、帰宅した隆に咲美が封筒を渡しながら言う。
「今日、綾子ちゃんから、お母さんからの手紙をパパに渡してくれと受け取ってきたわ。これね」
「それはありがとう」
隆は封筒を受け取り自室に入ると、着替えもせずに立ったまま、急いで封筒を開け読み始めた。
と、そこには慟哭の事実が記されていた。
「隆さん、お手紙ありがとうございます。
 まず、とにかく再会できたことに大変驚きました。
 何十年ぶりでしょう。
 お互い年はとりましたが、娘の公演会で久しぶりにお顔を拝見して、昔の面影は残っているなあと素直 に感じました。
 私は随分痩せたでしょう?
 ご存知の通り、綾子が小学生の時、残念ながら離婚した後は、娘と2人で生きるためにとにかく働き詰 めで、そんな中無理がたたったのか、乳癌が見つかってしまいまして。
 それでも、片方の乳房を切除した後は、しばらく何事もなく順調だったのですが、昨年、肺への転移が 発見されてしまい、医者からはその時余命1年と宣告されてしまったんです。
 いくらそう宣告されても、それより遥かに長生きする人は世の中に数多いるので、私も微かな希望を見 いだしつつも、最近疲れやすくなり、次第にもう、1年より長くは無理なんじゃないか、という気がし てきています。
 それで、本当に久方ぶりに偶然再会した隆さんに、唐突にこんなお願いをするのは、全く厚かましく筋 違いであることは十分承知しつつ記させていただきます。
 私はもういつどうなっても後悔はないのですが、唯一の心配が娘の綾子です。
 私にもし何かあったら、あの子は天涯孤独になってしまう。
 実家の両親に託そうかとも思いましたが、恥ずかしながら長年音信不通の状態でして。
 ここでその理由をまず記しておきます。
 隆さんと喧嘩別れした後、もちろん当初は頑なだったのですが、徐々に後悔が胸を締め付け始め、けれ ど、くだらないプライドが邪魔をして、隆さんに連絡をする気にはなれない。そんな時、落ち込んでい る様子の私を慰めてくれようと、友人が知り合いが出演する芝居に連れていってくれまして。そこで主 演をしていたのが後の主人なのですが、なんていうか、夢を追って一生懸命汗を流し演技をしている姿 に惹かれ、その芝居を見た後、友人と一緒にその男性も交え3人で食事に行き、その時彼が語る演劇へ の熱い想いと、きらきらしている眼差しに、今まで出会ったことのない魅力を感じ、隆さんを失った喪 失感もどこかにあったのでしょう、それを埋めるようにその男性に魅かれていきました。
 そしていつしかこの男性と一緒に人生を歩みたい、この男性の夢を応援したいと、まあ、今冷静な自分 が考えると、悲劇のヒロインになって勝手に盛りあがっていただけなんでしょうけど、その思いを友人 を通して伝えてもらうと、彼も受け入れてくれました。
 やがて結婚の意志をお互い固めたものの、当然と言えば当然ですが、私の両親は、生活の糧がまったく ない、そんな男性との結婚は頑として認めてくれませんでした。
 行き詰まった私達は、もうこの場所から逃げて東京で結婚するしかないと駆け落ちを決断し、遂に実行 してしまいます。
 この事は今でも悔やんでも悔やみきれません。
 そして東京へ出て、婚姻届けだけの結婚をしましたが、地方で多少名が売れていようが、東京にはそん な役者の端くれはごまんといます。
 やがて綾子が生まれ、劇団に所属しながら頑張ってみたものの、一向に芽がでず、その内お決まりの酒 浸りの日々が始まり、かといって、芝居をやめてまともに働く気などさらさらなく、生活はどんどん苦 しくなる。
 仕方なく、私が保育施設のある仕事を始めたものの、わずかな収入では食べていけず、彼の鬱憤が飽和 点に達し遂に私達に暴力をふるうようになるに至り、離婚を決意しました。彼が昼間から酒を飲んで寝 転がっている部屋のテーブルの上に、離婚届を置いて娘と2人で部屋を逃げ出しました。
 かといって故郷の両親や親戚を当てにはできないので、なんとか住み込みの仕事を探し、後は必死に生 きるために働いてきました。
 こんなお恥かしい経緯があるもので、両親とは長年一切連絡をとっておらず、当然、娘を預かってもら うことなど言えた義理ではありません。
 そんな中、あの子の公演会の日、偶然あなたにお会いしました。
 その時突然、多少なりとも以前関わりのあったこの人に綾子をお任せできないだろうかとの考えが浮か びました。
 けれど、あまりに厚かましい事なので、躊躇していた所、あなたからの懇切なるお手紙をいただき、飛 び上がらんばかりに喜びました。
 隆さん、私はあの若い日の別れの時の自らの言葉を、ずっと悔いております。
 もしあなたとその後の人生を歩んでいたら、公演会での仲睦まじい隆さんと奥様、咲美さんの様に、幸 せな家族を作れたかと思うと、今更ながら自分の頑なさに嫌気がさしています。
 ただ、ここで過去を悔いているだけでは、現実は何も前へ進みませんので、それは胸の奥に封印し、斯 様に現在、頼れる家族も親戚もいない私には、綾子を託せるのは、今の私にはもう隆さんしか思い浮か びません。
 それでもし、本当にもし出来得るなら、あの子を隆さんの娘、つまり養子にしていただけないでしょう か?
 その為に必要な資金等も僅かですが蓄えがあり、綾子に託しておきますので、それをお使いいだだくと いうことで。
 これ以上ない程厚かましいお願いであることは重々認識しつつ、それでもあなたにすがりつくしかあり ません。
 何卒、何卒よろしくお願いいたします」
岐阜の実家は、それなりに裕福である瞳の、隆と別れた後の、想像だにしない凋落人生に、驚きと共に、途中からは目を潤ませながら、最後まで手紙を隆は読みきった。
そして、瞳がこれまでこんなに苦労してきたのは、あの時、瞳を手放してしまった自分のせいだと自らを責め過去を悔い、もう、瞳と綾子に手を差し伸べられるのは、自分しかいないと胸に強く言い聞かせ、瞳に今後もし何かあったら綾子を養子として迎え入れる決意を固めていた。
ただ、いくら自分1人で決めても、一緒に住む恵と咲美もいるので、こんなに大事な事はやはり2人にも協力してもらわなければとても成し遂げられることではないと、スーツから部屋着に着替えると、居間にいる恵と咲美に手紙を読んでもらうことにした。
隆の、多少赤みを帯びた真剣な眼差しに、尋常でない雰囲気を感じた2人は、何事かと真面目に手紙を読み始めた。
そして読み終わると、2人も目を潤ませながら、まず恵が口を開く。
「私は賛成よ。例え一時でも、家族の誰かがそれなりに深く関わった人が苦しんでいるなら、助けてあげ るのは家族として当然よね。
 娘がもう1人できるわけでしょ?
 本当はもう1人子供が欲しかった私としては、この歳になって、それが実現されるなんて、神様からの 贈り物ね」
咲美も
「私も大賛成!
 綾子ちゃんと姉妹になるんでしょ?
 私も小さい頃から、兄弟姉妹がいる友達が羨ましくて仕方なかったからとても嬉しいわ。綾子ちゃんは 演劇部で一番気が合うし、性格もとてもいい子だから。
 この前の公演会でも、それぞれの両親が見にくるので、悪役のヘロディアを誰もやりたがらない中、
 “演技が下手な私が、こんな重要な役をやらせてもらえるなら”
 と謙遜して引き受けてくれたのよ。
 みんなどれだけ助かったか。」
「そうか。2人に同意してもらえて、パパも是非そうしたいと思ったから、物凄く嬉しいよ。けれどそれ より何より、瞳さんがこれからもずっと生きてくれることが一番だけどね」
「もちろんよ。でも瞳さんも私達の気持を知れば、安心して闘病生活できるんじゃないかしら」
恵の言葉に、隆も咲美も大きく頷く。
「じゃあ、今晩、その旨を記した手紙を瞳さん宛てに書くから、咲美、明日、綾子さんに渡してくれない かな」
「わかった。綾子ちゃんもお母さんもとても喜ぶと思うわ」
恵も大きく頷き、
「“付き合っていたんじゃないの”という私の勘は大当たりでしょ?
 まあそれはいいとして、瞳さんがあなたを選ばなかったおかげで、私はあなたと一緒になれたし、咲美 も与えられたわけだから、変な意味になってしまうかもしれないけど、瞳さんには感謝しないとね」
「人生は、本当にあざなえる縄のごとしだな。
 複雑で苦労も多いけど、それらをはるかに凌駕する幸せや愛すべき人に出会えるから、その希望を抱い て皆明日へ生きているんだろうな」
「瞳さんに再会して、色々気づかされたり教わったわね。
 このことでも感謝ね。
 じゃあ、とりあえずご飯にしましょう」
と言うなり、恵は台所に立った。
隆は新聞を手に取り読みながら、頭の中では
“とにかく瞳には元気になってもらわないと”
と強く思っていた・・・。
そして翌日夜、仕事から帰宅した隆は、咲美から、綾子に隆からの手紙を渡した旨を聞き、あとは瞳からの返事待ちだな、と思いつつ床に着いた。
そして2日後、瞳からの手紙を咲美を通して受け取る。
そこには、昔隆にひどい事をしたにも関わらず、自分と娘を心配し、特に綾子を養子として迎えてくれることを承諾してくれたことに対する感謝の言葉が多く記されており、隆も一段落したことに安堵した・・・。
だが、それから2カ月後、仕事中に、咲美からのメールを見た隆は、ショックのあまり、頭が真っ白になってしまう。
「綾子ちゃんのお母さんが死んじゃったよ」
隆はしばらく呆然としたまま、何も考えられなかった。
そしてその日は早めに仕事を切り上げ帰宅すると、恵も咲美も、深く落ち込んだ表情で隆を迎えた。
「随分早かったな」
なんとか絞り出した隆の言葉に咲美が答える。
「綾子ちゃんが言うには、父さんからの手紙を受け取った日から、お母さんの様子が変わり、何ていうか 穏やかな感じになったらしいのよ。
 それまでは、自分の病気の事や様々な気苦労でいらいらが見えたんだけど、あの日以来、随分と落ち着 いてきたんだって。
 きっと安心したのね。
 それでもう心残りがなくなり、旅立ったんだわ」
目を潤ませながら、静かに語る咲美の言葉に隆は
「これまでずっと人には言えない色々な事を我慢し耐えてきたんだろうな。
 そして一番大きな不安を肩から降ろすことができて安心したんだね。
 残念だけど、仕方がない。
 こうなってしまったからには、一日も早く綾子ちゃんをこの家に迎えてあげないと」
「そうね。
 でもその前にまず、瞳さんを送る行事をきちんとやり遂げて、それが済んだら、綾子ちゃんにすぐにこ の家に来てもらいましょう。
 咲美、綾子ちゃんに何も心配せずに、この家へくるように伝えておいてね」
「わかった。
 綾子ちゃん、一人ぼっちにならずに済んですごく喜ぶと思うし、私もとても嬉しい。
 お父さん、お母さん本当にありがとう」
「礼を言うのは父さんのほうだよ。
 元々は父さんの知り合いだからね。
 母さんも咲美も、瞳さんの願いを受け入れてくれて本当にありがとう」
「そうと決まったら、まず今倉庫と化している2階の6畳部屋を綾子ちゃん用にきれいにしないと。」
「私も手伝うよ。
 私の隣の部屋が綾子ちゃんの部屋ね。
 けどどっちがお姉さんでどっちが妹なのかな?
 年は同じなんだけど」
「まあ双子ということでいいんじゃないか。
 これからは何でも半分づつ、全て平等にしないとな」
「綾子ちゃんのお母さんのことは物凄く残念な中、こんな事言ったら申し訳ないかもしれないけど、綾子 ちゃんとの生活が凄く楽しみ」
「瞳さんも、おそらく天国で喜んでくれていると思うよ。
 これから綾子を松田家の娘として、よろしくお願いいたします、と頭を下げながらね」
「それは間違いないわね。
 さあ咲美、部屋の片づけにゴー。
 あの部屋にある物は、殆どがあなたがこれまで使ってきたり集めたものの残骸だから」
「わかりました。隊長!」
咲美が敬礼の真似をしながらそう言うなり、2人で何だか楽しそうに2階へ上がっていった。
その後ろ姿を見送りながら、隆は感慨に耽る。
あのまま、瞳とずっと付き合い続け、もし結婚していたら、自分との間に子供が出来ただろう。
残念ながらそれは叶わなかったが、今その瞳の娘を新しい家族として迎えようとしている。
瞳とは、ようやく数十年ぶりに再会したと思ったら、悲しいかな、すぐに今度は永遠のお別れとなってしまったが、やはり、彼女とは生きる場所は遠く離れていても、心の一番深い所で、ずっと繋がっていた気がしてならない。
それにしても、瞳の綾子に対する渾身の愛情には頭を垂れるしかない。
世の大多数の母親も同じであろうが、自分のプライドも何もかも投げ打ち、なりふり構わず守り抜かねばと思う程、深く強く綾子を愛していたのだろう。
そして、瞳はその宝物の娘を、あんなひどい別れ方をした男に託してくれた。
歳月のなせる業と言えばそれまでだが、瞳の心にほんのわずかでも、あの別れの時を悔やみ、自分に対する想いがまだ残ってくれていて、人生の最期の最期に、まるで天の配剤のように再会させてくれ、再び信用してくれたことを思うと、あの若い日、電話でむごい言葉を投げつけた自分を、今の自分が思いきりぶん殴ってやりたい衝動に襲われた。
さらに、娘を一人残していかなければならない瞳の心に想いを馳せる時、自分に置き換えてみればよく分かるが、胸が張り裂けんばかりの口惜しさがこみ上げる。
だから、その心中を引き継ぎ、これまで瞳を守ってあげられなかった分、せめてこれからは、命がけで綾子を守っていかなければ、と隆は強く心に誓った。
そして、出会ったり別れたり、愛したり憎んだりのあやとりが織りなす地上生涯はあまりうまくいかなかった瞳の、天国での幸せを祈り、自分と出会ってくれたことに大きく感謝し、綾子を必ず幸せにする、それを見守ってくれと、天の瞳に真摯に語りかけた・・・。
そして瞳の葬儀の日。
近い人間だけで静かに送ろうと考えていた隆と恵は、2人に咲美と綾子の4人のみで葬儀を執り行うつもりであった。
ところが、開始時間直前に、高齢のご夫婦が、葬儀場に隆達を訪ねてくる。
その御2人の顔を見た瞬間、隆は声を上げる。
「おっ、お久しぶりです。憶えてますか?松田隆です。
 高校時代からしばらくの間、瞳さんと御付き合いさせていただいた・・・」
ご婦人がゆっくりと答える。
「ああ、勿論憶えてますよ。
 あなたには、いくら娘に言われたとはいえ、なんだかひどいことをしてしまったようで、ずっと気にし ていました。
 あげくの果てに娘は、よくわからない男性と一緒になって家出してしまうし。
 あなたとなら、立派な家庭を築けたのではないかと思うと、本当に残念でなりません。まあ遠い昔のこ とはもう致し方ないですけれども、この度は、娘がこんなことになってしまい、しかも葬儀から、更に 孫の綾子まで御世話になるということで、是非その御礼がてら、ずっと疎遠で逆縁になってしまいまし たが、腹を痛めて産んだ子の、最後の見送りぐらいしてあげたいと思いましてね。
 今朝早く岐阜から出かけてきました。
 それから、あの子は自分だけで気にして全然連絡をくれなかったけど、私達はもう随分前にあの子を許 していましたよ。
 何と言っても血のつながった親子ですからね。」
随分年はとったが、瞳のご両親であった。
奥様の説明を聞きながら、でもどうして今日の葬儀を知っていたのだろう?との疑問がわいた。
するとそれに答えるかのように綾子が口を挟む。
「実は、私が連絡したんです。
 お母さんとおじいちゃん、おばあちゃんは、何だか仲がよくなくて、ずっと話をしてなかったけど、そ んな状況でもやっぱり気にはなっていたんでしょうね、家の電話帳にお母さんが書いた実家の住所と電 話番号があるのを、私が中学生の時に見つけて、思い切って電話をしてみたんです。
 そしたら、離婚してしまった事や私という中学生の娘がいる事、更に癌の治療をしている事を知って、 御2人はそれは驚いていらっしゃって。
 けれど、疎遠の両親が手を差し伸べるのはお母さんが嫌がるだろうということで、おじいちゃんおばあ ちゃんは遠くから見守るだけにしていらしたんです。
 けど、今回、こんなに急にお母さんが亡くなってしまい、いくら何でも御2人にも知らせてあげなきゃ と私が連絡したんです。
 おじいちゃんおばあちゃんは、それは仰天したけど、是非葬儀には行くといって今日来てくださったん です。
 それから、御2人が、私を引き取ってくれるとも勿論言ってくれたんだけど、私の我儘で、咲美ちゃん の家には迷惑かもしれないけど、岐阜に住むより、東京にいたかったんです。
 これから大人になっていく中で、こっちの方が生きていく選択肢が沢山あると思ったものですから」
「全然迷惑じゃないよ。むしろみんな新しい家族が増えると喜んでいるよ」
隆の言葉に
「そう言っていただけると本当にありがたいです。
 何卒何卒宜しくお願い致します。
 綾子も御礼を言いなさい」
「本当にありがとうございます。
 そしてこれからよろしくお願いします。」
そう懇願しながら、深々と頭を下げる祖母と綾子に恵は
「全く気にしなくて大丈夫です。
 私達も本当に喜んでいるんですから。
 さあ、そろそろ瞳さんを送る時間ですよ」
読経をしてくれるお坊さんが姿を見せたので、一同6人は席に座り、葬儀は始まった・・・。
そしてそれから1週間後の落ち着いた頃、隆はレンタルしたトラックで、綾子が住むマンションに乗り付けると、自家用車の運転席に咲美を乗せ自らの運転で後をついてきた恵と、部屋で待っていた綾子の4人で荷物をトラックに積み込み、最も大事な荷物、新しい家族の綾子を自家用車に乗せ、恵達3人はもう何年も一緒に暮らしてきた実の家族のように楽しく語らいながら、隆達の一軒家へ向かった。
そして到着し、荷物を皆で汗だくで家へ運び入れると、隆達3人を前にして、綾子は正座し、
「くれぐれも、これからよろしくお願いいたします。
 こんな一人ぼっちの私を、家族の一員として迎えてくださり本当にありがとうございま・・・」
と、徐々に涙声に変わりながら語り、おでこを床につけるほど深々とお辞儀をした。
隆は実の父親のように優しく諭す。
「綾子ちゃん、お母さんのことは重ね重ね残念だったね。
 そしてこれまでお父さんがいなくて、看病や生きていくことで色々大変だったろうけど、これからはこ の3人があなたの真の家族だからね。何でも話してね」
綾子は顔を上げ、大粒の涙を拭おうともせず、まっすぐに隆を見つめて小さく頷いている。
恵も咲美も、タオルで目を拭っている。
「そう言っていただけて、心底嬉しいです。
 お父さん、お母さん、そして咲美ちゃん、これからよろしくお願いいたします。」
「こちらこそよろしくね」
恵と咲美がほぼ同時に声をかける。
「綾子ちゃん、早速今晩の夕食は、綾子ちゃんの歓迎会も兼ねて一緒に豪勢な料理を作ろうね。」
「咲美ちゃん、ありがとう。これからは姉妹だね。私とても嬉しいよ」
そう言いながら、また涙を溢れだしそうになっている綾子を見て、恵が
「あらあら、新しい娘はよく泣く子だね。母さんが守ってあげないとね」
この言葉に、泣き笑いの顔で、照れる綾子に隆が
「新しいお母さんにうんと甘えていいよ。これまでは瞳さんの体調もあって、甘えることもできず我慢し てきたろうけど、このお母さんは健康だけが取り柄だから」
「あらっ、随分ひどいこと言うのねえ。健康だけでなく料理も裁縫も超一流よ」
「自分で言うか?」
咲美の恵への言葉に皆で大笑いした。
綾子は、まだ父と母が仲が良かった幼い頃、自分の誕生日に3人でケーキを囲んで、楽しく笑い合った日のことをぼんやり思い出していた。
“こんなに幸せな時は何十年ぶりだろう”
綾子の心に、明るい灯がともった気がした。
そして天の瞳に向かって
「母さん、今までありがとう。そして新しいこんな素晴らしい家族を与えてくれて本当にありがとう。  ゆっくり休んでください。私もこれからこの家族の一員として頑張ります」
と誓った。
ヘロディアの悪意故命を落としたヨハネに導かれたイエス・キリストによって、新しい世界が開かれたように、天にあげられた瞳が遺した綾子により、隆達家族にも新しい未来が開かれようとしていた。

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