第1話

文字数 59,490文字

第一話・`東京府中、
 桜が舞い落ちる季節になっていた。道行く人々も薄着になり、顔に薄く汗をかいている。
 1987年・4月10日、天海幸司は、満14歳になる。身長は、中学生にしては大柄な、173㎝、体重は、72㎏と、少し太り気味なのが気になる。
 両親の都合で、中学一年の時まで東京都青梅市の伯父の家に預けられ、少林寺拳法を叩き込まれた。その暴力的な性格が災いして、幾度となく、喧嘩騒ぎを引き起こし、手に余った伯父一家は、追放するように幸司を、東京都府中の、家へ送り返してきた。
 そんな幸司だが、青梅の不良界では、有名で、慕う子分は何十人と居た。
 天海幸司は、青梅大門中学のジャージを着て、野球部の練習に参加していた。天海は顧問の、佐藤英介から、激しいノックを受けていた。
 「ヘイヘイ~ヘボヘボ~」
 天海は、落球を幾度となく繰り返し、部員の皆から、嘲笑われていた。
 佐藤部長は、容赦なく天海のグラブの脇目掛けて、ノックをお見舞いする。
 ノックが終わると、次は、ピッチャーズマウンドからの、投球で有った。
 「天海ぃ、思い切りキャッチャー目掛けて投げれ」
 「ウィ、キャッチャー死んでも知らんぞ」
 キャッチャー野田は、低くミットを構え、ズッシリと、後ろへ体重を落とす。
 第一球が投じられようとしていた。大きく振りかぶり、手を思い切り伸ばす、スピードガンを持つ、マネージャーの押本はキャッチャーの後方で身構えた。
 「どりゃ~」
 もの凄い裂帛の気合声が、マウンド上で発せられた。134キロを計測した。ズバ~ン、キャッチャー野田は、1,5メートル程右横に飛び、球に喰らい付いて取った。
 「フ~ン、案外速いじゃん、コントロールが今一だな」
 傍らで見ていた、部員一同の筆頭、エースでキャプテンの飛田が、皮肉交じりの口元を歪めて呟いた。
 「良~し、天海、続けて5球投げて見ろぃ」
 足元にボールを5個、キャッチャーの野田は転がして投げた。
 「良~し、来い来い来い」
 ここ、三堀中学校の野球部は、西多摩地区では、五指に入る強豪だ、部員数は三十八名、特に府中市の大会では上位の常連で有る。
 天海は、ボールを一個拾い、ロージンで手をはたいて、ポンポンと二回宙に、放る。
 「オイ、新入りの二年、格好つけないでとっとと投げろい」
 「ウィ~、外野は黙ってろ」
 二球目を投げようと、モーションに入る。第二球目を投げた、今度は右打者の、インハイに決まる。
 「オイ、押本、何キロだ?」
 部長の佐藤は、今のは速い、と思い、期待混じりの笑顔で問う。
 「え~と、今のは138キロ」
 押本は、スピードガンのゲージを、リセットして、次の投球を見てみた。
 「フン、ノーコンじゃん」
 飛田は、右手下手投げの、技巧派タイプで、とても、天海のスピードには、匹敵しない。
 そんな飛田は、内心焦っていた。
 第三球投げられた。今度は、ど真中に、ズンと、良い響きを残してミットに収まる。
 「今のは?」
 「ハイ、142キロです、恐らく、多摩地区NO1の速度です」
 「マグレマグレ」
 飛田は、レギュラー陣を集めて、何か囁き交わしていた。
 「部長、俺ら、打者として立ちたいんスけど、良~すか?」
 「オイ、レギュラー全員でやるのか?、まぁ良い、たまには、速い球を見ておくのも勉強になる、あー天海君、9人に投げてくれ、全員三振取る積りで行けよ」
 佐藤部長は、2年時は、エースの飛田が居るので、リリーフとして天海に期待を寄せた。天海は、一言、「ウィ」と言い、ロージンに手をやる。キャッチャーが代わる、二年の控え捕手、重松だ。
 「よ~し、天海君、気楽に行こう、肩の力を抜いて、打たれて元々だ行こう」
 一番は、センター、山寺、左打席に立つ。
 天海は、第一球を投げる、ナチュラルにシュートが効き、外角を抉る。
 カィーン、金属バットの弾ける快音を残し、打ち返した。しかし、音とは裏腹に、内野ゴロになる。
 「ウィ~当てやがったよ、クゥ~」
 天海は、マウンド上で独り呟いた。
 「オイ、今何か言ったか2年?」
 山寺は、ツカツカとマウンドに歩み寄ろうとして、重松に取り押さえられる。
 「止めてください、山寺さん、今なにも言ってないスから空耳ですよ」
 「オイ、山寺、早く退けよ、俺の番がまだだしぃ」
 2番は、山中と言う、長身の右バッターだ、ポジションはライトらしい。
 「ウィ~、行くだよ」
 「オーシ、来い来い」
 2番の山中は、1球様子を見た。アンパイアをしている、佐藤部長は、ボールの判定をした。流石2番の山中だ、と心中呟く。
 2球を天海は、空かさず投げた、ど真ん中高目の甘いコースだ。山中は強振した、しかしバットは届かず、空振りに終わった。3球目、ファール、4球目を強振して、空振り三振。山中は、「チッ」と舌打ちして、天海を睨み付け引っ込む。
 3番は、3年のサード松永だ、左打席に立つ。
 右投げ左打ちかよ、天海は独り言を言う。
 「よっしゃ来い、2年、新米、目に物見せてやるぜ」
 「ウィ、何か見せてくれるのかや?」
 「天海君、落ち着いて行こ~う」
 重松は、天海に声を掛ける。第一球が投じられる。ベース寄りに被って構えていた、松永はインハイのボールを、避け損ねそうになり、思い切り尻餅を突く。
 「へィ、ヘボピー、何やってんだオら」
 松永は激怒して、立ち上がる、傍らで見ていた部員達も、大声で野次る。
 「良し、じゃ~次打ち易いの投げるねん」
 第二球目が投じられた、ナチュラルに変化するスライダーだ、松永はムキになり、球を追いかけて行き、ドン詰まりのピッチャーゴロになる。
 「次ぃ~、早く出てこい」
 次は、4番でエースの飛田だ、飛田は、入念にウォーミングアップをして、出て来る、佐藤部長が、遅い、と一言言い、飛田は、オスと答えて右打席に入る。飛田良一15歳、右投げ右打ち、身長が、180センチ有り、その下手から投げる、サブマリン投法で、地区大会ベスト4の常連である。高校は既に決まってい、私立の梅美林に、推薦で内定している。
 「良し、天海君と言ったね、打たれても恨みっこ無しだよ、さぁ~来い」
 天海は、ジャージの上着を脱ぐ。凄い筋肉、上腕筋が盛り上がり、獰猛な程に鍛え抜かれた腕は、プロレスラーの様で有った。
 「じゃぁ投げますよん」
 Tシャツ一枚になった上半身を、コマの様に回転し、捻りながら右フックを撃つ様に腕がシナリ、球があっと言う間にキャッチャーミットに収まる。
 佐藤部長はスピードガンを持つ、押本に向いて、
 「オイ、今何キロ出た?」
 「へ、147キロです、スゲー」
 部員達が、どよめきの声を、発する。
 「オイ、天海、147キロ出た、お前前に野球やってたか?」
 「ウィ、遊びだけど、俺の剛速球見たかい」
 飛田は、打ちのめされた表情で、後の2球は空振り三振した。飛田は、野球人生初の挫折で有った。このままじゃ、天海にエースを取って代わられる、どうすれば良いのか?考えても頭は白くなって行った。
 残る5番6番、7番8番と9番は、呆気なく打ち取り、ピッチングテストが終わった。新1年生達は、外野の草むしりと、グラウンドのランニングに、勤しんでいた。
 天海幸司は、補欠の控え選手から、羨望の眼差しで見つめられていた。
 「よう、転校生やるじゃん、お前家どこなの?」
 森田と言う同じクラスの部員に、尋ねられたのは、帰宅前の、控室での事であった、天海の周りには、取り巻きが5人程出来た。
 「三堀の、霊園の方だにょ」
 「え~俺の家に近いじゃん、一緒に帰ろ~ぜ」
第二話・激突
 天海幸司は、野球部の朝練を終えて、第一校舎の屋上へ向かった。
 早朝の陽光が、窓々から差し込み、淡い春の日差しを受け、何処か幻想的な、そして、暖かい空気を、非常階段の最上部から運ばれてくる。幸司は、学ランの二重になっている内ポケットから、マルボロを一本取り出して、屋上の扉を開けて一息吹かす、
 「オイ、木下よ、おめぇーのナオンのケツデカくて良いな、やる時気持ちいいだろう?」
 屋上には、5人組の、3年が居た。天海幸司は、横咥えしたマルボロを、胸いっぱいに吸い込み、3年達を無視して、通り過ぎる。3年達は、皆、頭にパーマを掛けて、青や紫に染め、腰には特殊警棒を手挟み、ボンタンと言う、ダブダブのズボンを履いていた。
 「オイ、そこのガキ、シカトかよあ~?」
 リーダー格らしき大柄な、河野年明と言う、3年の番格に、唐突に声を掛けられた。
 「ウィ?、ガキっておっさん人見て物言えよ、何でジィイがボンタン履いてんの?」
 「アッハハハ、誰かこの頭のおかしなガキシメテ良いぞ」
 天海は、そんな事無視して、タバコを思い切り吸い、フェンスの向こうの景色を見つめている。
 遠くに見える焼き場の煙突が、やけに大きく見える、最近遠視になったのか、とさえ思い、苦笑する。
 「お~い、そこの二年、今、皆でヤキ入れる事にしたよ~ん、もう謝っても、許して上げないかあら、なんちって、オラ、面貸せや小僧」
 少年の一人、天海と背丈が同じ位の、所山が肩を掴んで5人が輪になっている中心に引き摺り出す。天海は、案外フニャリとしていた、所山の力に抵抗せず、すんなり輪の中へ入る。
 「オイ、名前何てぇーんだ」
 「ウィ?お前から名乗れ」
 天海は、マルボロを、ポトリと地面へ落とす。
 「オイ、こいつ野球部の新米で、147キロ投げた天海って奴だぜ、川端から聞いてんぞ俺」
 「ほ~う、こいつが噂のアレか、フハハハハ、野球部で、タンベ吸って良いのかな、先生に言いつけちゃうよ~ん」
 後ろに居た、田所が、思い切り天海へ蹴りを入れる。前蹴りだ、吹き飛んだ天海に、前からジャンピングニーパッドを入れる。顎にもろに入る。
 血の唾を天海は地面へ吐き、ファイティングポーズを取る。
 少林拳・禅行院流の構え。その時、後ろに居た3人は、羽交い絞めをし、押さえ付ける。
 「オイ、行くぜ、飛び前蹴りで、ヒットポイント減らしすんぞ」
 天海は、少し力を入れてみる、足を踏ん張るが後ろの3人は巧妙に体を押さえ付ける。リーダー格の河野年明は、後ろへズーと後退しフェンス際まで下がる。
 「行くぞ、スカイ~キック~」
 河野は、全力で走ってくる、20メートル、10メートル、8メートル、その時天海は、後ろに居た、所山を、後頭部の頭突きを入れた、脇で腕を掴んでいた2人の小指を捻じ曲げる。5メートルに河野は接近していた。
 「ドセーイ」
 「キック~」
 2人同時に飛んだ、天海の方が、高空で有る。「死ねい」天海が叫んだ時、蹴りと蹴りが、交錯する。天海はスカイキックを左手で払い、踵から、右足を上にカチ上げて、河野の顎に飛び前蹴りを入れる。
 「ウワ~」
 河野は、背中から地面に落ちる、残った一人は怖気付き、屋上から出て行く。
 「痛てえよ~痛てえよ~誰か助けてくれ~」
 天海を押さえ付けていた3人は、戦意を喪失して、ボケッと立って見ている。
 天海は、3人に近づき、所山の鼻血の出ている鼻を、もう一発頭突きを入れる。後の二人は怯えて、体が凍り付いていた。
 昼休み、教師・佐藤英介が、天海のクラス、2年2組に訪れていた。天海は窓の外を見て、運動場で騒ぐ同級の、一ノ瀬直子の姿を見出していた。
 2年2組は、北側に有る新校舎の二階に有る。
 佐藤教諭は、教室の中にいる天海を見つけて大声で叫ぶ。
 「オイ、天海、職員室まで至急来い」
 佐藤は、天海を連れて、長い渡り廊下を歩き、一階の東側の一番奥に有る、職員室の中へ通される。
 職員室の中では、教職員や事務員達が、忙しなく動き回り、佐藤と天海が入った事など何の頓着もせずに行き交う。
 天海は、校長室の脇に有る、会議室に通される。
 会議室へ入ると、朝の5人組と、その中でも、一番ダメージが有った河野の親が来ていた。河野は、朝の出来事の後、医務室へ運ばれて、首筋にコルセットを巻き、応急手当てをしていた。この後病院に行かねばならぬそうだ。
 5人は、天海が入って来たのを見て、ビクリとなり、河野の母親は、キッと睨んだ。
 「アナタが天海君?、ウチの年明をこんなにしてくれて、一体どう責任取ってくれるの?」
 河野の母親は、髪をロングに降ろし、茶色く染め、キツイ、アイシャドウの目は半分眠っている様な半眼、いや、細さで轢き殺されたガマガエルの様な顔で天海を睨む。
 会議室には、他に、教頭と担任の早川女教師、そして、3年の生活指導の、天宮ら顏を揃えていた。
 「河野さん、まず生徒たちの言い分を聞いてからにして下さい、オイ、天海、今朝の事を、話してくれ」
 佐藤教諭は、立て続けに言い、天海に聞く。
 「ウィ~こいつらの事か?、軽い朝の運動しただけだよ」
 5人の朝いた少年達は、天海の言葉を聞いただけで、青くなり、河野と所山は、震え目を伏せる。
 「オイ、天海、5人相手に一方的って事は無いよな、悪ぶらずにちゃんと話してくれ」
 生活指導の、天宮が所山の顔を睨み言う。
 「先生、本当俺等こいつにいきなり殴られたんで、俺の鼻も潰されたし河野の首も」
 「そうよ、ウチの年明を、アナタ一体どーしてくれるの、こんな暴力をふるう生徒は、校内から追放してください教頭先生」
 リーンゴーンキーンコーン。
 昼休み終了の鐘が鳴り、天海は、会議室から出ようとする。
 「まぁ~何て恥知らずな子でしょう、天海君とか言いましたね、キッチリ型にはめてウチの子の賠償させるわよ」
 「オイ、ババぁ、何時でも勝負すんぜ、怪我の理由はそいつ等が弱かっただけだ」
 天海は、会議室のドアーをバタンと閉めて教室へ急ぐ。
 放課後は、野球部の練習が有り、帰りは遅くなる。
 東八一のワル
 帰宅が遅くなった。三堀中学から歩いて10分、三堀町でも古くからある、お屋敷街に、天海幸司宅はあった。
 野球部の、1年先輩で補欠の、三田広己と言う男が、帰り際、校門の所で声を掛けて来た。
 「天海君、一緒に帰ろうぜ、てか、ドップラー総統の方が通りが良いか?」
 「ウィ?」
 「アハハハ、知ってんぜ俺、お前が青梅でドップラー総統と呼ばれてた事も、まぁいいや、お前の事、3年の連中は皆ヤキ入れるって息巻いてるぜ」
 2人は夕闇の中、肩を並べて歩いて行く。カラスがやけに多いなって、三田は呟き、
 「なぁ、この辺りで酒が飲める所があんだよ、部活の帰りは、何時もそこで一杯、キュ~とやるんだ、寄って行かねぇ?」
 「ウィ?良いけどお前何者だ?」
 近くに東八道路が走っている、東八道路、江川亭のハス向かいに【酒処・酔ってけ屋】と言う店が有り、その中へ、学生服を着たまま2人は入って行く。
 「いらっしゃ~い」
 店は、居酒屋風スナックで、ママが一人で切り盛りしている様だ。全面ガラス張りで、スモークの貼って有る、窓から東八道路が見え、車が行き交っている。
 「あら、三田君、今日は、お連れ有りなの、僕、何年生?」
 「ウィ、僕と言われるほどの者じゃないが2年の天海幸司てぇ~んだヨロシク」
 三田は、天海に席を勧めて、ウーロンハイを、一杯頼む。
 「おい、天海君、お前も一杯飲めや」
 時刻は、午後6時半を過ぎ、店内は有線で歌が流れる。
 「オイ、聞いてんのかドップラー、何か飲めよ」
 ドボッ、その時三田のボディーに天海幸司の裏拳が入る。三田は飲んでいたウーロンハイを、吐き、床にぶちまける。
 「ウ、ゲホゲホ、何すんだよ~」
 「ウィ~その名前2度と言うな」
 天海はビールを注文し、一気にグイとやる。その時東八道路を一台の、KH250カワサキのマシンが入って来て店の前で止まる。
 マシーンにのっているのは、まだ少年で、短髪の頭にアイパーを掛けて、所々メッシュが金色に入っている。
 店のドアーを、ガラーンと開けて入ってくる、その少年は、黒いジェットヘルを取り、サングラスを外さず店へ入り、2人を一瞥して奥のカウンター席へ着く。
 「三田ぁ~タバコ買ってこいや」
 その少年は、席に座るなり、サングラス越しに三田を睨む。
 「ヘイ、ショッポでしたね」
 三田は、そそくさと立ち上がり、近くの自動販売機まで走った。
 「オイ、おめぇ、三堀中の奴か?」
 どうやら天海に問い掛けてるらしい、天海は無視して、マルボロに火を点ける。
 「オイ、お前、耳聞こえねーのかツンボか?」
 「ウィ、人に物を尋ねるときは敬語で話すのが常識だろ?」
 「カッハハハ、そりゃソーダ、おめえ名前何てーんだ?」
 「天海幸司だヨロすく」
 三田が戻って来て、ショートホープを渡す。
 「俺は、中嶋てぇーんだ何か有ったら相談に乗ってやる、三堀中の3-8だ」
 中嶋と名乗った少年は、ビールを一気に3杯ほど飲み、店から出て行った。
 明くる日は、良く晴れた。野球部の朝練が、7時から始まり、2年の補欠はバッティング練習をしていた。
 「ヘイ~こーいこーい」
 2年のスラッガーとして、期待されている、手島が、外野フェンス直撃の大飛球を飛ばす。
 「良いぞ~手島。もう一球行け」
 「おーし来い来い」
 投げるバッティングピッチャーは、2年で、右投げの、山室と言う3番手のピッチャーだ、隣のゲージに天海が立つ、投げるのは、コントロール抜群のサードで補欠の多山だ。
 「良し来なさい」
 天海は、二日酔いの頭を抱えてボックスに入る。
 カキィーン、又もや手島は、快音を残して、ネットの下段に当たる直撃弾を放つ。
 「それでは行きますよ天海君」
 多山は、右手サイドから、コントロール良くど真ん中にストレートを、放る。
 キィンッ、天海の飛球は、ネット上段に当たり、防護ネットを揺らす。
 「おーワンダフル」
 多山は叫び、3年のエースで4番の飛田が、ランニングをしながらコレを見て、天海を睨む。
 隣のゲージの、手島は顔を青ざめて天海の方を見つめている。
 「おーい、天海君、も一球行こう」
 「ウィ~来なさい」
 今朝は三田の顔が見えない、三田は今日は、風邪をひいて、病欠をしている。
 練習が終わり、部室で天海が一人で着替えをしていると、飛田が皆に言った。
 「え~、この部に、暴力事件を起こした者が居る、春季リーグに、不祥事を起こす屋からは必要ないと思う、なぁ天海君?」
 飛田は、3年の5人のメンバーで天海を囲み、右肩をギュッと握る。
 「ウィ~俺に何の用か?、気に入らないなら、こんな腐れた部辞めても良いぜ」
 「何~野球のどこが腐ってんだ表出ろい」
 「オイ、3年生、大人気ねぇーぜ、実力は天海がトップだ、変な言いがかり付けて、潰すのはもうやめてください」
 マネジャーの押本が、飛田を制止する、飛田は、蛇の様な、眼をして押本を突き飛ばす。天海は肩を掴んでる飛田の手首を軽く捻る。
 「いっ痛~いっ痛~、てめぇー、2年の癖に生意気だ、この野郎~」
 飛田は、左右の拳を、突き出して、天海の顔面目掛けて繰り出す。
 スイスイスイと、ボクシングのウィービングの様に、5発パンチが外れて、飛田は息を弾ませる。
 「ハァハァハァ、もう良い天海、次は無いからな」
 飛田と、取り巻き5人が、部室から出ると、部員の一同皆笑った。
 「アハハハ、ざまーねぇーな、あんなキャプテン要らねぇーよ、天海良くやった」
 「そーだ、アイツは、親のコネで、梅美林行くし、佐藤先生に付け届けして、汚ねぇー奴だ」
 「そーだ、天海君気にせず、野球やってくれ」
 次期4番候補の手島が天海を激励する。
 天海は、朝練を終え、屋上に上がった。今朝は8人程の、番長グループが、2年も交えて何か相談していた。
 真ん中に座っていた所山は、昨日のダメージも癒えぬママ、鼻にばんそうこうをして、天海をジーと睨む。
 天海は、8人組と、逆方向に歩き、マルボロを学ランの二重底になっているポケットから出して一本火を点ける。
 「オイ、天海、只で済むと思ってんのか?」
 「うぃ、金なら無いよん」
 「オイ、舐めてんじゃねぇーよ、ヤキ入れっぞ」
 2年の宮田と言う髪の毛の茶色い少年が、天海を恫喝する。
 「オイ、止めておけ、番格が昨日やられたばっかりだ、日を改めて外でブチノメソウ」
 所山は、宮田を制止して、8人組は、屋上から降りていく。
 天海幸司は、学業も優秀だった。青梅時代、大門中学校では、社会科以外は、常に1番を誇っていた。母は言った、
 「公立でも私立でも、偏差値70を超える所を選びなさい」
 父は言う、
「腕っ節と度胸が有れば、男はそれだけで良い、スポーツ、武道を極めろ」
 天海は、そんな両親の下で育てられて、人の話を、聞かない男になりつつ有った。
 禅行院流少林寺拳法仕込んでくれた従兄の天海大次郎は言った、
 「身の危険が無い時は、無闇に技を使うな、空手に先手無しと同じ理由だ」
 伯父である、天海幸一は言った、
 「文武両道、何方も疎かにしては行けない、府中の家に帰っても精進を怠るな」
 天海は、小学6年にして、青梅から福生まで、その暴力と狡さでシメテ歩き、組織の様な物を作った。小学番長グループは、その男、天見幸司をこう呼んだ。
 「ドップラー総統」
 幸司には、意味は分からなかったが、たまたまアニメに詳しい、岡本と言う少年が、付けた綽名だったが、小学生にとっては、それは、ギャグ以上に恐ろしい独裁者の、誕生で有った。そして、今年の4月、生まれ故郷、東八府中に帰って来て、己がいかに孤独か思い知った。
 屋上で、一人取り残された幸司は、先程不良達が座っていた場所に移動し、置いてある、コカ・コーラの缶に、タバコを捨てて教室へ戻る。
 2時限目が終わった、空き時間に、天海幸司は、次の授業、国語の教科書を忘れてしまった。何事も、文句を言われるのが嫌な幸司は、隣の机に座る、一ノ瀬直子の、机の中を物色した。
 机の中から、国語の教科書を取り出して、自席へ戻る。国語の教師は小野と言って、忘れ物に煩い教師で、廊下に立たされることこの上ない。
 受験が目的の幸司にとっては、痛手になる。その際一ノ瀬には泣いてもらおうと思った。
 授業が始まる前に、直子は天海の机に、自らの机を、引っ付けてきた。
 「オイ、何してんだ?」
 「ねぇ~天海君、教科書忘れちゃった、一緒に見よ」
 青くかぐわしい思春期の少女の匂いを嗅ぎ、幸司は、済し崩しに、直子と机を引っ付けて、授業を受けることになった。
 「幸司君て、勉強できるけど偏差値どれくらい」
 直子は、顔を近付けて幸司の耳元で囁く。
 「ウィ~そこそこだよ、てかよ、一ノ瀬顔近すぎる、キッスすんぞ」
 「嫌だ~天海君―」
 国語の教師小野は、余りに煩いので、「そこの2人、廊下に立ってなさい」
 二人は廊下に立たされて、10分ばかり雑談する。
 「見ろ、お前のお陰で立たされちゃったじゃないか」
 「良いじゃんたまには、ねぇ、キッスするとか言ってたけどしたことあるの?」
 幸司は、耳元を赤く染めて、
「有るわい、キッス何て口をブチュッとするだけだろ?」
 「あーやっぱ、未経験ね、私もしたことないモーン、あ、そだ、今二人っきりだし、して」
 幸司はドギマギして目を瞑っている直子の口元に軽く触れる。直子は、舌を出して幸司の口の中に入れてみた。
 「ウーン」
 ペロリと直子は幸司の口を舐めて、幸司は呆然としている内に、
 「ねぇ、もう一回して?」
 「い、嫌だよ気持ち悪りぃ~」
 その日の放課後、天海は、野球部の練習に、参加していた。
  新調された、ユニフォームを、着、バットとグローブを持ち、グラウンドへ出る。
 「よぉ、天海君、ピッチング練習が今日あるからマウンドに立ってくれ」
先に、ピッチング練習をしていた、飛田が、天海を睨み付けて、マウンドの土をわざと掘り、グシャグシャにしていた。
 「あ~終わったよ、天海マウンド荒れてるから直せば~」
キャッチャーの野田も天海を見てニヤニヤ笑う。
 土は、深く掘られていた。グラウンドキーパーで土を慣らして行くのがまず仕事になり、手島と桜田と言う2年の連中と、マウンドを直していく。
 案外深く掘られてい、時間が掛かった。
 「よ~し、ピッチャー来い」
 レギュラー捕手の野田が、ずっしりと座り、天海はウォーミングアップで20球程、キャッチボールして、天海はピッチャーズマウンドに立つ。「オイ、天海、気合入れて投げて来い、50球だ」
 この頃の天海は、軽く投げるだけで、切れの有るストレートを連発した。
 30球で野田のミットが破れ、補欠のキャッチャー前田に代わる。
 「よーし来い来い」
 「ウォース、三堀ファイト~」
 イッチニィーサン、三堀レッツGO」 
 各部活のグラウンドのランニングの声が響き、天海は初球思い切り投げる。142キロをマークし、前田はその手を腫らす。
 その頃、校庭の隅で、番格の、河野以下、30数人が天海を見ていた。
 番格の河野は、顎にギブスを付けて、ウンコ座りをして、天海を睨み付ける。
 「おー結構速いじゃねーか?オイ、天海腰が入ってねーぜ、女とやり過ぎたか?ギャハハハ」
 天海が、投球をしていると、石が飛んでくる、148キロ、高校生波の速球だ、しかも甲子園出場クラスだ。
 「天海ちゃーん、直子ちゃんとラヴラヴ~ん」
 天海は、無視を決め込み、速球練習に余念が無い。
 次は、バッティング練習だ。幸司は、バットを取りに、番格の河野の方へ歩みだすと、河野は腰が抜けて、後ろに後辞去る。
 「お、おう、やんのかオラオラ」
 河野は、コルセットの首を、庇いながら、天海目掛けて空振りパンチを、宙に放つ。
 「オイ、うっせーからどっか行け」
 夕闇が迫って来ていた、天海は、部室で着替え、汗を濡れタオルで拭き、歩いて一人ぼっちで帰路に着く。
 案の定、校門の前で、12人の少年が、待ち伏せしていた。
 ボンタンに、洋ランを背負っている、高校生の姿も有る。その高校生がリーダーらしく、山本一麻だと、天海は見て取った。
 山本一麻は、調布ルート是政のヘッドで、天海も名前と顔が一致する数少ない不良で有った。
 「オイ、ちょっと面貸しな、これから是政橋の河原で、処刑すっから悪く思うなよ」
 一麻は、稲城の、林山学園と言う、私立の高校に入っている。ボクシングをしてい、喧嘩無敗の異名を取っている男だ。
 「貸しても良いけど、高くつくぜ」
 山本は、先頭を歩き、12人の三堀中の不良と、天海を引き連れて、多摩川原に向かう。
 15分程歩いた。その間皆無言で、シーンと静まり返り、夜飛ぶコウモリの鳴き声が微かに聞こえる。
 是政橋に着く、ルート是政が20台程、単車で走り回り、天海処刑のお膳立てを整えていた。
 三堀中の12人、族が20数名を相手にどうやって闘うか、そんな事は関係ない、滅茶苦茶に殴って、討ち死にしてしまおうかとさえ思っていた。
 「オイ、タイマンだ、俺は素手でやるが、お前は武器、何でも使っていいから掛ってこい」
 「ウィ~、じゃ、遠慮なく行くぜ」
 天海は、初手の右ストレートを、山本目掛けて打つ。初手で勝負が決まってしまった。山本一麻は、グラリと足から崩れ折れ、力を入れようにも体の力が入らない、意識が有るが、草の上に、大の字に寝そべり、空を見上げていた。
 皆、唖然と立ち竦み、山本が一撃で倒された事実だけが残った。
 「あ~、気持ち良いな、俺の完敗だ、噂に聞いてた青梅のドップラー総統は、つええ」
 天海は、他に用が無いなら帰ると言って立ち去ろうとしていた。
 「よ~、ドップラー、俺達の仲間に入って、一旗上げないか?」
 天海幸司は無言で立ち去る。
 草の陰から、河原でトレーニングしていた、手島がこれを見て、天海は怖い奴だと知った。
 天海は歩き去って行く。
 翌日、KH250が、校舎裏の駐輪場へと来る。学生服、短ランにボンタンを履き、目にはサングラスを掛けて、校内を闊歩していた。
 1年の廊下を歩き、1年をシメている、田川と言う少年が、人数を引き連れて、その男、中嶋一利の後ろへ着いてくる。
 2年の廊下を歩くと、10人ばかり教室から出てきて中嶋の後ろへ続く。
 3年の皆は屋上に集結して、計46名の中嶋の手下が集まる。
 「オイ、俺が居ない間、河野がシメられた、しかも二年にだ、テメー等何してた?」
 「ハイ、その二年が滅法強いんです、中嶋さんなら勝てるかと思って、それにルートの山本さんもシメられました」
 「シメラレましたじゃねぇーよ、そいつ放課後、是政橋に連れて来い、タイマンで勝負付けてやる、分かったか?、じゃ解散しろ」
 その日の授業は終わった、天海は、野球部の部室へ入ろうとすると、4人の3年が天海を捕まえて、腕を取る。
 「オイ、ちょっと来て貰おう、今日こそお前の命日だ、アハハハ」
 天海は、面倒臭くなり、4人の男に従う事にした。
 天海の内申は、すこぶる悪い、青梅時代の資料を持つ、教師は、務めて放課後暴れない様に気を使い、野球部に入れたのであった。
 今日は少し、春の気候にしては涼しい、気温は最高で12℃と言った具合で、ポツリポツリと、春雨が降っていた。
 是政橋の橋の下で、計10人は居ようか不良学生が集まっていた。
 天海は4人の陰から出て中嶋と対峙していた。
 「あ、おめーどこかで見た面だな」
 「アンタこそどこかで会ったね」
 「確か、天海とか言ったな」
 「アンタこそ中嶋とか言ったっけ」
 中嶋は、ショートホープをポケットから取り出して、タバコに火を点ける。
 「オイ、天海、俺の手下を何人か痛めつけたな、俺はお前と闘いたくはない、しかし、手下をやられて黙っているんじゃ番長をやってられない、今タイマンで蹴り付けるが悪く思うなよ」
 天海は、無言で着ていた学ランを脱ぐ、中嶋はボンタンの裾を払いながら、いきなり先制の右ストレートを放つ。不意を突かれた天海は顔面に一撃浴びる。
 力が抜けた、強烈無比の右ストレートで有った、次にボディーにフックを一発お見舞いさせて、天海のデコに頭突きを入れる。天海は、ヨロリとなり、中嶋に組み付く。どうにも右ストレートが効き、体の力が抜けた様になっていた。
 「オラーもっと根性入れて掛かってこい」
 2発3発と、中嶋は頭突きを入れる。
 天海は、タイミングを計り、頭突きの目標の額に、拳を添えて、頭突きに当てる。天海の作戦は見事的中し、中嶋の額に拳が刺さる。天海は体勢を立て直して、少し離れた場所へ移動する。
 「オイ天海、逃げんのかよ?」
 天海は、大きく呼吸して、中嶋の近くへ戻る。
 フェイントを掛けて中嶋の、コメカミに、左のフックをお見舞いさせる。中嶋は少し、スウェイしたが、拳がモロに入り、ヨロリとなる。天海は、先程のお返しとばかり、頭突きを連打する。1発2発3発中嶋は、思わず仰け反り、右のストレートを又もや決めに来た。天海は仰け反った中嶋の顎に思い切り頭突きを入れる、
 中嶋は、堪らず口の中を切って血の唾を吐く。
 見物している、一同息を呑んだ。天海はグロッキー寸前になっている中嶋の、左顔面へ、空手で言うところの正拳二段突き入れる。良くスナップの効いた右ブローが決まり、中嶋はその場で倒れた。
 物陰から、一部始終見ていた野球部の手島は、ポラロイドカメラで天海が、中嶋を倒す場面を収めた。
 「よう、天海、このお礼は後でたっぷりさせて貰うぜ、今の内だけ粋がってな」
 3年の、友田と言う男が、天海に捨て台詞を吐き、歩き去って行く天海を見送っていた。
 小雨が降りしきる多摩川の橋脚を見つめてマルボロを一本出して吸う。
東八連合
 春の長雨が続き、ここ三日程野球部の練習は、中止している。
 天海幸司は、東八一のワル、中嶋を倒して、一躍東八府中に、その名を知られるようになった。
 天海は、校舎裏でマルボロを吸っていると、ゴソゴソと、不良が3人歩き回っているのが見えた。
 3人組の不良は、バッグ何かを詰めてマルボロを吸っている、天海の近くに寄って来て、「テヘヘ」と笑い、バッグを下へ置いて話しかけて来た。
 「よう、兄さん2年か、俺等、出物を売ってるんだけど何か欲しい物有る?」
 3人組は、一人は田所と言い、少し天海より背が低く、頬に赤アザが出来ており、見るからに、人懐っこい表情を見せていた。もう一人は、赤田と言い背が高く青白い顔をしている。そして3人目は、久我と言うらしい、丸い眼鏡を掛けて顔面半分ニキビ面だ。
 「何か欲しい物って何が有る?」
 田所は、VHSのビデオテープに、ファミコンのカセット、後はアクセサリーや時計、それに、暴走族のステッカーを持ち歩き、鞄に入れていた。
 「ウィ~このビデオは何のだ?」
 「おお、裏だ、裏ビデオ、1本お買い得価格で三千円にマケてやんぜ」
 田所は、バッグから、2本出して天海は嫌な顔をする。
 「天海、そんな奴らの物を買うと、ロクな事にならないぜ止めといた方が良い」
 背後から声がする、振り向くと三田が、セブンスターの箱を取り出して火を点ける所であった。
 「何だ三田、折角客になって貰おうと思ってたのにケチ付けるのか、何がロクな目にあわねーよだ、お前なんかどっか行けよ」
 赤田は、三田の胸倉をつかみ、パンチを一発入れる。
 「ハハハ、効かねーよ、そんなパンチ、お前等、東八連の下っ端何か怖かねーよ」
 1時限目のチャイムが鳴る、皆、バラバラと散って行く。
 昼休みになった、2年の不良共が慌ただしく動き回っている。三堀中2年をシメテいるのが、2年7組の横山文次だ、身長180cm体重120キロの巨漢だ。
 今年度の、柔道部のエースらしい。
「天海君、2-7の横山が、君の事狙ってるらしいよ、調子こいてるからシメルって、アイツ、一ノ瀬に惚れてるから、その事で放課後君に用が有るって、体育館裏に来いってよ、言ったからね、俺は、じゃ頼むよ」
 2年2組の、坂野と言う番長の子分が、やって来て、一方的に喋り去って行った。
 同じクラスの、山本と、川路と言う、ちょっとツパッタ男達が横から話を聞いていて天海の所に寄って来ていた。
 「オイ、天海よ、嫌な奴ににらまれたな、俺等も手助けするから、あんなデブ皆でノシちまおうか」
「ウィ、俺一人で充分だ、余計なことしなくて良い」
 その足で昼休み、旧校舎の屋上に上がってみた、そこは施錠されておらず、誰もいない空間だと思い、行って見ることにした。
 コツコツと、旧校舎の非常階段を上る。薄暗闇が辺りを漂い、蛾が一匹天井に止まっているのを見て、少し寒気がした。
 屋上の扉まで歩き、ドアーを開ける、パッと急に明るくなり、視界が開ける。
 「おりゃー」
 ドスバキズゴ。人が二人居てタイマンを張っている様だ。
 3年の上野と同じく倉田と言う、空手をやっている者同士だ。天海は、そんな事は知らない。
 「りゃー」「どりゃ」掛け声も荒く、2人はフルコンタクトで打ちあっていた。顔面への攻撃も有りで戦っている。
 天海はフェンス脇まで歩き、タバコの火を点ける。2人の空手家は、必死の形相で殴り合い、天海の事などは、気にも留めずに只管殴り合う。
 3分程見ていると、上野の放った、正拳が倉田の打ち返した正拳とが、交錯し上野がダウンする。 
 「ハァハァハァ、オイ、空中流をナメんなよ、2度と俺を馬鹿にするんじゃねーぞ」
 倉田は、血の混じった唾を地面に吐いて、屋上から歩み去る。天海の方をチラリと見た。
 「オイ、天海、今見たこと人に言うなよ」
 ニヤリと笑い、倉田は歩いて行く。天海は一服付けて吸い終わると、KOされている上野を見て歩き去る。
 雨が降り続いている、下校は今日は早く出来た。
 野球部の面々は、練習が無くなり、雨天の中、各々バットやグラブをケースに入れて帰宅していった。
 学校の周りを、改造した単車が走り回る、赤や青のタンクに、マフラーが切って有ったり、後ろに煙突の様に高く上げたのもいる、天海幸司は、放課後、居残る事もなく、家路へ向かう。
 校門の脇に3人の髪を染めた少年が、立って出て来る生徒を、首実検をしている。
 「オイ、天海って奴はどいつだ?」
 2年の村中と言う少年が、捕まり聞かれた。
 「ハイ、あそこ歩いてる奴です」
 折しも天海幸司は、傘をさして校門の所に差し掛かろうとしていた。
 「本当にアイツだべ?」
 「はい、本人に聞いてください」
 村中は、走って逃げる。1台のY31型シーマが、校門の脇に止まってい、中から長身のパンチパーマの男が出て来る。
 「いよっ天海君」
 「ウィ?」
 天海幸司は、返事をすると、パンチパーマの男が肩を組んできた。
「お前が天海か?、ちょっと一緒に来てくれ」
 「ウィ?ルパンの再放送見たいからなぁ」
 「それより、飯奢ってやる一緒に来いよ」
 パンチパーマの男は、天海をシーマの後部座席へ押し入れる。一人の少年が後部シートで待機していた、天海は、ヤハリと思い、その少年3年で野球部エースで4番のキャプテン、飛田を見た。
 「よお、良一に天海、何が食いたい?」
 飛田の名前は、良一と言うらしい、天海は、
 「かつ丼が食いたい」
 と言い、飛田もそれで良いと言う。車は滑り出すように走り、周りをうろついていた族車は、何処かへ消えて行ってしまう。
 「おう、駅前の、永住軒で食うか」
 天海は、窓の外の景色を眺め、府中の町並みを見つめていた。
 車は、府中の駅前に着き、そこかしこで路上駐車をしている車の列で、空いているスペースを選び路駐する。
 3人は、雑踏の中、路地へ入り一軒の日本そば屋を見つけて入る。
 暖簾に、永住軒・と書いてある。中へ入ると、客は居なく、3人だけの形になっていた。
 「オイ、かつ丼3人前に、ザル大盛で3人前だ」
 3人は、座敷に座り、天海の隣に飛田が座る。
 「おーよー、俺はこいつの兄貴良太つーんだヨロシクな」
 「ウィ、んで何の用かな?」
 「どーだ、野球何か辞めて、俺達の仲間に入んねーか?、お前も聞いたことあると思うけど、東八連合の中学生部隊、府中日章舎で、暴れてみねぇーか?」
 「ウィ?何だそれは?」
 天海は、マルボロを取り出して、一本火を点け様とすると、飛田良太が百円ライターを差し出す。
 「日章舎は、中嶋が筆頭の、東八連合予備軍で、中学生が主なメンバーの愚連隊だ、野球は良一に任せて、お前やれよ、中嶋倒したんだろ」
 一気に飛田良太は、話して、出されたかつ丼を掻っ込む。
 天海もかつ丼を食べて、良太の方を見つめて言う。
 「で、おまいは何者だ?」
 「俺は、東八連合のOBよ、一応5代目のNO4だったけどな」
 「フーン」
 天海は、興味無しと言った顔で、ザルの大盛を、掻っ込む、良一は、天海の反応が鈍いのが気に入らないらしく、目に不満の色をたたえていた。
 良太は、日本酒を注文して、2人のお猪口に注ぐ。
 天海は、まんじりとせずに良太の顔を、見ていた。
 場外弾
 4月も後半になり、東京都多摩地区の春季リーグ大会が始まった。対戦形式は、トーナメント制で、多摩Aブロック、三鷹、武蔵野の武三市、調布、狛江、府中、稲城の東八市、それらが多摩Aブロックである。
 開会式は、無事行われ、初日は、府中球場で、第一試合、三堀中の対戦相手は、武三の強豪、前大会のチャンピオン、武三中学が、相手であった。
 第一試合と有って、皆の注目が集まり、全国の高校から、スカウトが見に来ていた。
 第一試合は、午前10時スタート、プレイボール。武三中のピッチャーは、エース中山久である。
 中山は、出だしに1回の表、4番の飛田にタイムリー2ベースを浴び、2点失い、その裏、飛田は、快調な滑り出しで、3人で仕留める。
 ダッグアウトでは、補欠の天海幸司がベンチ入りし、バットを振っていた。
 2回、武三のエース、中山久は、気を取り直したかの様に、3人でピシャリと抑える。
 その裏、武三の4番でスラッガー角山が、レフト越えのソロを放つ。
 少し飛田は、動揺し、続く5番中山久に、甘い内角球を、これも又、レフトに運ばれて、2者連続HRを浴びて、タイムが掛かる。
 正捕手野田と、サード桑野がマウンドに行き、
 「オイ、マグレマグレ、お前何か今日悪いもの食ったか?」
 野田は、冷やかしに飛田に言うと、
 「いや、昨日な家族でレバ刺し食ったんだよ、それが効いたかな?ナハハハ」
 サード桑野は、黙って見ていた。
 「じゃー、次の回ウンコして来いよ、あんな奴等普通に投げてりゃ打たれないって」
 「そーさな、俺のシンカーで三振の山築いてやんよ」
 タイムが、解けて飛田は投球モーションに入る、6,7,8番と打ち取り、スコアは2対2だ。
 ベンチに座る補欠たちは、大声で声援を送る。
 続く3回、先頭が出るも続かず、ダブルプレイ。2ダウンランナー無し、打席には好調、山寺一平だ。
 2ストライク3ボール、追い込まれた山寺は、セフティーバントをし、上手く、投手脇に転がす、一塁ベースに滑り込む、ヘッドスライディングで何とか、一塁を、陥れた。
 続く2番打者の、山中は、2球見た後、良い当たりを、レフト前に運んだ、と思った時、レフトの守備が定位置より前で、ライナー飛球になりアウト。
 その裏、武三中は、猛攻を見せた。9番から始まる打順だ、9番大宮が、ライト前に落とすと、続く1番が、左中間を破る2ベース、1点を取りスコア、3対2だ。
 続く2番も、センターへゴロで抜けるヒット、セカンドからホームに帰って来て、4対2、続く3番、調布リトル出身の、前川信吾が、バットを2本振り、1本投げて出て来る。
 「ヘーイ、ヘーイ、ピッチャービビッテルー」
 飛田は野次に反応し、
 「ビビッテねーよ」
 飛田は震える手で、3番の前川に第一球を投げる。
 甘くスライダーが入り、左打者の前川は、内角の打ち頃に来た球を、思い切り引っ張り、ライトフェンスを直撃す、2ベースを浴びる。
 スコアは、5対2。
 そして、先程ホームランを浴びた、因縁の4番角山、中学通算62ホーマーの大物が相手だ。
 飛田は、気を取り直し、第一球を投げる、内角低めのストレートだ、良いコースに決まり、1ストライクを取る。ボールが返って来て空かさず2球目、外角低めに、決め行く。角山は、狙っていたかの様に、腰を落として、外角の球を、ライト線へ運ぶ、一気にランナーが返り、6対2だ。
 タイムリー2ベースを又もや浴びて、飛田はガックリ来る。
 そこで、タイムが掛かる、急遽、肩を作っていた控えの2番手投手、追田が出て来る、追田は3年で、左の本格派で、MAXスピードは、140キロは出る剛腕だ。
 「オイ、追田肩出来たか?」
 佐藤監督が聞くと、
 「ハイ、充分です、斬って取りますよ」
 5番は、エースで5番の中山久だ、これも先程、HRを打って調子付いている。
 追田は、落ち着いて、第一球を投げる、ド真中のストレート、1ストライク、2球目、これもストレート、狙いすました中山は、セカンドライナー、ショートがセカンドに入り、飛び出した角山は、ゲッツーに取られる。
 続く6番は、ショートゴロに打ち取り3アウトチェンジ。
 試合は、7回に入った。両軍3回から試合が動かず、0の行進で有る。
 8回、三堀中は、2点を返し、6対4と2点差に追い込んだ。
 その裏、追田が、角山にソロを浴びて、7対4の、3点差と引き離される。
 ここで、監督が動いた、控えの3番手として、温存していた、天海を指名した。
 堂々たるデビューで有った。投球練習を10球、見ただけで相手バッターはタジログ。
 たまたま、観戦に来ていた、西武ライオンズのスカウトマン、近藤は、天海のスピードを、ガンで計測して驚いたり呆れたりした。
 1アウトランナー無し、天海は初球、5番の中山久に、ど真中直球がやや外れ、ボール、天海は首を捻り肩をグルグル回す。第2球投げた、中山は、バットを目一杯短く持ち、ファールする。
 球速146キロをマークしていた。
 続く3球目、ナチュラルに変化する、スライダーが決まり、空振る、4球目、中山久は、タイミングだけを計り、目を瞑って強振する、空振3振。
 1アウト、ランナー無し、6番、シュアーなバッティングで有名な、太田真が、バッターBOXに入る。
 「さぁ~来い~」
 太田は、大声を上げて、威嚇する。
 天海第一球を投げる。ズバ、太田は、強振し見事空振る。各校のスコアラーが、天海に注目する。
 太田は、結局3振に終わり、7番バッターに、代打が送られた、怪我で控えに回っていた、東北福島から、二年時越してきた、3年、別名東北のバース事、矢井山が出て来た。矢井山は、天海と目が合いニヤリ笑う。天海もお返しに笑う。
 矢井山は、前大会、HR5本の活躍を見せたが、ランニング中足を痛めて、今大会は、代打専門と言う事らしい。左バッターである。
 天海は、第一球を投げる。キィン、矢井山のバットに当たり、バックネットにファウルした。1ストライク、天海は、空かさず、2球目を投げる。
 カィーン、矢井山の打った打球は、レフトスタンドに吸い込まれたように見えた。
 「おおー」
 場内どよめきの声が上がった、矢井山の打球は、レフトポール10cmを外して、ファールになる。
 天海は、フゥ―と溜息を付き、ボールを投げてもらう。
 第3球、キャッチャー野田は、中腰に立ち、ミットを構える。天海は投げた、渾身のストレートで有った。矢井山は、思い切りバットに合わせる様に振り、ズバーンとミットに決まった。三振に斬って取った、真に天海の三振ショーで有る。
 次の回は6番からで、8番に入っている天海の打順に回る。6番高田、7番中田と言った打順で有った。
 6番高田は、疲れて来た、中山を攻め、フルカウントまで持って行くも、セカンドゴロに斬って取られる。
 7番中田は、途中出場の補欠である。
 (三堀―ファイトファイト、カッセカッセ中田~)
 学校が、派遣した応援団が中田コールを叫ぶ中、中田は、大飛球を、センターに飛ばす、センターバックして、フェンス際でこれを捕球する、2アウトランナー無し、残る最後の一人となるか?天海。
 天海幸司は、中山の球を見て思った。
 「アレなら大門中の、木佐貫の方が速えーな」
 独り呟く、天海は鋭いスイングを2回見せて、バッターBOXに入る。
 「さぁ~最後だ、閉まって行こうぜ~」
 武三中のキャッチャー角山が、吠える、天海は初球を手も出さずの見逃す。
 第二球目を、中山は投げた、又もや天海は打ち気も見せずに見送った。
 第三球投げた、キィン、天海の打った打球はレフトポールを左に外れて、ファールとなる。
 第4球中山は、大きく深呼吸して投げた。
 「キィーン」又もやレフトポール際に運ぶ、中山は顔が青ざめる。
 「ヘイ、閉まって行こう」
 角山は、立ち上がり大声で怒鳴る。
 第5球、中山は投げた、すっぽ抜けのチェンジアップの様な球だ、天海はググっと堪えた、球は手元に来る、その時天海の目が光る、カキィーン、打球はレフトスタンドを超え場外に消えて行った。試合は7対5で、敗北を喫した。天海幸司、唯一の公式戦で有った。
 ドロップアウト
 5月も終わりに近付いて来た、春の陽気も終わり、初夏の様相を呈してきた、まだその前に梅雨が有るが、まだそれまで間が有る。
 野球部の方も順調に事が進み、天海幸司は、職員室に、飛田と二人呼ばれていた。
 午後4時、まだ日は高く、夕暮れ時には、少し間が有った。
 「先生、一体何で、僕と天海2人だけ何すか?」
 「おい、飛田率直に言おう、お前は肩を壊している、夏の大会には、天海をエース、5番として据える、お前は当分ライトを守り、怪我の治療に専念してくれないか?」
 飛田は、顔が青ざめ唇を震わせて、佐藤教諭を睨み付ける。
 「天海もそれで良いな、お互いスポーツマンだ、ここで握手してくれ」
 「しかし、天海は2年だ、まだまだです」
 「黙れ、俺の方針に従えないのか?」
 2人は、握手を交わし、肩をすぼめて飛田は歩いて職員室から出て行く。
 天海は一人残され、佐藤教諭から訓示を言い渡される。
 「天海、お前の過去は過去、これから野球一筋で頑張ってくれ、3年のワルの挑発に乗らないで喧嘩は御法度にしてくれ」
 天海は、無言で頷き職員室から出て行く。
 この頃、天海は、2年6組の、川本佐苗と付き合う様になっていた。
 佐苗は小柄で、ギタークラブの、部員をしていた、乙女であった。天海幸司、14歳にして初恋の相手であり、今や、飛ぶ鳥を落とす勢いの天海旋風の中に有って、女の子を得た幸司は、少し浮かれていた。
 天海は、野球の練習が終わると、校門で毎日佐苗と待ち合わせて、三堀町の自宅に帰る事にしていた。
 「ねぇー天海君、キッスして」
 佐苗は、天海にしな垂れかかり、公園のベンチで、2人キッスを交わした。天海は、佐苗のバストを揉み、佐苗は「アン」と喘ぐ。
 そんな、逢引きが毎日のように続き、幸司は嬉しくて学校生活が楽しかった。
 平和は続かなかった。
 6月の中旬に入り、そろそろ、梅雨前線が、北上し、梅雨の時期が近付いてきた、そんなある夜。
 幸司と佐苗は、日曜日、原宿にクレープを食べに行った。幸司は、青いアロハを着て、チノパンを履き、サングラスで決めていた、佐苗は、白とピンクのセーラーズのワンピースを着て、足元はコンバースの靴を履いていた。卸し立てのコンバースの靴が白い夜空に浮かび、佐苗は青春を満喫し、この世の春を、謳歌していた。
 「ねぇ、幸司、スタンダーズのライブがこの近くでやるらしいよ」
 「ウィ?何で知ってんの?」
 「だってさ、さっきナンパして来た男の子から聞いたんだもーん」
 2人は、路上ライブ、ホコ天のスタンダーズのライブを見に、表参道を歩いて見に行った。
 「セギュナベリー、ワンスモア、あの日の思い出-♬」
 スタンダーズの、路上ライブを、見て帰りは9時になった。
 府中駅に着いたのは、10時半。遠くで近くで、族のレーシングコールが木霊する。
 駅から2人は歩いて帰る、三堀町の、街角で2人は家に帰る為、別々の方向に分かれて帰らなければならなかった。
 「ねぇ、幸司、分かれとお休みのキッス」
 白いうなじが、妙に艶メカしくて、天海は抱き着き、深くキッスを交わした。
 天海は、三堀町2丁目の高級住宅街の方へ歩み去る。佐苗は別方面へ歩き去り、振り向いて幸司に、
 「バァーイ、また明日ねー」
 笑顔で二人は手を振り合う。
 佐苗は、三堀を抜け、浅間山の方へ夜道を女一人で歩く。
 浅間山公園の脇へ差し掛かると、10台程の、暴走族の群れが何処からともなく、15人程単車で走ってくる。
 マスクをした15人で、淡く光る月光に、東八連合の、ステッカーが光を帯びてボヤ~と浮かび上がる。
 単車の群れは、佐苗を取り巻く。
 「よぉ~、おめぇ天海の女だってな、ちょっと面貸してくんな」
 単車は止まり、路上に放置して、佐苗の腕を掴み、公園の中へと連れ込まれる。
 「イヤー、やーだ、止めて、警察呼ぶわよ」
 このグループのリーダー格と思しき少年が、顔に着けていたマスクを取る。
 飛田良一で有る。
 「あ、アナタ、飛田先輩、止めて下さい、学校に、先生に言いつけるわよ」
 「ヘヘヘ、面付きと言い俺の好みだ、俺が一番に味見すっから、皆見ててくれ、へへへ」
 飛田良一は、平手で、佐苗の頬を叩き、草地の上に押し倒す、良一は、佐苗にのしかかり強引にキッスをする。
 「アグゥ~や、止めて~」
 飛田は、佐苗の良く引き締まったボディの秘部をまさぐり、他のメンバーも、暴れようとする佐苗を押さえ付ける。
 「お~、まだ濡れてないぜ、誰か、クンニしてやれ」
 少年が、佐苗の股間を押し開き、口を付けて、舌を使い、ジュルジュルと吸い出す。 
 「あんぐぅ~やだやだ、幸司―助けて~」
 飛田は、佐苗の口の中に、ペニスを突っ込み、怒張したところで、佐苗の、秘部に触ってみた。
 「ケッヘヘヘ、濡れてんぜ、格好付けても、所詮、メスだ、皆俺が一番で、次は、仁平行けぇ」
 飛田良一は、ペニスを、可憐な乳房を揉みながら、挿入する。佐苗は、抗うすべも無くされるがままになっていた。
 15人、佐苗に乗り終わると、飛田良一は、ポラロイドカメラで、あらゆる体位を写し、Z400GPの後部シートに乗り去って行く。
 翌日から、川本佐苗は、登校して来なくなっていた。天海幸司は、何度も佐苗の自宅に、訪れたが、会ってくれない、門前で、払われる様になった。
 天海幸司の学校生活は、少し落ち込んだ形になった。
 6月の中半、天海は佐苗を、府中の駅前で見かけた。数人の、化粧の濃い女達と一緒に喫茶店へ入って行くのを見た。
 天海は、フラリと着いて行き、その喫茶店、夜蝶・と言う店へ入る。
 女たちの他に、不良の高校生も、多数居、R&Bが流れる店内で、グループは、天海を見出すと、顔を険しくして睨み付ける。
 「何だよ、スーパースターの天海君じゃないか、何しに来たのーんこんな場所に?」
 府中の族・東八連合の猫目小僧のメンバーが、天海を見て、皮肉交じりに言う。
 「あら、幸司ちゃん~、アタイのオッパイ又揉んでくれるのーん?」
 佐苗は、人が変わったかの様に天海をからかう。
 「ハハハ、天海、ビックリしたか?、佐苗は、俺のスケだ、おめぇーみてぇーな、半端者には用がないってよ」
 族のメンバーで、三堀団地に住む、三浦と言う男が、天海を挑発する。
 「おう、天海君、佐苗は皆の女だ、お前も欲しかったら、俺たちの仲間に入れば、コイツのコーマン味合わせてやるやんぜ、ギャハハハ」
 天海は、ブルーマウンテンを頼み、佐苗の方を見る。天海と目が合うと、佐苗は下を向き、口パクで、さよなら、と言って店から出て行く。
 「なぁ、天海、中学何か行かないで、俺達と遊ばねーか?ヌハハハ」
 天海は、着ていたブルゾンを脱ぐ、女達も、男達も、スワッと立ち上がり、手に有る者は、木刀を持ち、有る者は、ビール瓶持ち、各々身構える。
 「フンッ、下っ端が相手じゃ詰まんねーけど、全員叩きのめされたいのか?」
 天海は、恫喝すると、一同、手に手に凶器を持ち、8人の男女は店から出る。
 「天海、お前も表出ろや」
 天海は、黙って店から出る。路地一杯に、不良グループが、前後を固める。
 不良共は、天海が店から出て来たのを見計らい、化粧の濃いレディースのリーダーらしい者が、鉄パイプで殴り付ける。
 グシャッ、鈍い音を発して、鉄パイプを持つ、右腕の関節が外される。
 不良達は、一瞬タジロギ、気を取り直したかの様に、殴り掛かる。天海は、前からくる、女に手刀を首筋に入れ、後ろに立っているリーダーの三浦に走り寄る。天海は飛んだ。
 ゴン、と鈍い音を発して、天海の踵が、飛び前蹴りで、三浦の肩に決まる。
 「おう、見たか、虎の蹴りだ、死にたい奴は来い、次は別の技見せてやんぜ」
 三浦は、右肩を押さえて、地べたでノタウチ回る。不良共は、後退して、三浦を担ぎ、何処かへよろよろになりながら消えていく。
 天海は、空しくなりその場から立ち去って行く。
 数日が経ち、天海は、野球部の練習試合で、調布国領中に赴いた。
 国領中は、大正時代からあり、野球も盛んで、スポーツ校として、認知されていた。
 天海は、先発し、2安打無失点で、5回まで投げ抜いた。打つ方は、3安打と、三堀中も振るわず、精彩を欠いたバッティング内用で有った。
 打つ方のヒーローは、2年で、同級の手島が3打数2安打打点2と活躍した。
 帰り掛け、天海は、飛田、坂下、野田と言うメンバーに調布の駅前に誘われて、喫茶店に連れて行かれた。
 喫茶、天安と言う店に入り、飛田は、入るなり、一礼する。
 奥に学ランにボタンが多く付いているどう見ても堅気ではない、3人の高校生の下へ歩いて行く。
 「よー、飛田じゃないか何しに来たの?」
 「はい、ちょっと国領で練習試合が有って」
 3人の不良高校生は、タバコをスッと出すと、飛田が、ライターをスッと差し出して火を点ける。
 「まぁ良いや、そこの3人も座って茶でもしな」
 飛田を筆頭に、4人は、アイスティーを頼み、カレーを頼む。3人の高校生は飛田の方を向いて、思い出したかの様に、言う。
 「そーいやよう、家に置いてあるSS350,何時取りに来るんだ、飛田君」
 「いや、アレ要らなくなりました、そっちで処分して下さい」
 「何ィ、今更言われても、てめぇーにやろうと思ってたんだ、文句あんなら表へ出ろい、ヤキ入れんぞ」
 飛田は、驚きたじろぐ。
 「じゃ~、ここにいる天海、単車何か一台どう、乗った事有る?」
 天海は、ここに居る、高校生3人組に睨まれて、フン、と鼻で笑い。
 「単車は、乗った事は有るけど、今ん所要らないよ」
飛田は、顔にしわを寄せて声を荒げて言う。
 「そんな事言わないでさ、じゃーこうしよう、一時預かってくれれば良い」
 「ウィ~」
 天海は、済し崩しに。SS350マッハを、預かることになった、高校生3人組の一人、国土館高校二年の、山田と言う男らしい、山田は、事故ると面倒だから、調布の自宅から、府中の三堀町まで、自ら単車に乗って届けてやると言う。
 「で、帰りどーすんスか?」
 飛田は、バスの本数も少ないし、駅までちょっと遠いいと言い、気になって聞いてみた。
 「まぁ、歩いて帰えんべ、で君、天海とか言ったっけ、家の地図教えてくれ」
 天海は、周辺の地図を、描いてやり、分かり易いと言い、山田は喜ぶ。
 それから数日経った、天海幸司が、深夜勉強をしていると、表に2台単車が家の前に止まる。幸司は、窓の外を覗くと、SS350にRZ250が、門前に止まって、2人の男がヘルメットを取り、こちらを見ていた。
 「天海君ぅーん単車持って来たぜ」
 折しも、父も母も、何かのパーティーで不在であった。姉の雪が居間でTVを見てい、音が良く聞こえない状態らしく、出てこない。窓の外へ大声で言う。
 「ちょっと待ってちょ、今から行く」
 スピードスターのカズ
 東京都東八市府中、三堀団地、午前0時、6台の単車が、団地内を爆音を轟かせて、入ってくる。
 上宮一貴、19歳、横山正平、17歳、田中聖子17歳、国田政明、19歳、宮本伸、19歳、林元春、16歳、何れも、高校へは行かず、昼間働いている、勤労少年達だ。
 皆、各々改造マシンを駆り、夜の街を流す、そんな毎日で有った。
 リーダーで有る、上宮一貴は、三堀団地の、中へ入ると、解散の合図を告げて、一人勝手に、自宅のある、6号棟の302に帰って行った。
 一貴は、部屋へ入ると、誰にも何も言わず、家族の事など無視し、寝床へ入り寝る。
 本日は、野球部の練習をサボリ、自宅へと急いだ。少し雲が出て来て、小雨がはらりと降ってくる。天海幸司は貰ったカワサキSS350の事が、一日中気になり、ソワソワしていた。
 幸司は、家へ帰ると、学校のジャージに着替え、車が4台入るガレージの、片隅に置いてある、SS350マッハを取り出して、タンクを乾いたウェスで拭い、エンジンを触ったり撫でたりしていた。
 フッと、思い立ち、部屋へ戻る。着ていたジャージを脱ぎ、ジーンズに着替え、白いブルゾンを羽織、ガレージに降りる。ガレージは、家の脇に位置し、屋根が付き、4台分の駐車スペースには、今は車は無く、父の趣味である、CB50のカフェレーサー仕様改造車と、SS350マッハが、ポツンと取り残されたように置いてあった。
 ガレージに置いてある、ショウエイのフルフェイスのヘルメットを被り、SS350を、出し、キックでスタートさせる。イグニッションは、ON
だ、エンジンをスタートさせ慎重にクラッチを繋ぐ。
 一路東八道路沿いの、ブックス・パール・と言う店に単車を着けて、中へ入る。車整備の本を5冊程買い、家路に着く。
 本の包みをリア―の荷台へ、括り付け、単車を東八道路へ滑り出させる。
 ショウエイのフルフェイス越しに見る街は、灰色掛った、モノクロームに写る。
 単車を走らせ、5分程で自宅のガレージに着く。
 家の前で、単車、カワサキ、SS350通称マッハを、洗車する。濡れたウェスで、フレームを拭い、エアクリーナーを抜き、掃除機で良く吸う。
 夜も9時を少し回った。甘い花粉の香りが、漂い、生暖かい南西風が吹く。花粉が鼻穴に入り、近所のサラリーマンが、大きくクシャミをした。
 三堀団地、6号棟の302号から、赤いアライのフルフェイスを、小脇に抱え、右手に愛車NS400Rの、イグニッションキィーを、チャラリと手で弄び、階段を降りて来る。
 その男、上宮一貴は、昼間は、内装業、富山内装に勤務し、夜は、夜な夜な街を単車で流す、暴走族ともローリング族とも付かぬ、本人曰く、【走り屋】として、慣らしていた。
 一貴が単車の前に立つと、4人の少年少女が、赤と白のブルゾンを羽織り、背中に背中に、SPEED・STAR・のエンブレムが刻まれている。
 4人は各々、単車に跨り、一人は、女子で17歳、田中聖子、RG400γ、昼は、パートで弁当屋【スナッチ】に勤務。もう一人は、国田政明、19歳、昼間は不定期でバイク便【スマッシュ】に勤務、マシンはTZR250・Ⅱ型をネイキッドに改造して乗っていた。も一人は、少し大柄な男で、CBX750Fをネイキッドにして乗っており、昼の顔は、富山内装、一貴と同じ職場で働き、夜はマシンを駆る。
 そして、チーム最年少の、林元春16歳、マシンは、ウォルターウルフのRG250γに乗り、少し悪ぶって、サングラスを掛け、赤いブルゾンの中には、金の刺繍で、ドラゴンの図柄の入った黒いシャツを着ていた。
 昼間は、中松不動産で働き、余暇にボクシングをやり、B級でプロテストに合格している。
 そんな5人が今夜は集合していた。
 一貴は、そんな4人を一瞥もくれずに、マシンに火を入れずに、駐輪場から出す。
 駐輪場の出入り口に、林のマシンが有り、一貴は一言、「どかせ」と言い置き、バックでNS400Rの車体を取り出す。
 一貴は、マシンを、セカンドミッションに入れて、徐に、走る。その際クラッチレバーを切りながらだ。
 走り出し、勢いが付くと、クラッチレバーを離す、マシンは息を吹き返し、猛然と2ストオイルを、撒き散らしながらアイドリングさせる。
 一貴は、マシンに飛び乗り、三堀団地から、ロケットの様に出て行く。残った5台は後ろに続く。
 NS400Rは、東八道路を、三鷹方面へダッシュする様に走る。10分程で三鷹の大沢付近に到着する。
 大沢の天文台の前で、族が集会をしていた。
 族の名は、武蔵野、三鷹に根を張る、武三ペスターだ。一貴は、武三ペスターの集会の、真っただ中単車を入れて止める。
 「おう、ヘッド、一貴の奴来ましたぜ」
 ヘッドと言われた男、大和久志は、身長は174cm、体重は65キロと、痩せ型で、美男子の部類に入る。ヘッドの大和久志は、「おう」と一言言い置き、特攻服の上着を脱ぐ。
 武三ペスターは、その構成員は、140人とも160人とも言われている、東京の大手の暴走族だ。そのペスター第18代目に、君臨してるのが、大和久志18歳になる少年で有る。
 一貴は、白いブルゾンを脱ぎ、愛車のNS400Rのカウル部分にかける。
 「良し、この間のタイマンの続き行きましょうか?」
 「ふん、便所行きたくて逃げた奴が、偉そうに言うなよ」
 スピードスターの、一貴はイキナリ右のフックを、大和にお見舞いさせる。大和は躱しきれずにもろに顔面に入る。
 1時間後、東八府中、三堀町の三堀公園で、上宮一貴は、ベンチに寝そべり、脇に田中聖子が、水をタオルに含ませ、アザを拭いたり、血糊を拭いたりしてやる。
 「しかし、奴等、汚ねーですね、リーダー、又一戦構えに行きましょうか?」
 「フン、族って言うモンは何時もあーだよ、汚ねぇも何もねぇって」
 あの大和をフックでブチノメシた後、後ろから、一貴はペスターのメンバーに、包囲されて、後頭部を強打され、蹴飛ばされ、袋叩きにされて、スピードスターのメンバーが駆けつけた時は、一貴は路上にノサレテ、伸びていた。
 「相手は、大和と、誰っすかリーダー?」
 メンバーの宮本伸と林が腕をポキリと鳴らして、腹いせに木を蹴り付ける。
 「良いよ、もう、決着はついた、報復はすんあよ」
 一貴は、目を深く瞑り、少し、寝に入る。
 「ねぇ、一貴、病院行かなくて良いの?、行った方が良いよ?」
 「フン、こんな掠り傷だ、放っておいてくれ」
 一貴は、タバコを懐から出す、銘柄はハイライトだ。軽く火を点けて大きく吸う。
野球かそれとも単車?
 6月に入り、梅雨前線が、西から北上してき、東京も小雨がパラ付き、曇天模様の天気が続き、野球部は、体育館で、練習を余儀なくされていた。
 そんな或る日、天海幸司は、一週間野球部の練習をサボッていた。
 学校からの帰り道、1台のベンツが、天海の脇へス~と止まる。中から男が出て来ると、天海幸司の顔をマジマジと見て、声を掛けて来た。
 「君ぃ、天海幸司君だね?」
 幸司は、持っていたアイスキャンディーをペロリと舐めて、その中年の黒いスーツ姿の男の顔を見る。
 「ウィ、天海だが、オッサン誰?」
 「はい、私、西武ライオンズのスカウトをしています、武田と申します」
 その男は、名刺を天海に差し出して、慇懃に礼をする。
 続けて、
 「実は、君のお父さんに、折り入って頼みたい事が有りまして、是非一緒にご自宅まで、同道致したく思いまして」
 「でも、こんな昼間じゃ、パパもママも仕事で居ないにょ、改めて出直した方が良いにょ、しかし、パパの知り合いか?西武デパートの人?」
 「じゃぁ、私と一緒にどこかで食事でもしませんか?それにデパートじゃなくライオンズです、ハイ」
 スカウトの武田は、幸司を、ベンツの助手席に乗せて走り去る。
 車は、甲州街道を走り、所沢方面に、進路を変え、府中街道を北上する。
 一時間程して、所沢に有るレストラン西武と言う店へ入る。天海は、車から降りると、スカウトの武田に連れられて、店内のVIP専用の貸し切り席に着く。
 レストラン奥の、貸し切り席は、川のソファーに、赤い絨毯が、敷き詰められて、良い匂いがする。厨房から、コーンポタージュスープ、ビーフステーキの匂いがして来る。
 「天海君、好きなもの頼んで良いよ、払いは我が西武ライオンズが支払います」
 スカウトの武田は、天海が中学の春季リーグ第一戦で、放った場外HRを思い出して、身震いし戦慄する。
 天海幸司は、マルボロを、懐から出して一服する。スカウトの武田が、ポケットからハバナ葉巻を出して、天海の前に人箱置く。
 「ウィ~、これくれるのかい?」
 武田は言った、
 「ハイ、坊ちゃん、是非受取下さい」
 幸司は、クシャリと鷲掴みして、葉巻の箱をポケットに仕舞う。
 「幸司君、来年は受験でございますね、高校はどこに進学するかお決めになってますか?」
 天海幸司は、ハバナ葉巻を、一本取り出して、セロファンを、慣れた手付きで切り、匂いをかぐ。
 「イヤー良い匂いだねぃ」
 武田はライターの火をカチカチ2回上に上げて、付けてウェイトレスを呼ぶ。
 ウェイトレスの女性は、素早くやって来て、注文を取る。
 「はい、武田様、ご注文はお決まりになりましたか?」
 「ウム、私はビーフシチューだけで良い、あ、それと、パン2つ」
 武田は、講師の方を見て、フッと笑う。
 「ウィ~、俺は、ビーフステーキの500gの奴と、ポタージュスープねぃ」
 「はい、セットになさると、良いと思います、後お飲み物は?」
 「私は、トマトジュースにしておくれ」
 武田が答えると、天海は、
 「俺は白ワインと、後ライス大盛」
 武田は、ハッと天海を見るが、天海は葉巻を、燻らせて、大きく息を吸っている。
 「では、ご注文を承りました」
 ウェイトレスは、ヒップをクネクネと揺らして足早に去る。
 武田は少し、沈黙してラークマイルドに火を点ける。5分程沈黙が続き、間が持てなくなり、再び天海の方を見る。
 「天海君、失敬、失敬、一人で詰まらない思いをしていたのかね?」
 「ウィ~オッサン煩いよ」
 「ハハハ煩いかナハハハ」
 再び沈黙が続き、前菜のスープと野菜サラダが出て来る。天海はサラダをパク付き、スープを飲み干す。
 「天海君、進学の第一志望とか決めてんの?」
 今度は、フランクに天海に話しかけてみた。
 「ウィ~まだ2年だよ、強いて言えば、第一志望は開成で、滑り止めで早稲田かな」
 「じゃー第三志望とかは?」
 武田は、更に突っ込んで聞いてみた。
 「ウィ~、2校も受ければ十分っしょ、強いてあげれば慶応の付属かな、しかし、あっこレベル低いっしょ、青学もレベル低いしィ―」
 武田は、驚愕し、目を剥いてメモを取る。
 「しかし慶応も青学も、レベルが・・・・・・」
 「ウィ~、確かに、一般レベルでは上の方だが、俺は偏差値80近く有るんだ、舐めて貰っては困るよ、テヘヘヘ」
 天海幸司は、ステーキを堪能し、ワインを飲む。
 「天海君、野球はどこのファンですかね?」
 唐突に武田は切り出して、一気に本題に入ろうとしていた。
 「ウィ~、勿論ジャイアンツさ、普通に」
 「じゃぁ、ジャイアンツの誰のファンかな?」
 「ウィ、桑田に、篠塚、中畑かな、レッツゴークロマティ―」
 「はぁ、ジャイアンも良いが、我が西武ライオンズもスターが揃っている、清原に、秋山、石毛に工藤、渡辺久、に伊藤、どこを取っても一流でしょ?」
 天海は、首をかしげて、武田の顔を見る、
 「ウィ~。キャッチの伊藤なら、ジャイアンツの山倉の方が上っしょ」
 天海幸司は、それだけ言うと、食事に専念して無口に食べる。
 「フゥ~、君は野球で身を立てる気は有るのかね?」
 「ウィ~、プロになれっつーのか?」
 「ハァ~、まぁ君程の優秀な素質を持った卵は、居ない、君は江川、桑田を超えられる」
 天海は、ご満悦で、ワインのお替りを頼む。
 「で、これは、当方からのお小遣いです」
 武田は、天海に、20万円入った封筒を差し出す。天海は中身を確認して、「ウィ~」と一言言って食事は終わる。
 天海幸司は、家まで送ってもらいその日は、お手伝いさんの清美の食事をとらずに寝入った。
  次の日は、良く晴れて、梅雨の束の間の、晴天で有った。天海幸司は、顧問の佐藤から、強制されて、野球部の練習に参加した。
 午後3時、ネットを引き、陸上部と、バレー部が、校庭を分け合い、練習を開始した。
 「レッツGO三堀-レッツGO三堀中―」
 バレー部の、ランニングが校庭を、周回し始める。
 天海幸司は、肩を痛めている、飛田の代わりに、ピッチャーズマウンドで、投球練習をしていた。
 148キロ、一同スピードガンを見て、「おお~」と、どよめき、焦る飛田を尻目に、次期四番候補の、手島も気を吐き、ネットにHR性の打球を連発していた。
 「うーむ、夏季大会の4番は、手島、そして5番に天海を入れて、3番は一年の同時までどうだろう、押本よ?」
 マネージャーの押本は、スピードガンと、睨めっこをして天海の球速がどんどん伸びるのに舌を巻いていた。
 「しかし、部長、天海の球速は、高校生以上ですが、果たして連投が効くかどうかです」
 「ウム、それはこれからの体力づくり次第だな、押本、今日天海を見に来てる人が居るんだ、グラウンドに入れるが大丈夫だな?」
 「ハァ?日本ハムのスカウト加賀さんですね、やはり天海を見に?」
 車が、校門の脇に止まってい、佐藤部長が車の脇に行き、ドアーを開けてやる。
 「初めまして、部長の、佐藤です、昨日連絡貰って驚きました」
 車から出て来た男、加賀は、白いスーツに、身を纏い、ラテックスの靴をスタリと地面へ着けて、降りる。
 「私が、日本ハムファイターズのスカウト担当の、加賀です、以後お見知りおきを」
 加賀は、名刺を出して、佐藤へ差し渡す。
 「これはご丁寧に」
 佐藤部長と、加賀は、ガッシリ握手を交わし、校内に、加賀を招き入れた。
 「ほ~う、あの子が天海君ですね」
 加賀は、バックネットに張り付き、持参して来た、スピードガンを出して、球速を計る。
 「146キロ、出ましたね、これで89球目です、まさに天海は、天井知らずの体力です」
 マネージャーの押本は唸る。
 「後10球だ、天海気合を入れろ」 
 「ウィ~」
 約、100球を投げ終え、天海幸司は、疲れて汗みどろになり、水道の蛇口に走り、頭から水を浴びた。
 天海は汗を流すと、バットを持たせられて、バッターBOXに立つ。
 「良し、天海-、バッティング練習、50球だ」
 バッティングピッチャーを務めるのは、左腕の2番手投手、3年の追田で有る。
 「さぁ~行くぜ、天海、打てるものなら打って見ろ」
 「ウィ~さぁ来―い」
 第一球、追田は、狙いをすまして、外角を抉る直球を投げた。
 カィーン。打球は、ライトのファールゾーンに飛んで行き、旧校舎の3階の窓をブチ破る。
 「おお~、アソコまで飛ばしたのは、5年前に居た、プロに入った、花山しか居ない・・・・・・」
 佐藤部長が、感嘆の声を上げ、推定距離を想像して見る。
 「良っしゃ、もう一球行くぜ」
 第二球目が、追田の左腕から投じられた。
 軽く沈むスライダーだ、
ガシーン、天海の金属バットが空を切り、キャッチャーの、野田のミットを通過して、バックネットに当たる。
 「ウーン、まだ変化球は、打てないのかな?」
 スカウトの加賀は、横に立つ佐藤に尋ねて見る。
 「ハイ、今のは、ホンの小手調べです、スライダー位打てるな天海~」
 「ウィ~今のはスライダーと言うか、シンカー気味だな」
 天海は50球中、ヒット性の当たり、15本打ち、ネット直撃弾が5発と、上々の出来で有った。
 プロのスカウトマンが、来たと言う事を聞き、外野で守備の練習を、していた、飛田が、俄然張り切りだして、天海の次に、打つ予定で有った、根元と言う、2年の補欠相手に、ピッチング練習をしたいと言い出した。
 「佐藤先生、僕、少し肩が出来上がってます、投げさせて下さい」
 スカウトの加賀は、怪訝そうに、飛田を見やり、
 「彼は何者ですか?」
 佐藤に聞く。
 「ハイ、わが校の二年で、この春まで4番でエースで慣らして来た、飛田です、見ますか?」
 「まだ中学生レベルじゃ、見ても仕様が無い、でも、序に見てやるか」
 加賀は、持参したスピードガンを構え、バックネット裏で見据える。
 「良-し、飛田、根元に30球だけ投げてみろ」
 「ハイ~」
 飛田は、ピッチャーズマウンドに立ち、ゆっくりと足元を慣らした。かなり、掘れていて、投げ辛らそうで。スコップとトンボで、整地する。10分掛かり、加賀は飽きてきた頃、ようやく、マウンドを作り、根元がバッターボックスに立つ。
 「よっしゃ、キャプテン来い~」
 根元は、嘗て、府中のリトルリーグで、エースでクリーンナップを打っていたが、左目を痛めて、視力が低下し、ストライクゾーンが、判別し辛くなり、補欠に甘んじている。現在ポジションはレフトだが、ベンチにも入れて貰えない程、目がやられていた。
 「良し、根元打たせて取る秘訣見せてやるぜ」
 飛田は、一休目から甘く入ったストレートを、根元に捉えられる、キィン、と心地良い快音を残し、打球は、センターにライナーで飛んで行く。
 「アハハハ、マグレで打たれたな、次行くぜ」
 「よっしゃこーい」
 根元は、気合を入れ、第二球目を打つ、センターに今度も球を返して、ヒット性の当たりを喰らう。
 「今のスピードは?」
 佐藤部長は、冷や汗を、流しながら、加賀に問い掛ける。
 「ウーン、サブマリンで128キロ、まだ中学生だし、ノンプロまでこなしたら物になるかもね、それより、天海君、食事を一緒にしても良いかな?」
 「ハイ、私メも同道致します」
 天海は、ユニフォームを、着替えさせられて、シャワーで汗を洗い落とす、更衣室で待っていた佐藤部長と、スカウトの加賀と一緒に、外に停めてある、トヨタマークⅡに乗り、3人は車中の人となる。
 「どこで食事しますか?」
 佐藤部長は、保護者面して、マークⅡに乗り込んだのは良いが、こんな事は始めての経験で、少し舞い上がってしまっている様だ。
 「八王子の料亭に、スカウト部長の、新田と球団の世話人、人見が待ってますのでソコで」
 「ウィ~日本ハム食い放題―ウィ~」
 天海は、後部座席で、居眠りをして、独り言を言う。
 「天海着いたぞさぁ起きれ」
 「ウィ~、ここはどこだ?」
 3人は、料亭、うかい亭に辿り着き、車を、下足番が運んで行き、奥の駐車場へ入れに行く。
 「ウィ~、鳥の肉屋-ウィ~」
 佐藤と、天海は、店の中居の案内で、亭内に、入り、離れの個室に案内される。
 個室では、2人初老の男が、酒を酌み交わして、待っていた。お膳には鯛の刺身に、イカとエビの天ぷらが乗り、お吸い物の、お椀には、九谷焼で、漆が鮮やかに塗ってある。
 3人は、仲居の案内で、個室の離れに入って行く。入ると、二人の男、スカウト部長の、新田と、世話人の人見と名乗り、天海は一礼して室内へ入って行く。
 「そっちの人は?」
 スカウト部長の、新田は、佐藤を指さして、お猪口の、酒を啜る。
 「ハイ、私メは、府中の三堀中学で、顧問をしている佐藤と申します」
 「ホウ、アナタが顧問?」
 3人は、上座に座り、お膳が用意されている、座敷で正座する。
 「そこの子が、天海幸司君ですか、私が日本ハム球団のスカウト部長新田ですよ」
「ウィ、俺が、天海幸司でザンス、宜しくな」
 一同どっと笑い、新田部長と人見氏は、目を合わせて酒を酌み交わす。
 「アハハハ、天海君は、タレント性も有って、大変宜しい、近頃の若者には無いタイプだ、君は日本ハムファイターズが好きかい?」
 天海は、少しも考えもせずに答える、
 「ウィ~、巨人軍以外野球は認めん」
 「ナハハハ、実はオジサンも巨人が好きで、この道に入ったんだ、しかし、野球は、ショー的要素と、実力の世界、どんな球団でもファンは付いて居るし、プロ野球は、読売だけの天下じゃない、現に今、ウチとライオンズでパリーグを盛り上げている所で、巨人軍の人気が落ちれば、野球の人気の活性化が成される、それに、ウチのスター、西崎と近鉄の阿波野が投げ合えば、女の子もキャーと、騒ぐ時代だよ、5年後、是非ウチがドラフト指名した時は、心地良く入団して欲しい、どこの球団でも今は人気だ」
 スカウト部長、新田は言う。
 「ウィ~、しかし、巨人が好きだ」
 「アハハハ、君のその熱心さが気に入った、桑田以上の大物になるよ」
 佐藤部長は、恐縮して、何を食べているか味が分からない位、緊張していた。
 二時間の、会談が行われ、世話人の人見が、ぶ厚い封筒を、差し渡す。
 「こ、これわ?」
 「ハハハハ、足代だよ、これでタクシーでも乗って帰って下さい」
 佐藤は、帰り際、トイレでコッソリ中身を数えると、50万円入っており、驚いて、便器に頭をブツケタ。
 佐藤部長は、天海と二人ハイヤーで、府中の三堀町へ、帰って行き、ウッカリして、50万円を、ポケットに入れたまま帰ってしまった。
 天海幸司は二日ほど、部活をさぼっていた。
 既に、天海は野球に興味が無くなりマシンに心を奪われていた。
 武三ペスター参上!
 世の中は、浮かれていた。どいつもこいつも高景気で、踊っていた。そろそろ夏の到来も告げようとしていた。
 (アララララバンバ~ランバ~♬)
 カーステレオからランバダの曲が流れる、ハンドルを握る、トミー事、富岡、後方で箱乗りしている、族旗を振る少年、長安を、振り落とさない様に、ゆっくりと、その車、トヨタGX71型―クレスタを、左右にロールさせる。
 「オイ、トミー、今夜は何人参加している?」
 「はぁー?何すか?」
 「だからよ、今日の走りに何人居っかて言ってんだよ」
 助手席に乗るその少年、大和久志が、大声で喚く。トミーは、ランバダの曲に合わせて、レーシングコールを切る。
 「あ~、横山が数えたら、84人くらいッス」
 車は、五日市街道を西下し、小金井から国分寺を走る。小平で、炙れていた族も集合して来た。
 100台を超えるだろう、陣容を誇り、誰もどこに行くか、見当も付かない、只少年達は、集団で暴走をし、悪ふざけをしている風で有った。
 特攻と呼ばれる、長瀬、山川が、赤信号に突っ込んでいき、その後方から続々と、改造したマシーンを、突っ込ませていく。
 もの凄い爆音を残して、国分寺を通過する。初夏の風を入れる為、GX71クレスタの助手席に座る、大和久志は、パワーウィンドウで窓を開ける。
 セブンスターを一本取り出して、一息つく。
 集団は、立川に入り、立川通りを右折して行く。
 どんどん、族車が赤信号を、無視して東大和方面へ、消えて行った。
 「フーム、この陣容なら勝てるな」
 東京都の東大和市は、西北に位置し、東に東村山、西に武蔵村山を従え、北に多摩湖と言う水源地帯を持ち、とても緑豊かな土地柄で有った。
 西武拝島線が中央を走り、大和久志は、目指す、東大和市駅のロータリーに、クレスタを停車させ、本陣を組む。
 1台のGSX400Eの改造車が、GX71クレスタの脇に止まる。藤森と言う、武三が偵察に出した、先発隊の一人だ。
 大和久志が、車から降り、その藤森が近付いて行く。辺りは、100台に上る、武三ペスターの大群で、喧しく、レーシングコールが響く。
 「総長、ブラックテンプターの奴等は、今ムサムラ(武蔵村山)に走って行きました、ブラテンのメンバーの山崎って奴から聞いたんスけど、立川の西の方シメルって話です」
 そんな間も、武三ペスターのメンバーは、壁に落書きをし、近くに路駐している車などを、滅多打ちにし、破壊する。
 壁には、こんな文句が記されていた。
 【武三ペスター参上・東大和制圧記念】
 【第18代目、武三英雄参上】
 そんな文字が、東大和駅周辺に描かれ、そちこちで、喧嘩騒ぎが起きる。主に飲食店から出て来た職人などと、乱闘になり、駅から出て来たサラリーマンなどでは、呆気に取られて見物人の山を作る。
 「オイ、武三ペスターって何だ?」
 「知らないのですか部長、暴走族ですよ、族、俺達関係ねぇーから帰りましょ」
 部長と呼ばれた中年のスーツ姿の男は、義憤に駆られて、ロータリーでトグロを巻く、少年達に、注意しに行くと言い、隣で見ていた若いサラリーマンが、仕方なく着いて行くことにした。
 真中で停まっている、GX71クレスタの方へ、ツカツカと歩み寄り、中心人物と思しき少年、先程から車の屋根に乗り、ペスターの族旗を振り回している、大和久志の近くで立ち止まり、大声で叫んだ。
 「君達、オイそこの車の上の君ぃ、私の話を聞いてくれ」
 大和は、フッとサラリーマンの男の方を見て旗を振るのを中止した。
 「あんだよ、オッサン、何ィ―?」
 「君達、何で我々の街に来て、こんな真似をするんだい?、ここは、公共のバスの入ってくるロータリーだ、君たちに占拠されて、住民は迷惑してるんだ、即刻解散してくれたまへ」
 「え~、聞こえないよ、オッサン、俺達は自由だ、常識とか何とか何か、糞くらえだ、ナハハハ」
 暴走の宴はまだ続く。
 大和久志は、全員に集合させる。15分程で、一糸乱れぬ武三ペスターの、隊列が整う。全120台は、居るだろうか、この族の頂天に立つ大和久志は、少々浮かれてクレスタの後部ハッチに、積んで有った、スピーカーフォンを取り出して、車の上で仁王立ちする。
 (ガァ~ビィ~ン、我々は、今夜を持って、東大和を制圧した、ここに勝利宣言する事にした、完全勝利―)
 全120台が、歓声を上げて、花火に火を点ける者、クラッカーを鳴らす者、シャンパンを掛け合う者と、各々が楽しんんだ夜であった。この事件が切っ掛けで、武三と東大和が、血の抗争になるとは、皆、思っていた。
東大和より愛をこめて
 6月の梅雨が、鬱陶しい時期、東大和でも、族、暴走族が、決起した。東村山・源次君ズ、の42名、武蔵村山・ガーゴイルズの、53台、そして国分寺・デラーズフリートの38台、国立・黒蜂の62台、本家ブラックテンプター・東大和の56台、それを束ねる総長川島友規が、指揮を執り、目指すは、武三吉祥寺と、三鷹の制圧、そして、武三ペスター総長、大和久志への、報復、生け捕りにした者は、金50万円の、賞金が賭けられていた。
 各地の友軍が、各々午後11時進発して行く、第八交通機動隊が、パトロール車を、普段より多く出して、甲州街道、五日市街道、新青梅街道を、入念に監視をしていた。
 しかし、交機の思惑は、外れて、大軍団が、西東京から東方に向け移動して行く。
 (え~本部、移動1から報告します、国立矢川から約60台の、丸走が、東へ向け20号を東上しています、どうぞ~ピィー)
 (え~本部了解、手出しせず見ていて下さい)
 一方国分寺では、
 (え~第八交機、機動3号、小金井街道と、新小金井街道に丸走、約40台が集合中、今夜は、何の日か分かりますかどぞーピぃ~)
 (ハイ、こちら第八交通機動隊本部、夏の族の勢力争いかと思われます、追跡して、ナンバーを出来るだけ控えてくださいドゾー)
 新青梅街道では、東村山、東大和、武蔵村山の、百台を超す、大軍団が、一路武蔵野方面へ向けて進発していた。
 総長・川島友規は、ZⅡのロケットカウル仕様のファイアーパターンのマシンに乗り、木刀を背中に紐で括り付けて、百台の群れの中心付近を、ガニマタで乗りながら、ロールを切る。
 風に棚引く族の証・ブラックテンプター第二十二代目の、旗が風にそよぎ、一般車を圧する、威勢で新青梅街道を、驀進する。
 その頃、第八交通機動隊の国立に、5人の若者が出頭して行った。何れも各チームの№2からで、幹部である。
 交機課長の前山が、5人の少年達を接見する。
 「オイ、佐野、おめぇーブラテンのヘッド庇おうたって、そうは行かねぇーよ、川島は必ずパクらせて貰うよ」
 「しかし、ヘッドは、今日は参加してねぇーし俺の、一存ッス」
 新青梅街道を、武蔵関で右折し、ここまでバリゲートを、3つ超えて来た。吉祥寺通りを、制圧しながら、ブラックテンプターの車隊、百台余りが、武蔵野市地区に突入する。
 「オイ、キィーやん、ジョージ〆たら次東八行こうぜい」
 吉祥寺の駅前に突入する。500メートル程向こうに、Z400GPのストリートカスタム車が先頭に、族が約80台程待ち構えて居た。後方に見ゆる旗は、武三ペスターの物で有った。
 【武三ペスター・勇士参上】
 と旗に示されており、川島は、深夜の吉祥寺の街に、ブラックテンプターの各支部のマシンを停止させる。
 「オイ、キィーやん、奴等出て来たぜ、どーする潰しちまうか?」
 キィーやんこと木下は、取り敢えず、ブッ込み5台を先発させて、武三ペスターの居る方向へマシンを走らす。
 「どりゃー、俺がテンプターの特攻望月だ、死ねーい」
 向こうからも、特攻が走ってくる、望月の、単車AR50が飛んでくる、武三の特攻、長瀬は、乗っていたスーパーカブをAR50に向けてこれも滑らす。
 グシャバキャズバズバガーン。
 AR50とスーパーカブが、吉祥寺南口の水道道路で激突し、火花を散らして、AR50はタンクに引火して燃える。
 これを合図に、乱闘は始まった。向こうからかなりの大群を、擁するブラックテンプターの怒りの攻撃に、武三ペスターはタジロギ、大和久志は、トミーのクレスタの屋根に乗り、群がるテンプターの喧嘩師から逃げていた。大和はマイクを持ち、大声で喚く。
 (ガガガピィ~、諸君、喧嘩は止めたまへ、我々の援軍がもうすぐ到着する、300台は、下らない即刻退去したまへ)
 深夜の吉祥寺に、空しく大和のマイクが木霊する。
 甲州街道を進む、国立勢と、国分寺勢は、国立府中ICの入り口付近で、東八連合・猫目小僧と激突した。
 猫目小僧は、その多勢で来る、黒蜂、デラーズ連合軍に前衛が潰され、一旦引くことにした。更に調布まで進み、ルート是政、ルートTHESHOCKを、連続に撃破して、東へ向かい、関東村の坂を上り、東八道路へ躍り出る。
 東八道路には、族が居た。約5台のゲリラだと思い、見過ごして、三鷹地区の北野、新川を荒らしながら、悠々と街を流していた。側面から、出て来た族車、30台に本陣である、親衛隊が、30人の族に取り巻かれる。
 【PST連合・都牟狂巣】の旗が風に棚引き、先頭に居た、GT50、ヤマハトレール車に乗っている少年が、GT50を横倒しして、殴り掛かられる。
 30人は、続々、本陣のヘッドの居る、Y30グロリアに、殺到する。
 「オイ、国立のカッペ、掛かってコイヤ」
 先頭に居た、ソリコミの有る短髪の少年が、木刀を振りながら、Y30グロリアに近付こうと、5人の脾腹に木刀を叩きつける。
 Y30グロリアから、長身の痩せた男が出て来て、サングラスを取る。
 「オイ、俺は、黒蜂のヘッド、中根正也だ、そこの木刀野郎、殺すぞオラ」
 「俺は武三最強、都牟狂巣の山定だ、これ以上暴れさせないぜ」
 場は、30VS30の乱闘になり、都牟狂巣の独壇場で有った。
 黒蜂のヘッド、中根は、足を引きずりながら、山定の木刀の前に立つ。
 「何だ、ビッコか?、じゃぁ素手で相手してやんぜ行くぜ」
 黒蜂のへッド中根は、ハハと笑い、山定の右ストレートをモロに、左頬に受ける。
 ピクリともしないで、ニヤーと笑い、中根は、山定のフットワークを捉え、右のアッパーを繰り出す。山定は、危うく、避けて、次の攻撃目標のコメカミを狙い、深く踏み込み、フックを放つ。山定は、次の瞬間顎に強烈なアッパーを貰い、1,5メートル程吹き飛ぶ。
 「オイ、山定大丈夫か?」
 山定は、意識が朦朧となりながら、引けの合図を聞いて、路上で転がっている、ヤマハトレールGT50に乗り込み、路地へ引き上げて行く。
 吉祥寺では、武三ペスターが、ピンチに陥っていた。大和は、群がるテンプターのメンバーを、クレスタの屋根の上から攻撃し、マイクを武器に健闘していた。
 (こらー車の上に乗るな、もうすぐ更に百台援軍が来る頃だヤロー)
 「ハッハッハ、笑わせんな、ペスターにもう戦力が無い事くらい分かってらい、この間、地元を荒らされたお礼だ、今日こそ死ねぃ」
 テンプターのメンバーが10人程、クレスタを揺する、その時大和久志は、車から、歩道に立っている、5人程の少年達に、プランチャーを、慣行する。5人はアッとなり、大和の体を受け損ない、ドシンと地面へ尻餅を着く。
 「オー大丈夫か~?」
 テンプターのメンバーが驚き叫ぶ。その隙を突き、大和は、近くに置いて有った、GPZ400を奪い都内の方へ走って行く。
 その日に、吉祥寺のガード下に、
 【黒い悪魔推参・ペスター死ね】
 【弱小武三、東村山押忍・何時でも来やがれ】
 【武蔵村山第18代目見参・殺人部隊】
 その三日後、逮捕者13人を出して、この件は収まったかのように見えた。
墓地前・正宗
 6月中旬になり、梅雨が本格的に日本列島を、覆い、野球部の練習は、体育館で、基礎体力作りと、キャッチボールに留まっていた。
 朝練が早く終わり、天海幸司は、校舎裏の、中庭に面した体育館の裏手に有る、不良学生の溜まり場、通称不良ゾーンと言う、生徒達が隠れてタバコを吸うエリアに、スタスタと歩いて行く。
 一人の小柄な少年が、地面に座るのでもなく、立つのでも無く、中腰で、タバコを吹かしていた。
 少年は、天海がタバコを出すと、ニカッと笑い、背筋を伸ばして、ショートホープに又一本火を点ける。
 2人は、只管、タバコを味わうのに、余念が無い。
 向こうから、登校して来たばかりと言った、鞄を持った少年が、二人歩いてやってくる。小雨が降りしきり、傘を持つ手も濡れて、急いで、内ポケットから、ラークマイルドを出し、二本フィリップし、立て続けに火を点けて、一本を別の少年に渡す。
 「オイ、坂上、久し振りに学校か?、お前正宗に入ってんだってな?」
 二人の少年の一人、角山と言う不良の3年が、その坂上と言われた3年に問い掛ける。
 「フンッ、親がよ離婚して、今独り住まい何だよ、そんで、本町に有る、坂井さんの紹介で飲み屋で働いてんのよぉ」
 二人は、ヘェ~と感心し言った。
 「しかしよ、お前、俺達と同じ中坊だろ?見つかったら卒業出来ねぇ~じゃねぃ?」
 坂上は、そんな事は、意に介さないで、もう一本ショートホープを出して、大きく吸う。
 「でな~、俺今度、女出来たんだよ、そいつ16で子供いて、育てなくちゃ行けないのよぉ、で、一人三千円カンパしてくんない?」
 「仕方ねーなぁ、今二千円しかないから、千円で勘弁してくれよ」
 もう一人の3年は、二千円出して、二人は小雨が降りしきる中、校舎に駆けて行った。
 「オイ、二年坊主、お前は俺にカンパするだろ?」
 天海は、無視を決め込み、タバコをもう一本出して、火を点ける。マルボロだ。
 「オイ、聞いてんのかよ?」
 坂上と言う少年は、天海の胸倉を掴み、顔面を平手で叩く。
 「ウィ?お前なんかに、くれてやる金ねぇーよ」
 坂上は、逆上した様な眼で、天海を睨み、被っていた学帽を、右の手でハタキ落とす。その帽子を踏みにじり、天海の目を見てニヤリと笑う。
 「どーだ、この俺の恐ろしさ分かったか、お前金持ってそうだから、5千円で許してやるよ」
 その時、天海幸司の右手が、パッと少し動いたように見えた。坂上は、腹を押さえて、涎を垂らして、うずくまる。
 「ウゲェゲホゲホ、息が出来ない、ヒィー」
 天海は再び無視して、マルボロを吹かす。坂上は、5分程して立ち上がり、血相を変えて天海に詰め寄る。
 「オイ、俺をこの、堀中でシメルとは、十年早えーんだよ、おう、上等だ、てめぇ、只で済むと思うなよ、俺は正宗のメンバーだからな、憶えておけよ、今夜8時に来いな」
 校門の前を、FC型RX7が、走り去る、天海は教室の窓から外を見ていると、一人の女子生徒が、もう三時限目なのに、堂々と入ってくる。
 「よぉ、天海、何見てるの?」
 同じ窓際に座る、横川洋子と言う、女子が、後ろから幸司の背中を突く。
 「あ~あの女か、3年の四本緑って言う、スケ番だよアレ、いっつも誰かに車乗せて貰って登校してるんだよ、いやらしぃ~」
 洋子はヒソヒソと、天海に耳打ちして語り掛ける。
 「オイ、そこ、横川に天海、私語は止めろ」
 国語の小野にドヤされて、洋子は、舌を出す。
 放課後も、雨が降っていて、天海は、単車を試乗出来ないので、鬱々とした気分で、家路に着く。
 この長雨で、野球部は、練習が出来なくて、飛田以下3年も暇で、悪さでもするかと言った風情で、3年のワル達と共にツルンで、学校から去って行く。
 その日は梅雨の長雨で、家で一人勉強をしていた。4時頃眠くなり、ベッドに入り、うたた寝していると、本式に眠くなり、熟睡してしまう。
 意識を失ってから、5時間は経つ。お手伝いで、住み込みの、三山清子に起こされた。
 時計を見ると、9時5分前、幸司は黙って、雨合羽を着こみ、ガレージで眠ってた、カワサキSS350を出して、イグニッションをONに回し、キック一発でスタートさせる。チマチマと少し雨で被り気味だが、急いでショウエイのフルフェイスを被り、、ロケットの様に単車をスタートさせる。
 ヘッドライトに使用しているイエローバルブが暗く感じ、曲がり角から自転車が出て来て危うい所だった。
 3分程で府中墓地第一駐車場へ着く。
 「イエ~イ、雨だ雨だーよ」
 「おーし、花火大会は、これで終了する、皆帰って良いぞ」
 駐車場は、ロックが外されており、暴走族、東八連合府中正宗の員数40名が、最後のロケット花火を、雨空に向けて、発射した時、一台のSS350マッハが、駐車場に入って来る。その操縦テクニックは、たどたどしく、見ている皆から失笑を買った。
 「よー、誰だい今頃?」
 カワサキの2ストマシン、SS350マッハは、集会中の、正宗の中央に停まり、天海幸司は、サイドスタンドを掛けて、フルフェイスを脱ぐ。丸坊主に近い頭髪を見て、正宗ヘッド安中は言った。
 「何だ、中坊見たいじゃねーか?単車何か転がして何してんだ?」
 「ウィ、決闘を挑まれて来てやったまでの事さ、そこの坂上とか言うやつだウィ~」
 坂上は、タジロギ、一歩引いて、先輩達の陰に隠れて言う。
 「ハハ、こいつ今日俺に逆らったから、ヤキ入れただけです、ヘッドコイツシメテやってください」
 ヘッド安中は笑い、決闘なら中学生同士、自分等でやれと言い、雨足も少し強くなって来たので、皆に解散を言い渡す。
 「それでは、解散だ、俺は帰って、プレステージ見て、寝るぜ、又な~」
 全員解散し、残ったのは、坂上の面倒を見ている、坂井と坂上の二人だけで有った。
 「オウ、決闘するなら、早くやろうじゃねーか、あ?お前名前何てぇーんだ?」
 坂井は、手に持っていた、花火セットを、バッグに仕舞い、天海幸司に近付いてきて、顔を見る。
 「ウィ、三堀中の天海つーんだ、じゃ遠慮無く行くぜ」
 天海は、右のナックルを、おもむろに、坂井の顔に入れる。坂井は、堪らず顔を押さえて地面に転がる。
 「オ、オイ卑怯だぞ、天海、うわっ」
 坂上は、首筋に手刀を、入れられて、首を、押さえ地面に腹這いになる。そこを天海は踏みつけようとして、後ろから立ち上がった坂井に止められる。
 「オ、オイ分かった、もう止めておいてやれ、お前の言い分、聞く、これから一杯やりに行かねーか?」
 「ウィ?」
 坂上の働く、スナック・しおり・は、府中本町駅を東側に300メートル程行った商店街の真中に有る。本日は、雨天で、客足も少なく、スナックを任されている、女主人しおり、は、手持無沙汰で、グラス磨き、付け出しのホウレン草の茹でた物を、独り箸で摘まんでいた。しおりは、見た目は20代後半に見えるが、実際は36歳と、見た目より年齢は老けている。
 そんな時、2台の単車が、店の前で止まる。
 有線で歌が流れて、しおり事、本間初子は、顔を上に上げて出入り口の方を見る。
 3人の若者が、濡れネズミの様になって入って来て、ママのしおりに挨拶する。
 「チワッス、取り敢えずタオルれや」
 坂井は、しおりに何のためらいも無く、命令して、3人分のバスタオルを、ママは用意する。
 (ダーリンマイビュー会いたくて~♬)
 少し古い曲が有線から流れていた。リクエストている世代が、この高景気の前を懐かしんでるかのように。
 (ダイヤル回して~手を止めたー♪)
 坂井と坂上はカウンターに着き、天海も坂井の脇に座る。
 「オイ、コークハイ3人分だ」
 坂井は、出された焼き鳥の串をかぶり付き、天海にも3本渡す。
 「オイ、天海って言ったっけ、お前中々できるな、喧嘩つぇーから仲間にしてやるよ」
 天海は、黙々と酒を飲み焼き鳥を食べる。
 「ねぇ、君達、夜食まだって感じね、お好み焼きの用意が有るけど食べる?」
 3人は、頷き、黙々と酒を飲んだ。外はザーと、雨音が激しくなり、SS350マッハは、夜露に濡れる。犬が走って行き路上で酔っ払いが、ゲロを吐く。
 3人は、出来立てのお好み焼きに、箸を付ける。坂井はマヨネーズをかけ、坂上は醤油で食べる、幸司は、青海苔とソースを振り掛けて、小分けにする。
 「なぁ、天海、族に入らねーか?」
 11時も半を過ぎた頃、坂井は、唐突に話しかけて来た、目が眠っている。
 「ウィ?暴走族か?興味ねいな」
 ママのしおり、は一曲カラオケを歌い出す。
 (子供達は~空に向かい~両手を広げ~鳥や雲や~夢までも~掴もうとしている~♪)
 「ククク」
 坂上は、喉の奥で笑い、天海はラークマイルドに火を点け、一本差し出す。
翌日は、曇天模様なれど少し晴れ間が、覗いている。天海は、すっかり野球への関心が無くなり、通常通りの時間に登校して来た。
 校門の所に、RX7が停まり、助手席から、女番スタイルの四本緑が、顔をのぞかせて、運転席の若い男と、熱いディープキスを交わすと、小走りに走って、校内に消えて行く。
 天海は、野球部の練習を、横目に見て、ガム
嚙みながら校舎の裏へ歩いて行く。
 校舎裏の不良ゾーンは、5人の3年が、タバコを吸い、かっぱえびせんを分けて食べていた。天海幸司は、不良ゾーンで、昼飯の弁当を、鞄から取り出して黙々と食べる。
 8時半、始業のベルが鳴る、今日は、5人の不良も天海も、校舎裏から動こうとせずに、くっちゃべっていた。
 「でな~、本町のヨッチャンが、給田のノラ助とな、タイマンて勝ったんだよ」
 「へぇー、で天海、昼飯食って大丈夫か?」
 5人組、所山に三井、鉄次に用高、そして中嶋一利だ。
 校門の方で、物凄い爆音が、聞こえて来る、GSX400に乗った、坂上が登校して来た。生活指導の山本が、坂上を止めるため体で単車を止めた。
 青と紫のGSX400は、ブッタギッタ直管のマフラーを荒々しく吹かしながら、校庭の方へ走って行く。その音を聞き天海他、5人は、校舎裏から校庭へ出て行き、吸っていたタバコをプッと吐く。
 GSX400は、6人の方に近付き、天海の目の前で停まる。
 「よう、天海、ヘッドが呼んでんぜ、すぐ来てくれ、俺のケツに乗れよ」
 そこへ、目標を定めた生活指導の山本が、走ってくる、その距離30メートルだ。
 「早く乗れって、行くぜ」
 「ウィ~」
 「待て、二人共、学校を何だと思って居るのか~オワ~」
 駆け付けた山本が、天海の足を掴もうとして、逆に蹴りを入れられて蹲る。
 「ナハッハハハ、行くぜー」
 バリバリと音を発してGSX400は、三堀中を出て行く。校門で待機していた、生徒達はなす術も無く、見ているだけだった。
東八道の乱闘
 坂上の乗る、GSX400は、府中駅の北口、ロータリーに着ける。ロータリーを、東へ20メートル程歩くと、半地下になり、階段がその大きな闇を見せて、口を開いたクジラの様になっているビルが有る。
 【角山ビル】と、看板に出ているのを、天海幸司は、チラリと見る。半地下の階段に、間口が大きくオープンになっている玄関が見える。テナントの店として入っている、プールバー・【チェザーレ】と言う店が有った。
 中に入ると、ビリヤード台に、腰を置いて、玉をキャウーで突いて居る昨夜会った東八墓地前・正宗・の頭、安中が、革パンと、革ジャンを、着た大人っぽい女を従えて、ゲームを楽しんでいた。
 「おは~ス、ヘッド、天海を連れてきました」
 「おう、お前はもう良い、学校でも行って寝てろ」
 安中は、八王子実業のバッジの付いた、長ランを着て、ドカンと呼ばれる、ズボンを履き、学帽を、斜めに頭に掛ける様ににして、乗せて、キューの先を、フッと息を吹きかけて滑り止めを塗る。
 天海は、中へ入り、カウンター席に座る。
 「おう、中坊、何勝手に座ってんだよオラ」
 「ウィ~、俺は、アンタの手下でも弟子でもない、中坊じゃなく天海幸司てぇーんだ、ヨロリン」
 安中は、手を休めて、幸司の事を、凝視する。
 「アハハハ、お前が噂の天海か、分かった客分として、正宗に入ってくれるか?」
 天海は、朝から駆け付け一杯で、ビールを頼む。
 「ウィ?、族の客分ってどんな事したら良いの?」
 「うむ、週一回の東八墓地の、集会に顔を出してくれればそれだけで良い、お前単車乗ってたなSS?」
 安中は、キューを絞り、赤いボールを突く。ボールはホップして、手前のボールを、飛び越し向こうのホールの近くに有る、ボールにぶつかり、ホールに入る。
 「SS?、アレは、飛田つー奴から預かり物だにょ、アレで走れっつーの?」
 天海は出されたビール一気に飲み、枝豆を、注文する。店のマスターは、三十過ぎの男で、朝から店を開けるのは、三日に一度だが、天海の坊主に近い頭髪を見て、少し歪んだ笑いを見せる。
 「そーか、お前三堀中の野球部だったな、飛田つーのは、相当なワルだ、ツルムのは止めた方が良いぞ」
 安中は、女の腰に手を回して、キューを置き、カウンターの方へ歩み寄ってくる。
 「あたい、レモンスカッシュ、あーた歳幾つ?安吾とタメで話してるけど、ちょっと生意気じゃない?」
 女は、政江と名乗った、レディース府中ミスボーグの№2らしい、本名は、桑野政江と言ってウィンクする。
 「ウィ~、中二だよ、文句案のお姉さん」
 政江は、近所のピザ店から、ピザの配達をマスターに頼み、レスカで、天海の食べている枝豆を、摘まむ。
 「そートンガッテ無いでさ、走りに参加するんなら仲間だけど、一応、安吾もヘッドだしぃ、敬意、そう敬意てーのを示してよ」
 安中は、カウンター内に入り、長ランを、脱ぐ、もの凄い上腕筋を、タンクトップから覗かせ、右腕にタトゥーがしてあり、左腕に、蛇に竜のタトゥーが手首まで施されていた。
 「ヘイ、卵焼き作ってやんぜ天海、下の名前は、幸司だろ、コージ?」
 「ウィ、じゃ俺は、安中って呼び捨てさせて貰うにょ」
 「ナハハハ、良―ぜ、毎日ここに夜8時頃来れば、飯食わせてやんぜ」
 「キャー、これって兄弟分―?、コージが弟って事-、ズッルイじゃ、あたいが、コージの姉になるぅ―、コージはカワユイーン」
 政江は、幸司の頭を撫でてやり、オデコにキッスした。
 「照れるなコージ、この女は口が悪いが、根は情の深ぇー女なんだよ」
 10分程すると、安中の作った、卵焼きと、マスターが宅配を頼んだピザで、皆で乾杯した。
 その日幸司は、フラフラになり、午後3時ごろ帰宅した。
 家へ帰ると、父と母は、相変わらず仕事有り、姉の雪は、学習塾に通ってい、8時を過ぎないと帰って来ないが・・・・・・、
 「オイ、幸司―、何昼間から酒飲んでんだよオー?」
 お手伝いの、三山清子が、女だてらに野太い声で、幸司を、威嚇する。
 「ウィ~、姉御、今日は拠無い事で、パーティーしてきたんだべ、許してちょ」
 三山清子は今年で18歳、16歳の時から、天海家へ、お手伝いとして住み込みで入り、2年、夜は天海家からの給金で、地元の夜学へ通い、勉学に励んでいた。
 生まれは、群馬県の邑楽の出身である。
 「ウィ~、もう寝るにょ」
 「ちょっと待て、幸司、今日学校から連絡が有って、お前山本先生に、足蹴りして、しかも、野球部もここの所、出てないとは、どう言う事だんべか、キッチリ言ってみろい?」
 「ウィ~俺の勝手だろ~、野球部は、辞める、もう―明日退部してやる~」
 幸司は、足早に自室へ入り、部屋の鍵を掛けて引き籠る。
 次の日、昨夜晩飯を作って貰えず、腹が減り過ぎて、SS350で、家を出る。午前6時半だった。
 ブーン、と東八道路前原町交差点近くのコンビニエンスストアーに入り、お握りと、アイスクリームを、4つ買い、駐車場でウンコ座りをして食べていた。
 駐車場で、朝飯を済ませていると、一台ハイラックスサーフが、濃紺のボディーを光らせて入ってくる。三鷹方面から来た様だ。
 運転手は、初老の男で、天海を無視して店へ入ろうとして、フッと幸司を見る。
 「オヤ―、幸司じゃねーか、朝からウンコ座りして、飯か?、アッハハハ、みっともねー真似するな」
 「ウィ~中村か?、朝の買い出しか?」
 「まぁ、そんな所だ、で、お前ん所に、ウチの孫の、翔預けるから、仲良くしてやってくんな」
 この中村は、天海の習っている、少林寺拳法、禅行院流・天海幸一師範の弟子で、世田谷の給田に、道場を出して、生徒に教えている。
 そして、天海幸司にとっては、大事な身元引受人であった。年は57歳。
 中村は、店から出て来て、講師をハイラックスサーフの中に招き入れた。助手席に、幸司と同年齢の少年が、眼光鋭く、幸司の目を射抜く。
 天海は、後部座席に乗せられ、その少年を見て少しタジログ。
 「がっははは、幸司、これが俺の娘の子翔って言うんだ、前に話した事無かったか?」
 天海と翔は、一触即発の、緊張状態になっていた。どちらかが動けば攻撃でもするのではないかと言った殺気をその少年は含んでいた。
 「俺は、示現翔っちもす、宜しゅうーに」
 天海幸司は、少し安心して答える。
 「ウィ、天海幸司だよろしゅーな」
 翔は少しにやけて言った。
 「お前少し頭の方弱そうだな、三堀中か、ナハハ、ワッシが行ったらシメちゃる」
 示現翔は、当年14歳、天海幸司と、同年で有る。
 鹿児島県鹿屋出身。中学一年で単車を、父親、示現明人から買い与えられる。単車は、XJ400D、高校に入るまで、単車に乗るのを、禁止されていたが、鹿屋の高校生、是枝と言うワルとツルム様になり、13歳から、非行少年の仲間入りを果たす。
 地元の高校を、その類稀なるケンカと、空手センスで、制圧して行き、沖縄渡りの暴走族、王虎武等(キングコブラ)と言う暴走グループに属し、その腕力で、並居る上級生、王虎武等のヘッドを、血祭りにあげ、その名を鹿児島市まで、鳴り響かせた。
 中二の春、王虎武等のヘッドになり、瞬く間に、南九州を制圧し、その傘下には、600名の手下が居た。
 族の名を、隼人と改名し、警察当局を、嘲笑うかの様に、神出鬼没の走りで、宮崎、佐賀、熊本、長崎も、約一カ月で制圧し、その勢力は、構成員、1千名を超える大集団になった。
 北九州の制圧の際、示現はうっかり一人で国道を、暴走中、前でブロックしたパトロールカーに接触し、暴走行為で逮捕された。
 そして、別件の事件が出るわ出るわで、その罪状が、80を超えて、少年院送致になった。その際、隼人は解散、この春祖父の中村の所へ、一時更生の為に、預かりとなり、6月に入り、世田谷の給田に有る、中村家に、引き取られていった。
 その日、天海幸司は、定時に学校へ登校した。
 雨は、昨日から止んでいて、野球部の部員達は、天海を見つけて取り囲んだ。
 「オイ、天海、一体何で練習に出てこないんだよ」
 「ウィ~、俺は忙しい、野球などに構ってる暇はない、文句あるのかウィ~」
 3年の部員を含めて、8人程の連中は、天海の剣幕に押されて校庭に有る、パイロンで頭を殴られる者も出て、佐藤部長が止めに入る。
 「オイ、天海、プロも注目するお前が、やらなくてどうするんだ?、このまま野球を辞めるのは許さん」
 佐藤は、凄い剣幕で天海の胸倉を掴む。
 「ウィ~、うっさいぞ佐藤、ブチノメス」
 佐藤は、グサリと天海の鉄拳を浴び、その場に倒れる。
 「クソ―天海、どーしてだ?、何か野球に不満でも有るのか?、先生に話してくれ、部は辞めないでくれ」
 ランニングをしていた飛田は、一部始終見てい、薄らニヤケながら、事の成り行きを、見守る。
 「ウィ~、やらない理由は、嫌だからで良いだろー」
 スタスタと、校舎裏に歩み去り、8人居る不良学生の真ん中に座り、内ポケットから、マルボロを取り出して、大きく吸う。
 その週の金曜日、東八道路上で、大混乱を巻き起こす事件が有った。
 風も和らぎ、小雨が降りしきる中、三鷹方面から、暴走族の大群が押し寄せて来た。
 特攻服に、身を纏い、各々好きなセリフを、描き、旗を押し立てて突進してくる。
 午後9時、東八道路上に、GX71クレスタが、停まり、左車線を、その100台を超す族が、トグロを巻く。
 何台も、浅間山の方にも侵入して来て、コールを鳴らす。
 東八連合正宗は、その族を、武三ペスターと、確認して、約20台が、東八道路上に躍り出る。
 「オイ、高宮、ブッ込んで、潰しちめぃ、何せ数だけのペスターだ、三流だ、20人で上等だ」
 20台は、横合いから、武三ペスターの、本拠にしているクレスタを、狙い、突く。
 (無駄な抵抗は止めたまへ、我々武三の軍門に大人しく入りたまへ、ザコ共)
 大和久志は、クレスタの上に立ち、正宗を睥睨して、スピーカーフォンで、演説し始める。
 正宗の、20人は、たちまち乱闘になり、人数の多い武三ペスターの本陣を突いた。
 大和は、足を引っ張られて、クレスタの上で、転ぶ。クレスタに10人程が殺到して、大和は、正宗のメンバーに、蹴りを入れる。
 (抵抗は辞めたまへ、この人数に勝てる訳はない、即刻、軍門に下ったら、旗本として取り立てるぞい)
 正宗へッド、安中は、右のナックルで、クレスタのドアーミラーを、吹き飛ばす。パトロールカーが、8台程停まって、事の成り行きを見ている。
 そこへ、東八連合本隊が、40数台引き連れて、どこからともなくやって来ていた。
 「オーウ、全員、正宗を助けるぞ、ペスターの奴等殺しちめぇー」
 総長、池上正太は、全軍を引き連れて、武三ペスター、本隊に突っ込む。東八連合は、乱戦になると強い、クレスタの周りで、どんどん攻められてくる。持ち主のトミー事、富岡は、焦って、車を発進させてしまった。前にいる敵味方3人程、跳ね飛ばして、上に載っていた、大和久志も、下に転げ落ちる。その間を利用して、大和は、近くに有った、キィーの付いて居る、VTZで、人の波を掻き分けて、逃走して行った。
 その時、又もや、三鷹天文台方面から、族の群れが、突進してくる。
 【下北沢赤影参上】と、大書された、旗を後方付近で閃かして、突進してくる、公機も東八連合も、止める暇も無く、正宗は、正面衝突してしまう。
 へッド安中は、赤影の特攻、日比野と言う、少年を、金属バットで殴り殺して、頭からその日比野少年は血を流して、息絶えた。
 これには、交機も、手をこまねて無いで、待機していた、人数60名で、族の中心人物を、逮捕しに、突入して来た。赤影は、Uターンをして、即座に逃げて行った。見ていた東八連合も、急いで逃げて行く。武三ペスターは、十五人程補導されて、護送車で、連れられて行く。ウ~ウ~、フォンフォンフォンフォン。サイレンが鳴り響き、安中の元へ、屈強そうな刑事が、4人現れて、手にワッパを嵌めて腕をねじる。
 「ハイ、6月×日、午前0時32分、身柄確保」
 カシャリと、手錠のはまる音がして、安中はパトロールカーで連れられて行かれた。
 この殺人事件の事は、翌日、大手新聞にも取り上げられて、社会問題になった。
 そして、正宗17代目は、1年生や若年の者を残して、皆引退して行った。
示現翔IS転校生
 梅雨が、本格的に到来して来た。ここ3日ばかり雨は本降りで、少し肌寒い位だ。
 示現翔、あの転校生が三堀中学へ、入って来たのは、あの日のそんな頃である。
 大き目の開襟シャツ、その隙間から覗く紫色のTシャツ、そして、足のくるぶしまで丈の有る、ボンタンを履き、足は黄色い学校の来客用の、サンダルを履き、薄い眉毛の下の眼光は、只者じゃないことを示す光をたたえて、その拳は、鍛え上げられた空手の拳ダコが目に付く。
 「え~、本日から皆様のお友達になる、示現翔君です、皆仲良くしてやって下さい」
 「示現です、この学校で一番強い奴、どいつや?」
 教室内が、スワっと、どよめく。この1年2組で、粋がっている川路大助と言う巨漢の少年が言った、
 「オイ、堀中を舐めてんのかよ、この田舎者、一応俺が、このクラス仕切ってる」
 と言うと、示現は、疾風の様に川路の席へ、駆け寄り、座っている川路の鼻柱に、空手で鍛えた正拳を、一発お見舞いする。
 ズダーン、と川路は椅子ごと転倒し、示現翔は、馬乗りになり、滅多打ちにする。
 「止めたまへー」
 「キャ~やめて~、喧嘩しないで~」
 一緒に着いてきた教師が叫ぶと、担任の女教師が悲鳴を上げる。
 「オイ、天海君でも誰でも良い、喧嘩を辞めさせてくれーい」
 教師が叫ぶと、天海は、スタリと立ち上がり、KOされている川路の上に乗って、未だにパンチを繰り出す示現の脇に手をやり、羽交い絞めをした。
 「何しもす?、ワシに喧嘩売る積りですかぁ?」
 天海は、川路から示現を引きはがすと、馬鹿力で、示現を、窓際まで投げる。
 示現は、体をパンパンと、地面に着いた埃を、落とすと、天海幸司を睨み据えて、空手の型を見せる。
 正拳から、回し蹴りに行く型だと、天海は看破した。
 「キャー、天海君、喧嘩しないで、示現君も辞めてえ~」
 女教師の願いも空しく、示現の体はフワッと動く。
 「止めて~示現君、天海君も手出ししないでぇ~」
 「コラー、示現辞めろー」
 示現は、抜く手も見せず、天海の顔面目掛けて、正拳を放つ、カゴン、と天海の顔にモロに入り、天海は後ろへステップして、禅行院流の基本の構えを取る。
 そこへ、生活指導の山本教師と数人の教師が、雪崩れ込んできた。
 皆で、示現を、取り押さえ、会議室へ連れて行かれた。
 「天海君大丈夫か?」
 「フン、掠り傷だ、飛んだ転校生も居たもんだな教頭」
 示現は、大人しくすると言う、約束を、山本教師が、取り付けて、2時限目から、授業を受けることになった。
 席は、天海の後ろに、急遽設える事になり、天海が形の上では、監視役の様になった。
 昼休み、天海は、一服しに、校舎裏の不良ゾーンに行く。5人の不良が煙草を咥えて、何か話をしていた。専ら示現の話題で持ち切りだった。天海は、マルボロを出して、一本火を点ける。
 「よう、天海、お前のクラスに入った示現て、どんな奴だ?」
 ショートホープを、吸っていた、番格の河野が、語り掛ける。
 天海は、答えずに、ニヤリと笑い、地面に唾を吐く。
 「よう、アイツ今日の放課後、俺達でシメルから、お前も顔を出せやい、分―たか、場所は、三堀公園のブランコの前だ、東八連合もくっからよ、宜しくな」
 それだけ言うと、河野は5人の不良を連れて、校舎裏から消えて行く。天海は、吐いた唾に血が混じっているのを見て苦笑する。
 5時限目、又もや示現が暴れた。数学の授業中で有った。教室の外から、3人程の3年が木刀と、ヌンチャクを持って、入って来た。教壇に立つ若山教師を押し除けて、示現を名指しで来た。
 「オイ、示現とかヌカス奴、今から制裁を、加える大人しく外へ出ろ」
 示現は、ニヤリと笑い、席からスッと立つ、その刹那、示現はヌンチャクの男に、体当たりを、食らわした。木刀を持った男は、余りにも早い奇襲に、タジロぎ、ヌンチャク男の助けも、出来ぬまま、ヌンチャクを取り上げられる。
 脇で見ていた、若山教諭は、木刀の少年に縋り付き言った。
 「こ、これ以上、授業の妨害しないでくれ、た、頼む」
 木刀の少年、3年の、岸田は、若山を殴り付け、示現と対峙する。もう一人の少年は、これも又、木刀を構えて示現を見据える。
 ヌンチャクを持っていた少年は、鼻から血を流し、潰された鼻を押さえて、もがく。
 「キャーいやー、示現君、喧嘩やめてよ~」
 「そうだ、喧嘩なら外でやってくれ、僕らは遊びに学校に来てるんじゃ無い」
 生徒達は、口口に喚き罵る。
 示現は、黒板をボンと、拳骨で殴り付け言った。
 「やかましい、これは男の勝負じゃ、ヌシ等邪魔すっとブチノメスど」
 示現はフッと振り向き、岸田にススっと何気なく接近する。
 岸田は、間合いに入られたのも気付かず、木刀を、野球のスイングの様に、示現の頭目掛けてフルスイングする。
 ヒュッと、風を木刀が切る。示現は、ニヤリと笑い、身を屈ませて、木刀は教壇の机の上に飾ってある、ポインセチアの花瓶をカチ割り、勢い余って、黒板を叩く。
 その瞬間、示現の持ったヌンチャクが、ヒュッヒュッと2回空を切る。
 次に、教室の皆が見たものは、倒れた岸田を、残忍な笑いで踏み付ける示現の顔であった。
 岸田は、顎と、脇腹に一発ずつ貰い、床でのた打ち回る。
 「痛ぇ~つぅ~」
 残った一人は、狂気の様な表情をして、身を震わせながら示現と対峙する。
 「オラー」
 示現は、大声を上げると、木刀を離して廊下へ、駆け出して行った。
 天海は、居眠りから覚めて、教科書の問題集をサラサラと解いていく。
 示現は、廊下へ飛び出して行き、独り帰宅して行った。
 校庭を歩く示現を見て、校舎裏から、20数名の、不良学生が着いて行く。校門の脇には、東八連合の旗を持った、単車が30数台。示現は何食わぬ顔をして、立ち止まり、地面へ唾を吐く。
 「オイ、示現、ちょっと面貸して貰おうか」
 「貸す面は無いが、どぞうぞ何時でも勝負してやるとよ」
 天海幸司は、そんなやり取りには気が付かず、授業を受けていた。
決斗三堀公園
 風がそよいでいた。コブシの木を、2匹の鳥が梢を揺らしていた。単車が30台余り、学ランを着た学生が20人余、公園で昼寝をしていた営業マンが起き上がり、吸っていたタバコを、ポトリと落とす。
 少し、午後の日差しが、雲間から、漏れて来て、午前中の肌寒さも、少し和らいだかの様に感じる。
 パトロールカーが、通りを行き過ぎて行った。
 それを察知したかの様に、30台居た単車が一斉にエンジンを止めた。
 真ん中に一人の少年が出て来た。背丈は180cm程で、大柄だ、気の弱い者が見たら、一目で小便をチビリ、泣き叫び許しを乞うだろう程の強面であった。
 「オイ、おめぇーが堀中に来た示現か?」
 「名乗らなくても俺が示現てぇ事はばれてるバイね」
 「フーン、九州の田舎では、天下だろうが、東京じゃおめぇ何か通用させねぇーよ、福岡のダチから頼まれたんでな、おめぇさんを再起不能にしてくれってな」
 「ふーん、そいな事だろうと思ってたとね、じゃ、サッサと勝負付けようじゃなかとね」
 その男、池川正太は、言った、嘲笑うかの様に。
 「フフン、誰がタイマンだと言った?、あ~この人数全員使わせて貰うぜ」
 3人の三堀中の学生が、示現の後方へ回る、空かさず示現は出入り口の方面へ走った。単車に乗っていた、暴走族のメンバーが、行く手を塞ぐ。
 「ヤロー逃げんのかよー」
 「ハハハ、根性ナシがアハハハ」
 前を20人程固める、走って行く、方向を、右に進路を変え、ジャングルジムに飛び乗る。
 50人程の不良が一気に包囲する。登ってくる5人の頭部へ蹴りを入れて、これを落とす。30分が経過した、中々上手く、ジャングルジムに取り付けない、10人程が、登頂にチャレンジして、何れも失敗に終わり、池川は、痺れを切らしていた。池川は、5人正面から向かわせた。時間差で一人、ひっそりと後ろから登って行く。手にはジャックナイフを握り、ゆっくり接近して行く。
 5人は登頂前に、示現の激しい抵抗にあい、示現は、得意の蹴りで3人落とす。
 「よ~し、残った2人の続き、もう3人行け」
 後ろから、ジャックナイフを持った一人が、1,5メートル程半身になりながら、近付いて行く。
 後ろのジャックナイフの男に、突き入れられる前に、裏拳を入れる。
 顔面に、ドボリ、と裏拳が入り、地上へ落ちて行った。
 その隙に、5人が上って来た、示現はその時、飛んだ、池川目掛けて、空中蹴りを、慣行したのだった。
 「チェストー」
 気合声を掛けて、蹴りが入ったかの様に見えた。
 示現の蹴りは、空を切り地面へ墜落した。
 「よーし、今だ、皆で袋にしちまめぇ」
 示現は、立ち上がり、3人掛って来た少年の金的、目、鼻に、蹴りと突きを入れた。
 序に、砂を後ろからくる奴らに掛けた。ブワァ~と、砂塵が撒かれて、5人程の目を潰した。示現は公園の出入り口の方へ走った、20人程の少年が迫ってくる。出入り口の所で、三堀中の制服を着た少年が、今通り掛ろうとしている所だった。
 「オイ、退けよ」
 示現はその少年を突き飛ばして、ダッシュして、住宅街の方へ走って行く。
 「オイ、てめぇ、何人の邪魔してんだよ」
 池川は、出入り口の所で、ボヤ~と、立っている少年の肩に手を掛ける。
 ドボッ。一撃だった、ボディーに強烈な一撃を貰い、池川正太は、昼に食べた焼そばをブチマケル。
 「オ~、天海何してんだよ」
 三堀中の皆が呆気に取られていると、暴走族のメンバーが、天海幸司に、群がってくる。
 ベキリ、グシャリ、ボキリ。3人程の族ー東八連合ーのメンバーが、腕、肩、肘、を外されて、手がブランブランになる。
 「オーいてぇ~」
 「ヤロー」
 周りを囲んでいたメンバーを、次々に叩きのめしていく。蹴りは全て金的、突きは喉元と目を狙う、殺人拳だった。
 5分と経たない内に、8人程が、地面へ倒れて藻掻く。
 残った者は、恐怖で、遠巻きにしていた。
 天海幸司は、鞄を拾い上げると、公園を横切り、逆側へ向かい歩いて行った。
 「ハァー、焼そばが食いたく無くなったな、ウィ~」
 №1を賭けて
 示現翔が、転校して来て3日が経った。空も概ね晴れて、2ストロークの単車が、白煙を、上げて、オイルを撒き散らし走り去って行く。朝の通勤ラッシュで、甲州街道から裏道として三堀町を抜けて行く車も少なくない。
 天海幸司は、何時もの時間、何時もの校舎裏不良ゾーンに、タバコを吸いに、辿り着いた。3人の先客が居て、天海を見てニヤついて居た。2年の笠原、沖、三好の4組の三悪と言われている3人衆で有る。
 3人は、セブンスターを吸い、天海は、マルボロを一本出して、百円ライターで火を点ける。学校にジッポー何か持って来て、没収なんかされたら、「たまったものでは無い」、ので、ジッポーは、家に置き、常日頃は百円ライターを使うのが、不良学生の「たしなみ」で有る。
 天海は無言で煙草を大きく吸い込み、煙を呑む。
 紫煙が校舎裏の野球部の部室から出て来た、3年の小出に掛かり、大きく咳き込む。眼をしばたかせて小出は足早に歩き去る。
 「お早う、天海、今日もビンビンしてるか?」
 三好が言うと笠原と沖が爆笑する。
 「ウィ~オハリン、明日もホームランだ」
 天海は、ペニスを揉み、横に振り言う。
 4組の3悪は、又もや笑い転げ、天海は、ニヤリと笑い、もう一本、マルボロを出して火を点ける。
 「なぁ天海、示現って奴が昨日、お前と勝負して、5分で片手で倒すって言ってたぞ」
 笠原は、セブンスターの空き箱を、ポケットに仕舞い、笑いながら言う。
 天海は、ウィ~と言って教室に登る。
 教室に行くと、今日はやけに騒がしい。見ると示現と、重松と言う3年が、殴り合いをしていた。
 天海は、重松の後ろから肩を叩き退かした。
 「何だおめー、俺等今闘ってるじゃねぇか、何だよ?」
 「ウィ、そこ立っていると、座るのに邪魔だからどっか行けウィ」
 重松が、天海の方を振り向いた、瞬間、示現の正拳が重松の鼻先を抉る。重松は大きく吹き飛び窓際で展。
 示現は、倒れた重松に蹴りを加える、腹と首を重松は押さえて、示現を憐れむ様な眼で見つめる。
 「ウィ、その辺で辞めておけ」
 「オイ、天海こんな奴半殺しどころじゃ無いぞ、次におめーも殴られたいんか?」
 天海は、お手上げと言った顔で、鞄の中から、教科書と、クロスワードパズルの載っている新聞を出してノートに書き写す。
 クラス中の皆で、示現を押さえ付けて何とかその場は収まった。
 1時限目が終わり、トイレの休憩中の時、示現はトイレで、笠原、沖、三好の三悪に声を掛けられた。
 笠原の誘いで、個室に4人固まって入り、ヒソヒソ声で三好は言う。
 「示現さん、幾らザコシメテも、この学校の、制圧は難しいですよ」
 「んじゃ、だいがこの学校の№1なのかい?」
 示現は、拳で壁をドンドンと叩く。
 「うん、実質上は、中嶋が番張ってるけど、実力じゃ、天海が№1ですよ、何せ中嶋をタイマンで倒してますから」
 続けて三好は示現に言った。
 「そーです、今朝、天海に会った時言ってましたが・・・・・・」
 三好は、ゴクリと唾を飲み、示現の目付きが異様なのに怯える。
 「ハイ、示現何て、山イモは、放っておいて、東八連合に潰させるのが一番だって笑ってましたよ」
 示現は、三好の襟首を掴み、壁に押し付けて言う。
 「そいじゃ、この間の事も、あのデクノ棒の差し金じゃと言うのかい?」
 沖が脇から見て居てニヤリと笑い言って。
 「うん、示現さん、アイツ東八連合の息が掛かってるから、奴等にアンタを売ったんですぜ、何せ野球部の・・・・・・」
 三好が、沖の口を押さえ付けて、シィーと言い、口止めする。
 「何じゃ、言うてみぃ?」
 「ハー、それだけは勘弁してください、そうしないと、示現さんが毎日東八連合に付け狙われますよ」
 三好は、一気にまくし立てて、トイレの水洗に噛んでいたガムを落とし、これを流す。ジャーと水洗の音が聞こえると、4人は始業のベルを聞き、教室へ戻る。
 天海は、次の授業を、受ける為に、社会科の歴史、の教科書を予習していた。
 示現は、教室へ戻ると、天海の椅子に蹴りを入れ、自席に戻る。
 「ウィ、何か用か?」
 示現は、プイと窓の外を見て、天海幸司を無視する。
 放課後、天海は、帰る前に、一服付ける為、校舎裏不良ゾーンに居た。
 2本目のマルボロに火を点けた時、3年の女番、四本緑が、歩いて近付いてきた。
 ロングセーラムを、一本ポケットに入って居る箱から取り出して天海の脇に立つ。
 天海は、一瞥しただけで無言でマルボロを吸う。
 緑は、徐に口を開いた。
 「ねぇアンタ2年の天海君でしょ?」
 女は、ネットリした視線で、天海を見上げる。
 「ウィ?、アンタこそ四本緑って人でしょ?」
 緑は、ハッとなり、唇を赤い舌でペロリと舐めて口紅を塗る。
 「ねぇ、私の妹がアンタのファンなんだってさ、今日駅前でデートしてあげなさいよ」
 「うぃ、妹って誰だべ?身に覚えがないが?」
 天海は、変な口調で言うと、四本緑は、ニカリと笑い、内心で食い付いたっと、心の中でガッツポーズを作る。
 「アンタは、知らないだろーけどさっ、1年の四本アカネって言えば、カワイ子ちゃんで通ってんだからさ、三堀公園で待ってるから今から行きましょーよ」
 天海は、照れ臭くなり、デレーとして、四本緑に、左腕を掴まれて、公園の方へ歩いて行く。この緑が、地獄の使者だと気付かずに・・・・・・。
 大一番
 初夏の雷雲が、近付いてくる。南西の風がやや強くなり、辺り一面が、強風に木がなびく。
 「さぁ、早くしないと雨が降りそうだわ、まったく天気予報もあてにならないね」
 四本緑は、天海幸司の右手を取り、三堀中学から歩いて、8分程の、三堀公園に歩を進める。
 「ウィ~、でアカネちゃんてどんな娘―ん」
 天海は浮かれてスキップする。四本緑は、ウフッと笑い、天海の方を向き言い募る。
 「だからぁ~、学年1の、ミス三堀でぇー、芸能界からも、スカウトされてんのよ」
 三堀公園が、見えてきた、シーマと、単車数十台が公園を取り囲んでいる。
 「ウィ~、ゾッキ―が多いな、妹のアカネは大丈夫か?」
 「ウン、三堀公園のホラッ」
 天海幸司は背中を押されて、公園の中へ押し入られる。出入り口には、10人程の、高校の学ランを着た男達が、天海の両腕を掴む。
 「ウィ?何の真似だ?」
 天海幸司は、公園を見回すと、60人程の不良学生と、中央に示現翔が腕を組んで立っていた。
 雷がピカッと、八王子方面で光った。族車が、柵を外した公園の中へ続々と進入して来た。次の瞬間、ピカドーンと、近くの木に落ちた様な気がした。
 「クゥー、近けぇーな、天海君、その示現を今日倒すんでしょう?、早くしないと雨が降りそうだよ」
 シーマから降りてきた、飛田兄が言うと、ヘヘヘと、周りにいる皆が不気味に笑った。
 「オウ、はよ来んしゃい、木偶の棒、今日こそキッチリシメテやんよ」
 示現翔は意外に近くに居た。僅か2,5メートルの距離だった。
 示現は息吹をフゥ―と吐くと、ニヤリと笑い、イキナリ右の膝をブツケテきた。。
 「トイヤー」
 天海は、奇襲に驚き、一歩後退した。近くで、飛田一派が、ニヤリと笑うのが見えた。
 「デェーイ」
 天海は、膝の一発を、モロに腹に喰らい、吹き飛ぶ。こうしてダメージと次の攻撃に対処しているのだ。
「セイリャッ」
 示現は踏み込んで、転がる天海の頭部目掛けて、ロウキックを狙う。
 「ケッ、意外に天海って弱いんだな?、なぁ笠原?」
 天海は蹴りを、左手で払い、ワザと四回転転がり立ち上がる。
 「見て下さいよ、まだやる気有りますよ、ワハハハハ」
 笠原と飛田良介が笑いながら話をしていた。
 天海は、示現の連続攻撃を上手く防いでいた。
 天海の一発がカウンターで、示現の脇腹に入る。
 「ウゲー」
 示現は、何とも情けなく呻く。天海は続けて、示現の左手を、抜く手も見せないで取りに行く。
 示現は、拳から貫き手に変化させて、天海の喉を打つ。天海は少し仰け反り、左の浴びせ蹴りを示現の後頭部へ入れる。浅い。示現は少し顔を歪めて、天海の襟首を掴む。チョーパンの連打を見せる。天海は負けじと示現の脇腹に右の肘打ち、空手で言う猿飛を、一撃入れる。
 「よう、ハァハァ、飛んで空中で蹴りを着けようぜ」
 「ウィ、いーけど、そこ等に居る奴らに、一発お見舞いしてくらぁ」
 「え?」
 天海幸司は、飛田良介の、方向に一直線に走って行く。
 「オ~天海君、奴はまだ、わがっ」
 グシャリと顔面に、天海の正拳が決まり、飛田に笠原は気を失う。示現に、他の族と、高校生の不良達が群がってくる。1人、2人、3人と、金的を蹴り片付けて行く。
 天海幸司は、逃げて行く、三好を追い掛けて走る。その序に、そこ等に居る、族の高校生を伸ばして歩く。しかし、多勢に無勢で、示現と天海は、追い詰められていく。
 示現は走って、自前の学生鞄から、先日奪った、ヌンチャクを出す。天海は、一人大柄な高校生の持っていた、木刀を、腕を折りこれを奪う。
 その途端、一斉に族と不良達が逃げて行った。
 「ハァハァ、天海、奴等の仲間じゃ無いのかい?」
 「ウィ、あんな奴等仲間じゃ無いよ、てかよ、決着付けたいんだろ?」
 天海が言うと、示現はコクリと頷く。
 「飛び蹴りか、じゃぁ行くぜ」
 「おう」
 天海が先に飛ぶ、示現も一気に助走もつけずに飛んだ。
 天海の蹴りが示現のガードを掻い潜り入る。示現の蹴りが、やや高度が低いが、天海の腹付近に入る。
 天海は、落下し、示現はドサリと首を押さえてうずくもる。
 「うーん負けタイね、もう体力が無い、好きにしろ」
 「ウィ~、俺も腹が痛い、この勝負は引き分けとしよう、中村の家に住んでるのか?」
 天海は、示現の脇に寝そべり笑う。
 「うむ、カゴンマを追い出されたからな、年少に少し入って、流れてここに居るタイね」
 辺りは少し暗くなって来た。雷雨が降ってきた、2人は、雨宿りで公園の屋根の付いたベンチに移る。
 天海は、そこ等に有る、バットや木刀と言った凶器を、片付けてからベンチに座る。
 「ウィ、タクシーで送ってやるよ」
 「えっマジか?」
 2人は雨が止むのを、待っていた。 
 相州平野
 ニキビ面の学生が、平塚駅近くで、数人屯している。県立平塚学院の3年の不良だ。潮臭い風がこの少年の乗る単車、CBX400Fのタンクに付いた傷にダメージを与え、錆をさらに浸透させ、塗装の寿命を短くしていた。
 お揃いのボンタンを履き、上は赤、青、黄色と言ったアロハを着て、ボタンを閉めずに、胸元を開けて、各々単車を触りながら煙草を吹かしていた。
 神奈川県平塚市の喫茶、ベニーに、この若者達は、屯していた。
 「オイ、神山、先方はまだ来ねーのかよ、こっちは、気が短いって言っておいた筈だぜオイ」
 この、大威張りしてるのが、相州連盟・平塚ユウマ、UMAと描く、ヘッドの片平だ。
 UMA14代目ヘッドで有る。この神山は、片平の片腕で、いつ何時も、ヘッドから離れない程、片平に心服していた。
 単車が3台、この喫茶・ベニー・の前へ着いた。
 表で屯している、少年達は、この3人を見て、ガンを飛ばした。
 1番年嵩であろう、ハーレーダビッドソンのアメリカンに乗って現れた、3人組のリーダー、井上真彦こと、マッチは、着ていたベストの背中を、チンピラ達に見せ付けながら、店の中へ入って行く。
 ベストの背中には、本家甲州地獄龍と、漢字で、記されており、これを見て怖じ気無い奴は、関東甲信越は、おろか、東海道筋でも居ない。
 「ゲッ地獄龍じゃぁん、何であんなのが来てるんだ、俺達で潰しまおうよ」
 チンピラの一人が声を荒げて言う。
 「オイ、冗談でもそんな事言うなよ、奴等の人数千位居るんだぜ」
 「ヘェ―すげぇな」
 喫茶ベニーに、3人入って行く。井上真彦は、相州の頭、片平と席を移動して、カウンターからBOX席にドカリと座り、テーブルに両足を乗せて、煙草を吹かす。
 井上真彦は苦笑して、片平の顔をマジマジと見て、一言言った。
 「オめぇーの顔ゴリラに似てんよな」
 「何?もう一辺言ってみろやこの乞食」
 神山は、狂人の様な眼をして井上を睨み付ける。
 「まぁー神山、そん位のギャグで怒るなよ、皆、一杯頼んで良いぜ、ここは、山梨じゃないから飲酒でパクられるからな、ギャハハハ」
 喫茶の中に居た、8人のメンバーも、爆笑して、シラケている、井上他2人を、睨み付ける。
 井上は、バーボンの小瓶を、尻ポケットから出して、一気にラッパ飲みする。ゲップを履き、神奈川県の広域地図を、一緒に来ていた、志村と言う男から渡して貰い、テーブルに広げる。上野原方面~津久井にかけて、赤く塗られてい、このエリアを指差して、井上は、声高に言った。
 「この上野原から津久井のエリアは、去年から、ウチが守る事になったけど、三日前、何で許可なく、パレードしたの?」
 井上は、掛けていた近眼の眼鏡を外して、目力を入れて片平を見る。
 片平は、タジロギ、言葉を呑んでしまった。
 「オイ、何とか言えよ、シメルぞこのタコ頭」
 一緒に着いて来た、志村が、ボケーとしている、片平の頭を平手でハタク。
 「誰がタコ頭じゃい、やんのかコラ?、表出ろい」
 神山が怒り心頭になり、志村と肩をブツケ合い、並んで店の外に出る。
 「ん~、あの日は、たまたま皆で、相模流してたら、津久井の方へ行ったんだよ何か問題有るか? 」
 外が騒がしくなって来た。志村がピンチだと見た、井上は、秋山と言う男を外を見にやらした。
 外では、乱闘騒ぎになってい、志村は髪を掴まれて殴られていた。
 「済まんな、皆血の気が多くて、で、津久井流したのは、詫びる、が、地獄龍が、相州へ一歩でも入ってきたら、シメルべよ、遠慮なく潰す」
 その週の土曜日、津久井湖畔に、約120台の相州連盟のマシンが、侵入して来た。
 地元の族・津久井ノイズは、相州が入って来て、仕方なく一緒に走る事にした。
 湖の水面が、青白く光り、都合40台ばかりの暴走族が我先にと街道を走る。
 中心街から、少し離れて、パトロールカーが、監視する中、ヘッド片平は言った。
 「よーし、オメェー等気合入れて掛かれよ」
 「ちょっと質問です、こんな辺鄙な山奥で何で気合入れなきゃ駄目なの?」
 メンバーの一人が、自販機で買って来た、コーラを飲みながら片平に尋ねる。
 「敵は、甲府、山梨県の甲府に有りだ、準備ができ次第、山伝いに行くぞ、死ぬなよ」
 全車順々に走って出て行く。
 一台また一台と、津久井湖畔を進発する。相州ヘッド片平は、この年18歳、2年前の高一の時に、敵対する暴走族のメンバーを、バットで殴り倒し重傷を負わせて、少年院に入っていた。その間、高校は首になり、退院後、相州連盟UMAの幹部になり、今年3月、新ヘッドとして、君臨した。
 相州の旗が、少し冷たい北西風に棚引く。
 【パウロ】【死面堂】【疾風】【極道館】【大和陽炎天狗】と5チーム入ってい、津久井の地元の族【ノイズ】が参加した。
 このチーム構成で、今夜、甲府を攻めると言う。
 片平が、甲州街道を出、上野原付近を、流し、大月に差し掛かると、前衛部隊の、大和陽炎天狗が、敗走して来た。
 月がほんのりと、雲間から顔を覗かせ、その全容が明らかになっていた。陽炎天狗のメンバーを、UMAのメンバーが捕まえて話を聞いた所、神出鬼没に現れる地獄龍に、翻弄され、ヘッドの山室が、全身打撲の目に合い、山室は単車を捨てて、車に乗り換えて帰ってきたと言う。
 「総長、ヤバイ、ヤバイ、地獄龍マジつえ―スよ、今、やって来るかも知れませんから逃げて下さい」
 片平は、この少年の話に納得せず、UMAの、40台余りのマシンは、更に前進した。大月、猿橋、笹子と、走っていると、向こうから、疾風の旗が、半分千切られて、火が付いたまま、走ってくる。
 片平は、その族に危険を感じて、近寄らなくスルーして走った。
 真暗い闇、薄汚れた単車、排気煙で辺りが煤けて、ボンヤリしている闇の中、向こうからヘッドライトの群れが一台二台、いや、十台以上走ってくる。
 「ん?相州の友軍か?」
 片平は、目を見張って前方を見る。先程敗走して来た友軍は、20号から入った組だ、他の友軍は、富士五湖方面から侵入したので、今頃、甲府に着いて居る頃だろうかと思っていた。
 甲州街道で、鉢合わせになったヘッドライトの、群れは、地獄龍・郡内衆の、先陣で有る。
 その数は、高が知れていたが、敗走してくる四輪、単車の連中の顔を見ると、(只事では無い)形相で戻って来ていた。
 郡内衆は強かった。狂気の様に金属バットを、振り回し、片端から単車を潰して行く、中には火炎瓶を、投げて寄越し、車にはカンガルーバンパーが、装着され、430型グロリアが、相州で無敗と言われてきた、平塚UMAの本陣に斬り込んで来た。
 「ギャー助けてくれー」
 「人殺しの狂人だ」
 中心にいる片平は、炎を見て怯え、狂った様に接近してくる430型グロリアを、見て自らの単車、GS400をUターンさせて逃げてしまった。
 その事が有り、この後の相州連盟の、勢力地図が塗り替えられていった。
 或る日の出来事
 東京都下・国立市に、第八交機は有った。
 正式名称は、警視庁第八方面交通機動隊で有る。
 主な活動内容は、白バイ、交通取り締まり用自動二輪車で、幹線道路での、交通取り締まりで有る。
 パトロールカーの自動車警邏隊も有り、此方は主に深夜帯の活動が多い。
 高波正矢は、第八方面交通機動隊、第二中隊の巡査長で有る。歳は28歳、25歳で妻、名波と結婚し、今は子供、愛娘が一人居、幸せそうに見える。
 朝朝礼が有り、上司から訓示を受ける。今日の仕事は、東八道路の、巡回と、三鷹の野崎の交差点を拠点にして、取締を重点的に行う事であった。
 (え~こちら、第二中隊本橋巡査出発します)
 無線で交信が有り、本日の出撃を皆続々として行った。午前9時である。
 「高波巡査只今から東八道路方面に向かいます」
 朝の申告を終わらせて、同僚の山川、上司の川名巡査長と共に現場へ直行する。
 主にスピード取締が多いが、一時停止違反や、信号無視も見逃せない。
 前原の交差点の脇に、川名巡査長が着き、山川は、調布方面の、甲州街道沿いの関東村付近に走って行った。
 高波は、野崎交差点で一息つき、無線於感度の調節をし、走り去る車両のチェックを怠らない。
 (え~、多摩62―×▽2314)
 いよいよ本日の仕事始めだ、無線が仕切にコールし、各地でやり鳥が始まった。
 「良し、今日はノルマ6件としておこうか」
 畔呟き、愛車CB750Pのタンクを撫でてやる。
 (え~交通事故発生、場所は調布市深大寺2丁目のー)
 高波は、朝一からまたかっと、溜息を付き、マシンのエンジンを、セルでスタートし、サイレンを鳴らして現場に急行する。
 場所は、深大寺植物公園の奥で、軽自動車とタクシーが、オカマを掘って衝突していた。
 既に、所轄の箱番ポリスが、事情聴取をしていた。高波は現場に着くと、言い合いになっているドライバー同士の間に入っている、巡査長の階級の制服警官に、様子を聞くと、
 「アンタは、黙って交通誘導でもしてなさい、後の事はウチでやるから」
 「ケッ調子の乗ってやがらぁ」
 高波巡査は、箱番のパトロールカーのリアハッチから、パイロンを取り出し、事故車の後ろに置き、笛を吹き交通誘導をする。
 ピィ―ピィ―、と甲高い笛を吹き、所轄のパトロールカーが入って来て、事故調査を始める。高波は蚊帳の外だ。
 15分程して引き上げる。東八道路を、再び流す。3台前を、原付が35キロ程で走っていた、様子を見ることにして、トラックの陰に暫く隠れていることにする。
 5分程奏功し、右車線に出て見る。原付は明らかに速度違反をしていた、スピード測定器で、計測すると、52キロは出ている。サイレンを、ONにする。これから停車をさせなければ行けない。
 マイクで高波は言う。
 【前の原付、止まりなさい、左側に停車して下さい】
 違反車両は、即座に停まった。高波も後ろへ着ける。
 「ア~、何キロ出ていたと思う?」
 運転していたのは、高校生くらいの若者で、触れ腐れた様な顔で免許証を出す。
 「チッ、何キロっスか?」
 「チじゃねーよ、52キロ、22キロオーバーだよ」
 「だってよ、コレ100キロは出んだぜ、無茶言うなよ、クソッ」
 少年は、原付の川崎のミッション車、AR50のタイヤを蹴り悔しがる。
 「チェッ付いてね~や」
 少年は、荒々しくエンジンを掛けてゆっくり走って行く。
 時間も昼に近付いてきた、前を違法改造の単車が2台走っている。
 バリバリと爆音を上げ、けたたましいエキゾーストノートを、残し、信号を無視し、前原の交差点を走り抜ける。
 高波は、追跡に掛かった、府中街道を国分寺方面へ折れ、信号無視をしながら走って行く。サイレンもONにした、スピーカーフォンで呼び掛ける。
 【ハイー前を行くZ400FXに、FZ400の二台止まりなさい】
 2台はサイレンを聞き逃走に掛かった。恋ヶ窪を右折し連雀通りへと逃げる。
 (え~こちら、第二中隊高波、丸走の違法改造社を追跡中、場所は、国分寺恋ヶ窪付近族は2台、ナンバープレート無し、盗難車かと思われます)
 族は、路地へ入って行き、2手に分かれた。高波は即座に判断し、右手に逃げた方を追う。
 ウーウーウー、サイレンが昼の国分寺の閑静な住宅街を騒がす。
 追跡するも、族のテクニックは、並の物では無く、対向車対向車を避けもせず、蹴散らすようにして走る。追跡15分、武蔵境のアジア大学前の路上で族はガードレールの当たり転倒する。単車は、50メーター程滑って行き、その男は、フルフェイスを脱ぎ、追ってきた高波のCB750Pに向けて投げ付ける。
 高波は、危うく避け、単車を停車させる。
 「オラ、舐めた真似してくれたな、現行犯逮捕だオウ」
 族の男は、立ち向かってきた。高波は顔面に一発貰う。サングラスが吹き飛び、無線装置が路上に落ちる。
 「オラ、マッポ死ねや~」
 男はポケットからナイフを取り出し、高波の腹に向けて突き込んで来る。
 その時腕を脇で固めて、右腕を拘束し、落ちたナイフを、後ろ足で蹴飛ばし、向こうへ押しやる。
 男の腕を取り、壁に頭を打ち付けて、グロッキーになった所で、金的に蹴りを入れる。
 5分後、手錠を嵌められて、所轄の署に連行されて行く。高波も当然武蔵野警察に行く事になる。
 現場は騒然とし、車は渋滞していた。
 この男、前科二犯、車窃盗で2回務所に入っていた。年齢は26歳、血液型はAB型―。
 

 


 


 



 


 


 


 


 


 

 

 

 

 
 

 
 

 

 

 

 

 


 
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