第1話

文字数 1,772文字

ずいぶんと、お昼に比べてひんやりしてきた道を、てっちゃんは一人で歩いています。てっちゃんは、お父さんの仕事の都合で、遠くの町から、お父さんとお母さんと三人で越してきたばかりなのです。
「今日もみんなと遊んだけど、一緒に帰ってくれるお友達は出来なかったなあ」とてっちゃんはとぼとぼと、さみしい気持ちで、ランドセルを背負って帰っています。
ずいぶん日が落ち、夕焼け空になってきました。てっちゃんは、空を見上げて、きれいな夕焼けを見ていました。きれいだなあ、とてっちゃんはおもいましたが、それと一緒に、さみしい気持ちがこみ上げてきて、ぽろぽろと涙が流れてきました。
すると、「てっちゃん」と呼ぶ声がします。誰だろう、と思ったら、お母さんでした。
お母さんは、てっちゃんが転校してきたばかりでさみしいかな、と心配して、迎えにきてくれたのです。
「あ、お母さん」てっちゃんも答えました。
お母さんは、「今日はお友達出来た?」と聞きました。てっちゃんは、「みんなと遊んだけど、一緒には帰ってくれなかった」と言いました。お母さんは、「そう、つらかったね。けど、今日はてっちゃんの大好きなオムライスが晩ごはんだよ」と言いました。「えっ、そうなの。嬉しいな」とてっちゃんは喜びました。お母さんは、学生のとき、洋食屋さんでアルバイトして、シェフから、オムレツをチキンライスの上で開くオムライスを習ってきていて、今も作れるのです。てっちゃんの大好物です。てっちゃんは、いつもお母さんのオムライスを食べると、幸せな気持ちになります。だから、とても嬉しいのです。
家に着くと、まだお父さんは仕事で、帰ってきてはいませんでした。
てっちゃんは、ランドセルを降ろして、楽な格好に着替えました。それから、宿題を済ませたり、ゲームをしたり、お母さんとお話していたら、すっかり暗くなり、お父さんも帰ってきました。
「ただいま」とお父さん。「お帰りなさい、お父さん」とてっちゃんとお母さんはお迎えしました。
「お父さん、今日はオムライスにするよ」とお母さんは言いました。お父さんは、「おっ、それはいいね。てっちゃんも大好きだしね」と言いました。てっちゃんもやっとお父さんが帰ってきて、ホッとしました。
「じゃあ、みんなそろったし、晩ごはんにしよう」とお母さんは言いました。
お父さんも、楽な格好に着替えて、みんなでリビングへ集まりました。晩ごはんです。

お母さんは、オムライス用のぱらぱらの冷凍ご飯に、玉ねぎとチキンを炒めて、塩コショウとケチャップをし、上手にチキンライスを作ります。そして、小さなボウルへ卵を三個割り入れたのを三つ用意し、シャカシャカと、これまた上手に卵を溶きました。そして、バターをフライパンに溶かし、ボウル一つの卵を入れ、またまた上手にオムレツを作ります。そして、楕円形にお皿に乗せておいたチキンライスに乗せ、ナイフでオムレツに切れ目を入れると、オムレツは、とろっと広がりました。てっちゃんは、これをいつも見ていて、お母さんはすごいなあ、と思います。
「さあ、食べよう、冷めないうちに」お母さんが言いました。お母さんのオムライスは、口の中に入れると、玉子が、とろとろのふわふわで食べると、とても幸せな気持ちになります。「お母さん、やっぱり今日もおいしいよ」とてっちゃんが言うと、お父さんも、「うん、相変わらずとてもおいしいね」と言います。お母さんも、「ありがとう」と言います。
みんなで楽しく晩ごはんを食べました。

お母さんが片付けをしてくれているのも、てっちゃんはしっかり見ていました。「お母さん、いつもありがとう」とてっちゃんが言うと、お母さんは、「いやいや、あなたが喜ぶのがうれしくてやってるんだよ」と言います。

そこへ、お父さんが、「てっちゃん、お空を見に行こう」と言います。てっちゃんもベランダへ出ます。「明日は晴れるから、お月様もお星さまもしっかり見えるよ」とお父さん。てっちゃんも、「うん、きれいだね」と見ています。お空がまるで、てっちゃんを祝福しているかのようです。
お母さんも、片付けを済ませて、ベランダへ出てきました。
てっちゃんは、「明日はお友達出来るかなあ」と言いました。すると、お母さんは、「きっと出来るよ、一生のお友達が」と言いました。            (おわり)
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