第1話 地球で最後の男

文字数 828文字

ある日突然大規模な天変地異が起こり、地球は死の星となった。何の因果かオレだけが生き残ってしまい、今ここにいる。

俺は、地球最後の男なのだ。

勿論、まだ生きているものがいないかと荒廃した大地を探し回ったが、動くものは何一つありはしなかった。よく散歩した公園、商店街、そして懐かしい我が家も今では瓦礫と化し、昔の面影は微塵もない。

絶望にくれた日もあったが、生存本能というのだろうか、オレは心を奮い立たせ何とか生き延びてきた。

現在オレは、地下商店街の倉庫として作られたであろう施設に寝泊まりしている。自らを脅かす存在すら既にないのだから、本来は屋根さえあればどこで寝ようがよい。しかい悲しいかな滅亡前の習慣を変えるというのは難しいらしい。そのため部屋のドアも閉めて過ごす事が多く、時々物音がするとビクリと起き上がる。

今日も何とか食べ物を見つけた後、ねぐらへ戻りうつらうつらしていると、突然ドアを叩く音がした。最初はまた風か何かのイタズラだろうと思っていたのだが、どうやら違うらしい。何故ならドアを叩いている主は人の言葉を発したからだ。

「おい、ドアの中に誰かいるのか。居るのなら返事をしてくれ。私は生存者だ。入れてくれ」

オレは戸惑った。オレが地球最後の男のはずだ。どこかの小説のように"それは地球最後の女でした"などという事はあり得ない。何故ならその声は明らかに男の声であり、ドアを叩く力強い音も女性のものとは思えない。

オレは警戒をして後ずさる。生き残りが自分だけだと思い、何の逃げ道も用意してこなかった事をオレは後悔した。

「おい、開けるぞ。いいな」

ドアの外の声がそう告げると、ゆっくりと扉が開く音がした。入ってきたのは屈強な三十代の男。そして部屋の隅にいるオレを見つけてこう言った。

「おぉ、なんてかわいい猫なんだ。お前も生き残ったのか。これからは私の家族として一緒に暮らしていこう」

オレは少し迷いつつも、尻尾を立てながらその男の足下にすりよった。
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