第1話

文字数 1,995文字

ある日、郊外の町から突然人が消えた。
そこは、市中心部からほどほど近く景観も良かったので、若い家族に人気のある住宅地だった。
それがある日突然人が消えてゴーストタウンになっていたのだ。
そして、残されたのは、壁に空いた小さなトンネル。
だが調査の為トンネルに入った者で、帰って来た者はゼロだった。
「ここか」
ある日早朝、進入禁止のゲートを飛び越え、2人の少年がトンネルの前に立った。
「ああ、一方通行のトンネル。好奇心のある奴を引き込むんだろ。」
「俺は入るけど、お前は帰れ。」
「一緒に行ってみる。絶対に帰ろう。」
「帰った奴はいないんだって、俺は友達の家泊まってた妹のアイ探しに行くけど。」
「いや、城木、俺がいないと困るだろ?」
固い決意で顔を上げる吉岡に、大きくため息付いてリュックを背負い直した。
ポケットには、住所氏名書いたメモ。
異世界に繋がってたら、意味は無いだろう。
どこに出るのか、まったくわからない。限界までリュックに詰め込み、ズシリと重い。
近くの柱にロープをつなぎ、端を持って2人手を繋いだままトンネルに入っていった。

次第に視界が真っ暗になり、急に道がぐにゃりと歪んだ気がした。
「なんだっ?!」
「ロープ、引っ張られる!どうしよう!指が痛い!」
「離せっ!指千切られるぞ!」
離した瞬間、パッと光が視界に広がり、どこかに放り出される。
気がつくとシダの森にいた。

「くそっ、気持ちわりぃ。一体どこだ?スマホはやっぱ駄目だな。」
「何かスゲえ暑いな。熱帯?」
「帰れるのかな?」
「わからんなー、帰れなかったら暮らすしかないだろ。」
ゴクンと息を呑む。
行くって聞いて、付いてくることを決めたのは自分だ。
とりあえずシダのやぶを進む。
大型の犬が、10頭ほどの群れを作って開けた場所を進むのが見えた。
大人もいれば、子供もいる。
シダのやぶに潜んでいると、大きな虫が飛んできて吉岡の顔に止まった。
「うぐっ!」
口を塞いでいても、思わず声が漏れる。
犬が一斉にこちらを向いた。
「ヤバい、逃げよう!」
走り出したとき、思わぬ声が上がった。

「 オニイチャン! 」

それは、何とも言えない声だった。
声帯からひねり出しているような、人間ではなく、喋る動物の声。
城木が振り向くと、一匹の小柄の犬が駆けてくる。
「ま、さか?! 」
立ち止まると、その犬が襲いかかった。

「うわあっ! 」
「オニイガウウウッガッ!」

吉岡が慌ててリュックからスリングショットを取り出し石を拾う。
「アイ!お前アイか?!」
「ガウ、ガウ、オアア、オニイ、オニイ!」
「え?何で犬に?」
顔を上げると、他の犬も集まってくる。
「イツ、キタ?」「ドコ、カラ?」
「えっ?まさか、町の人?なんで犬に?」
「テン、カラ、コエ、シタ」
「ヒト、シンカ、ヤリ、ナオス」
「はあ?! 進化をやり直すって? 犬から? 」
「まあ、なあ、今の地球見てると、人間賢すぎだよなあとは思うけどさ。
もう進化してる人間連れてきてやることじゃねえよ。」

2人が犬に連れられて町の人が集まって暮らしている場所までやってくると、みんな集まってきた。
「声がしたって事は、管理してる奴がいるのか。」
「そもそも一体ここどこなんだよ。」
「ワカラナイ、若イ者ガ、走ッテミタ」「周り、海ダッタ」
「つまり、島か」

「よし、俺達も犬になる前にやるぞ」

城木が背中のリュックを下ろして、丸めたソーラーパネルを広げ始めた。
でかい荷物だと思ったら、アンテナとパッドまで持ってきてる。
携帯の機材つなぎ、アンテナを色んな方向にかざしてみる。
「それ、なに?」
「親父のスターリンクアンテナ」
「ええーーー、マジィ?」
「太陽があったら、衛星もあるだろ。」
「だから俺にパッドとポータブル電源持って来いって言ったのか。重かったー」
「あっ!繋がった!」
「異世界じゃないのかよ!Googleマップは?いまどこにいる?」
「ヤバい、日本からめっちゃ離れてる。地図にもないじゃん。Xで日本の警察に助け求める。」
「じゃあ、何で犬になっちまったんだ?」
「宇宙人かな?」
「町の人、人に戻れないのかな?」
吉岡が心配そうに犬たちをみてつぶやく。
城木はスマホで周囲の景色を撮り始めた。
「管理者を出し抜いてやろうぜ。
この島の存在を世界中にばらまくんだ。」
「それで?」
「さあな。 みんな!動画に撮らせてくれ、ネットにばらまく!」

皆が尻込みする中、アイが前に出るとゾロゾロ10人くらい出てきた。
声を揃えて、町の名と救助を求める動画を撮りアップした瞬間、電波が途切れた。

その後、バズったかはわからない。
だが、翌日上空を飛行機が飛び、物資が落とされて食うには困らなくなった。
数日船を待てという手紙だったので、待ってるうちに、ある日気持ちの悪い音が轟き、町の人はシッポを残して身体が人に戻っていった。
救助後、しばらくあの島は話題になったが、あの奇妙なトンネルが突然ただの穴になり、島は海に沈んで消えていった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み