第1話

文字数 520文字

【Side-B】
――この子はペストだ。このままここでこき使い続ければ、恐らく従業員全員が感染する。ウチで引き取るかね?
――なんだって!? そういうことなら早く連れてってくれ!

 こうして僕は、みんなが幸せに暮らしているこの孤児院に入った。
 後で聞いたところでは、僕がペストだというのは院長先生の作り話だったらしい。
 ここでの生活は素晴らしかった。
 布団はフカフカ。ご飯もあったかくて美味しい。おかわりだって自由にしていい。
 昼間は、公立学校と同じレベルの勉強を院長先生が教えてくれる。

 でも僕は、何かがおかしいと感じる。院長先生はきっと絶対何かを企んでいる。
 彼はきっと悪魔か何かなんだ。
 このあいだ更衣室で着替えているとき、背中にちらっと黒い羽根が見えたから。

【Side-A】
 完全に失敗した……
 孤児院を作って不幸な子供をかき集め、栄養を与え、大きく育て、就職させ、結婚させる。
 そして人生の一番幸せな瞬間を狙って魂を刈り取る計画を立てたのに、いざ全てのお膳立てが揃ったら一切の食欲が湧かなくなったのだ。

 どうやら十年もここに居続けたために、食の嗜好が変わったようだ。
 背中の羽根もすっかり白に戻ってしまった。そろそろ帰る潮時かもしれん。
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