第1話

文字数 982文字

終電時間を過ぎても、やっぱりどこの駅前にもそれなりに人がいるもんなんだな。
とっくに日付が変わっていて、午前0時30分をまわっている。
まあ、俺にとっちゃまだ一日が終わっていないから、感覚的には『24時30分』なんだけどな。

いわゆる『一般的な社会人』なら、風呂も入って明日の仕事に備えてぼちぼち眠りにつく頃なんだろうけど、この時間に郊外の駅前の地べたに座って、缶コーヒー片手に煙草を吸っている俺は、まあ、一般的な社会人じゃないんだろうな。

でも、今日は見逃してほしい。なんたって、俺は彼女にフラれたばっかりなんだから。
それで自暴自棄になって、普段来るようなこともない駅まで電車に揺られ、一人でヤケ酒してたってわけだ。

久しぶりだな、この“浮遊感”に包まれたのは。
終電過ぎの、この、なんとも言えない一般社会からドロップアウトさせられたかのような“拒絶感”。
この時間に一人で駅前にいると、「俺は、本当はこの世に存在していないんじゃないのだろうか」っていう、“孤独感”が襲ってくる。
でも、俺と同じように駅前にいる連中を見ていると、不思議とこの感覚がやわらいでいくんだよな。

さっきから俺の隣のベンチに座っている、スーツを着たサラリーマン風の男。鞄を小脇に抱え、ぼんやりと空を眺めているが、タクシーを拾う気配がない。スマホも手にしていないし、誰かが迎えに来る様子もない。彼には安心して帰ることのできる家がないのだろうか。

駅の向かいに建っている百貨店のショーウィンドウを鏡替わりに、ダンスをしている高校生ぐらいの集団がいる。はたから見れば青春を謳歌しているようだが、それはあくまで俺の先入観でしかない。もしかしたら彼らにも様々な事情があり、家にいることが耐え難いから、ああして仲間と集い、孤独を紛らわすために夜を明かしているのかもしれない。

近くの自販機の前では、人目をはばからずに抱き合っているカップルがいる。俺よりも年上、下手したら父親ぐらいの年齢の男と、女の方は…俺よりも若そうだ。俺の主観だが、おそらく二人は認められない男女の関係なのだろう。

こんな感じで、終電過ぎの駅前にいると言葉にし難い独特な“浮遊感”の中にいるような感覚を覚える。

…とまあ、人のことを偉そうに観察している俺。実は酔いつぶれて、財布もスマホもどこかで失くしちゃったんだよね。
24時50分。
さて、どうすっかな。
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