プロット
文字数 4,391文字
起)鋭い大きな瞳、美しい長い金色の髪、華奢だけれど筋肉のある体。
この国の国王の娘、王女ルイザはとても強い。若干18歳の少女はあどけなさを残しながら、大人っぽい愁いを併せ持つ女性だ。
俺が城へ来たのは、17歳のときだから、もう1年になる。ずっと片思いだったけれど、初恋である滅多に笑わない冷たい王女と親しくすることができたことに後悔はない。
王女ルイザはとても強く、剣術では誰にも負けないと豪語できるレベルだ。自分より強い人間を求めて国中に募集をかけた。もうまわりにルイザよりも強い者がいなくなったからだったようだ。それは俺にとって千載一遇のチャンスだった。しがない一般人の俺が彼女と親しくなるきっかけができたのだ。
俺は、生まれた時から剣をおもちゃにして遊んでいた。そして、剣術指導をしている父親の元で剣術を学んだ。流派もさまざまなものを会得した。だからこそ、俺に勝る者は周囲にはいなかった。でも、ルイザのほうが強いことだってあるだろう。俺は念入りに自分の修行を行い、さらなる技術の向上を求めた。
王女ルイザの剣術相手を選ぶ選手権が行われた。俺は、意気込んで参加をしていた。なぜならば、ルイザがひとめぼれの相手だったからだ。というのも16歳の頃に街に視察に来ていたルイザのことをたまたま目撃したのだが、その容姿に釘付けになった。彼女の容姿は俺好みの冷たさを備えた雰囲気であり、顔立ちはとても美しかった。周囲にいる女性とは全く違う雰囲気に度肝を抜かれた。雷に射抜かれたかのような衝撃が走ったという感じだ。とにかく、そういう感覚は初めてのことで、俺はどうしようもなくなり、その場に立ち尽くしていた。
初めての感覚に戸惑いながら、どうやったらルイザに近づけるのかと機会をうかがっていたのだが、そうそう会えるものではない。だから、一般人への剣術相手募集は青天の霹靂だったと思う。俺にもチャンスが巡ってきたのだ。これを逃す手はない。ただ、王女と話してみたい。彼女を見ていたい。それだけだった。
その後、無事選手権で優勝をした俺は、王女との再会を果たした。とは言っても、ルイザは俺のことを知らないわけで、一方的な再会と言わざるおえないのだが、初対面を果たすことになる。
しかし、俺の期待とは裏腹に目の前に現れたルイザは剣を振りかざし、挨拶もなく決闘をはじめた。初恋相手は相当な剣術好きな勇ましい人らしい。彼女の挨拶に剣で答え、心を通わせようとする。彼女の動きはリズミカルで速い。普通の人ではものたりないという理由がわかった。そして、華奢な細い腕にもかかわらず、振りは重い。
彼女が動くたびにゆれる髪の毛のしなやかさと艶に女性らしさを感じるが、目の前にいる女性は闘いにとりつかれた女神のようだった。顔立ちは美しいけど、気を抜いたら命の危険を感じるほどの鬼気迫る闘志は、もはや恋のコの字も感じることはできない。
俺は俊敏な動きでかわしながらルイザの隙を見入る。鍛錬した彼女にも隙がある。それは、俺にしか見えない隙だったのかもしれない。彼女の一瞬の空いた場所を突いて俺は試合に勝利した。これで、彼女とゆっくり話すことができるという期待がそのときは高まっていた。
すると、ルイザはくやしそうにしながら剣を俺の方に向けた。
「貴様、勝ち逃げすることは許さない。私が絶対に勝利するまで逃げるんではないぞ」
彼女の表情は冷たく、淡々とした口調で畳みかけてきた。
初恋の想い人との会話はこれが最初だった。やはり、遠くで見ているのと実際に会って接するのではだいぶ思い描いていた印象が変わるものだ。しかしながら、憧れの女性を目の前に俺は緊張とときめきが止められずに、ただ、立ち尽くしていた。
承)ウェディングドレスの試着というものに仕事で来ることになってしまった。というのも、バイトとしてのボディーガードの仕事を正式に依頼された。昼間は学校。土日や夕方はバイトを入れる生活となっていた。
俺としては好きな人と一緒にいることができるし、お金も入ってくるので、割りのいいバイトとして大歓迎だった。毎日夕方はほとんど剣術の相手をすることが多く、城には達人レベルの者もたくさんいたので、刺激となるという思わぬ収穫もあった。
「ドレス似合うのか微妙だな」
口角が勝手に上がり、皮肉めいたことが口から滑り落ちる。俺はこういった性格なのかもしれない。好きなのに素直に褒められないのは悪い癖だ。
「まぁ、形式だけの結婚だ。18歳になったら結婚をして国を背負う者として勉強をしていくというシナリオだ。人生決められたレールを走る。でも、私の目標は国の王だ。だから、その条件に結婚があるのならばやむおえないと思っている」
ルイザは野望と諦めに満ちた顔をしていたが、とても17歳の少女とは思えないしっかりした顔つきだった。国を背負う覚悟を持っているのだろう。そんな女性を今まで見たこともない俺は、ますますその姿勢に惚れこんでいた。勇ましく巨大なものを背負って生きているルイザはかっこいいと思えた。
「形式だけの結婚ってどういう意味だ?」
「寝室は別だし、子供も作らん」
無愛想に答えるその様子はとても17歳の女性とは思えない言動だった。
「このドレス、お似合いですよ。イメージに近いものをお持ちいたします。オーダーメイドはお任せください」
純白のドレスに包まれたルイザはいつもとは別人のように清楚でかわいらしく思えた。
「おい、おまえ、タキシード来てみろ」
「はぁ?」
「イメージだよ。オーダーメイドするには新郎の衣装とのバランスも必要だ」
なぜか急遽新郎役をやらせられるようになった俺は、少し戸惑いながら慣れない正装に身を包む。
「似合うか?」
俺が控えめに尋ねると、
「私のドレス姿は似合うと思うのか?」
真顔で迫る。
「それは、その……」
恥ずかしくて似合うという一言が出てこない。俺は何も言えずにその場に立ち尽くしていた。無関係の人間で身分も違うのに、こんな格好をしているなんて他の人に知られたらくびになってしまうかもしれない。
「写真を撮ってくれないか?」
衣装屋のコーディネーターにルイザは頼んでカメラを渡す。カメラ持参だったとは、さすが女子なのかもしれないと密かに思う。
二人で撮る衣装に包まれた写真は俺と彼女の最初で最後の1枚となるのだろう。偽新郎なのだから、未来永劫、彼女の横に立つことはかなわないことくらいわかっている。
転)その後、顔合わせの日がとうとうやってきた。
許嫁というか既に婚約者と呼ばれるその人は、颯爽とスーツ姿で現れた。
俺の方が絶対顔立ちはイケていると思うが、それは個人の価値観なので何とも言えない。温和で柔和な顔をしたおぼっちゃん風の婚約者は何不自由なく過ごしてきたという温室育ちをにおわせる。
初対面に俺は仕事として立ち会う。なぜかルイザの指名でバイトながらいつも仕事を頼まれるのは俺だ。その理由としてはルイザより強い者が俺しかいないということだが、いい勝負の強者はいないわけではない。
いつもながら無愛想で興味のなさそうな顔のルイザの用意された衣装は女性らしいものだった。普段あまりかわいらしい格好をしないので、俺の中では、一目見た時にどきっとしていたのだが、それを悟られないように目を逸らす。
「私は強さが全てだと思っている」
冒頭から結婚相手に威嚇したような言い方を放つ。
「僕は勉強ばかりでスポーツや武術は全くできません。しかし、僕も剣術を会得したいのです。まずは体力作りからですが、ご指導いただけないですか?」
落ち着いた様子で婚約者は控えめに懇願した。
「ショウ、おまえが指導してやれ」
「はい、よろしくお願いします」
初デートとなるお茶会は、優しい婚約者が彼女に寄り添う形で終了した。
この男性ならば、冷酷なルイザとうまくやっていけるかもしれない。
俺は心のじりじりした感情を噛み殺すように、我慢を重ねる。
自分の気持ちを押し殺していくのが俺のためでもあり、ルイザのためでもある。俺は唇をぎゅっと噛み締めた。
婚約者との食事は度々取り行われることがある。俺は、毎回仕事で王女の付き人として運転手として付き添う。帰るころはあたりは暗くなり、月がきれいで、澄んだ空にはきらきら輝く星々が輝く。星がまるで流れてきそうな夜空に王女は手を伸ばし、つかもうという仕草をした。意外とそういったところはおちゃめだ。もしかしたら、俺がここに来てから彼女が少しずつ変わったのかもしれない。
結)俺はルイザとこうやって星降る夜に一緒にいることができることを幸福に感じていた。俺の幸せは、彼女を守り、見守ることだと決意を固めていた。
「あの星、おいしそう」
珍しくルイザが星空に向かって意外な言葉を放つ。帰り道に通る海が見える浜辺の脇に一時駐車した。
「浜辺を歩きたい」
ルイザが珍しく道草を提案した。短時間ならばと思い、俺は快諾した。いつのまにか俺たちの距離は縮まり、お互いに下の名前で呼び合うくらいの仲になっていた。
「私が結婚したらさびしくなるだろ?」
「ルイザが幸せならばそれでいいよ」
「ショウは結婚辞めてほしいとは言わないのか?」
「そんなこと言える立場にないだろ」
彼女が転びそうになると、俺は彼女の手を思わず握った。しばらく、手をつないで海岸を歩く。俺たちはまるで本当の恋人のように同じ速さで歩く。
「好きな人、いないのか?」
ルイザが質問する。
「いるけど、失恋した」
「え? 誰に告白したんだ?」
「正確には告白はしていないけれど、フラれたんだ」
彼女は少し黙ると――
「ねぇ、私と結婚しないか?」
冗談のように少し笑いながら言い出す。
「しない」
俺は大好きな女性の提案に対して即効、丁寧に断りを入れた。
「ショウのこと結構好きだぞ。私より強い奴は珍しい。勝ち逃げするなよ」
「大丈夫だよ。一生傍で守るから。結婚なんてしなくても、大事な人を守ることはできるんだ。俺は一般人で身分が高いわけではない。国王になるなんて言ったら、国民全員が反対するだろうし、今の国王も反対するよ」
「駆け落ちしようか?」
いつも無愛想な王女が少しいたずらな顔をする。
手をつなぎながら、俺の顔を上目遣いで見上げる。
「それは、だめだ。ルイザが幸せになれない」
「やっぱり、好きな人のことが忘れられないの?」
「好きな人のことは結婚しなくても一生守るって決めたから。だから、君とは結婚はしないよ」
結婚することだけが愛の表現ではない。それ以外の形で俺は一生愛を語る。
そういう愛の形があってもいいと思うんだ。
君が他の人と結婚しても一生愛する。それは、俺が決めたことだから。
つないだ手に力を込めて俺は星空に誓った。
彼女が気持ちを伝えてくれた。この時間は俺にとっての永遠だ。
この国の国王の娘、王女ルイザはとても強い。若干18歳の少女はあどけなさを残しながら、大人っぽい愁いを併せ持つ女性だ。
俺が城へ来たのは、17歳のときだから、もう1年になる。ずっと片思いだったけれど、初恋である滅多に笑わない冷たい王女と親しくすることができたことに後悔はない。
王女ルイザはとても強く、剣術では誰にも負けないと豪語できるレベルだ。自分より強い人間を求めて国中に募集をかけた。もうまわりにルイザよりも強い者がいなくなったからだったようだ。それは俺にとって千載一遇のチャンスだった。しがない一般人の俺が彼女と親しくなるきっかけができたのだ。
俺は、生まれた時から剣をおもちゃにして遊んでいた。そして、剣術指導をしている父親の元で剣術を学んだ。流派もさまざまなものを会得した。だからこそ、俺に勝る者は周囲にはいなかった。でも、ルイザのほうが強いことだってあるだろう。俺は念入りに自分の修行を行い、さらなる技術の向上を求めた。
王女ルイザの剣術相手を選ぶ選手権が行われた。俺は、意気込んで参加をしていた。なぜならば、ルイザがひとめぼれの相手だったからだ。というのも16歳の頃に街に視察に来ていたルイザのことをたまたま目撃したのだが、その容姿に釘付けになった。彼女の容姿は俺好みの冷たさを備えた雰囲気であり、顔立ちはとても美しかった。周囲にいる女性とは全く違う雰囲気に度肝を抜かれた。雷に射抜かれたかのような衝撃が走ったという感じだ。とにかく、そういう感覚は初めてのことで、俺はどうしようもなくなり、その場に立ち尽くしていた。
初めての感覚に戸惑いながら、どうやったらルイザに近づけるのかと機会をうかがっていたのだが、そうそう会えるものではない。だから、一般人への剣術相手募集は青天の霹靂だったと思う。俺にもチャンスが巡ってきたのだ。これを逃す手はない。ただ、王女と話してみたい。彼女を見ていたい。それだけだった。
その後、無事選手権で優勝をした俺は、王女との再会を果たした。とは言っても、ルイザは俺のことを知らないわけで、一方的な再会と言わざるおえないのだが、初対面を果たすことになる。
しかし、俺の期待とは裏腹に目の前に現れたルイザは剣を振りかざし、挨拶もなく決闘をはじめた。初恋相手は相当な剣術好きな勇ましい人らしい。彼女の挨拶に剣で答え、心を通わせようとする。彼女の動きはリズミカルで速い。普通の人ではものたりないという理由がわかった。そして、華奢な細い腕にもかかわらず、振りは重い。
彼女が動くたびにゆれる髪の毛のしなやかさと艶に女性らしさを感じるが、目の前にいる女性は闘いにとりつかれた女神のようだった。顔立ちは美しいけど、気を抜いたら命の危険を感じるほどの鬼気迫る闘志は、もはや恋のコの字も感じることはできない。
俺は俊敏な動きでかわしながらルイザの隙を見入る。鍛錬した彼女にも隙がある。それは、俺にしか見えない隙だったのかもしれない。彼女の一瞬の空いた場所を突いて俺は試合に勝利した。これで、彼女とゆっくり話すことができるという期待がそのときは高まっていた。
すると、ルイザはくやしそうにしながら剣を俺の方に向けた。
「貴様、勝ち逃げすることは許さない。私が絶対に勝利するまで逃げるんではないぞ」
彼女の表情は冷たく、淡々とした口調で畳みかけてきた。
初恋の想い人との会話はこれが最初だった。やはり、遠くで見ているのと実際に会って接するのではだいぶ思い描いていた印象が変わるものだ。しかしながら、憧れの女性を目の前に俺は緊張とときめきが止められずに、ただ、立ち尽くしていた。
承)ウェディングドレスの試着というものに仕事で来ることになってしまった。というのも、バイトとしてのボディーガードの仕事を正式に依頼された。昼間は学校。土日や夕方はバイトを入れる生活となっていた。
俺としては好きな人と一緒にいることができるし、お金も入ってくるので、割りのいいバイトとして大歓迎だった。毎日夕方はほとんど剣術の相手をすることが多く、城には達人レベルの者もたくさんいたので、刺激となるという思わぬ収穫もあった。
「ドレス似合うのか微妙だな」
口角が勝手に上がり、皮肉めいたことが口から滑り落ちる。俺はこういった性格なのかもしれない。好きなのに素直に褒められないのは悪い癖だ。
「まぁ、形式だけの結婚だ。18歳になったら結婚をして国を背負う者として勉強をしていくというシナリオだ。人生決められたレールを走る。でも、私の目標は国の王だ。だから、その条件に結婚があるのならばやむおえないと思っている」
ルイザは野望と諦めに満ちた顔をしていたが、とても17歳の少女とは思えないしっかりした顔つきだった。国を背負う覚悟を持っているのだろう。そんな女性を今まで見たこともない俺は、ますますその姿勢に惚れこんでいた。勇ましく巨大なものを背負って生きているルイザはかっこいいと思えた。
「形式だけの結婚ってどういう意味だ?」
「寝室は別だし、子供も作らん」
無愛想に答えるその様子はとても17歳の女性とは思えない言動だった。
「このドレス、お似合いですよ。イメージに近いものをお持ちいたします。オーダーメイドはお任せください」
純白のドレスに包まれたルイザはいつもとは別人のように清楚でかわいらしく思えた。
「おい、おまえ、タキシード来てみろ」
「はぁ?」
「イメージだよ。オーダーメイドするには新郎の衣装とのバランスも必要だ」
なぜか急遽新郎役をやらせられるようになった俺は、少し戸惑いながら慣れない正装に身を包む。
「似合うか?」
俺が控えめに尋ねると、
「私のドレス姿は似合うと思うのか?」
真顔で迫る。
「それは、その……」
恥ずかしくて似合うという一言が出てこない。俺は何も言えずにその場に立ち尽くしていた。無関係の人間で身分も違うのに、こんな格好をしているなんて他の人に知られたらくびになってしまうかもしれない。
「写真を撮ってくれないか?」
衣装屋のコーディネーターにルイザは頼んでカメラを渡す。カメラ持参だったとは、さすが女子なのかもしれないと密かに思う。
二人で撮る衣装に包まれた写真は俺と彼女の最初で最後の1枚となるのだろう。偽新郎なのだから、未来永劫、彼女の横に立つことはかなわないことくらいわかっている。
転)その後、顔合わせの日がとうとうやってきた。
許嫁というか既に婚約者と呼ばれるその人は、颯爽とスーツ姿で現れた。
俺の方が絶対顔立ちはイケていると思うが、それは個人の価値観なので何とも言えない。温和で柔和な顔をしたおぼっちゃん風の婚約者は何不自由なく過ごしてきたという温室育ちをにおわせる。
初対面に俺は仕事として立ち会う。なぜかルイザの指名でバイトながらいつも仕事を頼まれるのは俺だ。その理由としてはルイザより強い者が俺しかいないということだが、いい勝負の強者はいないわけではない。
いつもながら無愛想で興味のなさそうな顔のルイザの用意された衣装は女性らしいものだった。普段あまりかわいらしい格好をしないので、俺の中では、一目見た時にどきっとしていたのだが、それを悟られないように目を逸らす。
「私は強さが全てだと思っている」
冒頭から結婚相手に威嚇したような言い方を放つ。
「僕は勉強ばかりでスポーツや武術は全くできません。しかし、僕も剣術を会得したいのです。まずは体力作りからですが、ご指導いただけないですか?」
落ち着いた様子で婚約者は控えめに懇願した。
「ショウ、おまえが指導してやれ」
「はい、よろしくお願いします」
初デートとなるお茶会は、優しい婚約者が彼女に寄り添う形で終了した。
この男性ならば、冷酷なルイザとうまくやっていけるかもしれない。
俺は心のじりじりした感情を噛み殺すように、我慢を重ねる。
自分の気持ちを押し殺していくのが俺のためでもあり、ルイザのためでもある。俺は唇をぎゅっと噛み締めた。
婚約者との食事は度々取り行われることがある。俺は、毎回仕事で王女の付き人として運転手として付き添う。帰るころはあたりは暗くなり、月がきれいで、澄んだ空にはきらきら輝く星々が輝く。星がまるで流れてきそうな夜空に王女は手を伸ばし、つかもうという仕草をした。意外とそういったところはおちゃめだ。もしかしたら、俺がここに来てから彼女が少しずつ変わったのかもしれない。
結)俺はルイザとこうやって星降る夜に一緒にいることができることを幸福に感じていた。俺の幸せは、彼女を守り、見守ることだと決意を固めていた。
「あの星、おいしそう」
珍しくルイザが星空に向かって意外な言葉を放つ。帰り道に通る海が見える浜辺の脇に一時駐車した。
「浜辺を歩きたい」
ルイザが珍しく道草を提案した。短時間ならばと思い、俺は快諾した。いつのまにか俺たちの距離は縮まり、お互いに下の名前で呼び合うくらいの仲になっていた。
「私が結婚したらさびしくなるだろ?」
「ルイザが幸せならばそれでいいよ」
「ショウは結婚辞めてほしいとは言わないのか?」
「そんなこと言える立場にないだろ」
彼女が転びそうになると、俺は彼女の手を思わず握った。しばらく、手をつないで海岸を歩く。俺たちはまるで本当の恋人のように同じ速さで歩く。
「好きな人、いないのか?」
ルイザが質問する。
「いるけど、失恋した」
「え? 誰に告白したんだ?」
「正確には告白はしていないけれど、フラれたんだ」
彼女は少し黙ると――
「ねぇ、私と結婚しないか?」
冗談のように少し笑いながら言い出す。
「しない」
俺は大好きな女性の提案に対して即効、丁寧に断りを入れた。
「ショウのこと結構好きだぞ。私より強い奴は珍しい。勝ち逃げするなよ」
「大丈夫だよ。一生傍で守るから。結婚なんてしなくても、大事な人を守ることはできるんだ。俺は一般人で身分が高いわけではない。国王になるなんて言ったら、国民全員が反対するだろうし、今の国王も反対するよ」
「駆け落ちしようか?」
いつも無愛想な王女が少しいたずらな顔をする。
手をつなぎながら、俺の顔を上目遣いで見上げる。
「それは、だめだ。ルイザが幸せになれない」
「やっぱり、好きな人のことが忘れられないの?」
「好きな人のことは結婚しなくても一生守るって決めたから。だから、君とは結婚はしないよ」
結婚することだけが愛の表現ではない。それ以外の形で俺は一生愛を語る。
そういう愛の形があってもいいと思うんだ。
君が他の人と結婚しても一生愛する。それは、俺が決めたことだから。
つないだ手に力を込めて俺は星空に誓った。
彼女が気持ちを伝えてくれた。この時間は俺にとっての永遠だ。