めっちゃ諦めが悪い 6~スパナ

文字数 967文字

祥のライトが先を照らす。
祥の手を取って私が続く。
エンジン音が消えた。
ライトも消える。
私達も一瞬立ち止まる。

静寂が広がった。

暗闇の中だから早くは走れない。枝がビュンビュンぶち当たる。
「ナツ。顔を庇え」
祥が言う。

「あっ!」
私は何かに足を取られて転がった。
祥が慌てて私の体を引き起こす。
「スパナ。スパナが」
私は手から離れたスパナを手探りで探す。
金属が手に触れた。
私はほっとする。今はこれが命綱だ。

「しっ・・」
祥がそう言ってライトを消した。
真っ暗闇だ。
自分の手すら見えない。
祥が頭を地面に付ける気配がする。

「誰かが歩いている・・」
「ええっ!」
私は小声で驚いた。それ以上、言葉が出なかった。
明りが見えない。
「明かりが無くても見えるの?」
信じられない!信じられない!信じられない!
暗視ゴーグルでも付けているんかよ!ずるい!ずる過ぎ!フェアじゃない!

祥は手探りで私の体を木の陰に引き摺って行った。

私は汗ばんだ手でスパナを握る。
祥が私の手にナイフを握らせた。
私はそのサバイバルナイフを掴むと、スパナをデニムの腰に挟む。じっとそこに潜む。息を殺して潜む。スパナがウエストに当たって痛いがその痛さが逆に安心を与えてくれた。

祥が手探りで私の顔を両手で包む。
「いいか。ナツ。俺は隣にある木に移る。この木じゃ二人は無理だ。お前はここを動くな。何があっても動くな」
「嫌だ。祥。行かないで」
私は祥の服を必死で掴む。
「リュックはお前が背負ってくれ。これがあると動きにくい」
私はびくりとする。
まさか・・

「祥。行っちゃ嫌だ」
私は半泣きになる。
祥は黙って私にリュックを背負わせると、手探りで体を抱き締めて、顎にキスをした。
「祥。そこ、顎、顎」
私達はお互いの唇を探し当てて慌ただしく口付ける。

「大丈夫だ。もうすぐ夜明けだ。頑張るんだ。動くなよ。声も出すな」
「祥。死んじゃ嫌だ」
「大丈夫だ。絶対に死なない」
祥の手が離れた。

身軽になった祥は地面を這いながら隣の木に移った。
私は闇を透かすようにして祥を見た。祥の体は暗闇に溶けてしまった。

神様。どうか暗闇が祥を守ってくれますように。
私は夢中で祈る。

足音がばらばらと近付く。
私は目を瞑って木にしがみ付く。
アドレナリンが出っ放しだ。脈拍数が上がる。
心臓の音が奴らに聞こえない事を祈る。
何もかもを必死で祈る。

足音はすぐそこまで来ていた。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み