第128話 この日何の日気になる日

文字数 610文字

 この日は母の日である。
 脳梗塞を発症してやがて一カ月になる。幸運にも軽症であった。が、
子供たちには、ずいぶん世話になったし、要らぬ心配もかけた。発症以来
毎日が母の日であったのである。
「この日何の日」と歌うように母の日の贈られものを待ったが、
どこからもなにもとどかなかった。それぞれに母の日どころではなかったのだ。
病気が軽かった分私も、自分を粗末にして、病後を軽くあしらっていた。
退院したというのに頭も足も快方に向かわない。時間のある限り伏せている。
病状の軽い人ほど「再発の確率は高い」と脅されていて、話す声も小さくなった。
「お元気ですね」と言われるのが嫌だと無駄口をたたいていたが、
あれはありがたい、嬉しいことだったのだ。
この分だと「お元気ですね」の声を聞くことはもう無かろう。人間って弱いもの
人間という言葉に総称してはいけない。私は弱きものである。九十余年生きて弱者の
こころ、今しみじみと我が心としている。長男が聞いたら、そうか、そうかと、喜ぶだろう。

 二男の言う通り週二日デイケアにも通うことにした。センターに私の安否を委ねたのである。
私は、もう一人では生活できないと見ているようだ。その証にデイケアへ行く日数が増えるだろう。
このまま、終わるわけにはゆかん。書きまくった生きた証を纏めなくてはならないし、
欠損しているアレを売らねばならむ。

 一日遅れで母の日が到来した。病む部屋が明るくなった。ありがとう。5/13日





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