第1話
文字数 9,863文字
誰かに恋をして、ふり向かせる。簡単なことだと思っていた。でも、そう上手くはいかないみたいだ。分かっているけど、それでも私は彼と恋がしたい。
彼を絶対にふり向かせる。
***
私は、宮本 あやめ。今日から恋ステに参加する高校二年生。キラキラした運命の恋をしたくて応募した。
絶対に素敵な人を見つけてみせる!
そう意気込んで、私は待ち合わせの場所に向かった。
「さむっ……」
今はまだ秋だけど、日に日に寒くなっていく。冬が迫ってきている。
時間になって、駅前の広場で初の顔合わせ。
女の子達はとても可愛いし、優しそう。
それに比べて私は、すごく美人というわけでもないし、クラスでも特別目立つ方でもない。
本当に大丈夫なのかな。
少し不安に思いながら待っていると、男の子四人がこちらに向かって歩いてきた。そのうちの一人の男の子に目を奪われる。
「高校二年生の凛 です。よろしくお願いします」
日比野凛 君は、私と同い年みたいだ。背が高くて黒髪と黒目がちな瞳。まさに理想の王子様だ。
きっとこういうのを一目惚れというのだろう。
もっと知りたい。話してみたい。
「じゃあ、次はあやめちゃんね!」
名前を呼ばれ、慌てて返事をした。
「高校二年生のあやめです。よろしくお願いします!」
それぞれ自己紹介が終わり、恋ステがスタートした。
私の恋チケは十枚。枚数の分だけ旅ができる。つまり私は、五週間参加できるということだ。
自分の枚数を話したり、相手の枚数を聞いたりしてはいけないから、相手がいつ帰ってしまうか分からない。
絶対に恋がしたいから、迷ってなんかいられない。
一週目の土曜日は東京の遊園地。テレビや雑誌では見たことあるけど、実際に来るのは初めて。
「ねぇねぇ、まずはみんなであれ乗ろうよ!」
一つ年下の元気で明るい奏 ちゃんが指した方向には大きなジェットコースターがあった。
正直、絶叫系は苦手だし怖い。でも、そんなこと言っていられない。
せっかくの恋ステだから、楽しまなくちゃ!
みんなで列に並んで順番を待っている間も、後ろに並んだ凛君を気にしていた。
すると前にいた男子がこっちを向く。
「あやめちゃんだよね。隣座ってもいいかな?」
確か、名前は夏希 君だ。最初から誘ってくれる人がいて少しほっとした。
声をかけてくれたなら、それに私も応えなきゃ。
「ごめん、ダメかな?」
「ううん! いいよ!」
そう言うと、夏希君は嬉しそうに微笑んだ。その笑顔を見ると、少し幸せな気持ちになった。
「あやめちゃんは、ジェットコースターとか得意?」
「あまり得意じゃないかも……」
「俺も一緒。怖いのとかは苦手かな。でも、話してたらちょっと落ち着いた。ありがとう」
すごくいい人だなぁ。
でも、私の頭の中から離れないのは凛君だけだった。
ジェットコースターに乗る順番がきて、それぞれ座席に着く。安全バーが下りて、びくっとしてしまった。
「だ、だ、大丈夫? あやめちゃん……」
「い、いや、大丈夫じゃない……!」
ジェットコースターが発車して、ぐんぐん坂を上っていく。心臓がバクバクしてきた。
「キャー!!」
一気に下って、あとは覚えてない。
ジェットコースターから降りると、「次どれ乗ろっか」とみんな盛り上がっていた。
そのとき、おしとやかな沙梨 ちゃんが、私の隣にいた夏希君に「ツーショット、行きませんか?」と声をかけた。
みんながざわついている中、夏希君と沙梨ちゃんは歩いて行った。
私も、凛君と話してみたい。声をかけなくちゃ。
「凛君、ツーショット行きませんか?」
声をかけるのは、やっぱり勇気がいる。でも、その一言で私の人生が変わることがあるかも
しれない。それって、すごく素敵なことだ。
「いいよ、行こう」
私は、うれしいような、恥ずかしいような、不思議な気持ちになった。
「ニヤニヤして、どうしたの?」
急に聞かれたから、慌てて、
「そ、そんなことないよ! 気のせい、気のせい!」
なんて、言ってしまった。
「なら、いいけど。何乗る?」
周りを見ると、二人でならんで座れるブルームエクスプレスを見つけた。
「あれがいい!」
「じゃあ、乗ろうか」
子供っぽかったかな?
でも、凛君と一緒に乗れるのがうれしい。
係員の人に案内されて座席に着く。隣に座った凛君と、腕や肩がぴったりくっついて、とても恥ずかしくなった。
「なんか、緊張するね……」
「うん……」
凛君から声をかけてきてくれた。その顔はすごく赤い。
「顔赤いけど、大丈夫?」
「ちょっと照れてるだけ。大丈夫だよ」
こんな顔もするんだ、凛君は。もっと、いろんな凛君が見てみたい。
くるくると回るブルームエクスプレス。カーブを曲がるたびに彼が楽しそうに笑う。それにつられて私も笑顔になった。
座席から降りて、私は凛君に言う。
「楽しかったね!」
私は大満足! 凛君はどうだろう。
「僕も楽しかった。それに、あやめちゃんが喜んでくれてよかった」
そう言われて、胸がきゅうっとした。
「凛君、次はどれに……」
そのとき、「おーい!」と奏ちゃんが呼ぶ声が聞こえた。
「行こうか」
「うん」
凛君と、もうちょっと遊びたかったな。
みんなと合流して、その後も私達はいろんなアトラクションに乗った。
二日目は、ショッピングモールにやってきた。
みんなで館内を見て歩いていると、電球ソーダのお店があった。
電球ソーダ……キラキラして可愛くて、前から気になっていた。
立ち止まってじっとながめていると、一つ年下の陽太 君が話しかけてくる。
「あやめさん、あれ、気になるの?」
「う、うん」
すると、陽太君が大きな声を出して、「電球ソーダ飲もうよ!」と声を掛けた。
みんなも賛成してくれて、電球ソーダを飲むことになった。
「陽太君、ありがとう!」
「いいよいいよ、僕も飲みたかったから」
お店のカウンターで注文して、それぞれ電球ソーダを受け取る。
「あやめさんは何色にした?」
「赤色にしたよ。陽太君は?」
「僕は青色だよ」
陽太君は、ボトルについていた電球のチャームをキラキラ光らせた。
「あ、そうだ! 後でツーショット行こうよ! 話したいし」
誘われるのって、とてもうれしいことだ。陽太君は、軽く誘っただけかもしれない。
でも、それだけでここまでうれしくなるんだったら、昨日凛君を誘ったのはきっと無駄じゃなかった。
「うん、一緒にいこう!」
「やったー! よろしくね!」
ふと前を見ると、凛君が沙梨ちゃんをツーショットに誘っていた。
ツーショットが始まって、私と陽太君はカフェでショートケーキを食べた。
「甘くておいしい!」
陽太君は、とても楽しそうにケーキを食べている。
すると突然、
「あやめさんは、第一印象誰だった?」
「え!?」
かなり驚いてしまった。
私の気になる人は、一人だけ。
「凛君が気になってる…」
「そうなんだ! 応援するよ!」
さっき、凛君が沙梨ちゃんを連れて行くところを見てしまった。凛君は、気軽に誘ったのかな? それとも本気?
ツーショットに誘われた沙梨ちゃんは、きっと嬉しかっただろうな。もしかしたらそれがきっかけで凛君を好きになっちゃったらどうしよう。
私は、少しモヤモヤした気持ちになった。
「そうだ、僕いいこと知ってる!」
「何か知ってるの?」
「凛の、第一印象!」
それはすごく気になる!
「うん! 知りたい!」
私は、身を乗り出して陽太君の話を聞く。
「ナイショって言われてたんだけどね、沙梨さんって言ってた」
少し期待してしまった自分がいることに恥ずかしくなった。
やっぱり凛君は……。
「でも大丈夫だよ! まだこれからだよ!」
第一印象が私じゃないのはショックだけど、陽太君の言う通りだ。落ち込んでる場合じゃない。
「そうだよね、ありがとう!」
そうだ、負けてたまるか!
「陽太君は、誰が気になるの?」
「僕は、奏ちゃん……」
どうやら、陽太君は奏ちゃんが気になるらしい。
「じゃあ、奏ちゃんをツーショットに誘わないと!」
「それなら、あやめさんは凛を誘いなよ」
お互いに頑張ろうと、ふたりで励まし合った。
私と陽太君はカフェを後にすると、それぞれ気になる人が戻ってくるのを待った。
次は、頑張って凛君に声をかけなくちゃ。
「ツーショット行きませんか?」
凛君と沙梨ちゃんが戻ってきたところを見計らって声をかけると、凛君が笑顔で答えてくれる。
「うん。どこ行く?」
「ゲームセンター行こ」
ふたりでゲームセンターに移動した。
「凛君、どうしてそんな強いの!?」
「たくさんやったからね」
対戦ゲームをやったら、三戦三敗。
何でも器用にこなす凛君に比べて、私はダメダメだ。
「うーん、上手くいかないなぁ」
つい、ため息がでてしまう。
「ゲーム負けたの、そんなに悔しかった?」
「それだけじゃない。他にも……」
沙梨ちゃんとどうだった? って聞きたい。凛君を嫌な気持ちにさせちゃうかな……。でも、聞かなきゃ、ずっとモヤモヤが続いたままだ。
「なんかあったら聞くよ?」
「あのさ……」
「ん? どうしたの?」
「沙梨ちゃんと喋ってどうだった?」
「普通に喋っただけだから、別に何もないよ」
あっさりした返事。凛君は、何を考えてるのだろう。
「じゃあ、次は協力しよっか」
ゲームを再開して、今度はチームプレイ。
「あやめちゃん、こっち!」
「うん、わかった!」
凛君も私も、とても一生懸命。
「もうちょっと!」
「がんばって!」
凛君が私をカバーしてくれて、見事全勝。
モヤモヤも吹っ飛んで、ふたりで大喜びしてハイタッチをした。
「凛君、記念にプリクラ撮ろ!」
「いいよ」
ゲームの台から離れて、プリクラのコーナーへ向かう。
「いっぱいあるね」
周りの音が大きいから、聞こえやすいようにお互いの耳元で話す。
「どれがいいかな。プリクラ、あんまりとったことないんだよね。あやめちゃんは?」
「友達とよく撮るよ」
たくさん並んでいるプリクラの機械の中から機種を決めて、撮影ブースに入る。
機械のアナウンスに従って、撮影が始まる。
「あやめちゃん、どんなポーズにする?」
「じゃあ、ピース!」
始めは普通のポーズから。
「次はガオガオポーズ! 凛君急いで!」
「え? ガオガオ?」
顔の前に手を出して、「ガオガオ!」とポーズを決めたら、それを凛君がマネする。
「……からの、背中合わせ!」
「えええ!?」
戸惑っている凛君は、ちょっと可愛い。
背中をぴったりくっつけて撮るお気に入りのポーズのあとは、
「最後はハート!」
凛君と二人で手を重ねてハートを作った。
撮影の後はデコ。スタンプを押したり、二人の名前を書いたり。出来上がったプリクラを見て感動する。
「あやめちゃん、これすごくいいね!」
「うん! すごく可愛い」
「よかった」
凛君がふっと笑って、ドキッとした。
「凛君、楽しかった?」
「うん! すごく楽しかったよ」
「なら、またツーショット誘ってもいいかな?」
「うん。もちろん!」
凛君がそう言ってくれて、私はとてもうれしい気持ちになった。
二週目の土曜日、公園にやってきた。ここの公園は、たくさんのお花で有名らしい。たくさんお花があるところで、凛君とお散歩がしたい。まだ入ったばかりだけど、声をかけよう。
「凛く……」
言いかけたとき、後ろから誰かが声をかけてくる。
「あやめちゃん、ツーショット行こうよ」
振り返ると、夏希君が立っていた。
凛君と話したかったな。声をかけようとしたのに。でも、嫌な顔したら夏希君に悪いか……。
「う、うん」
「行こう」
私は、凛君の顔を見た。その表情は、曇っているように見えた。
でも夏希君は、私の手を引いて歩き出した。
夏希君と歩いて行った先にあったのは、コスモス畑だった。
「綺麗……」
一面に広がるピンク色のコスモス。
「うん。俺、ここ来たことあるんだ。あやめちゃんにも見せたいなって思って」
「そうなんだ……」
夏希君と話しているのに、凛君の顔がふっと頭に浮かんできた。私から誘っていいか聞いたのに、ひどいことをした。凛君を傷つけてしまった。
咲いているコスモスを見ても、なぜかあまり綺麗には見えない。
私、凛君がいいんだ。胸がときめくのも、一緒にいて楽しいのも。
何をしているときでも、私の頭の中には凛君がいて……。
そうだ、やっぱり私、凛君が好き。好きだから凛君ばっかりなんだ。
次は絶対、凛君に声をかけよう。
「みんなのところ、戻ろう」
夏希君にそう言われ、みんなのところに戻った。
「次はどこ行こうねー」
すると凛君が私に声をかけてきた。
「あやめちゃん、ツーショット行こう」
「え? うん!」
凛君と歩いて行った先には、真っ赤に染まった綺麗な植物がある。
「すごい! でも、あれ何だろう?」
「コキアっていうらしいよ。紅葉で色がついてるみたい」
「へー、そうなんだ。こんなにきれいな植物、あるんだ」
「ねぇねぇ、凛君」
「どうしたの?」
「私のこと誘ってくれたの、初めてだよね。どうして、誘ってくれたの?」
ずっと気になっていた。私から誘うつもりだったけど、凛君から声をかけてくれたこと。
「さっき、正直焦ったんだ。夏希があやめちゃんを連れて行った時」
どういうことだろう。
「当たり前に誘ってもらえると思い込んでたんだ。あやめちゃんは誰といても自由なのに、絶対に誘ってくれるなんて思っちゃったんだ。ごめんね」
当たり前になっていたのは、私も同じだ。ずっと凛君と一緒にいられると思っていた。でも、凛君が誰かとツーショットに行くかもしれないし、私よりも早く帰ってしまうかもしれない。
来週になったら、凛君はいないかもしれないんだ。
凛君といると、すごく楽しい。なら、そう言わなきゃ。
「いいの。私、凛君といると、とっても楽しいから」
「ありがとう」
お礼を言うのは、私の方だ。凛君がいなかったら、こんな楽しい恋ステになっていなかった。
凛君がいたから、楽しい思い出がたくさんできたんだ。
「お礼を言うのは、こっちだよ! ありがとね、凛君」
凛君が笑顔になった。その笑顔はまぶしくて、綺麗で。
でも、その顔もいつまで見れるかわからないんだ。
次の日、私達は海にやってきた。
海辺では、太陽の光が波にふりそそいでキラキラと輝いている。
近くに飲食店があって、そこでご飯を食べることになった。
お店に入ると夏希君に、「何食べたい?」と聞かれる。
「じゃあ、焼きそばにする」
「うん、わかった」
ご飯が食べ終わると、夏希君に、
「ツーショット行こうよ」
と声をかけられた。
「う、うん」
遠くの方から、凛君と沙梨ちゃんが話している声が聞こえる。
凛君は、第一印象が沙梨ちゃんだった。沙梨ちゃんも、凛君のこと気になってたら…。いや、そんなことない。そう信じたかった。
ずっと黙っていた私に、夏希君が声をかけた。
「……大丈夫?」
どうやら、心配してくれたようだ。
「うん。ごめんね」
二人で貝がらを拾ってお喋りをした。
でも、やっぱり私は凛君のことばっかり考えていた。
その日の最後に、私は夏希君に呼び出された。
夕日が輝く浜辺で、二人きり。
「俺、あやめちゃんが好きなんだ」
まさか告白されるなんて思わなかった。
「ごめんなさい、私……」
「いいんだ。あやめちゃんが他の人を好きだってわかってたから」
気持ちを知ってもどうすることもできない。
「それでも、伝えたかったから」
夏希君の笑顔や優しさは、私への好意だったんだ。ジェットコースターの時も、公園の時も。
全部、私が好きだったから。そうとは知らずに、夏希君を傷つけてしまった。
「あと、あやめちゃんが誰が好きとかわかんないけど、頑張りなよ」
「え?」
「俺のこと振ったんだから。それに、好きな人には、幸せになってほしいじゃん」
「夏希君……、ありがとう」
せめて、応援してくれた夏希君の分まで頑張って、絶対に凛君と両思いになるんだ。
三週目の土曜日、私達は仙台の展望台にやってきた。プラネタリウムもあるような、広くてきれいなところだった。
先週、沙梨ちゃんが凛君に告白したみたいだ。けれど、もう沙梨ちゃんの姿はない。
沙梨ちゃんと夏希君がいなくなって、頭がごちゃごちゃしている。
そんな中、夏希君と沙梨ちゃんのかわりに新メンバーが来ることになった。
女の子は胡々 ちゃん。一つ年上でちょっとクールな子だった。
男の子は颯 君。胡々ちゃんと同い年で、ちょっぴりオレ様系っぽかった。
最初に、プラネタリウムを見ることになった。移動して席に着く。私の隣は凛君と、まだあまり話したことのない朱里 君だ。
私が楽しみでそわそわしていると、
「星、好きなの?」
凛君が自分から声をかけてきてくれた。
「うん。好き」
「そうなんだ」
プラネタリウムでは、冬の大三角のお話を聞いた。シリウス、ベテルギウス、プロキオン。
とてもロマンティックだ。今日は、天体観測で見れるらしい。
凛君と、見たいな……。
「プラネタリウム、楽しかったね!」
この後はご飯を食べて、自由時間だ。
「あやめさん、ミュージアムショップで買い物しようよ!キラキラしたアースキャンディーがあってさ。好きかなって思って」
「うん。行く!」
ミュージアムショップに行くと、星をイメージしたキャンディーがあった。
「すごくかわいい!」
「でしょ! 可愛いよね!」
私達は、一つずつキャンディーを買うことにした。
「あやめさん、いろいろ大変だけど、元気出していこうよ! 僕も頑張るからさ!」
どうやら、陽太君は私に気を使ってくれたらしい。
「ありがとう。私がんばるよ!」
「うん! よかった!」
夜になって、私達は観測所に移動した。
観測所には、とても大きな天体望遠鏡があった。
自由時間、凛君は何をしてたんだろう。聞きたい気持ちをぐっとこらえて、私は望遠鏡をのぞいた。
「シリウス、ベテルギウス、プロキオン…」
すると、冬の大三角形の近くにもう一つ輝く星を見つけた。
「なんて名前だっけ? えっと……」
「リゲルじゃない?」
「そう、それだ!」
後ろを見ると、凛君がいた。
「綺麗だよね、リゲル」
「うん。すごく綺麗だね。気に入った。名前覚えとく」
「うん」
私は、一生忘れない。忘れるわけない、その星の名前を。
次の日、私達は水族館にやって来た。中に入ると、たくさんの生き物がいる。
「わぁ、ジンベイザメだ! すごく大きい!」
陽太君がそう言うと、奏ちゃんも、
「クラゲもいるよ。すごーい!」
と楽しそうだ。
「次はあっち見に行こうよー」
朱里君がそう言った時、
「わっ!」
誰かにぶつかってしまった。
それに気づかないで、みんなは行ってしまう。
追いかけたけど、みんなどこにもいない。
どうしよう、迷子になっちゃった。
館内は人が多いし、薄暗いし、移動するのも一苦労。もうダメだ……そう思ったとき、後ろから誰かに肩を叩かれた。
振り返ると、凛君がいた。
「凛君……」
「あやめちゃんがいないから探したよ」
凛君が来てくれて、すごくほっとした。
すると凛君が、何かプレゼントの箱が差し出してきた。
「あとこれ、渡そうと思って」
「何?」
「開けてみて」
受け取った箱を開けると中には、
「ネックレス!?」
お星様のようなキラキラがついたネックレス。この色、輝き方は……。
「ねぇ凛君、もしかして」
「そうだよ、リゲル。昨日買ったんだ。受け取ってくれる?」
「いいの?」
凛君と目を合わせると、「うん」とうなずく。
「ありがとう!」
この時間がずっと続いてほしいと願った。
二人で撮ったプリクラをながめる。
凛君は、照れくさそうに笑っている。
今週、凛君に告白しよう。恋チケはまだ四枚残っているけど、少しでも早く。
四週目の土曜日の午前は、マグカップの絵付け体験。みんなそれぞれ絵付けをしながら、お喋りをして楽しんでる。
ネックレスのことが頭から離れなくて、私はニヤニヤしていた。
「いいの? そんなにハートばっか描いて?」
「あっ!」
奏ちゃんに声をかけられ、はっとする。
「ほんとだ。ハートだらけ」
これはこれで可愛いからいいかな。
凛君はどんなのにしたんだろう。
隣のテーブルで作業していた凛君を見ると、器用に絵を描いていた。
「凛君すごい! 上手!」
そういうちょっとのことでも、なんか胸がドキドキする。
マグカップが完成して、空港に移動した。
「あれ、何だろう」
空港の中を歩いている途中、陽太君が何かを見つけた。
「行ってみよう!」
みんなで歩いていくと、そこには……
「紙飛行機だ!」
紙飛行機をたくさんの人が折っている。
「やってみようよ!」
さっそく私達は紙飛行機を折って、いちにつく。
「みんなで飛ばすよ! せーのっ!」
奏ちゃんの合図で、私達は思いっきり紙飛行機を飛ばした。
「わぁ……。綺麗……!」
紙飛行機が飛ぶと、周りがカラフルに色づき始めた。
紙飛行機は、どこまでも飛んでいく。
こんなに綺麗に見えるのは、どうしてだろう。
もしかしたら、隣に凛君がいるからかもしれない。
きっとそうだ。そのせいだ。
凛君と会ってから、私の世界は綺麗に見えるんだ。
これからも、ずっと一緒にいてほしい。
明日、赤いチケットを出す。凛君に伝えなくちゃ。
「大好き」って。
今日、私は告白の赤いチケットを提出した。赤いチケットを出すと、告白することができる。
昨日までは勇気が出なかったけど、今日ならきっと言える。
みんなに教えてもらった。
好きの気持ちを伝える大切さ、声をかける勇気。他にもたくさん。
今だったら何だってできる。
午後、私達は灯台に来た。ここは、カップルが鍵をかけて永遠の愛を誓えるスポットだ。
私はここで告白するんだ。
その日の最後、鍵をかけるところに凛君を呼び出した。
「ネックレス、つけてくれてるんだね」
「もちろんだよ! 凛君からもらった物だもん!」
今しかない。きっとできる。
「凛君のことが大好きでした! 私と付き合ってください!」
私にだって伝えられた。返事がどうであれ、きっと後悔しないだろう。だって、勇気を出せたから。
「はい、よろしくお願いします」
一瞬、信じられなかった。
「ほんとに……?」
「うん。ほんとだよ」
振り向かせられたんだ。できたんだ。
今までで、こんなにうれしかったことってない。
そうだ、やりたいことがあったんだった。
「鍵かけるの、やってもいいかな?」
「うん、やろう」
名前を書いて、二人で鍵をかける。
私達は、永遠の愛を誓い合った。
こっちを向いて、凛君がにこっと笑う。それに私も微笑み返した。
これからは、この笑顔がずっと見れるんだ。そう思うと、すごくうれしくなる。
「スマホ、なってない?」
「あ、ほんとだ」
開いてみると、陽太君からのメッセージだった。
「奏ちゃんへの告白、OKされました! あやめさんもいろいろお話聞いてくれてありがとう。また、どこかで!」
それを見て、私もうれしくなった。
「あれ、ならそうよ」
凛君が指した方向にあったのは、鐘だった。
「うん!」
二人で歩いて行って、鐘をならす。
「愛してるよ、あやめちゃん」
「私もだよ! 凛君!」
愛の言葉が鐘の音と一緒に、ずっとずっと続いてほしい。
そう、二人で願った。
彼を絶対にふり向かせる。
***
私は、
絶対に素敵な人を見つけてみせる!
そう意気込んで、私は待ち合わせの場所に向かった。
「さむっ……」
今はまだ秋だけど、日に日に寒くなっていく。冬が迫ってきている。
時間になって、駅前の広場で初の顔合わせ。
女の子達はとても可愛いし、優しそう。
それに比べて私は、すごく美人というわけでもないし、クラスでも特別目立つ方でもない。
本当に大丈夫なのかな。
少し不安に思いながら待っていると、男の子四人がこちらに向かって歩いてきた。そのうちの一人の男の子に目を奪われる。
「高校二年生の
きっとこういうのを一目惚れというのだろう。
もっと知りたい。話してみたい。
「じゃあ、次はあやめちゃんね!」
名前を呼ばれ、慌てて返事をした。
「高校二年生のあやめです。よろしくお願いします!」
それぞれ自己紹介が終わり、恋ステがスタートした。
私の恋チケは十枚。枚数の分だけ旅ができる。つまり私は、五週間参加できるということだ。
自分の枚数を話したり、相手の枚数を聞いたりしてはいけないから、相手がいつ帰ってしまうか分からない。
絶対に恋がしたいから、迷ってなんかいられない。
一週目の土曜日は東京の遊園地。テレビや雑誌では見たことあるけど、実際に来るのは初めて。
「ねぇねぇ、まずはみんなであれ乗ろうよ!」
一つ年下の元気で明るい
正直、絶叫系は苦手だし怖い。でも、そんなこと言っていられない。
せっかくの恋ステだから、楽しまなくちゃ!
みんなで列に並んで順番を待っている間も、後ろに並んだ凛君を気にしていた。
すると前にいた男子がこっちを向く。
「あやめちゃんだよね。隣座ってもいいかな?」
確か、名前は
声をかけてくれたなら、それに私も応えなきゃ。
「ごめん、ダメかな?」
「ううん! いいよ!」
そう言うと、夏希君は嬉しそうに微笑んだ。その笑顔を見ると、少し幸せな気持ちになった。
「あやめちゃんは、ジェットコースターとか得意?」
「あまり得意じゃないかも……」
「俺も一緒。怖いのとかは苦手かな。でも、話してたらちょっと落ち着いた。ありがとう」
すごくいい人だなぁ。
でも、私の頭の中から離れないのは凛君だけだった。
ジェットコースターに乗る順番がきて、それぞれ座席に着く。安全バーが下りて、びくっとしてしまった。
「だ、だ、大丈夫? あやめちゃん……」
「い、いや、大丈夫じゃない……!」
ジェットコースターが発車して、ぐんぐん坂を上っていく。心臓がバクバクしてきた。
「キャー!!」
一気に下って、あとは覚えてない。
ジェットコースターから降りると、「次どれ乗ろっか」とみんな盛り上がっていた。
そのとき、おしとやかな
みんながざわついている中、夏希君と沙梨ちゃんは歩いて行った。
私も、凛君と話してみたい。声をかけなくちゃ。
「凛君、ツーショット行きませんか?」
声をかけるのは、やっぱり勇気がいる。でも、その一言で私の人生が変わることがあるかも
しれない。それって、すごく素敵なことだ。
「いいよ、行こう」
私は、うれしいような、恥ずかしいような、不思議な気持ちになった。
「ニヤニヤして、どうしたの?」
急に聞かれたから、慌てて、
「そ、そんなことないよ! 気のせい、気のせい!」
なんて、言ってしまった。
「なら、いいけど。何乗る?」
周りを見ると、二人でならんで座れるブルームエクスプレスを見つけた。
「あれがいい!」
「じゃあ、乗ろうか」
子供っぽかったかな?
でも、凛君と一緒に乗れるのがうれしい。
係員の人に案内されて座席に着く。隣に座った凛君と、腕や肩がぴったりくっついて、とても恥ずかしくなった。
「なんか、緊張するね……」
「うん……」
凛君から声をかけてきてくれた。その顔はすごく赤い。
「顔赤いけど、大丈夫?」
「ちょっと照れてるだけ。大丈夫だよ」
こんな顔もするんだ、凛君は。もっと、いろんな凛君が見てみたい。
くるくると回るブルームエクスプレス。カーブを曲がるたびに彼が楽しそうに笑う。それにつられて私も笑顔になった。
座席から降りて、私は凛君に言う。
「楽しかったね!」
私は大満足! 凛君はどうだろう。
「僕も楽しかった。それに、あやめちゃんが喜んでくれてよかった」
そう言われて、胸がきゅうっとした。
「凛君、次はどれに……」
そのとき、「おーい!」と奏ちゃんが呼ぶ声が聞こえた。
「行こうか」
「うん」
凛君と、もうちょっと遊びたかったな。
みんなと合流して、その後も私達はいろんなアトラクションに乗った。
二日目は、ショッピングモールにやってきた。
みんなで館内を見て歩いていると、電球ソーダのお店があった。
電球ソーダ……キラキラして可愛くて、前から気になっていた。
立ち止まってじっとながめていると、一つ年下の
「あやめさん、あれ、気になるの?」
「う、うん」
すると、陽太君が大きな声を出して、「電球ソーダ飲もうよ!」と声を掛けた。
みんなも賛成してくれて、電球ソーダを飲むことになった。
「陽太君、ありがとう!」
「いいよいいよ、僕も飲みたかったから」
お店のカウンターで注文して、それぞれ電球ソーダを受け取る。
「あやめさんは何色にした?」
「赤色にしたよ。陽太君は?」
「僕は青色だよ」
陽太君は、ボトルについていた電球のチャームをキラキラ光らせた。
「あ、そうだ! 後でツーショット行こうよ! 話したいし」
誘われるのって、とてもうれしいことだ。陽太君は、軽く誘っただけかもしれない。
でも、それだけでここまでうれしくなるんだったら、昨日凛君を誘ったのはきっと無駄じゃなかった。
「うん、一緒にいこう!」
「やったー! よろしくね!」
ふと前を見ると、凛君が沙梨ちゃんをツーショットに誘っていた。
ツーショットが始まって、私と陽太君はカフェでショートケーキを食べた。
「甘くておいしい!」
陽太君は、とても楽しそうにケーキを食べている。
すると突然、
「あやめさんは、第一印象誰だった?」
「え!?」
かなり驚いてしまった。
私の気になる人は、一人だけ。
「凛君が気になってる…」
「そうなんだ! 応援するよ!」
さっき、凛君が沙梨ちゃんを連れて行くところを見てしまった。凛君は、気軽に誘ったのかな? それとも本気?
ツーショットに誘われた沙梨ちゃんは、きっと嬉しかっただろうな。もしかしたらそれがきっかけで凛君を好きになっちゃったらどうしよう。
私は、少しモヤモヤした気持ちになった。
「そうだ、僕いいこと知ってる!」
「何か知ってるの?」
「凛の、第一印象!」
それはすごく気になる!
「うん! 知りたい!」
私は、身を乗り出して陽太君の話を聞く。
「ナイショって言われてたんだけどね、沙梨さんって言ってた」
少し期待してしまった自分がいることに恥ずかしくなった。
やっぱり凛君は……。
「でも大丈夫だよ! まだこれからだよ!」
第一印象が私じゃないのはショックだけど、陽太君の言う通りだ。落ち込んでる場合じゃない。
「そうだよね、ありがとう!」
そうだ、負けてたまるか!
「陽太君は、誰が気になるの?」
「僕は、奏ちゃん……」
どうやら、陽太君は奏ちゃんが気になるらしい。
「じゃあ、奏ちゃんをツーショットに誘わないと!」
「それなら、あやめさんは凛を誘いなよ」
お互いに頑張ろうと、ふたりで励まし合った。
私と陽太君はカフェを後にすると、それぞれ気になる人が戻ってくるのを待った。
次は、頑張って凛君に声をかけなくちゃ。
「ツーショット行きませんか?」
凛君と沙梨ちゃんが戻ってきたところを見計らって声をかけると、凛君が笑顔で答えてくれる。
「うん。どこ行く?」
「ゲームセンター行こ」
ふたりでゲームセンターに移動した。
「凛君、どうしてそんな強いの!?」
「たくさんやったからね」
対戦ゲームをやったら、三戦三敗。
何でも器用にこなす凛君に比べて、私はダメダメだ。
「うーん、上手くいかないなぁ」
つい、ため息がでてしまう。
「ゲーム負けたの、そんなに悔しかった?」
「それだけじゃない。他にも……」
沙梨ちゃんとどうだった? って聞きたい。凛君を嫌な気持ちにさせちゃうかな……。でも、聞かなきゃ、ずっとモヤモヤが続いたままだ。
「なんかあったら聞くよ?」
「あのさ……」
「ん? どうしたの?」
「沙梨ちゃんと喋ってどうだった?」
「普通に喋っただけだから、別に何もないよ」
あっさりした返事。凛君は、何を考えてるのだろう。
「じゃあ、次は協力しよっか」
ゲームを再開して、今度はチームプレイ。
「あやめちゃん、こっち!」
「うん、わかった!」
凛君も私も、とても一生懸命。
「もうちょっと!」
「がんばって!」
凛君が私をカバーしてくれて、見事全勝。
モヤモヤも吹っ飛んで、ふたりで大喜びしてハイタッチをした。
「凛君、記念にプリクラ撮ろ!」
「いいよ」
ゲームの台から離れて、プリクラのコーナーへ向かう。
「いっぱいあるね」
周りの音が大きいから、聞こえやすいようにお互いの耳元で話す。
「どれがいいかな。プリクラ、あんまりとったことないんだよね。あやめちゃんは?」
「友達とよく撮るよ」
たくさん並んでいるプリクラの機械の中から機種を決めて、撮影ブースに入る。
機械のアナウンスに従って、撮影が始まる。
「あやめちゃん、どんなポーズにする?」
「じゃあ、ピース!」
始めは普通のポーズから。
「次はガオガオポーズ! 凛君急いで!」
「え? ガオガオ?」
顔の前に手を出して、「ガオガオ!」とポーズを決めたら、それを凛君がマネする。
「……からの、背中合わせ!」
「えええ!?」
戸惑っている凛君は、ちょっと可愛い。
背中をぴったりくっつけて撮るお気に入りのポーズのあとは、
「最後はハート!」
凛君と二人で手を重ねてハートを作った。
撮影の後はデコ。スタンプを押したり、二人の名前を書いたり。出来上がったプリクラを見て感動する。
「あやめちゃん、これすごくいいね!」
「うん! すごく可愛い」
「よかった」
凛君がふっと笑って、ドキッとした。
「凛君、楽しかった?」
「うん! すごく楽しかったよ」
「なら、またツーショット誘ってもいいかな?」
「うん。もちろん!」
凛君がそう言ってくれて、私はとてもうれしい気持ちになった。
二週目の土曜日、公園にやってきた。ここの公園は、たくさんのお花で有名らしい。たくさんお花があるところで、凛君とお散歩がしたい。まだ入ったばかりだけど、声をかけよう。
「凛く……」
言いかけたとき、後ろから誰かが声をかけてくる。
「あやめちゃん、ツーショット行こうよ」
振り返ると、夏希君が立っていた。
凛君と話したかったな。声をかけようとしたのに。でも、嫌な顔したら夏希君に悪いか……。
「う、うん」
「行こう」
私は、凛君の顔を見た。その表情は、曇っているように見えた。
でも夏希君は、私の手を引いて歩き出した。
夏希君と歩いて行った先にあったのは、コスモス畑だった。
「綺麗……」
一面に広がるピンク色のコスモス。
「うん。俺、ここ来たことあるんだ。あやめちゃんにも見せたいなって思って」
「そうなんだ……」
夏希君と話しているのに、凛君の顔がふっと頭に浮かんできた。私から誘っていいか聞いたのに、ひどいことをした。凛君を傷つけてしまった。
咲いているコスモスを見ても、なぜかあまり綺麗には見えない。
私、凛君がいいんだ。胸がときめくのも、一緒にいて楽しいのも。
何をしているときでも、私の頭の中には凛君がいて……。
そうだ、やっぱり私、凛君が好き。好きだから凛君ばっかりなんだ。
次は絶対、凛君に声をかけよう。
「みんなのところ、戻ろう」
夏希君にそう言われ、みんなのところに戻った。
「次はどこ行こうねー」
すると凛君が私に声をかけてきた。
「あやめちゃん、ツーショット行こう」
「え? うん!」
凛君と歩いて行った先には、真っ赤に染まった綺麗な植物がある。
「すごい! でも、あれ何だろう?」
「コキアっていうらしいよ。紅葉で色がついてるみたい」
「へー、そうなんだ。こんなにきれいな植物、あるんだ」
「ねぇねぇ、凛君」
「どうしたの?」
「私のこと誘ってくれたの、初めてだよね。どうして、誘ってくれたの?」
ずっと気になっていた。私から誘うつもりだったけど、凛君から声をかけてくれたこと。
「さっき、正直焦ったんだ。夏希があやめちゃんを連れて行った時」
どういうことだろう。
「当たり前に誘ってもらえると思い込んでたんだ。あやめちゃんは誰といても自由なのに、絶対に誘ってくれるなんて思っちゃったんだ。ごめんね」
当たり前になっていたのは、私も同じだ。ずっと凛君と一緒にいられると思っていた。でも、凛君が誰かとツーショットに行くかもしれないし、私よりも早く帰ってしまうかもしれない。
来週になったら、凛君はいないかもしれないんだ。
凛君といると、すごく楽しい。なら、そう言わなきゃ。
「いいの。私、凛君といると、とっても楽しいから」
「ありがとう」
お礼を言うのは、私の方だ。凛君がいなかったら、こんな楽しい恋ステになっていなかった。
凛君がいたから、楽しい思い出がたくさんできたんだ。
「お礼を言うのは、こっちだよ! ありがとね、凛君」
凛君が笑顔になった。その笑顔はまぶしくて、綺麗で。
でも、その顔もいつまで見れるかわからないんだ。
次の日、私達は海にやってきた。
海辺では、太陽の光が波にふりそそいでキラキラと輝いている。
近くに飲食店があって、そこでご飯を食べることになった。
お店に入ると夏希君に、「何食べたい?」と聞かれる。
「じゃあ、焼きそばにする」
「うん、わかった」
ご飯が食べ終わると、夏希君に、
「ツーショット行こうよ」
と声をかけられた。
「う、うん」
遠くの方から、凛君と沙梨ちゃんが話している声が聞こえる。
凛君は、第一印象が沙梨ちゃんだった。沙梨ちゃんも、凛君のこと気になってたら…。いや、そんなことない。そう信じたかった。
ずっと黙っていた私に、夏希君が声をかけた。
「……大丈夫?」
どうやら、心配してくれたようだ。
「うん。ごめんね」
二人で貝がらを拾ってお喋りをした。
でも、やっぱり私は凛君のことばっかり考えていた。
その日の最後に、私は夏希君に呼び出された。
夕日が輝く浜辺で、二人きり。
「俺、あやめちゃんが好きなんだ」
まさか告白されるなんて思わなかった。
「ごめんなさい、私……」
「いいんだ。あやめちゃんが他の人を好きだってわかってたから」
気持ちを知ってもどうすることもできない。
「それでも、伝えたかったから」
夏希君の笑顔や優しさは、私への好意だったんだ。ジェットコースターの時も、公園の時も。
全部、私が好きだったから。そうとは知らずに、夏希君を傷つけてしまった。
「あと、あやめちゃんが誰が好きとかわかんないけど、頑張りなよ」
「え?」
「俺のこと振ったんだから。それに、好きな人には、幸せになってほしいじゃん」
「夏希君……、ありがとう」
せめて、応援してくれた夏希君の分まで頑張って、絶対に凛君と両思いになるんだ。
三週目の土曜日、私達は仙台の展望台にやってきた。プラネタリウムもあるような、広くてきれいなところだった。
先週、沙梨ちゃんが凛君に告白したみたいだ。けれど、もう沙梨ちゃんの姿はない。
沙梨ちゃんと夏希君がいなくなって、頭がごちゃごちゃしている。
そんな中、夏希君と沙梨ちゃんのかわりに新メンバーが来ることになった。
女の子は
男の子は
最初に、プラネタリウムを見ることになった。移動して席に着く。私の隣は凛君と、まだあまり話したことのない
私が楽しみでそわそわしていると、
「星、好きなの?」
凛君が自分から声をかけてきてくれた。
「うん。好き」
「そうなんだ」
プラネタリウムでは、冬の大三角のお話を聞いた。シリウス、ベテルギウス、プロキオン。
とてもロマンティックだ。今日は、天体観測で見れるらしい。
凛君と、見たいな……。
「プラネタリウム、楽しかったね!」
この後はご飯を食べて、自由時間だ。
「あやめさん、ミュージアムショップで買い物しようよ!キラキラしたアースキャンディーがあってさ。好きかなって思って」
「うん。行く!」
ミュージアムショップに行くと、星をイメージしたキャンディーがあった。
「すごくかわいい!」
「でしょ! 可愛いよね!」
私達は、一つずつキャンディーを買うことにした。
「あやめさん、いろいろ大変だけど、元気出していこうよ! 僕も頑張るからさ!」
どうやら、陽太君は私に気を使ってくれたらしい。
「ありがとう。私がんばるよ!」
「うん! よかった!」
夜になって、私達は観測所に移動した。
観測所には、とても大きな天体望遠鏡があった。
自由時間、凛君は何をしてたんだろう。聞きたい気持ちをぐっとこらえて、私は望遠鏡をのぞいた。
「シリウス、ベテルギウス、プロキオン…」
すると、冬の大三角形の近くにもう一つ輝く星を見つけた。
「なんて名前だっけ? えっと……」
「リゲルじゃない?」
「そう、それだ!」
後ろを見ると、凛君がいた。
「綺麗だよね、リゲル」
「うん。すごく綺麗だね。気に入った。名前覚えとく」
「うん」
私は、一生忘れない。忘れるわけない、その星の名前を。
次の日、私達は水族館にやって来た。中に入ると、たくさんの生き物がいる。
「わぁ、ジンベイザメだ! すごく大きい!」
陽太君がそう言うと、奏ちゃんも、
「クラゲもいるよ。すごーい!」
と楽しそうだ。
「次はあっち見に行こうよー」
朱里君がそう言った時、
「わっ!」
誰かにぶつかってしまった。
それに気づかないで、みんなは行ってしまう。
追いかけたけど、みんなどこにもいない。
どうしよう、迷子になっちゃった。
館内は人が多いし、薄暗いし、移動するのも一苦労。もうダメだ……そう思ったとき、後ろから誰かに肩を叩かれた。
振り返ると、凛君がいた。
「凛君……」
「あやめちゃんがいないから探したよ」
凛君が来てくれて、すごくほっとした。
すると凛君が、何かプレゼントの箱が差し出してきた。
「あとこれ、渡そうと思って」
「何?」
「開けてみて」
受け取った箱を開けると中には、
「ネックレス!?」
お星様のようなキラキラがついたネックレス。この色、輝き方は……。
「ねぇ凛君、もしかして」
「そうだよ、リゲル。昨日買ったんだ。受け取ってくれる?」
「いいの?」
凛君と目を合わせると、「うん」とうなずく。
「ありがとう!」
この時間がずっと続いてほしいと願った。
二人で撮ったプリクラをながめる。
凛君は、照れくさそうに笑っている。
今週、凛君に告白しよう。恋チケはまだ四枚残っているけど、少しでも早く。
四週目の土曜日の午前は、マグカップの絵付け体験。みんなそれぞれ絵付けをしながら、お喋りをして楽しんでる。
ネックレスのことが頭から離れなくて、私はニヤニヤしていた。
「いいの? そんなにハートばっか描いて?」
「あっ!」
奏ちゃんに声をかけられ、はっとする。
「ほんとだ。ハートだらけ」
これはこれで可愛いからいいかな。
凛君はどんなのにしたんだろう。
隣のテーブルで作業していた凛君を見ると、器用に絵を描いていた。
「凛君すごい! 上手!」
そういうちょっとのことでも、なんか胸がドキドキする。
マグカップが完成して、空港に移動した。
「あれ、何だろう」
空港の中を歩いている途中、陽太君が何かを見つけた。
「行ってみよう!」
みんなで歩いていくと、そこには……
「紙飛行機だ!」
紙飛行機をたくさんの人が折っている。
「やってみようよ!」
さっそく私達は紙飛行機を折って、いちにつく。
「みんなで飛ばすよ! せーのっ!」
奏ちゃんの合図で、私達は思いっきり紙飛行機を飛ばした。
「わぁ……。綺麗……!」
紙飛行機が飛ぶと、周りがカラフルに色づき始めた。
紙飛行機は、どこまでも飛んでいく。
こんなに綺麗に見えるのは、どうしてだろう。
もしかしたら、隣に凛君がいるからかもしれない。
きっとそうだ。そのせいだ。
凛君と会ってから、私の世界は綺麗に見えるんだ。
これからも、ずっと一緒にいてほしい。
明日、赤いチケットを出す。凛君に伝えなくちゃ。
「大好き」って。
今日、私は告白の赤いチケットを提出した。赤いチケットを出すと、告白することができる。
昨日までは勇気が出なかったけど、今日ならきっと言える。
みんなに教えてもらった。
好きの気持ちを伝える大切さ、声をかける勇気。他にもたくさん。
今だったら何だってできる。
午後、私達は灯台に来た。ここは、カップルが鍵をかけて永遠の愛を誓えるスポットだ。
私はここで告白するんだ。
その日の最後、鍵をかけるところに凛君を呼び出した。
「ネックレス、つけてくれてるんだね」
「もちろんだよ! 凛君からもらった物だもん!」
今しかない。きっとできる。
「凛君のことが大好きでした! 私と付き合ってください!」
私にだって伝えられた。返事がどうであれ、きっと後悔しないだろう。だって、勇気を出せたから。
「はい、よろしくお願いします」
一瞬、信じられなかった。
「ほんとに……?」
「うん。ほんとだよ」
振り向かせられたんだ。できたんだ。
今までで、こんなにうれしかったことってない。
そうだ、やりたいことがあったんだった。
「鍵かけるの、やってもいいかな?」
「うん、やろう」
名前を書いて、二人で鍵をかける。
私達は、永遠の愛を誓い合った。
こっちを向いて、凛君がにこっと笑う。それに私も微笑み返した。
これからは、この笑顔がずっと見れるんだ。そう思うと、すごくうれしくなる。
「スマホ、なってない?」
「あ、ほんとだ」
開いてみると、陽太君からのメッセージだった。
「奏ちゃんへの告白、OKされました! あやめさんもいろいろお話聞いてくれてありがとう。また、どこかで!」
それを見て、私もうれしくなった。
「あれ、ならそうよ」
凛君が指した方向にあったのは、鐘だった。
「うん!」
二人で歩いて行って、鐘をならす。
「愛してるよ、あやめちゃん」
「私もだよ! 凛君!」
愛の言葉が鐘の音と一緒に、ずっとずっと続いてほしい。
そう、二人で願った。