2・雹

文字数 636文字

  五月四日   午後二時過ぎ、大気動くのを感じて、あわてて、干してあった布団を取り込む。やがて、空が真っ暗になり、遠くで、雷鳴がとどろく。暫くして窓の外で、硬いものが家と、家の周りの物に当たり、弾ける音とともに、激しい雨音が聞こえた。雹だ。
室内では健司がつけっぱなしのテレビの前で椅子に座り、瞑目し、頭を垂れている。五月九日の受診は近い。医者と本人がどういう決断をするか。アメリカの手術成功率は五十パーセントという情報をどこからか得て悩んでいる。佳枝は自分の父親の最期・末期癌では医者から生存率は零と言われた。其れに比べれば五十パーセントの希望があるのはましではないか、と励ますつもりで言ってみたが、失言だった。大きな不安の前で、励ましなどというものは無力だ。
健司は目を開けて、「自分が紙のようだ」と呟く。
健司達、男にとって、「死」とは自分の存在が無になることらしい。佳枝は健司に言う。「私は自分がいなくなった世界にも、私の命を引き継いでいるものがいるのだから、不安は無い」健司は「女達はそう思えるんだ。だから、『死』は野郎にとっての方が厳しいんだ。」
五月六日   信用金庫で、予測される、健司の手術費を下ろす。その後は二人で最寄りのスーパーで食材を買い、仕事場に向かう。二人にとってずっと続いてきた、いつもと変わらない日常が流れていく。この日常が変わる日が、近未来に用意されている。
健司歩くと、やはり、きつそう。
健司の手術は必須。
アジサイが旺盛に葉を伸ばしている。

  

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