第4話 カーソンの時代から変わらない

文字数 1,207文字

レイチェル・カーソンは1962年に出版された『沈黙の春』で、農薬である殺虫剤や除草剤の危険性について語り、世界の注目を集めた。
しかし、いま街のネットワークがつながるところで聡が「空中散布」のキーワードで画像を検索すると、たくさんの散布画像が表示された。最近はドローンなど手軽な機器で散布することもあるらしい。カーソンが危険を訴えたにもかかわらず、この商売は現在も繁盛しているようだ。

聡は最近、萌原の中央図書館で原書の『Silent Spring』を借りて(時間がかかったので2回くらい延長して)読んだが、恐ろしいのは、化学薬品を薄めて撒いても、生態系の中に放たれると、濃縮されたり、ほかの化学薬品と反応して、毒性が増すことだ。

さらに、環境中の殺虫剤や除草剤などの化学薬品は、土や水を通じて広がり、バランスが取れていた昆虫や動物や植物を殺し、そのために望まない昆虫や動物が増えることもある。ターゲットの昆虫や動物が期待通りに死なないだけでなく、これらの動物は殺虫剤に対して免疫を獲得し、次の年には効かないこともある。また、散布された化学薬品は何年も残って、環境から昆虫、動物、そして人間に害を及ぼす。散布してから何年も立ってからその被害が現れることもある。

化学薬品は、遺伝子を傷つけ、染色体異常を起こす。また、動物が受精するのに必要なエネルギーと、その受精卵が分割して成長していくために必要な莫大なエネルギーを得られなくする。生物のエネルギーを作るバッテリーATP(アデノシン三リン酸)が働かなくなり、次の世代を作れない。だから小鳥が来ないし、次の卵もないし、卵があっても孵らない。

これは化学薬品だけでなく、例えばX線を照射されると不妊になる可能性がある。化学薬品によって遺伝子に異常が起きればガンになる。カーソンによると四人にひとりの可能性だと言う。皮肉なことに、カーソン自身も乳がんやその他のガンで亡くなった。発がん物質は、子供たちまでガンにする。神経系統にも異常を引き起こす。また、カーソンの時代にはまだなかった遺伝子組み換え作物の安全性もまだ分からない。結局、現在も、中身は多少変わったかも知れないが、カーソンの時代と危機的な状況は変わっていない。その殺虫剤や除草剤、その入浴剤、その制汗剤は本当に安全なのか? カーソンの時代、アメリカでも日本でも、メーカーや政府は「安全ですよ」と勧める。何気なく使っている化学薬品は本当に安全なのか?

山の中を歩いていて、虫やキノコに会わないというのは実は恐ろしいことだ。彼らも生態系の一員として、動物が死んだら腐食させ、土をきれいにしたりする役割を担っているはずなのだ。もし彼らを無差別に「害虫」や「雑草」として殺虫剤や除草剤で「撲滅」させても、生態系での役割を理解していなければ、良いことはない。

科学者として聡には、便利な化学薬品に取り巻かれている現代が恐ろしく思えた。







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