強迫

文字数 870文字

一欠片のゴミに胸を押し潰されそうになる
汚れは一あれば百ある
消し去らねば
埃や虫に体を侵され病が増えてはかなわない
動悸に襲われ
いてもたってもいられない

シンクに溜まるは菌に溢れた食器ども
積み重なり倒れがかってある
こちらも何とも気が重い
これだけの量を洗い始めると三時間は終わらない
持てる全ての力を用いて
傷がつくほど食器を擦りつけたかと思えば
とうに洗い終えたものへ
ひたすらにそれを繰り返していると
蕁麻疹に付き添われることだってある
どうにも精神が持たない
またも買い換える必要が生まれてしまった

論文の誤字脱字確認までもが残ってある
書き違えを死よりも恐れ
活字の黒やブルーライトをゼロ距離で浴びて
一日が終わる
死よりも恐、死より、死、よ、死、死、よ、り、よ
死、よ、り、も、死より、死よりも、恐れ、恐、れ
仮にあれども大した差し障りはないというのに
目を見開いて復唱、連呼を止められないもの
視力はみるみるうちに落ちてゆく
そのくせ予備の手袋は残っていない
使い倒した手袋ではろくな作業もできないけれども
しかし外出するには入念な入浴がつきものである
ここでも余計な時間を消費することに
するとあっという間に日暮れ時
一体何から手をつければ良いのか
何にも手をつけたくない
もう何もしたくない
日々の精神的疲労は途方もない
息が詰まる

おや
ところでこれは正しくまばたけているのか
まばたき方を間違えていないだろうか
たちまち呼吸法へすら疑問を呈する
自身の酸素の取り込み方
唾の飲み込み方も怪しい
なかなかしっくりきてくれない
上下左右へと極度に目玉を動かす癖も来た
眼球痙攣、首振り、目が回る
ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち
心中にうごめくウジ虫が
神経を逆撫でするかのよう
気持ちが悪い
不安
不安
不安
終わらない
止めたくても止められない
やりたくてやってるわけではない
部外者が思うほど付き合いはそう簡単でない
繰り返す
過酷の過ぎる
強迫観念に支配された人間の日常生活
危惧する必要のないもしもからの足かせとともに
見えるもの全てに脅される
いっそのこと家ごと燃やしてしまえたなら
疲れた
もういや
こんな目はもういらない
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