第2話 寄生させます!
文字数 3,573文字
「――せんか! しっかりせんか!」
「うぅ……」
ペシペシと頬を叩かれ、意識を取り戻すと、見知らぬ女性が傍らに座っていた。
……ああ、何があったんだっけ……?
ぼんやりとした意識の中で、先ほどの出来事が蘇ってきた。その瞬間、僕の顔は湯気を吹き出すやかんのように赤く染まっていた。
「ち、痴女!」
「誰が痴女じゃ!」
「痛いっ!」
慌てて身を起こした僕の頭を、セクシーなお姉さんが遠慮なく殴りつけた。
「というか……僕、なんで気を失ったんだろ?」
お姉さんに突然キスをされて押し倒されたまでは覚えているが、そこから先のことを思い出せなかった。
「我のパッシブスキル【ドレイン】により、貴様の生命力が急激に低下してしまったのが原因じゃ」
「ドレイン……?」
「言い忘れておったが、我はこの世界の住人ではない」
「は?」
「貴様からすれば異世界、こことは異なる世界からやって来たのじゃ」
彼女の名前はリリム・アスモデウス。
この世界とは別次元の、魔大陸と呼ばれる場所からやって来たという。
「それを信じろと……?」
「信じるも信じないも、事実を伝えているだけじゃ」
彼女によれば、僕が死ぬと魂は彼女の世界に行き、そこで勇者として生まれ変わるのだという。
「僕が勇者……?」
にわかには信じられない話ではあったが、その手のライトノベルを読み漁っていた僕は、ひょっとしたらそんなこともあるのかもしれないと思っていた。
なぜなら、
「その羽とか尻尾って、本物ですか?」
「うむ。もちろん本物じゃ」
彼女の背中には蝙蝠のような漆黒の羽が生えており、お尻には悪魔の尻尾が生えていた。リリムに断りを入れ、僕は念のため間近で確認してみる。どうやら本物のようだ。
「ってことは、僕は死んだら異世界で勇者として転生できるってことですか?」
「そうなるの」
まさに【異世界行ったら強気になる】である。
僕もブーベンピのように異世界転生ハーレムを体験できるのか!
「す、すごい!」
リリムの話を聞き、僕は俄然死ぬ気になっていた。
「まあ、ちょっと待て」
「止めないでください! 僕は勇者になって俺tueeeするんですから!」
「前世の記憶は引き継がれんぞ」
「……え? 異世界転生じゃないんですか?」
僕の知っている異世界転生の物語は例外なく、前世の記憶を持ちながら新たな人生を歩むもので、その過程で成長していくものだ。しかし、リリムは違うという。
「魂が同じというだけで、貴様とはまったくの別人じゃ。それに、勇者となった貴様は16で我が父――魔王サタンと激闘を繰り広げ、童貞のまま死ぬ」
「なっ、なんですかそれ! 魔王と相打ちになるのはまあ仕方ないとしても、なんで童貞のまま死ぬんですか! 勇者なんだからモテモテなんじゃないんですか!」
「魂が穢れてしまえば、勇者は力を失うのじゃ。そのために勇者は純潔を貫かねばならん」
「なんだよ、その聖女様みたいなクソ設定!」
ということは、生まれ変わっても僕は童貞のままなのか……。
「我が父サタンは不死なのじゃが、貴様は歴代の勇者たちを遥かに凌ぐ勇者に成長する。その結果、本来消滅することのない魔王の魂が消滅してしまうのだ。つまり、貴様が魔族を滅ぼすということじゃ!」
そんなに睨みつけられても……。
「生まれ変わった僕ってそんなに強いのか」
「魂は純潔であればあるほど強い」
「それって……どういうことですか?」
「貴様の魂がこれまで転生を繰り返した回数は78695回。その全てにおいて、貴様は純潔を貫いたまま死んでおる」
「は……?」
それって……仮に僕の生涯が30年だったと仮定した場合、約230万年も僕の魂は純潔を守っていたことになるのか?
「貴様は強すぎる」
「………全然うれしくない」
魂の純潔度が強さに影響するとすれば、230万年もの童貞期間が最強への道だったということになる。
「……生まれ変わっても、僕はリリムの父に殺されて死ぬんですか?」
「正確には、貴様は我が父に圧勝する――が、魔王が死に際に放ったブラックホールから世界を守り、そのまま次元の狭間にひとり取り残されてしまうんじゃ。その後は再び別世界で生まれ変わるというわけじゃ」
「まさかとは思いますけど、そこでも童貞だったりします?」
「そこまではさすがに未来眼でも見れんじゃろ。ま、可能性は十二分にあるとは思うがの。なんせ、貴様は78695回童貞だったんじゃからな」
「確かに……。でも、何でそんなこと」
「呪いのようなものじゃろうな」
「呪い!? だ、誰がそんなのかけたんですか!」
「そんなもん、神しかおらんじゃろ」
神様だと!?
神様が僕に230万年間も童貞のままでいるように運命づけたのか? 何のために……?
というか、そんな話は馬鹿げている――と一掃してやりたかったが、目の前の彼女は明らかに人間ではない。
「だが、安心せい。貴様の魂に染み込んだ童貞根性――純潔を穢し続ければ、いずれ呪いは消えるはずじゃ! (同時に貴様の純潔度も下がるがの、クックックッ)」
「純潔を穢すって、具体的にはどうするんですか?」
「そんなもん、雌と交尾しまくればよかろう」
「ハードル高っ!!」
魂レベルで230万年間も童貞を貫いて来た僕に、一体どうやって性交渉しまくれっていうんだよ。無理に決まってるだろ。そもそも女の子の友達だっていないのに……。
そう思ったのだが、気を失う前のリリムの言葉が頭によぎった。
あっ、そっか! だからリリムが相手をしてくれると言ったのか。
相手は人外だけど、リリムはかなりの美人だし、悪くないかもしれない。
「あの、じゃあ……その、交尾してもらえるってことですか?」
「無理じゃ!」
「えっ!? いや、さっきはしてくれようとしていましたよね! 僕が下手くそだっからですか? 下手くそだったから萎えたんですかっ! でも初めてだったんだから仕方ないですよね! わかっていたことですよね? これから練習して上手くなりますから、だから――お願いです! ヤらせてください!」
僕は祈るように土下座をした。
神様によって理由の分からない呪いがかけられているのなら、この機会を逃してしまえば、また百万年くらい童貞のままかもしれない。そんなのは嫌だ! 前世の記憶を覚えていないとはいえ、生まれ変わるたびに童貞人生なんて……そんなのあまりにも辛すぎるよ。
「落ち着け、我も当初はそのつもりだったんじゃが……」
「なら、どうしてですか!」
「想定外だったのじゃ」
「想定外……? 何がです?」
「この世界の貴様は勇者ではない」
「は? そんなの分かりきっていることでしょ!」
「勇者でない貴様には魔力がないのじゃ」
彼女にはパッシブスキル【ドレイン】なるものが備わっており、対象者の肉体に触れることで、自動的に魔力を吸収してしまうという。
「魔力がなければどうなるんです?」
「先程のように、生命力を吸い取ってしまうことになる」
「生命力!? それって……」
「我に触れると貴様の寿命が減る。最悪死ぬ」
リリムと性交渉すれば死んでしまうといことらしい。だが、どの道死のうと思っていたのだから、今更問題ない。行為中に死ねるのならば、男の夢みたいなものではないか。
「問題ありません! ヤラせてください!」
「アホなことを言うでないわ!!」
「僕が童貞のまま死んでもいいんですか!」
「それはもちろん困る――が、一度交尾したところで、貴様の純潔度が穢れるとは思えん」
あー……そういうことか。
230万年分の童貞期間は、一度や二度の性交渉では焼け石に水ということか。
「そこでこれを使う」
「なんですか、それ……?」
リリムは亜空間ホールから琥珀を取り出した。渡された琥珀を覗き込んでみると、見たこともない奇妙な虫が入っていた。
「うわ、キモっ!」
「魔虫じゃ」
「魔虫……?」
「いわゆる寄生虫じゃな。それを貴様に寄生させる」
「いやいやいや、無理ですよ! 病気になって死んじゃいますって!」
「死にはせん。魔虫は寄生した対象者との共存を望む。寄生対象が死んでしまえば、魔虫も死ぬからの。むしろ貴様の一番の理解者になるはずじゃ」
「……えぇ」
だからと言って、こんな気持ち悪いものを寄生させたくはない。
「それって何か意味あるんですか?」
「魔虫を宿すと貴様に魔力が宿る。この世界の貧弱な人間とは比べものにならんくらい、貴様は強くなるじゃろう」
それは確かに魅力的だな。クラスの連中からもいじめられなくなるかもしれない。むしろやり返せるかも。
「貴様が経験値を積めば、それに応じて魔虫も成長する」
「成長したらどうなるんですか?」
「魔力最大値が上昇する。いずれは我と閨を共にすることも可能となる」
「おおっ!!」
つまり、童貞の卒業だ!
「寄生させます!」
僕は迷うことなく、魔虫を寄生させることにした。
「うぅ……」
ペシペシと頬を叩かれ、意識を取り戻すと、見知らぬ女性が傍らに座っていた。
……ああ、何があったんだっけ……?
ぼんやりとした意識の中で、先ほどの出来事が蘇ってきた。その瞬間、僕の顔は湯気を吹き出すやかんのように赤く染まっていた。
「ち、痴女!」
「誰が痴女じゃ!」
「痛いっ!」
慌てて身を起こした僕の頭を、セクシーなお姉さんが遠慮なく殴りつけた。
「というか……僕、なんで気を失ったんだろ?」
お姉さんに突然キスをされて押し倒されたまでは覚えているが、そこから先のことを思い出せなかった。
「我のパッシブスキル【ドレイン】により、貴様の生命力が急激に低下してしまったのが原因じゃ」
「ドレイン……?」
「言い忘れておったが、我はこの世界の住人ではない」
「は?」
「貴様からすれば異世界、こことは異なる世界からやって来たのじゃ」
彼女の名前はリリム・アスモデウス。
この世界とは別次元の、魔大陸と呼ばれる場所からやって来たという。
「それを信じろと……?」
「信じるも信じないも、事実を伝えているだけじゃ」
彼女によれば、僕が死ぬと魂は彼女の世界に行き、そこで勇者として生まれ変わるのだという。
「僕が勇者……?」
にわかには信じられない話ではあったが、その手のライトノベルを読み漁っていた僕は、ひょっとしたらそんなこともあるのかもしれないと思っていた。
なぜなら、
「その羽とか尻尾って、本物ですか?」
「うむ。もちろん本物じゃ」
彼女の背中には蝙蝠のような漆黒の羽が生えており、お尻には悪魔の尻尾が生えていた。リリムに断りを入れ、僕は念のため間近で確認してみる。どうやら本物のようだ。
「ってことは、僕は死んだら異世界で勇者として転生できるってことですか?」
「そうなるの」
まさに【異世界行ったら強気になる】である。
僕もブーベンピのように異世界転生ハーレムを体験できるのか!
「す、すごい!」
リリムの話を聞き、僕は俄然死ぬ気になっていた。
「まあ、ちょっと待て」
「止めないでください! 僕は勇者になって俺tueeeするんですから!」
「前世の記憶は引き継がれんぞ」
「……え? 異世界転生じゃないんですか?」
僕の知っている異世界転生の物語は例外なく、前世の記憶を持ちながら新たな人生を歩むもので、その過程で成長していくものだ。しかし、リリムは違うという。
「魂が同じというだけで、貴様とはまったくの別人じゃ。それに、勇者となった貴様は16で我が父――魔王サタンと激闘を繰り広げ、童貞のまま死ぬ」
「なっ、なんですかそれ! 魔王と相打ちになるのはまあ仕方ないとしても、なんで童貞のまま死ぬんですか! 勇者なんだからモテモテなんじゃないんですか!」
「魂が穢れてしまえば、勇者は力を失うのじゃ。そのために勇者は純潔を貫かねばならん」
「なんだよ、その聖女様みたいなクソ設定!」
ということは、生まれ変わっても僕は童貞のままなのか……。
「我が父サタンは不死なのじゃが、貴様は歴代の勇者たちを遥かに凌ぐ勇者に成長する。その結果、本来消滅することのない魔王の魂が消滅してしまうのだ。つまり、貴様が魔族を滅ぼすということじゃ!」
そんなに睨みつけられても……。
「生まれ変わった僕ってそんなに強いのか」
「魂は純潔であればあるほど強い」
「それって……どういうことですか?」
「貴様の魂がこれまで転生を繰り返した回数は78695回。その全てにおいて、貴様は純潔を貫いたまま死んでおる」
「は……?」
それって……仮に僕の生涯が30年だったと仮定した場合、約230万年も僕の魂は純潔を守っていたことになるのか?
「貴様は強すぎる」
「………全然うれしくない」
魂の純潔度が強さに影響するとすれば、230万年もの童貞期間が最強への道だったということになる。
「……生まれ変わっても、僕はリリムの父に殺されて死ぬんですか?」
「正確には、貴様は我が父に圧勝する――が、魔王が死に際に放ったブラックホールから世界を守り、そのまま次元の狭間にひとり取り残されてしまうんじゃ。その後は再び別世界で生まれ変わるというわけじゃ」
「まさかとは思いますけど、そこでも童貞だったりします?」
「そこまではさすがに未来眼でも見れんじゃろ。ま、可能性は十二分にあるとは思うがの。なんせ、貴様は78695回童貞だったんじゃからな」
「確かに……。でも、何でそんなこと」
「呪いのようなものじゃろうな」
「呪い!? だ、誰がそんなのかけたんですか!」
「そんなもん、神しかおらんじゃろ」
神様だと!?
神様が僕に230万年間も童貞のままでいるように運命づけたのか? 何のために……?
というか、そんな話は馬鹿げている――と一掃してやりたかったが、目の前の彼女は明らかに人間ではない。
「だが、安心せい。貴様の魂に染み込んだ童貞根性――純潔を穢し続ければ、いずれ呪いは消えるはずじゃ! (同時に貴様の純潔度も下がるがの、クックックッ)」
「純潔を穢すって、具体的にはどうするんですか?」
「そんなもん、雌と交尾しまくればよかろう」
「ハードル高っ!!」
魂レベルで230万年間も童貞を貫いて来た僕に、一体どうやって性交渉しまくれっていうんだよ。無理に決まってるだろ。そもそも女の子の友達だっていないのに……。
そう思ったのだが、気を失う前のリリムの言葉が頭によぎった。
あっ、そっか! だからリリムが相手をしてくれると言ったのか。
相手は人外だけど、リリムはかなりの美人だし、悪くないかもしれない。
「あの、じゃあ……その、交尾してもらえるってことですか?」
「無理じゃ!」
「えっ!? いや、さっきはしてくれようとしていましたよね! 僕が下手くそだっからですか? 下手くそだったから萎えたんですかっ! でも初めてだったんだから仕方ないですよね! わかっていたことですよね? これから練習して上手くなりますから、だから――お願いです! ヤらせてください!」
僕は祈るように土下座をした。
神様によって理由の分からない呪いがかけられているのなら、この機会を逃してしまえば、また百万年くらい童貞のままかもしれない。そんなのは嫌だ! 前世の記憶を覚えていないとはいえ、生まれ変わるたびに童貞人生なんて……そんなのあまりにも辛すぎるよ。
「落ち着け、我も当初はそのつもりだったんじゃが……」
「なら、どうしてですか!」
「想定外だったのじゃ」
「想定外……? 何がです?」
「この世界の貴様は勇者ではない」
「は? そんなの分かりきっていることでしょ!」
「勇者でない貴様には魔力がないのじゃ」
彼女にはパッシブスキル【ドレイン】なるものが備わっており、対象者の肉体に触れることで、自動的に魔力を吸収してしまうという。
「魔力がなければどうなるんです?」
「先程のように、生命力を吸い取ってしまうことになる」
「生命力!? それって……」
「我に触れると貴様の寿命が減る。最悪死ぬ」
リリムと性交渉すれば死んでしまうといことらしい。だが、どの道死のうと思っていたのだから、今更問題ない。行為中に死ねるのならば、男の夢みたいなものではないか。
「問題ありません! ヤラせてください!」
「アホなことを言うでないわ!!」
「僕が童貞のまま死んでもいいんですか!」
「それはもちろん困る――が、一度交尾したところで、貴様の純潔度が穢れるとは思えん」
あー……そういうことか。
230万年分の童貞期間は、一度や二度の性交渉では焼け石に水ということか。
「そこでこれを使う」
「なんですか、それ……?」
リリムは亜空間ホールから琥珀を取り出した。渡された琥珀を覗き込んでみると、見たこともない奇妙な虫が入っていた。
「うわ、キモっ!」
「魔虫じゃ」
「魔虫……?」
「いわゆる寄生虫じゃな。それを貴様に寄生させる」
「いやいやいや、無理ですよ! 病気になって死んじゃいますって!」
「死にはせん。魔虫は寄生した対象者との共存を望む。寄生対象が死んでしまえば、魔虫も死ぬからの。むしろ貴様の一番の理解者になるはずじゃ」
「……えぇ」
だからと言って、こんな気持ち悪いものを寄生させたくはない。
「それって何か意味あるんですか?」
「魔虫を宿すと貴様に魔力が宿る。この世界の貧弱な人間とは比べものにならんくらい、貴様は強くなるじゃろう」
それは確かに魅力的だな。クラスの連中からもいじめられなくなるかもしれない。むしろやり返せるかも。
「貴様が経験値を積めば、それに応じて魔虫も成長する」
「成長したらどうなるんですか?」
「魔力最大値が上昇する。いずれは我と閨を共にすることも可能となる」
「おおっ!!」
つまり、童貞の卒業だ!
「寄生させます!」
僕は迷うことなく、魔虫を寄生させることにした。