第2話 村山台駅

文字数 3,688文字

村山台駅はそこから歩いて五分ほどの場所。

商店街をしばらく歩いて行くと駅前の小さなロータリーになっている。探索するためにいつもより夜遅めに来たのだけど、この時間だと人通りはずっと少なくなるみたい。


私とコウとユナの三人はいつもと違うテンションで、村山台駅の正面階段を上って改札抜けて駅構内に入った。


 時間は午後10時過ぎ、キヨスクと隣接のスナックフードコーナーもすでに閉まっていて、特に電車街の姿もなくて、自動販売機のモーター音に気が付くほど駅構内は静で、探索にはちょうどいい感じだった。
「夜遅めなだけで通常営業って感じだけど、駅の中のどの辺に幽霊が出るわけ?」
「え〜と…そう例えばねぇ、閉店後の店内で幽霊が目撃される立ち食いそば屋だったかな」
「ん?立ち食いそば屋?」
「そんなのあったっけ?」
「うーん・・・そういえばそば屋なんてないよな・・・」
「もしかして昔はあったのかも?」

「でもなんかそれ気になるなぁ! 立ち食い蕎麦屋に出る幽霊ってなんかエモくない?死んでもまだ好きだった蕎麦をすすっている背中から悲哀あふれる過労死リーマン幽霊って感じかな」

「た、たしかにそんな感じだったかな?他にもいろいろあったはずだし、Aramata.comでもっかい調べてみる!」
「なにそれ?アラマタどっとコム?」
「さっき見せたでしょ。インターネットのオカルト大辞林と呼ばれる古いウェブサイトだよ。てかオカルトレジェンドといえばアラマタ先生でしょ?」
「どっかで聞いたことある気がするけど・・・」
「ナオキマンとかミスター都市伝説の関さんなら知ってるけどアラマタって誰よ?知らんわ」

「え?知らないの?アラマタ先生を知らずしてオカルト語るべしだよ」


「へぇそんな有名だっけ?そのアラマタどっとコム?私も調べてみる」

私だけでなく、ユナもそれぞれスマホでAramata.comを開いて村山台駅のトピックで探索を掛けてた。


幽霊の現れる立ち食いそば屋の情報には、過労死かどうかは置いておいてコウの言うとおり、「疲れたサラリーマンの幽霊」という記述があった。



その他にも、「身投げした女性の霊」や「子供の幽霊が落とした小銭を探しまわって自動販売機の周辺に現れる」というものもあった。昔は滅多にに無かったのかもだけど、この数年線路に身投げする人なんて別に珍しくないし、スマホ決済になってから現金なんて使わないし、小銭を探す幽霊というのもなんだかピンとこなった。



「他に子供や女性の幽霊の目撃についての書き込みがあるけど、もう時代が令和に変わって、その出現フラグは消えてなくなっちゃったのかも・・・?」
「幽霊て誰かが立てたフラグで出るの?そんなもんなん?」
「う〜ん、私もよくわかってないけどたぶんそんなもんでしょ?」
「・・・あと他には「村山台駅のトイレの鏡に自分以外の女の幽霊の手が現れて、鏡の向こうの世界へと誘ってくる」とかいう話もあるみたいだよ」
「うわっ何それ怖わ!」
「駅のトイレってもしかしてあれのこと?改札のすぐ横にあるやつ」
「あれか! でもあれじゃ、照明明るすぎて幽霊も出にくいんじゃない?」
「もしかして幽霊さんたちここよりもっと好い場所見つけて、引っ越ししてしまったとか?」
近くまで行ってよく見てみると、いまあるトイレは、アイボリーのお洒落なタイル壁や汚れにい加工が施された木目風の床材などで近代的に新装された感じに様変わりしていて、入り口は赤外線式自動ドアになっているし、幽霊も敬遠するほど白く爛々と光っているLED照明が灯っていた。確かに昔のトイレは薄暗かったかもだけど、いまは真新しいお朱レット付きで清潔感も文句なし安全安心の使用感、と言ってよい感じのトイレで、闇が存在する隙間は一ミリもなさそうに思えた。
「たぶん幽霊全滅したんじゃねぇの・・・? ほぼほぼもういないってわかってるけど一応向こう側のホームにも行ってみる?」

コウは少し飽き始めたみただけど、一応まだ付き合ってくれるらしい。


次に私たちは連絡橋を渡って、隣の二三番線のホームへと向かった。
「こっち側も特に問題なさそうだけど、なんかあるわけ?」
「とくに噂はないみたい・・・・」
「つまらん!けどまぁそんなもんよねぇ。幽霊も所業無情の響きありってことか。何も聞こえんけどさ」
「そこ諸行無常ね・・・。でもまぁ異常なしって言うのはたしかね」
「まぁそういうことかもね。「霊体は時代と共に巡り巡って生者の薄れゆく記憶と共に黄昏の世界へ旅立つ」みたいなこと、アラマタ先生も言ってた気がするよ」

「なんかそれ、無理やりまとめようとしてるみたいだけど、結局なんの代り映えのない、いつも通りの村山台じゃろって」
「まぁそう言わないでよ。あんただって結構楽しんでるでしょ?」

 その後私たちは、いちおうホームの端から反対の隅まで歩いてみたものの、結局何もおかしなことは起こらなかった。途中で到着した電車の中から乗客が数人降りてきたけど、その人たちもすぐに改札から出て行ったし、入ってくる人もいなかった。


 人が居ないことをいいことに、少し疲れたので私たちは中央付近にある貸し切りベンチに腰掛けて電車待ちを装ってしばらく休むことにした。

「はぁ・・・」
「ネット情報って半分くらい作り話も入ってるでしょ」
「それな!マジでネットの大半の情報がそんなもんだよ」
「うん、確かにそうかもね」
「でもさ、村山台駅の噂はあたしも聞いたことあるんだよね。私聞いたのはテケテケみたいなはなしだったけど、昔から地元民の間で怪談話が語られてきたっていうことは、実際になんか怪奇現象みたいなことが実際にあったんだと思う。煙の無いところに火は立たないっていうしさ、もしかして不思議なことが実際に起きる可能性もあるかもってすこし期待したんだけどなぁ・・・・」
「無くて良かったって私は少しホッとしたんだけど・・・・でもなんかあまりにも静かでヒト気も無いのが不思議だよね。こんなもんなのかな。深夜近くだから当然かもだけど」
「だよね。たしかにたいぶ遅くなってきたからそろそろ帰ろうか?」
私があきらめてつぶやいていると、ユナが何かに気づいて急にベンチから立ち上がり前方を指差した。
「ねえ、ちょっと向こうのホーム・・・」
「向こうってユナ何言ってんの?何も無いじゃん」
「ないって、プラットホーム二つと線路が三つだよ」
「みんなには見えてない?・・・・もしかしてあれが4番線ホーム」
「ユナは霊感あるから、私たちに見えないものが見えてる・・・?」

「そっかユナの目にはそれが見えてんのね・・・よし!」

「えっ?ちょっと待ってよ」
 コウは球に走りだしてプラットホームを本気の短距離走あっという間に走りきって連絡橋の階段を駆け上っていってしまった。私とユナはお互いに顔を見合わせてすぐにその後を追いかけた。
「これ見て!」
「はぁはぁ・・・コウ足はやす・・・あれ?こっちはただの壁だったよね!?」
「うん・・・・でも私がさっき見たホームに繋がってるんじゃないかな?」
私たちの視線の先にさっきまでなかった連絡橋の廊下が伸びていた。
「ちょっとあれ見てよ」
考える前に行動するコウはもうすでにその廊下を半分ほど進んでいて、そこで何かに気づいたみたいで奥の突き当りを指さした。その壁に目を凝らしてみると、「4」という文字が書かれた看板が付いていて、その左手に下へ降りるための階段が伸びているみたいだ。

「これじゃなんじゃない!?」
「噂の四番線ホーム・・・」
「でも、この廊下自体がもう普通の場所じゃないんだと思う・・・・ちょっと周りを見て」
新しく出現した廊下の両側についた窓から外を見ると、そこにあるはずの線路や街の光がなくて、何処までも真っ暗な闇が何処までも続いている。
「確かに変だ。この廊下の先はヤバい世界って感じがする」
「・・・・4番線ホームに行ってはいけない気がする」
「具体的に言ってよ。ユナはこの先に進んだらどうなると思うわけ?」

「最悪帰れないかも・・・・」
後ろを振り返れば、一番線に戻るための廊下もちゃんと伸びていた。現実への道標で一番線ホームに戻ろうと思えば普通に戻れそうだ。でも忘れられた都市伝説的として語られていた四番線ホームが、この先にあるかもしれないと思うと、好奇心が私たちを足止めにさせるのだった。
「確かに異常ていうか、こういうのをみんな超常現象って言うんだよね。こんな感覚はじめてだし鳥肌ものだけど、もう見に行くしかないって! そもそも私たちはこれの真相を調べに来たんだし、繊細一分のチャンスかもよ!」
「千載一遇?」
「そうそれさすがユナ!つうわけで行くよ!!」
「おい!ちょっとコウ!待ちなってば!!」

わたしとユナは慌てて捕まえようとしたけど間に合わず、さっそうと駆けてゆくコウの後ろ姿を追って、「4」と書かれた先の下り階段を降りていった。


するとそこには、見たことのない青白い色をした電車が止まっていた。

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登場人物紹介

白井ユリ。主人公。雛城高校二年生。二年になってバスケ部をやめて今は無所属。身長百六十センチ。体重ヒミツ。髪は肩よりちょっと長いくらいで黒髪を後ろで一つ結びにしてる。校則は茶髪は禁止だけどポニーテールは一応OK。



物語の中心的キャラクター。

紫山コウ。雛城高校二年生。陸上部所属。

瀧沢ユナ。雛城高校二年生。美術部所属。少し霊感あり。

犬の車掌。

千徳ユミヨシ。八王子にある儀仗大学に在籍する大学生。しかしずっと前に亡くなっている。それが何年前のことかだったか本人も忘れてしまっている。

海辺に現れた謎の女の子。

正体不明のおじさん。

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