小説大賞300万を狙うも蝋燭生活になった16歳
文字数 1,996文字
「僕」はその時、興奮していた。
なぜなら、高校生にして300万円という大金を手にすることができると考えていたから。そして、僕の敬愛するハリウッドの映画監督ジェームズ・キャメロンのような作品を創れると、本気で信じていたから。
いつものように登校して、授業を聞かず、資格勉強に励んでいると、視聴覚室で『プロジェクトX』のビデオを見せられた。
……へえ、橋って「ケイソン」っていう、でかいブロックを海に落として作るのか。
そんな感想とは裏腹に、頭の片隅にあるのは小説の新人賞に応募した作品が1次選考を通過したかどうか。ケイソンのことは2%くらい。それと小島秀夫監督の『メタルギアソリッド:ピースウォーカー』という携帯ゲームの物語を追うのに50%。あとは『遊戯王』と『デュエルマスターズ』というカードゲームに20%。残りはテニス部での練習と、走って帰ったら何時の電車に乗れるかということ。
唐突な校舎の揺れにも、大半の同級生は反応しない。
反応するようになったのは、無慈悲なほどに横揺れが酷くなったから。
全員が机の下に隠れる。けど、視聴覚室の長机は2人で1つ。その中途半端に狭い机の下を僕は隣の奴に譲ってしまった。空いている机を探しながら、窓の外に見える金属製のフェンスを眺める。
ああ……激しく揺れているな。
腹の下からマグマでも噴き出して来るのではないかという感覚。「ゴゴゴゴ」という地鳴りと壁の亀裂。天井も揺れる。
多分、このまま圧し潰されて死ぬんだ。コンクリートの瓦礫に埋もれた状態で息を吸いながら、唯一動く片手を暗闇に伸ばすんだ……
結果的にそうはならなかった。揺れはおさまり、割れた窓ガラスを避けながら校舎の外へ。
なぜかグラウンドではなく、テニスコートへと集合。
四隅で傾いている支柱に囲まれている中で「なんでグラウンドじゃないんだよ!」と制服の悪魔達が苦情の嵐。教師達は「うるさい黙れ!」と自己保身の嵐。教師達の視線は、日頃から不良少年や少女をしばき回っている体育担当兼ボス教師に向けられている。
この日に限って携帯電話を忘れた僕は、数km離れた市役所まで行進開始。周囲はすっかり暗くなり、市役所の公衆電話を占領していたおばちゃんを「他の方もいるので」とどかし、父親に連絡。毛布を1枚貰って休むが、市役所の場所が分からない父親のために、今度は駅へと行進する。
もうこれを小説にした方が良かったかな。
懐中電灯もない状態で、突然現れる人間に驚く。相手も驚く。そんなことを体験しながら、電車の来ない駅でひたすら待機。しばらくすると、父の車が登場。僕はそれに搭乗。家へと帰る。
家の中も外も全てが一変していた。自室に戻ると倒れた本棚でパソコンが潰れていた。居間では電気の入らない炬燵で蝋燭を灯しながらの生活がスタート。ラジオを聞きながら、水は風呂場のバスタブに入れたものを使う。田舎なので幸い、近所の人が井戸を貸してくれた。
小説の結果ってどうなったのかな。
しばらくすると、電気が復旧。その頃にはテレビで情報収集。
自衛隊が災害救助している光景。人や家が流される光景。公共広告機構のしつこいほど宗教じみたCM。そして被災地なのにもかかわらず計画停電の対象に入ったり、知事の猛抗議で入らなかったり。
僕の16歳は震度6強の地震で壊れた。
と言っても、数カ月後には学校に復帰。ただしガソリンスタンドのバイトは辞めることになった。ついでに1次選考の結果も受からなかった。代わりに危険物の他にガス溶接の資格を取って、全く関係のない学校に進学し、自衛隊に入隊して、初めての災害派遣先がちょうど被災した地元だった。
そこから数年後、僕はパラシュート部隊に異動した後、国家公務員を辞めた。
それから数年後、僕は小説を出版した。賞は通さず、自分で出した。
そこから更に数年後、色んなSNSで文字を書く生活となった。
そして現在、格闘技の動画を投稿しながら執筆を続けている。
思えば、全ては16歳の時に死にかけた頃からスタートしている。その頃からネット小説はあったし、書いたことはあったけど、今とは全く違う価値観だ。
死にかけたのに自分から死にに行くような価値観を得た。
途中でバイクに乗り出してレース場でも走るようになったのだから、何が起こるか分からない。それか結局、全ては運命付けられているのか。
ジェームズ・キャメロンは映画を撮るために自宅を売った。それまではしがないトラック運転手であり、『スター・ウォーズ』を観て「俺が撮った方が面白い!」と豪語して作家となったらしい。
そう考えて元を正すと、16歳ではなかった。
遥か遥かの遠い昔、午後のロードショーで観た『ターミネーター2』。
『未来は変えられる。運命なんてない。自ら作り上げるものだ』
僕はその時、幼稚園児だった。
僕はその時、興奮していた。
なぜなら、高校生にして300万円という大金を手にすることができると考えていたから。そして、僕の敬愛するハリウッドの映画監督ジェームズ・キャメロンのような作品を創れると、本気で信じていたから。
いつものように登校して、授業を聞かず、資格勉強に励んでいると、視聴覚室で『プロジェクトX』のビデオを見せられた。
……へえ、橋って「ケイソン」っていう、でかいブロックを海に落として作るのか。
そんな感想とは裏腹に、頭の片隅にあるのは小説の新人賞に応募した作品が1次選考を通過したかどうか。ケイソンのことは2%くらい。それと小島秀夫監督の『メタルギアソリッド:ピースウォーカー』という携帯ゲームの物語を追うのに50%。あとは『遊戯王』と『デュエルマスターズ』というカードゲームに20%。残りはテニス部での練習と、走って帰ったら何時の電車に乗れるかということ。
唐突な校舎の揺れにも、大半の同級生は反応しない。
反応するようになったのは、無慈悲なほどに横揺れが酷くなったから。
全員が机の下に隠れる。けど、視聴覚室の長机は2人で1つ。その中途半端に狭い机の下を僕は隣の奴に譲ってしまった。空いている机を探しながら、窓の外に見える金属製のフェンスを眺める。
ああ……激しく揺れているな。
腹の下からマグマでも噴き出して来るのではないかという感覚。「ゴゴゴゴ」という地鳴りと壁の亀裂。天井も揺れる。
多分、このまま圧し潰されて死ぬんだ。コンクリートの瓦礫に埋もれた状態で息を吸いながら、唯一動く片手を暗闇に伸ばすんだ……
結果的にそうはならなかった。揺れはおさまり、割れた窓ガラスを避けながら校舎の外へ。
なぜかグラウンドではなく、テニスコートへと集合。
四隅で傾いている支柱に囲まれている中で「なんでグラウンドじゃないんだよ!」と制服の悪魔達が苦情の嵐。教師達は「うるさい黙れ!」と自己保身の嵐。教師達の視線は、日頃から不良少年や少女をしばき回っている体育担当兼ボス教師に向けられている。
この日に限って携帯電話を忘れた僕は、数km離れた市役所まで行進開始。周囲はすっかり暗くなり、市役所の公衆電話を占領していたおばちゃんを「他の方もいるので」とどかし、父親に連絡。毛布を1枚貰って休むが、市役所の場所が分からない父親のために、今度は駅へと行進する。
もうこれを小説にした方が良かったかな。
懐中電灯もない状態で、突然現れる人間に驚く。相手も驚く。そんなことを体験しながら、電車の来ない駅でひたすら待機。しばらくすると、父の車が登場。僕はそれに搭乗。家へと帰る。
家の中も外も全てが一変していた。自室に戻ると倒れた本棚でパソコンが潰れていた。居間では電気の入らない炬燵で蝋燭を灯しながらの生活がスタート。ラジオを聞きながら、水は風呂場のバスタブに入れたものを使う。田舎なので幸い、近所の人が井戸を貸してくれた。
小説の結果ってどうなったのかな。
しばらくすると、電気が復旧。その頃にはテレビで情報収集。
自衛隊が災害救助している光景。人や家が流される光景。公共広告機構のしつこいほど宗教じみたCM。そして被災地なのにもかかわらず計画停電の対象に入ったり、知事の猛抗議で入らなかったり。
僕の16歳は震度6強の地震で壊れた。
と言っても、数カ月後には学校に復帰。ただしガソリンスタンドのバイトは辞めることになった。ついでに1次選考の結果も受からなかった。代わりに危険物の他にガス溶接の資格を取って、全く関係のない学校に進学し、自衛隊に入隊して、初めての災害派遣先がちょうど被災した地元だった。
そこから数年後、僕はパラシュート部隊に異動した後、国家公務員を辞めた。
それから数年後、僕は小説を出版した。賞は通さず、自分で出した。
そこから更に数年後、色んなSNSで文字を書く生活となった。
そして現在、格闘技の動画を投稿しながら執筆を続けている。
思えば、全ては16歳の時に死にかけた頃からスタートしている。その頃からネット小説はあったし、書いたことはあったけど、今とは全く違う価値観だ。
死にかけたのに自分から死にに行くような価値観を得た。
途中でバイクに乗り出してレース場でも走るようになったのだから、何が起こるか分からない。それか結局、全ては運命付けられているのか。
ジェームズ・キャメロンは映画を撮るために自宅を売った。それまではしがないトラック運転手であり、『スター・ウォーズ』を観て「俺が撮った方が面白い!」と豪語して作家となったらしい。
そう考えて元を正すと、16歳ではなかった。
遥か遥かの遠い昔、午後のロードショーで観た『ターミネーター2』。
『未来は変えられる。運命なんてない。自ら作り上げるものだ』
僕はその時、幼稚園児だった。
僕はその時、興奮していた。