第3話(4)勇者の定められた力

文字数 2,378文字

「さあ、ともに戦おうではないか!」

「えっと……」

「さあ!」

「う~ん……」

「ともに!」

「いや……」

「参ろうぞ!」

「嫌です!」

「えっ⁉」

 わたしの大声による拒絶に、ジャッキーさんは困惑する。

「い、いや、すみません、いきなり大声出しちゃって……」

「そ、それは別に構わないのだが、何故にして嫌なのだ?」

「いや、嫌でしょ、それは……」

「何故だ?」

 ジャッキーさんは首を傾げる。

「何故って……」

「もう一度言うぞ、そなたは運命的な勇者なのだぞ?」

「いや、そう言われてもな……」

 わたしは鼻の頭をポリポリと搔く。

「運命なのだぞ?」

「大事なことを繰り返しがちですね」

「大事なことだからな」

「でも……」

「でも?」

「あくまでも“この辺で”なんですよね?」

 わたしは自らの下の地面を指差す。

「うっ⁉」

 うっ⁉って、動揺が極めて分かりやすいな。これで勇者が務まるのだろうか。

「だったら別にわたしじゃなくても……」

「そ、それでも運命だということには変わりない! そなたは運命に抗うと言うのか⁉」

「抗います」

「な、何のためらいもなく⁉」

 ジャッキーさんが驚愕する。

「ええ」

「な、何故だ……?」

「何故って……別に望んでなったものではありませんから……」

「ちょ、ちょっと待ってくれたまえ……」

「え?」

「勇者とはなろうとしてなるものじゃない……」

「『なろう系』ではない?」

「うん?」

「いえ、すみません、こちらの話です……」

「自然となっているものなのだ……」

「はあ……」

「分かるだろう?」

「いいえ」

「い、いいえっ⁉」

「そんなに驚かれてもですね……」

「分からないのか?」

「なんとなく言わんとしていることは分からんでもないですが……自然になるにしても、そういった兆候というものは見られるものじゃないですか?」

「ふむ……」

「……今のところ、そういった兆候がまったくないのですが……」

 わたしは両手を広げながら自らの体を見つめる。

「別に肉体的に極端な変化が生じるというわけではない……」

「ああ、そうですか……ではあれは?」

「あれ?」

「魔法とか……そういうのを使える感じじゃないんですか?」

「魔法を使える勇者は確かにいるが、全員が全員そういうわけではない」

「え~なんかつまんないな……」

「つ、つまらない⁉」

「あ、ごめんなさい。つい本音が……」

「……しゅ、修練次第だろうな」

「厳しいのはパスですね。遠慮しておきます」

「え、遠慮する……⁉」

 ジャッキーさんが愕然とする。

「……唖然とされていますね」

「そ、それは唖然とするだろう……」

「…………」

 ゴブリンがゆっくりとこちらに近づいてくる。

「ゴ、ゴブリンが接近してきていますよ」

「……共に戦えると思ったのに」

 ジャッキーさんはがっくりとうなだれている。

「……………」

「ジャッキー=バンバラバンバンさん!」

「……!」

「……ジャッキー=バラバンだ!」

「!」

 ゴブリンが襲いかかってきたが、ジャッキーさんは剣を鞘に入れたまま、強烈な突きをゴブリンのみぞおちに食らわせる。ゴブリンは後方に思いっきり吹っ飛ばされる。

「つ、強い……!」

 わたしは思わず感嘆の声を上げる。

「そなたが協力してくれれば心強いのだが……」

 ジャッキーさんが残念そうな表情でわたしを見つめてくる。少し目が潤んでいる。

「い、いや! 別に協力しなくても十分だと思いますが⁉」

 わたしは困惑する。あなた一人で全然良いんじゃないかな。

「………………」

「あ、ゴブリンが立ち上がりました!」

「…………………」

「ま、また近づいてきていますよ!」

「……‼」

「と、飛びかかってきた!」

「しつこいな!」

「‼」

 ジャッキーさんが鞘から剣を抜き放って横に薙ぐ。ゴブリンの首が吹っ飛ぶ。ゴブリンは地面に落下して、跡形もなく霧消する。わたしは唖然とする。

「な、なんという剣の切れ味……!」

「最初の一撃で彼我の実力差を理解出来ないとは……所詮は獣か……」

 ゴブリンの霧消を見届け、ジャッキーさんは背を向ける。

「………!」

「おわっ⁉」

 ゴブリンの代わりに出現したものが手斧を振り、ジャッキーさんを襲う。

「ジャッキー=ララバイさん!」

「ジャッキー=バラバンだ。無理にフルネームで呼ばなくても良い……ちぃっ、油断してしまった……」

「……………………」

「お、大きいゴブリン?」

「キングゴブリン……子分がやられて怒ったようだな……」

「ジャッキーさん、大丈夫ですか?」

「刃の部分は避けたが、柄の部分で思い切り殴りつけられた……あばら骨を何本かやられたかもしれない……回復にはやや時間がかかる。静香、ここはそなたに任せるとしよう」

「ま、任せるって……」

「逃げるつもりか?」

「い、いや、正直それも選択肢のひとつですけれど……」

「大柄だが脚もなかなか速い……逃げ切るのは至難の業だぞ?」

「……ということは?」

「戦うしかないだろうな……そなたに定められた運命の力を駆使して……」

「そ、そんなものを定められた覚えは無いんですが⁉」

「運命はいちいち許可を求めたりはしない……無意識の内に定められたはずだ」

「ず、随分と勝手ですね⁉」

「……試しに強く念じてみるといい……」

「ええっ⁉ ……ええいっ! あっ⁉」

 わたしが強く力を込めると、目の前に剣が現れた。わたしは剣を掴む。

「思った通りだ……武器を召喚するタイプか……」

「………‼」

「う、うわっ⁉ でっかいゴブリンがこっちに向かってくる!」

「剣を振れ! 使い方はそなたの体が覚えているはずだ!」

「そ、そんなことを言われても⁉ ええいっ! 『神、斬った?』!」

 わたしはよく分からないことを口走ってしまう。すると、襲いかかってきたキングゴブリンの胴体がスパッと斬れる。キングゴブリンは霧消する。

「見事な剣さばきだ……やはり運命の勇者だな……」

 剣を片手に呆然とするわたしをよそに、ジャッキーさんは深々と頷く。
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