第2話

文字数 2,157文字

「気分が悪い。何なのあれ。奴隷市場なんて、冗談じゃ無いわ。」

会場を後にした後、少し離れた場所にある喫茶店に入っていた。
喫茶店といっても、簡易的なテントが貼られただけの、質素なものだった。
その中で適当なドリンクを頼み、さっきの光景を思い出しながら憤っていた。

「人の人生をなんだと思ってるのかしら。というか、こんな場所だなんて知らなかったわ。来る前にもっとよく情報を集めとくんだった……。」

やがてドリンクが運ばれて来た。
ここの従業員だろうか。綺麗な緑色の髪を肩の位置まで伸ばし、綺麗な肌を所々覗かせる服装をした女性であった。

「ありがとうございます。」
「いえいえ。お客さん、もしかしてこのバザールは初めて?」
私の愚痴が聞こえていたのだろか。
「ええ。奴隷市場なんてものを見てしまってね。気分は最悪よ。このバザールは皆あんな感じなのかしら?」
「ははは。まあ、奴隷で成り立ってるバザールでもあるからね。仕方が無い面もあるのよ。」
「ふーん。」
このバザールは奴隷で成り立っている……か。
さして興味もわかなかった。
私としては、さっさとこのバザールから立ち去りたい。

「しかし貴方、変わった物を持ってるのね。」
言って彼女は私の隣の席にかけていたある物を指差す。
「ああ、これ?」
それは刀であった。
「そうそれ。それ、東の国に伝わる伝統武器の、刀よね?なんというか……長くないかしら?昔資料で見たものとは違って見えるわ。」
「そうね。普通の刀より長いわよ。大太刀って言うの。よく知ってるわね?」
普通の刀は刃渡りが平均100程度であるのに対し、この刀は2メートル弱はあった。
「そ、そう。その……それ本当に貴方の?なんというか、扱ってるところが想像出来ないというか。」
「失礼ね!ちゃんと私のよ!これでも私、賞金首ハンターなのよ?」
「えっ!?賞金首ハンター!?貴方が!!?」
何をそんなに驚いているのだろうか。
これでもそれなりに実績はあると思っているんだけど……。
「でも、その……。貴方、幼過ぎないかしら?見たところ、まだ14か15歳ってところじゃないの?」
「貴方本当に失礼ね!!私はこれでも17なんです!ちょっと身長が低いだけなんです!」
「ええ!?17歳!?とてもそうは……」
「文句があるならかかってこいやぁ!?」
「ひぃっ!ご、ごめんなさい!!」

世界中に、悪党と呼ばれる連中はいくらでもいる。
それらの首に懸賞金を掛ける組織がある。
冒険者ギルドと呼ばれる組織だ。
冒険者ギルドに所属し、正式な冒険者として各地に赴き、様々な依頼をこなす……というのが本来の流れだ。
が、私は訳あって冒険者ギルドには所属していない。

「そ、そっか。17歳か。じゃあ、私と同い年だね。ふふふ。同年代の女の子なんて久しぶりに見たわ。」
何が嬉しいのか、彼女は口元を隠しながら微笑んでいた。

しかし、同い年か……。
にしては、色々と格差が有る気がするのだが。
身長とか、バストとかヒップとか。
自分は何も悪くないはずなのに、なんだか惨めな気分にさせられる。

彼女は私の目の前の椅子に腰掛けた。
「仕事は大丈夫なの?」
「いいの、いいの。どうせ今日は皆オークションに夢中で、誰も来ないわよ。」
喫茶店内を見渡してみると、確かに私以外誰も居なかった。
彼女は興味津々といった表情で語りかけてくる。
「そういえば、このバザールには何しに来たの?最初の感じだと、奴隷目当てじゃなさそうだけど。」
「奴隷なんて興味ないわよ。ここに立ち寄ったのはね、中央都市への近道だったからってだけ。こんなところだって知ってたら、遠回りしてでも避けてたわよ。」
「ははは。酷いなぁ。こんな所でも、一応私の生まれ故郷なんだよ?」
先程から彼女はよく笑う。
笑顔の素敵な人だと思った。
「うーん、生まれ故郷か。それはなんだか悪かったわね。悪く言ってごめんなさい。」
「うわ、素直だ。そういうところは可愛いわね。貴方。」
「……馬鹿にしてない?それ?」
「ははは!」

「そういえば、このお店って貴方だけなの?他の従業員も見当たらないし。」
「そうよ。私が店長。凄いでしょ?」
「まあ、そうね。凄いわね。」
ただのテント張りに机と椅子が何セットが置かれてるだけの店だ。
……誰でも出来そうなものだが。
「ところで今晩はどうするの?宿とかちゃんと用意してる?」
「いいえ。何の用意もないわ。これから探しに行こうと思ってたところよ。」
本当は今すぐにでもこのバザールから離れたいが、中央都市方面への移動手段が明日まではないのだ。
砂漠地帯の中心にポツンとあるバザールのため、交通の便は非常に悪い。
移動はもっぱらラクダだ。
それでも、このバザールを中継するとしないとで、3日は変わるというのだから、このルートを使わない選択肢がなかった。
「じゃあ今晩はここに泊まっていかない?久しぶりに友達が出来て、私嬉しいの!どうかな?」
「友達」
「そうよ!私たち、もう友達でしょ?」
友達か……。
「そ、そこまで言うなら、良いわよ。泊めてもらえるかしら?ととと、友達……だし!」
もちろん、断る理由なんて無かった。

「なら決まりねっ!そういえば、自己紹介がまだだったわね!私はローレル・スイートピー。ローレルって呼んで。貴方は?」
「リブレ・レッドラインよ。リブで良いわ。」
「ふふふ。よろしくね。リブ!」
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登場人物紹介

リブレ・レッドライン


17歳

赤いツインテールが特徴的な少女。

身長が低く、容姿も子供っぽいため、見た目だけなら13〜14才程度にしか見えない。

2メートル程もある刀、大太刀「リーヴァメルツ」を所持しており、大切にしている。

ローレル・スイートピー


17歳

緑色の髪の毛を持つ少女。

保身のためなら何でもする。

基本的にクソザコなため、戦闘能力は皆無。

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