獣組 血風録

文字数 2,073文字

  場所:稽古(けいこ)


  

  団員が横1列に並び、相対して組長、副組長が立っている。


  組長から見て、一番右に若頭(わかがしら)


  全員、レオタード姿。

若頭、たったこれだけか⁈
はい! 

欠席者の内訳は、腰痛10人、腹(くだ)し9人、めまい5人、ウオノメ2人、その他12人であります!

「その他」の内訳は?
不明であります!
馬鹿者! 

若頭のお前が(たる)んどるから、この体たらくだ。

稽古(けいこ)後、腕立て伏せ500回!

(深々とお辞儀をして)

ごっつぁんです!

組長様、コスチューム検査をお願いします。
  組長、各団員のコスチュームを検分する。

  

  副組長、ハイレグの角度を大きな分度器で測る。

(うさぎ)! ハイレグ角度、33.5度超過。

そこの壁でY字倒立60分!

(深々とお辞儀をして)

ごっつぁんです!

  兎、近くの壁で、Y字倒立を始める。
次、手指検査!
  団員たち、手の甲を上にして両手を前に出す。


  組長、端から順に検分する。

(ねずみ)! 

指が、ささくれておる。

これには(わけ)が……。
口答えは許さん!
(懇願するように)

組長様、(わけ)を聴いてやって下さい。

いい度胸だ。

言ってみろ。

私は毎晩、先輩方のパンツを手洗いさせられております。
パンツ手洗いは、我が獣組の光輝ある伝統だ。
鼠は、洗剤の原液で手洗いしろと命じられています。
だから?
指がささくれるのも当然かと。
若頭! 鼠に代わって言い訳するのか。

けしからん。

罰として、入浴禁止1週間!

  若頭、態度が急変する。
ったく、やってられねーよ。

パワハラ組長め。

(若頭の耳元でささやく)

人間、辛抱だ。

フフフ。

ICレコーダで録音してるもんね。

出まかせ言うな。

レコーダなんて、どこにある?
お股だよ。

『週刊 おたけび』に垂れ込むもんね。

貴様ぁー。

レコーダをよこせ!

  組長と副組長、若頭のレオタードを脱がせにかかる。


  他の団員が集まってきて、揉み合いになる。

(団員たち)

反乱だ!


組長と副組長を吊るせ!

  上手(かみて)から、筆頭団長が飛び込んでくる。
じゃかましい!

いったい、何事かっ!

団員の集団反抗です!

善良な団員をそそのかしているのは、若頭!

違います!

組長の目に余るパワハラに、みな我慢の限界なんです。

我が「鳥獣歌劇団」は、鉄の規律を誇っておる。

組長の命令は、すなわち私の命令と心得よ!

(傍白)しょせんこいつも、組長と同じ穴のムジナだ。
おまけにこいつは、私たちのやり取りを密かに録音しています。

それを『週刊 おたけび』に垂れ込もうという腹なんです。

録音してるのか!

困るんだよ、リハーサルもせずに本番じゃぁ。


そうでもしなければ、いつかパワハラの犠牲になる者が出ます!
おのれ、小賢(こざか)しいことを。

団員のみんな!

筆頭団長の私に付くのと、若頭に付くのと、どっちが得か、よーく考えてみよう。

若頭に付いたら、即刻、退団処分ですからね。

  団員に動揺が走る。
私は、どこどこまでも、団長様と組長様に付いて参ります!


(団員に向かって)

皆さん、「長い物には巻かれろ」ですわ。

(Y字倒立しながら)

仕方ありませんわね。

若頭様、すみません。

私も、巻かれちゃいます。

(団員たち)

私たちも、巻かれます。

何だと―!

(傍白)あたしって、人望がなかったの?
ホーホホホ!

思い知ったか、若頭。

お前は、クビ……。

  下手(しもて)から、次席団長と副団長が登場。
待て待てっ!

待て待て待て待てっ!


筆頭団長!

あなたは、もうお仕舞いですわ! 

あんたは、もうお仕舞いだ!
副団長!

いちいち真似せんでいい。

は!

(傍白)表現は、ちょっとずつ変えてるんだけどな。

何をゴチャゴチャ言っておるかっ!
きょう発売の『週刊 密林』で、あなたの不倫疑惑が、証拠写真入りで掲載されたのです。

掲載、おめでとうございます!

しまった!
ぷっ!

筆頭団長が不倫⁈

ありえなーい。

ちゃんこ屋の旦那と、たびたび密会しているのが、バッチリ撮られてるの。
さっき開かれた緊急理事会で、あなたの処分が決まりましてよ。

団長解任・(ひら)団員への降格!

弁明の機会くらい与えろ!
上の命令には絶対服従でしょ?

それが団の伝統よ。

ちくしょー。

今に見ておれ。

(傍白)ちゃんこ屋の旦那は、あたしの元パパよ。フフフ。
  元・筆頭団長、下手に去る。

邪魔者は、いなくなりましたね。

獣組の役職も替えますよ。
ドキッ!

組長と副組長は、平団員に降格!

若頭は、新組長に昇格。



え!

私が組長⁈

そうよ。

副組長と若頭は、あなたが決めなさい。

では、初仕事として、皆の前で就任のあいさつを。

は、はい。
  新組長、団員たちの前に立って、話し始める。
私は、少なくとも獣組だけは、上下の差がない、何でも言える、風通しの良い組にしたいと思います。
ダメ、ダメ、ダメ!
は?
鉄の規律は、鳥獣歌劇団の伝統よ。

それを崩してはダメ。

それは……、そうですね。

皆さん、私の命令は団長様の命令と心得なさい。

絶対服従ですよ!

(団員たち)

はーい!

前の組長より、もっともっと厳しく(しつけ)て下さいね!

(Y字倒立したまま)

私、Y字倒立、やり遂げます!

  暗転。
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登場人物紹介

獣組 組長

獣組 副組長

獣組 若頭(わかがしら)

兎(うさぎ):団員

鼠(ねずみ):団員

他団員8人

鳥獣歌劇団 筆頭 団長

鳥獣歌劇団 次席 団長

鳥獣歌劇団 副団長

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